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5−1  魅了

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 次の日の朝、今度は、両親と兄夫婦宛に私がエドのお飾りの妻になる予定だという内容の手紙を書いて送った。
 それから、実家には帰らずに、エドの家に直接向かうという事も。
 本当は実家に帰って、自分の記憶の事などの話をしたかったのだけれど、エドがなぜか嫌がった。

 アズ曰く「また忘れられでもしたら困ると思ってるんじゃないですか」という事らしいけど、さすがに、今回は無意識に自分で自分の記憶を消すだなんて事はやらかさないと思うんだけど…。
 
 ちなみにお飾りの妻だというのは、彼からの提案だ。
 昨日、部屋の前で別れる際に話をされた。

「いきなり好きになれとは言わない。結婚に関しては嫌な思いをしただろうしな。だから、ただ、そばにいてくれるだけでいい」
「でも、何もしない訳には…」
「いいから」

 そう言って、エドは逃げる様に自分の部屋に向かってしまった。

 自分が色々と忘れていることは間違いないから、あまり強く言えないし、どうせすぐには再婚なんてできないから、その内にエドの気も変わるかもしれないし、今は大人しく厄介になる事にする。
 世間知らずの私が一人旅なんて危ないというのもあるし。
 それに、エドのご両親に会いたい気持ちもあった。
 もしかしたら、忘却魔法についてもわかるかもしれないから。

 エドの住む公爵邸の敷地内の別邸に、ご両親もいらっしゃるみたいだから、落ち着いたら、ご挨拶に伺わないといけないし、その時に聞いてみよう。

 そんな事を考えながら、手紙を書き終えた頃に、アズが私の部屋にやって来たので、慌てて荷物をまとめて、トランクの中に入れた。

 朝から宿を出て、公爵邸には昼過ぎに着いた。
 公爵家は私の実家の子爵家や元夫の伯爵家と比べて、敷地の広さが比べ物にならないくらいに広い。
 屋敷は白亜の3階建ての洋館で、とても大きい。
 庭園も散歩できそうなくらいに広い。
 でも、なんとなく記憶がある。
 庭園のどこかにブランコがあって、エドと2人で遊んだような気がする。

「この場所は思い出してきた気がします」
「僕との事も?」
「それはちょっと…。でも、ブランコで遊んだ記憶が…」
「ゆっくりでいい。そうやって、思い出していってくれると嬉しい」

 一瞬、残念そうな顔はしたけど、エドはすぐに仏頂面に戻って言う。

 早く思い出したい気もするけれど、他にもっと嫌な事を思い出さないといけなくなる様な気がして怖い。

「エアリス?」

 屋敷のポーチで立ち止まっていると、エドが私の顔を覗き込んできた。

「こ、ごめんなさい。ちょっとボーッとしてました」
「大丈夫だ。今度こそ守ってみせるから」
「今度こその意味がよくわかりませんが、よろしくお願いいたします」

 彼に手を差し出されたので、恐る恐る、彼の手に自分の手を置いてから頷いた。
 屋敷に入ると、アズが事前に連絡を入れてくれていたせいか、使用人達が皆で歓迎してくれた。

「閣下の初恋の人とお会いできて嬉しいです。しかもお世話までさせていただけるなんて!」

 私に用意された部屋に案内されたあと、私専属のメイドに自己紹介のあとに言われた時には驚いた。

「初恋の人?」
「ええ。エアリス様はエドワード様の初恋の人だという事を屋敷内で知らない人間はいません!」

 薄い緑色の瞳を持つキャサリンは瞳と同じ色の髪のポニーテールを揺らして続ける。

「エアリス様がロードウェル伯爵と結婚なさると聞いた時は、感情をあまり見せないエドワード様がショックで気落ちしていらっしゃったので、屋敷中が暗かったです」
「……ごめんなさいね。そんな人間が屋敷に転がり込んできて」
「とんでもない! 逆に今日のような、あんなに嬉しそうなエドワード様は見た事がないと、屋敷の皆はお祭り騒ぎです!」
「エドは皆に好かれてるのね」
「はい! …と、興奮してしまい、申し訳ございません!」

 笑いながら言うと、キャサリンはハッとした表情になり、慌てて頭を下げた。

「いいのよ。気にしないで。教えてくれてありがとう」

 礼を言うと、キャサリンは安堵の表情を浮かべ、私がエドについて尋ねると、聞いてもいない事まで詳しく教えてくれたのだった。
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