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5−3 ロードウェル伯爵家 2−1 (メアリー視点)
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エアリスが去ってから三日後の朝、ロードウェル伯爵邸は、別邸で起きた話で持ちきりだった。
「メアリー、聞いた? 大旦那様、出ていかれたらしいわよ」
「えっ!?」
近所にある家から通うメアリーは、出勤するなり、同僚の言葉を聞いて、思わず大きな声を出した。
「あの大旦那様がまさか、と思うわよね? でも、本当の事らしいの。今朝早くに出ていかれたらしいわ」
「そうなの…。詳しくは知らないけれど、大奥様に乱暴されていたのよね?」
「そうみたい。エアリス様も出ていかれたし、自分も、もう限界っていう感じかもしれないわね」
「でも、そうなると、大奥様はもっとこっちの本邸に来る様になるんじゃない?」
「そうなのよね~」
メアリーの言葉に同僚達は大きなため息を吐く。
その時、ベルが鳴る音が聞こえた。
元々はエアリスが使っており、今は、オルザベートが使っている部屋のベルの音だった。
「行ってくるわ」
メイド服に着替えたメアリーは同僚達に、そう告げると急いで、オルザベートの元に向かった。
「あなた、たしか、エアリスの専属メイドだったと言ってたよね?」
「…そうでございますが」
「エアリスの事を聞かせてちょうだい。やっぱり、誰にでも優しかったのかしら?」
「……はい。身分に関係なく、お優しい方でした」
「私のエアリスなのに…」
ぽつりと呟いたオルザベートの言葉の意味がわからなかったメアリーだが、聞き返さずに、オルザベートに話しかける。
「あの、何をすればよろしいのでしょうか」
「用事がなかったら、呼んではいけないの? ロンバートがいなくて退屈なのよ。話し相手になってくれない?」
「承知しました」
メアリーが頷くと、オルザベートは彼女に尋ねる。
「エアリスがどこに行ったか知らない?」
エアリスが先日、カイジス公爵と一緒にいたという事は、イザメルがロンバートに大声で話をしていたため、屋敷の人間は皆知っている事だった。
すぐに答えられる質問だったけれど、メアリーは躊躇し、オルザベートに尋ね返す。
「それを知ってどうなさるんです? エアリス様を追い出したのは、トゥッチ様なのでは?」
オルザベートの姓は、トゥッチという。
どうしても、オルザベート様と呼びたくない使用人がおり、メアリーもそれにならっている。
本来ならば、メイドが主人に対し、こんな事を言ってはいけない事はわかっていたが、オルザベートはまだ、ロンバートと再婚した訳では無いため、強気に出れた。
オルザベートもそれに対して、気分を害した様子はなく、逆に悲しげな表情になって答える。
「本当はエアリスと3人で一緒に暮らしたいと思っていたの。だって、エアリスが愛した男性の子供なんだもの。エアリスだって、可愛がってくれると思っていたわ」
「……」
そんな訳ないでしょう、と口に出したいところではあったが、メアリーは我慢した。
オルザベートは沈黙を肯定ととらえた様で話を進める。
「だけどね、実際は違っていたみたい」
「……どういう事でしょうか?」
「エアリスとロンバートは、身体の関係どころか、キスさえもした事がないんだって」
「そんな…」
二人きりだけの時はどうかはわからないが、少なくとも、メアリーから見た二人の仲は、イザメルの事がなければ、良好だと思っていたため、オルザベートの話は信じがたかった。
「本当の話よ。ロンバートから聞いたの。ロンバートが彼女に触れようとすると、気を失ってしまうんですって。気を失ってる間に手を出そうとした事もあったらしいけど、エアリスに触れると、電気が走るみたいにしびれて、無理だったらしいわ」
オルザベートは苦笑しながら続ける。
「だから、私を求めたのね…。でも、私も、エアリスの旦那様だったから興味を持ったの。エアリスがロンバートを好きじゃないのなら、私もロンバートなんていらないわ。エアリスと一緒にいられないのなら意味がないもの」
そう言ったオルザベートに狂気を感じ、メアリーは思わず後退った。
「オルザベート!」
その時だった。
ノックをする事もなく、部屋に入ってきたロンバートは、メアリーがいるにも関わらず、オルザベートを抱きしめた。
「聞いてくれ! 突然、取引先から契約を今月いっぱいにしてくれと言われたんだ! なぜかと問うとカイジス公爵に聞けと言うんだ!」
「あら、大丈夫よ。新しい取引先を見つければいいんだから」
「…そ、そうだよな。ありがとう、オルザベート。君はやはり、エアリスとは違う」
「そんな事ないわ」
二人の世界に入り始めたので、メアリーは無言で部屋を出た。
(この家はこれから、どうなっていくのだろう。それに先程の話はエアリス様に伝えるべきなの?)
メアリーはため息を吐いてから、勤務中だという事を思い出し、他の仕事をする為に、部屋から離れた。
「メアリー、聞いた? 大旦那様、出ていかれたらしいわよ」
「えっ!?」
近所にある家から通うメアリーは、出勤するなり、同僚の言葉を聞いて、思わず大きな声を出した。
「あの大旦那様がまさか、と思うわよね? でも、本当の事らしいの。今朝早くに出ていかれたらしいわ」
「そうなの…。詳しくは知らないけれど、大奥様に乱暴されていたのよね?」
「そうみたい。エアリス様も出ていかれたし、自分も、もう限界っていう感じかもしれないわね」
「でも、そうなると、大奥様はもっとこっちの本邸に来る様になるんじゃない?」
「そうなのよね~」
メアリーの言葉に同僚達は大きなため息を吐く。
その時、ベルが鳴る音が聞こえた。
元々はエアリスが使っており、今は、オルザベートが使っている部屋のベルの音だった。
「行ってくるわ」
メイド服に着替えたメアリーは同僚達に、そう告げると急いで、オルザベートの元に向かった。
「あなた、たしか、エアリスの専属メイドだったと言ってたよね?」
「…そうでございますが」
「エアリスの事を聞かせてちょうだい。やっぱり、誰にでも優しかったのかしら?」
「……はい。身分に関係なく、お優しい方でした」
「私のエアリスなのに…」
ぽつりと呟いたオルザベートの言葉の意味がわからなかったメアリーだが、聞き返さずに、オルザベートに話しかける。
「あの、何をすればよろしいのでしょうか」
「用事がなかったら、呼んではいけないの? ロンバートがいなくて退屈なのよ。話し相手になってくれない?」
「承知しました」
メアリーが頷くと、オルザベートは彼女に尋ねる。
「エアリスがどこに行ったか知らない?」
エアリスが先日、カイジス公爵と一緒にいたという事は、イザメルがロンバートに大声で話をしていたため、屋敷の人間は皆知っている事だった。
すぐに答えられる質問だったけれど、メアリーは躊躇し、オルザベートに尋ね返す。
「それを知ってどうなさるんです? エアリス様を追い出したのは、トゥッチ様なのでは?」
オルザベートの姓は、トゥッチという。
どうしても、オルザベート様と呼びたくない使用人がおり、メアリーもそれにならっている。
本来ならば、メイドが主人に対し、こんな事を言ってはいけない事はわかっていたが、オルザベートはまだ、ロンバートと再婚した訳では無いため、強気に出れた。
オルザベートもそれに対して、気分を害した様子はなく、逆に悲しげな表情になって答える。
「本当はエアリスと3人で一緒に暮らしたいと思っていたの。だって、エアリスが愛した男性の子供なんだもの。エアリスだって、可愛がってくれると思っていたわ」
「……」
そんな訳ないでしょう、と口に出したいところではあったが、メアリーは我慢した。
オルザベートは沈黙を肯定ととらえた様で話を進める。
「だけどね、実際は違っていたみたい」
「……どういう事でしょうか?」
「エアリスとロンバートは、身体の関係どころか、キスさえもした事がないんだって」
「そんな…」
二人きりだけの時はどうかはわからないが、少なくとも、メアリーから見た二人の仲は、イザメルの事がなければ、良好だと思っていたため、オルザベートの話は信じがたかった。
「本当の話よ。ロンバートから聞いたの。ロンバートが彼女に触れようとすると、気を失ってしまうんですって。気を失ってる間に手を出そうとした事もあったらしいけど、エアリスに触れると、電気が走るみたいにしびれて、無理だったらしいわ」
オルザベートは苦笑しながら続ける。
「だから、私を求めたのね…。でも、私も、エアリスの旦那様だったから興味を持ったの。エアリスがロンバートを好きじゃないのなら、私もロンバートなんていらないわ。エアリスと一緒にいられないのなら意味がないもの」
そう言ったオルザベートに狂気を感じ、メアリーは思わず後退った。
「オルザベート!」
その時だった。
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「聞いてくれ! 突然、取引先から契約を今月いっぱいにしてくれと言われたんだ! なぜかと問うとカイジス公爵に聞けと言うんだ!」
「あら、大丈夫よ。新しい取引先を見つければいいんだから」
「…そ、そうだよな。ありがとう、オルザベート。君はやはり、エアリスとは違う」
「そんな事ないわ」
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