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 私は魔力切れをおこし、一晩眠り続けていたようで、エドに起こされた時は、次の日の早朝だった事がわかった。
 さすがにその頃には、エドの件も詳しい事がわかってきていて、彼から話を聞いた。

 エドを刺した子供はその時に捕まえられていた。
 7歳になったばかりで、自分のやった事を後悔しているらしい。
 その子はエドが公爵だとは知らなかった。
 知らない男から金を渡されて、あの貴族は悪い奴だから、これで刺すようにと、ご丁寧にナイフまで渡されてお願いされたらしい。
 成功したら、もっとお金を払うと。
 その子にはお金が欲しい理由があった。
 母親の身体が弱いらしく、薬を飲めば一発で治ってしまうものが、貧乏なのでお金がなく薬を買えないため、何日も寝込まないといけなくなるらしかった。
 そのせいで働く事も出来ず、余計にお金がなくて苦しむという悪循環になってしまっていた。
 男の子の父親は出稼ぎに出ているらしく、こんな事をしてはいけないと叱る人も、相談できる人も近くにいなかったらしい。
 
 自分が誰を刺したかわかった時は、ことの重大さに気付き「死にたくない」と泣きわめいたらしい。

 彼が幼いだけに、エドは処分をどうするか決めかねているようだった。
 これが大人の仕業なら、迷わず処刑、もしくは終身刑になり、一生、労役というところだろう。
 悪いのは、少年を唆した大人だ。
 けれど、彼を許してしまうと、同じ様な犯罪がまた起きる可能性がある。

 エドが悩む気持ちもわかる。
 この国の刑罰は子供だろうが大人だろうが一緒なので、本来ならば、エドのようなケースだと迷わずに処刑だ。
 ただ、相手が子供なだけに、処分を決める側も今回は本当の悪意があったわけではなく、エドが助かったという事もあり、情状酌量の余地があるのではないかと考えているみたいだった。
 あとはエドがどのような求刑を求めるかに任されているみたい。
 
 大変な思いをしたのに、そんな判断まで下さないといけないエドが気の毒に思えて、何も出来ないけれど、私は出来るだけ彼のそばにいようと思った。
 
 あと、男の子にエドを襲うように頼んだ人間が誰かを、今は調べている最中だけれど、男の子に頼んだ男はすぐに捕まった。
 でも、その男も他の男に頼まれていたという事もあり、ややこしくなっている。
 というのも、男の子に依頼した男は、金を渡されて友人から頼まれていた。
 その友人は通りがかりの見知らぬ男に頼まれていた。
 たとえに数字を使っていうと、1という人が2という友人に頼まれ、2は通りがかりの3に頼まれた、という事。
 その3まではたどり着けたのだ。
 何とかたどり着いたのはいいけれど、そこからがつかめない。
 3は身なりの良い若い男性に頼まれたという。
 フードを被っていたから顔もはっきり見ておらず、ただ、髪の毛は茶色だったという。
 証言された体型と髪色がロンバートと同じだったので、頼んだのはロンバートではないかと思っている。
 だけど、証拠がないかぎり、さすがのあの男も認めはしないだろう。
 
 殺人教唆は罪が重いから。
 犯人を捕まえれば、男の子の減刑もしやすくなるはず。
 一刻も早く、捕まえなくちゃ、とは思う。
 やはり、私が出て行った方がいいの?
 その方が証拠もつかみやすくなるのかしら?

 でも、エドのそばにいようと決めたし…。
 ああ、だけど、お祖父様はクズをどうにかしろ、とも言っていた。
 出来れば私は何もせずに、不幸になる彼らを高みの見物でもしようと思っていたけど、高みの見物をする為には、私もさすがに何かしなくちゃいけないのかしら。

 それに、どうしてロンバートはこんな過激な事をしたの?
 そこまでする度胸がある人間じゃないはずなのに。

 眠るエドの横で、上半身を起こして本を読んでいた私だったけれど、色々な事が頭の中で渦巻いて、全く集中できない。

「エアリス」

 声を掛けられて、エドの方を見ると、彼が上半身を起こしたところだった。

「エド、まだ寝ていないと駄目よ。回復魔法で傷はふさがったけれど、体内の方はそう回復できてないはずよ」
「寝てばっかりも身体が痛いんだよ」
「傷は痛むの?」
「それはない。抜糸できてないのが気になるけど」
「ちゃんとしたお医者さまに頼まないとね」
「…で、君は何を考えてたの?」

 腕に頭を寄せられたので、私は本を閉じて答える。

「色々と考えてたんだけど、今はロンバートの事を考えてたの」
「君は彼が犯人だと思ってる?」
「それしか考えられないもの」
「そうだな」
「ロンバートの事だもの。アリバイ工作もしていないはずよ。だから、捕まえるのは簡単だと思う。だけど、あの人はそこまで過激な事をする人間に思えないの。もちろん、庇っているわけじゃないわよ?」
「わかってるよ。彼に命令、もしくはお願いした人物がいるかもしれないって事だな?」

 エドの言葉に、私は無言で首を縦に振った。
 
 イザメル様なの?
 まさか、オルザベートじゃないわよね?

 結局、その日一日はエドの部屋で一緒に過ごした。
 身体を拭いたりする時以外は寝る時も一緒だったけれど、そこは紳士なのか、当たり前の事なのか、エドは私の身体に触れてくるような真似はしてこなかった。
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