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7−3 ロードウェル伯爵家 5 (メアリー視点)
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「本当に役に立たないんだから!」
ダイニングルームに入ってきたオルザベートは、新聞の見出しを確認するなり、床に新聞を叩きつけた。
近くにいたメアリーがそれを拾い上げると、オルザベートは八つ当たりするように彼女を睨んだが、何も言わずに朝食を食べ始めた。
この場にロンバートはいない。
なぜなら、昨日の夜から原因不明の高熱に悩まされていたからだ。
メアリーは拾い上げた新聞に目をやり、息を呑んだが、すぐに平静を装った。
新聞の見出しにはエドワードが刺されたという事が大々的に書かれていたからだ。
勤務中という事もあるし、何より、オルザベートの前で書かれてある内容を確認する事は出来ず、新聞を持ったまま後ろに控えていると、オルザベートが食事の手を止めて、メアリーの方に振り返る。
「私の方はいいから、ロンバートの所へ行ってちょうだい。熱があるっていうのに、私が別のベッドで寝ようとすると嫌がるし、一緒に眠ると彼がうなされて叫ぶものだから、うるさくて眠れないのよ」
自分のお腹の子の父親になる人物が苦しんでいるというのに、冷淡な態度を取るオルザベートに、メアリーは少し恐怖を感じながらも、言われた通りに部屋を出ようとして立ち止まる。
「この新聞はいかがいたしましょうか?」
「捨てておいて! もう用はないから」
「では、私がいただいても? 文字を書く練習をしたいのです」
平民は識字率が低いため、それを理由にして新聞を持っていてもおかしくない状況に持ち込もうと考えた。
「かまわないわ。だけど書いてある意味がわかるの?」
「私も多少は読めますし、家に帰れば、わかる人間がいますので」
メアリーが笑顔を作ってそう言うと、オルザベートは興味が失せたのか、深く追求してくることはなく、また食事を開始しはじめた。
ロンバートの様子を見に行くために、一度、休憩室に向かい、自分の鞄の中に新聞をしまいこむと、すぐにメアリーはロンバートの部屋に向かった。
扉を叩くと、同僚の声が聞こえ、少ししてから扉が開けられた。
「あら、メアリー。どうしたの?」
同僚はロンバートの世話をしていたらしく、すぐに部屋からメアリーのいる廊下に出てきた。
「トゥッチ様から、旦那様の様子を見に行くように言われたの」
「自分は確認しに来ないの?」
「ええ。今は食事中だからかもしれないけれど」
「食べ終えても、自分の部屋に戻られる気がするわ」
同僚の言葉に頷いたあと、メアリーは彼女に尋ねる。
「旦那様の具合はどうなの?」
「昨日の晩とあまり変わらないわ。さっき、お医者様にも診てもらったんだけど、見当がつかないっていうの。それに、何か夢でも見ているのか、飛び起きては、また眠りを繰り返してるわ。今までの罰が当たったんじゃないかしら」
「それはあながち間違ってないかもしれないわね。とにかく、私が代わるわ。他の場所でトゥッチ様に見つかったら、こんな所で何をしているのかって聞かれそうだから」
「じゃあお願いするわ。定期的に頭にのせているタオルを変えてあげて」
「わかったわ」
メアリーが頷くと、同僚はメアリーが来た廊下を戻っていく。
部屋に入る前に、大きく深呼吸したあと、メアリーは扉を開けて、部屋の中に足を踏み入れた。
ベッドに横たわっているロンバートの顔は真っ赤で、苦しそうに呼吸をしていた。
さすがに気の毒に思えたメアリーは、彼の額におかれていたタオルを触り、すでに熱くなっていたので、氷水に冷やしていたタオルと入れ替え、水を絞ると、冷たいタオルを彼の頭の上にのせた。
その時だった。
ロンバートが突然、叫び始めた。
「助けてくれ! 俺は何もしていない! オルザベートに喜んでもらう為にやったんだ!」
目を覚ましたのかと思い、彼の顔を見るが、目は閉じられたままなので、まだ眠っているようだが、彼の叫びは止まらない。
「助けてくれ。悪かったよ、エアリス。謝る、謝るから、お願いします。助けて下さい! 死にたくない。まだ死にたくないんだ!」
どんな夢かはわからないが、彼がエアリスに対して謝っている事と命乞いをしている事はわかった。
「許してくれ!」
一際、大きな声で叫んだかと思うと、今度は穏やかな表情で寝息を立てるロンバートを見て、メアリーは大きく息を吐いた。
(カイジス公爵閣下の件に旦那様達が関わっているのは間違いなさそうね。新聞の見出しでは、亡くなったという感じではなかったから、とりあえず新聞で状態を確認したら手紙を書かなくちゃ)
この事を早く伝えたくてたまらなかったが、封筒は家に置いているため、勤務後でないと送る事が出来ない。
今は自分の仕事に集中しようと、頭の中を切り替えて、ロンバートの看病を再開した。
ダイニングルームに入ってきたオルザベートは、新聞の見出しを確認するなり、床に新聞を叩きつけた。
近くにいたメアリーがそれを拾い上げると、オルザベートは八つ当たりするように彼女を睨んだが、何も言わずに朝食を食べ始めた。
この場にロンバートはいない。
なぜなら、昨日の夜から原因不明の高熱に悩まされていたからだ。
メアリーは拾い上げた新聞に目をやり、息を呑んだが、すぐに平静を装った。
新聞の見出しにはエドワードが刺されたという事が大々的に書かれていたからだ。
勤務中という事もあるし、何より、オルザベートの前で書かれてある内容を確認する事は出来ず、新聞を持ったまま後ろに控えていると、オルザベートが食事の手を止めて、メアリーの方に振り返る。
「私の方はいいから、ロンバートの所へ行ってちょうだい。熱があるっていうのに、私が別のベッドで寝ようとすると嫌がるし、一緒に眠ると彼がうなされて叫ぶものだから、うるさくて眠れないのよ」
自分のお腹の子の父親になる人物が苦しんでいるというのに、冷淡な態度を取るオルザベートに、メアリーは少し恐怖を感じながらも、言われた通りに部屋を出ようとして立ち止まる。
「この新聞はいかがいたしましょうか?」
「捨てておいて! もう用はないから」
「では、私がいただいても? 文字を書く練習をしたいのです」
平民は識字率が低いため、それを理由にして新聞を持っていてもおかしくない状況に持ち込もうと考えた。
「かまわないわ。だけど書いてある意味がわかるの?」
「私も多少は読めますし、家に帰れば、わかる人間がいますので」
メアリーが笑顔を作ってそう言うと、オルザベートは興味が失せたのか、深く追求してくることはなく、また食事を開始しはじめた。
ロンバートの様子を見に行くために、一度、休憩室に向かい、自分の鞄の中に新聞をしまいこむと、すぐにメアリーはロンバートの部屋に向かった。
扉を叩くと、同僚の声が聞こえ、少ししてから扉が開けられた。
「あら、メアリー。どうしたの?」
同僚はロンバートの世話をしていたらしく、すぐに部屋からメアリーのいる廊下に出てきた。
「トゥッチ様から、旦那様の様子を見に行くように言われたの」
「自分は確認しに来ないの?」
「ええ。今は食事中だからかもしれないけれど」
「食べ終えても、自分の部屋に戻られる気がするわ」
同僚の言葉に頷いたあと、メアリーは彼女に尋ねる。
「旦那様の具合はどうなの?」
「昨日の晩とあまり変わらないわ。さっき、お医者様にも診てもらったんだけど、見当がつかないっていうの。それに、何か夢でも見ているのか、飛び起きては、また眠りを繰り返してるわ。今までの罰が当たったんじゃないかしら」
「それはあながち間違ってないかもしれないわね。とにかく、私が代わるわ。他の場所でトゥッチ様に見つかったら、こんな所で何をしているのかって聞かれそうだから」
「じゃあお願いするわ。定期的に頭にのせているタオルを変えてあげて」
「わかったわ」
メアリーが頷くと、同僚はメアリーが来た廊下を戻っていく。
部屋に入る前に、大きく深呼吸したあと、メアリーは扉を開けて、部屋の中に足を踏み入れた。
ベッドに横たわっているロンバートの顔は真っ赤で、苦しそうに呼吸をしていた。
さすがに気の毒に思えたメアリーは、彼の額におかれていたタオルを触り、すでに熱くなっていたので、氷水に冷やしていたタオルと入れ替え、水を絞ると、冷たいタオルを彼の頭の上にのせた。
その時だった。
ロンバートが突然、叫び始めた。
「助けてくれ! 俺は何もしていない! オルザベートに喜んでもらう為にやったんだ!」
目を覚ましたのかと思い、彼の顔を見るが、目は閉じられたままなので、まだ眠っているようだが、彼の叫びは止まらない。
「助けてくれ。悪かったよ、エアリス。謝る、謝るから、お願いします。助けて下さい! 死にたくない。まだ死にたくないんだ!」
どんな夢かはわからないが、彼がエアリスに対して謝っている事と命乞いをしている事はわかった。
「許してくれ!」
一際、大きな声で叫んだかと思うと、今度は穏やかな表情で寝息を立てるロンバートを見て、メアリーは大きく息を吐いた。
(カイジス公爵閣下の件に旦那様達が関わっているのは間違いなさそうね。新聞の見出しでは、亡くなったという感じではなかったから、とりあえず新聞で状態を確認したら手紙を書かなくちゃ)
この事を早く伝えたくてたまらなかったが、封筒は家に置いているため、勤務後でないと送る事が出来ない。
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