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7−1  理由

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※流血の描写があります。苦手な方は読み飛ばし下さい。







 

 それはメアリーから警告を受けてから、数日経った頃だった。
 アズがやってくれていた、公爵家の家の管理の仕事を教えてもらったり、本を読んだり、キャサリン達を相手にお茶をするなどして、カイジス公爵家の敷地内からは、一歩も出ない生活を送っていた。
 公爵家なだけに敷地は広いので、庭園内を散歩していれば運動不足になる事もないけれど、退屈にはなってきていた。
 けれど、自分の身が危ないのだから、外へ出たいなどというワガママを言うわけにはいかないので、両親から来た手紙の返事を書いたりして、暇をつぶしていた昼下がりの事だった。

 一人で書き物机で手紙を書いていた時だった。
 何やら、廊下を慌ただしく走ってくる音が聞こえて、手紙を書いていた手を止めて、扉の方に振り返ると同時、扉がノックされる音が聞こえ、私が返事を返す前にアズが叫んだ。

「エアリス様! エドワード様が!」
「…! エドがどうかしたの!?」

 ペンを置き立ち上がって、部屋の扉を開けると、アズが緊迫した表情で話し始める。

「今日は貧困地域の視察に行かれていたのですが、突然、無邪気そうに話をしていた子供がエドワード様の脇腹をナイフで刺したのです!」
「そんな! エドは大丈夫なの!?」
「傷はそう深くはないようですが、出血がひどくて」
「今はどこに!?」
「転移の魔法が付与された魔道具を使って、今は別邸におられます。別邸には魔力は少ないのですが、回復魔法が使える人間がいるんです」

 別邸にと聞いて、部屋の奥に戻り、鍵付きの引き出しから、形見のネックレスを取り出して身につける。

「エアリス様」
「大丈夫。エドは大丈夫だから」

 顔面蒼白になっている、アズの肩を優しく叩き、彼を促す。

「早くエドの所に行きましょう」

 別邸に着くと、別邸のメイドは私が何も言わなくてもエドがいる場所へ案内してくれた。

「エドワード! しっかりして!」
「エドワード!」

 部屋にはエドの両親であるロークス様とミラーザ様がいて、ベッドの上で目を閉じているエドの手をつかんで彼の名を叫んでいた。

「エド!」

 私が同じ様に叫ぶと、お二人が振り返り、私のために場所を開けてくれた。

「血が止まらないのよ。うちにいる魔法使いは、こんな日に限って、訓練で魔力切れなの。このままじゃエドワードが…。私に…、回復魔法が使えれば」

 ミラーザ様が私に抱きついてきて、涙を流す。
 エドの表情は大量出血のせいか顔色が悪い。
 
 お医者様が傷口を縫ってくれてはいるようだけれど、あまり良い医者じゃなかったのか、傷が塞ぎきれていないようで
、あまり意味がなかったとの事を、ロークス様が教えてくれた。
 貧困街にいたのだから、そう腕の良いお医者様じゃないのかもしれない。
 腕の良いお医者様なら、貴族が自分の家で雇ってしまうから。

 ちなみに、カイジス家にも常駐しているお医者様もいるのだけれど、今日に限って出かけており、今、慌ててこちらに向かって戻ってきている最中だという事だった。

 巻かれた包帯にじわじわと赤い染みが広がっていくのを見て、ゾッととした。

 このままじゃ、エドが死んじゃう!

 絶望感が私を包み込んだ、その時だった。
 胸元がチカチカと光っているのに気が付いて、視線を落とすと、ネックレスの石がなぜか点滅するように光ったり元の色に戻ったりしていた。

 お祖父様とお祖母様が、何か言おうとしている?

 そんな気がして、イチかバチかで叫ぶ。

「お祖父様、お祖母様! お願いします! エドを助けて下さい!!」

 石を握りしめて、ただ、がむしゃらに自分でコントロールできるだけの魔力を手のひらに込めた。
 すると、石が閃光をはなった。
 眩しさに目を閉じたけれど、すぐに光がおさまったので目を開けると、光の筋がミラーザ様の体を包み込んだかと思うと、一瞬にして消えた。

「今のは…?」

 驚いていると、ミラーザ様が歓喜の声を上げた。

「嘘でしょう!? 魔力が戻ったわ! エドワード!」

 そして、すぐにエドに回復魔法をかけたのか、エドの全身が柔らかな光に包まれた。
 エドの荒かった呼吸が、正常に戻っていき、じわじわと広がっていた赤い染みが、それ以上広がらなくなった。

「……良かった」
「ありがとう。エアリス! 本当にありがとう!」

 ミラーザ様に抱きしめられ、エドが無事だとわかって安心したのか、私の意識はそこで途切れた。
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