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4−4 ロードウェル伯爵家 1(メアリー視点)
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屋敷の主人の突然の離婚、そして、元妻であるエアリスが出て行ったその日に、新たな女性を連れてきた主人に、屋敷の人間の多くが嫌悪感を抱いていた。
「エアリス様がお可哀想。旦那様のお相手って、エアリス様のご友人なんでしょう?」
朝の勤務時間前に、エアリス付きだったメイドのメアリーは、使用人用の休憩室で同僚からそう尋ねられ頷く。
「ええ。そうなのよ。お屋敷に遊びに来られた事もあったもの。エアリス様が本当にお気の毒だし、去ってしまわれて残念だわ。良い意味で貴族らしくなくて、優しい方だったのに」
「それにしても、旦那様も旦那様だけど、よくもまあ、あの人は平気な顔をして屋敷にやって来て、その日からエアリス様が使っていた部屋を使い、旦那さまと同じ寝室に眠るなんて事が出来たものだわ」
他の使用人たちも一様に、エアリスの事を褒め、オルザベートには嫌悪感をあらわにした。
もちろん、その嫌悪感はこの家の主人である、ロンバートにも向けられている。
元々、ロンバートに対しては、自分の母が自分の妻をいじめているのに、何もしないという事で、使用人達の間では評判が良くなかった。
その為、エアリスが去ってから1日も経っていないというのに、ロンバートと親友の夫を奪ったオルザベートへの評価は地に落ちていた。
「あんな親じゃ生まれてくる子供も可哀想ね」
「親は子供を選べないっていうものね」
「そうならないように、いつか私も子供を産む時は、せめてお前の子供になんて生まれたくなかったって言われないようにしなくっちゃ」
周りは他人事の様に笑っているが、メアリーはそんな話だけで済むとは思えなかった。
だから、彼女は口にしてみた。
「ねえ、エアリス様がいなくなってから、まだ1日も経っていないのに、屋敷の空気が悪いというか、淀んだように思えない?」
メアリーが聞くと、一緒に話をしていた同僚達も、不安げな表情になって頷く。
「実は私も何か嫌な感じがするの。昨日まで元気に咲いていた花が、急にしおれはじめて…。たまたまかもしれないけれど」
「さっき、野菜を持ってきてくれた業者にも言われたんだけど、屋敷に入ると何か胸が苦しい気がするんだけど、空気が悪くないかって」
「わかるわ。何か重苦しい気分になのよね」
メアリーは口々に言う同僚の言葉を聞いて頷く。
「私もなんだか嫌な予感がするの」
そんな話をしている時だった。
「ちょっと、何をサボっているの?」
休憩室から主人達の寝室はかなり離れている。
だから、安心して話をしていたメアリー達だったが、ノックもせずに扉を開け、現れたオルザベートを見て、メイド達は慌てて立ち上がり、背を向けていたメアリーは扉の方向に振り返る。
そして、おろした長い髪が寝癖だらけのオルザベートの姿を見て驚いた。
寝癖はいいにしても、彼女の格好が黒のベビードール姿だったからだ。
その姿で廊下を歩いてきたのか、という考えはメアリーだけではなく、他のメイド達も感じた事だった。
「ねえ、暇してるなら着替えるのを手伝ってくれないかしら? エアリスがドレスを置いていったって聞いたわ。ぜひ、着てみたいの」
「あの、部屋にベルがありましたでしょう? 次からはそちらで呼んでいただければ…」
「まあ、そうだったのね! ごめんなさい」
オルザベー卜は笑顔でメアリー達に続ける。
「置いていってくれたという事はエアリスから私へのプレゼントよね? 昨日はあんな事を言っていたけど、私と仲良くしてくれる気があるんだわ」
そう言って、上機嫌で部屋へ戻っていくオルザベー卜の後ろ姿を見ながら、メアリー達は大きくため息を吐いて、一様に思った。
この家はもう駄目かもしれないと。
「エアリス様がお可哀想。旦那様のお相手って、エアリス様のご友人なんでしょう?」
朝の勤務時間前に、エアリス付きだったメイドのメアリーは、使用人用の休憩室で同僚からそう尋ねられ頷く。
「ええ。そうなのよ。お屋敷に遊びに来られた事もあったもの。エアリス様が本当にお気の毒だし、去ってしまわれて残念だわ。良い意味で貴族らしくなくて、優しい方だったのに」
「それにしても、旦那様も旦那様だけど、よくもまあ、あの人は平気な顔をして屋敷にやって来て、その日からエアリス様が使っていた部屋を使い、旦那さまと同じ寝室に眠るなんて事が出来たものだわ」
他の使用人たちも一様に、エアリスの事を褒め、オルザベートには嫌悪感をあらわにした。
もちろん、その嫌悪感はこの家の主人である、ロンバートにも向けられている。
元々、ロンバートに対しては、自分の母が自分の妻をいじめているのに、何もしないという事で、使用人達の間では評判が良くなかった。
その為、エアリスが去ってから1日も経っていないというのに、ロンバートと親友の夫を奪ったオルザベートへの評価は地に落ちていた。
「あんな親じゃ生まれてくる子供も可哀想ね」
「親は子供を選べないっていうものね」
「そうならないように、いつか私も子供を産む時は、せめてお前の子供になんて生まれたくなかったって言われないようにしなくっちゃ」
周りは他人事の様に笑っているが、メアリーはそんな話だけで済むとは思えなかった。
だから、彼女は口にしてみた。
「ねえ、エアリス様がいなくなってから、まだ1日も経っていないのに、屋敷の空気が悪いというか、淀んだように思えない?」
メアリーが聞くと、一緒に話をしていた同僚達も、不安げな表情になって頷く。
「実は私も何か嫌な感じがするの。昨日まで元気に咲いていた花が、急にしおれはじめて…。たまたまかもしれないけれど」
「さっき、野菜を持ってきてくれた業者にも言われたんだけど、屋敷に入ると何か胸が苦しい気がするんだけど、空気が悪くないかって」
「わかるわ。何か重苦しい気分になのよね」
メアリーは口々に言う同僚の言葉を聞いて頷く。
「私もなんだか嫌な予感がするの」
そんな話をしている時だった。
「ちょっと、何をサボっているの?」
休憩室から主人達の寝室はかなり離れている。
だから、安心して話をしていたメアリー達だったが、ノックもせずに扉を開け、現れたオルザベートを見て、メイド達は慌てて立ち上がり、背を向けていたメアリーは扉の方向に振り返る。
そして、おろした長い髪が寝癖だらけのオルザベートの姿を見て驚いた。
寝癖はいいにしても、彼女の格好が黒のベビードール姿だったからだ。
その姿で廊下を歩いてきたのか、という考えはメアリーだけではなく、他のメイド達も感じた事だった。
「ねえ、暇してるなら着替えるのを手伝ってくれないかしら? エアリスがドレスを置いていったって聞いたわ。ぜひ、着てみたいの」
「あの、部屋にベルがありましたでしょう? 次からはそちらで呼んでいただければ…」
「まあ、そうだったのね! ごめんなさい」
オルザベー卜は笑顔でメアリー達に続ける。
「置いていってくれたという事はエアリスから私へのプレゼントよね? 昨日はあんな事を言っていたけど、私と仲良くしてくれる気があるんだわ」
そう言って、上機嫌で部屋へ戻っていくオルザベー卜の後ろ姿を見ながら、メアリー達は大きくため息を吐いて、一様に思った。
この家はもう駄目かもしれないと。
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