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 公爵閣下に連れてこられた店は、辺境伯以上の人間、もしくは、親類関係、その連れしか入る事の出来ない、高級レストランだった。
 天井は高く、キラキラしたシャンデリアは落ちてきたら、人をつぶせそうなくらいに大きいし、飾られてある絵画などの美術品も、とてもお高いお値段の様に見える。

 ここ、絶対にドレスコードあるとこじゃない!?

 今の私の服装は動きやすいラベンダー色のワンピースドレスで、フォーマルというには少し厳しい。
 おどおどしていると、閣下は言う。

「大丈夫だ」
「……はい」

 頷く事しか出来ず、閣下の後について歩く。

「今日は素敵なレディと御一緒なのですね」

 案内されたテーブル席に行き、椅子を引いてもらい、そこに座ると、シワひとつない白いシャツとブラックパンツに身を包んだ、中年のウェイターが私を見て、閣下に言った。

「…余計な事は言わなくていい」
「大変失礼致しました。閣下はいつものコースでよろしいでしょうか?」
「ああ」
「お嬢様はいかがいたしましょう?」

 メニューを渡され、目を通してみて声を上げそうになった。
 料理の名前は見た事はあるし知っているけれど、お値段が桁違いだった。

 こんなの無理。
 今から、実家に帰るにしても、帰り着くまでの費用も必要だし、こんな贅沢は出来ない!

 メニューを持つ手が震えているのに気が付いたのか、閣下が言った。

「好き嫌いや、アレルギーはあるか?」
「アレルギー体質です」
「アルコールはいかがでしょう?」

 ウェイターさんに尋ねられ、首を縦に振る。

「アルコールアレルギーでもあります。でも、たくさん飲むと発疹が出ますが、少しくらいなら大丈夫です」
「お料理に入っているくらいでしたら大丈夫という事でしょうか?」
「はい」
「他に強く出るものはございますか?」

 ウェイターさんは私に詳しく話を聞いてくれてから、閣下に向かって言う。

「では、閣下と同じコースにいたしますが、お嬢様にはアレルギーの配慮をしたメニューにさせていただきます」
「それで頼む」
「あの!」

 私は慌てて2人の会話に割って入る。

「1番安いものをお願いします!」

 大声で叫んでしまい、周りにいた他の客人に、クスクス笑われてしまった。

 旅の恥は掻き捨てという異国の言葉もある事だし、そういう事にしましょう。
 だってお金は大事だから。

「彼女の今の意見はきかなくていい」
「承知いたしました」

 ウェイターさんは深々と頭を下げて、オーダーを伝えるためか、奥に入っていった。

「あの、私、お金…、ないんですけど…」
「俺が出すから気にするな」
「で、ですが」
「人の厚意は素直に受け取れ」

 裏があるんじゃないかと、怖くてしょうがないのですが?

 黙ってどうしようか考えていると、閣下から話しかけられる。

「で? 君は何をしてた?」
「はい? あ、えっと、ですから宿泊するつもりでした」
「一人で旅行か?」
「いいえ、あ、そうです。一人旅です」
「結婚したばかりだったんじゃないのか?」
「離婚しました」
「……は?」

 えーい。 
 どうせならご厚意に甘えさせてもらおうじゃないですか!

 眉間のシワをより深くして聞き返してくる閣下に、私はテーブルに身を乗り出して言う。

「閣下、愚痴を聞いてもらっても良いですか」
「あ、あ、ああ」
 
 閣下は私の勢いにおされたのか、少し身体を後ろに仰け反らせてから頷いた。
 
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