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 オルザベートからの手紙の内容は私にしてみれば、恐ろしいものだった。
 要約すると、愛はなくなっても、友情はなくならない。だから、私に早く帰ってくるように、そして、オルザベート達と一緒に生まれてくる子供を育てようという、訳のわからない内容が書かれていた。

「正気じゃないわ…。どうして、私が一緒に二人の子供を育てないといけないの?」
「…何を考えているんだろうな」

 私が読み終えた後に、エドに手紙を渡したので、彼も読み終えてから頷いてくれた。

「冷静に考えてみれば、友達からも言われてたの。私と一緒に遊びに行きたいけど、オルザベートが付いてくるから、私のことは誘いにくいんだって」
「エアリスの学生時代には他に仲の良い友人はいたよね? 僕宛の手紙にも書いてくれてたと思うけど」
「ええ。オルザベートは学園に家から通っていたけど、私は寮だったでしょう? それに、オルザベートとはクラスも違ったの。私と仲が良かったのは、ルームメイトで同じクラスのビアラと、もう一人同じクラスのノノレイっていう子よ。ロンバートとの結婚式にも来てもらったし、今でも交流はあるし、私の中での親友は彼女達かもしれない」

 私達の通っていた学園は、2年目からのクラスはその前の年に行われた学期末テストの成績順によってクラスが分けられていた。
 そのため、クラス替えがあってないようなもので、多少の入れ替わりはあるものの、ほとんどクラスのメンバーは変わらなかったから、考えてみたら、オルザベートとはクラスで一緒になったのは1年目だけで、ビアラとノノレイは2年目からずっと同じクラスで友達だった。
 
「今、ビアラって言った…?」

 エドが眉根を寄せて聞き返してきた。

「ビアラ・ミゼライトよ。聞いた事あるの?」
「たぶん…。ディランから」
「ディランって、ディラン・ミーグス公爵令息の事?」
「ああ。今回も騎士を貸してくれるのは彼の家からだよ。そうか、君は彼とも同じクラスだったのか」
「ええ。といっても、ビアラが彼と仲が良かったから、自然と話すようになったのだけど。そういえば、ビアラは今、カイジス領で警察の仕事をしてるわ」
「という事は何かあれば力を貸してくれるのかな?」

 予想外にビアラの話題に食いついてきたので、不思議に思いながらも頷く。

「彼女もまだ一年目だから権限はないと思うけれど、手は貸してくれると思う。彼女、オルザベートの事はあまり好きじゃなさそうだったし」
「それだと助かるな」
「どうして?」
「君がトゥッチ嬢からの手紙を読んでいる間に、アズから報告を受けたんだが、ロードウェル伯爵への取り調べは形だけのものになってるらしい」
「どういう事!?」

 私が聞き返すと、エドが教えてくれた。

 ロンバートに対しての聞き取りが始まったのは確かだけれど、熱が高いという事もあり、しっかりとした聞き取りは出来ていない様だった。
 まあ、それは建前で、悪人を取り締まる警察の中にも悪い人間はいる。
 お金をもらって、事件をもみ消そうとする人間がいてもおかしくない。

 今回もそうなりそうで、どうやら、イザメル様が裏で動いたようだった。
 それから、越権行為になると思うけれど、メガイクスが圧力をかけたのではないか、というのが、アズとエドの見解だった。

 ロンバートに関しては、このままいくと証拠不十分になりそうだという話で、たぶん、この人だと思う、という曖昧な証言では捕まえられないとの事だった。
 
「疑わしきは罰せず、というやつらしい」
「冤罪だったら困るものね」

 エドの言葉に頷くと、彼も首を縦に振った。

「その気持ちはわからないでもない。ただ、次に動いてこなさそうだから問題だ」
「どういう事?」
「僕の件で捕まえられないなら、次に何かが起きないと彼らの尻尾がつかめない。だけど、よっぽどの馬鹿じゃない限り、しばらくは静かにしているだろう」
「このまま、なかった事になるかもしれないって事?」
「ああ。だから、その事で思いついた事がある。申し訳ないけど、君の友人をこの屋敷に呼んでもらう事は出来ないかな」
「えっと、ビアラを?」
「君と同じクラスだったという事は優秀なんだろ?」
「ビアラはいつも成績は女子では1位だったわ」

 私が頷くと、エドは難しい顔をしたまま言う。

「少し危険かもしれないけど、彼女に協力を頼みたいんだ」

 久しぶりに友人に会えるのは嬉しいけれど、危険かもしれないという言葉を聞いて、本当に屋敷に呼んでも良いものか考えてしまった。
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