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 ロンバートはエドに何をされたかはわからないけれど、エドを襲う様に指示した事を自供したらしく、彼も警察署に連行される事になった。

 それから約一週間がたった。
 イザメル様は私に、ロンバートは私とエドに対して謝罪を繰り返しているそうで、彼女達に雇われた弁護人から、減刑するようにお願いしてもらえないかと言われたけれど、私には関係ないと一蹴させてもらった。
 私を苦しめた分、彼らも苦しんでもらわないと気がすまない。
 エドがイザメル様達が弁護人を雇うお金が、どこから流れているかを確認したところ、わかりきった事だけど、メガイクスからだったので、強硬手段ではあったけれど、イザメル様の共犯として、メガイクスを逮捕した。
 メガイクスには息子がいるけれど、息子は魔法使いに偏見の目を向ける父親が嫌いだったため、お金による釈放を求めなかった上に、弁護人も雇わなかった。
 その為、資金源が断ち切られたので、彼らの弁護人になる人間はいなくなった。
 国によっては国選弁護人といって、国が弁護人を付けてくれるところもあるらしいけれど、私達の国にはない。
 だから、イザメル様達は自分自身、もしくはお金勘定抜きで、自分を弁護してくれる人を探さないといけなかったけれど、悲しい事に彼女達には、そんな人間はいなかった。
 このままいけば、イザメル様とメガイクスは流刑になるだろうと言われている。
 イザメル様とメガイクスが捕まったという噂が流れてから、多くの魔法使い達が被害を訴えたから。 
 そして、メガイクスが私のお祖父様とお祖母様を最初から殺す目的で招集した事を教えてくれた人もいたらしい。
 裁判員の心象が悪いため、もっと重い罰がくだされる可能性もあるけれど、もう私には関係ない。

 オルザベートとオラエル先生は、山奥の一軒家に移されたらしい。
 家から一歩も出れないように魔法をかけられ、飲食料品や日用品などは週に2回、エドが頼んだ業者に運んでもらうという感じで、軟禁生活を送っているそうだ。
 出産が近くなれば、オルザベートのお母様や助産師さんが住み込むらしい。
 ちなみに、オルザベートのお母様は、彼女に会いにいったらしく、彼女のやった事について謝るついでに、今の状況を教えてくれたのだけれど、オルザベートは私に会いたいと泣いているらしい。

 私に会えないくらいなら死んだ方がマシだと言っているそうだ。

 元々、彼女の死までは望んでいない。
 けれど、私に会えない事が死んだ方がマシくらいに辛いのなら、絶対に会わない事に決めた。
 
 そういえば、オルザベートのお母様が気になる事を言っていたのを思い出した時、カイジス邸に勤め先を変えたメアリーが、ビアラとディラン様が訪ねてきてくれたと知らせてくれた。

「ビアラ! ディラン様!」
 
 応接間に向かうと、すでにエドが応対してくれていて、私が中に入ると、ソファーに座った状態で二人共が笑顔を見せてくれた。

「先日は本当にお世話になりました」
 
 エドの隣に座り、向かいに座るビアラ達に頭を下げると、ビアラが手を横にふる。

「私はあんまり役に立ってないし、気にしないで。それよりもエアリスがこんなに大変な事になってた事に気付けてなくて、本当にごめんね」
「それに関しては僕も謝る。申し訳なかった」

 ディラン様に頭を下げられて、こっちが恐縮する。

「いえ、全然! ディラン様のお手を煩わせてしまったので、こちらが申し訳ないくらいです」
「そう言ってくれるとありがたいよ。…そういえば、エドワード、君、どうするつもりなの」
「何の事だ?」
「エアリスに忘却魔法をかけるって言ってたよね?」
「ああ、あれか」

 エドが鼻を鳴らしてから続ける。

「あれが彼女にとって一番の罰だろうから言っただけだ。まあ、エアリスが望むならお願いするが」
「忘却魔法って…、もしかして、オルザベートのお母様が、私が彼女を忘れたんじゃないかと怯えてるって言ってたけど、それの事?」
「そうだろうね。悪いけど、トゥッチ嬢の母君に次に会ったら、忘れたふりをしてくれないか?」
「で、できるかしら。不安だから、なるべく会わないようにする。で、もし、会っても頑張って忘れたふりをする」

 頷いたところで、エドが私に言う。

「今日は、お礼をするために二人を食事に招いたわけだけど、もう1つあるんだ」
「何?」
「ディラン」

 エドに名前を呼ばれたディラン様は「はいはい」と呆れたような顔をしたあと、私に向かって尋ねる。

「エアリスは過去のエドワードの事を思い出したくない?」
「そ、そういう訳では…」
「じゃあ、思い出したい?」
「……はい」

 私が頷くと、ディラン様は微笑んでから「失礼するよ」と言って、ローテーブルに身を乗り出して、私の額に彼の長い指を当てた。
 ディラン様の魔力はとても高いのだろう。
 額に温かい何かを感じたと同時、何かが弾けた感覚を覚えた。
 普通の魔法使いでは、とけない忘却魔法をいとも簡単にといてしまったようだった。

 小さい頃の思い出が浮かんでくる。
 私が記憶を消し去った一番古い思い出。
 それは、私が学園に入学する前の出来事。

『エアリスは僕が守るよ。君のお祖父様とお祖母様に約束する』
『本当に?』
『うん、約束だ。大きくなったら君と結婚して、一生、君を守る』
『ほんとに? じゃあ、これをエドにあげる。会えない間は、私だと思ってずっと持っててね。早く大きくなって迎えに来てね』

 そう言って、小さい頃の私はエドにお祖母様がくれたハンカチを渡していた。
 しかも。

『約束する』

 そう言って、エドは私にキスをしたのだ。

「…エドってマセてたのね」
「君に言われたくない」

 照れくさそうに、私から顔を背ける。
 
「ハンカチをエドが持ってた理由も思い出せた。あと…」

 色々な事が思い出されてきて、オルザベートに嘘の話をされて、ショックを受けたあの時の気持ちを思い出すと、涙が出そうになった。
 
「ねえ、庭園見てきてもいいかな?」
「あ、私も見たい!」

 ディラン様とビアラはエドが了承する前に立ち上がる。
 ビアラが身を乗り出し、優しい笑顔を浮かべて、私の頭をぐりぐりと撫でてくれたから、涙がこらえきれなくなった。

「ほら、行くよ」
「また後でね、エアリス」

 ディラン様に手を引かれたビアラは、私にそう言ったあと、ディラン様に文句を言う。

「いちいち、手を引っ張らないでよ」
「お邪魔なんだから早く出た方がいい」
「わかってるわよ!」

 パタンと扉が閉められて、エドと二人きりになった。
 エドが私の頬に触れて聞いてくる。

「全部、思い出した?」
「…思い出した…。忘れちゃって、本当にごめんなさい」
「君が謝ることじゃない。悪いのはトゥッチ嬢だろ」

 エドはそう言ったあと、こつんと額を合わせてきた。

「約束は有効になったよな?」
「約束?」

 聞き返したあと、昔の話を思い出す。

「…うん。有効です。まあ、その、初婚ではないけど」
「そんな事は気にしない」

 エドが私を抱きしめてきた。

 まだ、ロンバートの事や、オルザベートの問題など、完全に解決したわけじゃないかもしれない。
 だけどこれからは、彼らがどうなるか、高みの見物をさせてもらおうと思う。

 エドの隣という、私にとって一番幸せな場所から。






「謝られたって、私は高みの見物しかしませんよ?」完

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最後までお読みいただき、本当にありがとうございました。
感想いただけます場合は、あとがきをお読みいただいてからいただけますと有り難いです。
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