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3−1  再会

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「お祖父様、お祖母様、大事な時に二人を連れて行かなかったから、私に罰を与えているの? もしくは、目を覚ませと言ってくれて、こんな状態になっているの?」

 ベッドの上に座り、身につけたままにしている祖父母の形見のネックレスの石を握りしめながら問いかけた。

 当たり前だけれど祖父母からの返事は返ってこない。
 でも、目を覚ませと言ってくれていると思う事にした。
 
 行くあてもなく、勢いで伯爵家を出て、近くの街に来た私は、気持ちを落ち着けるために、今日だけ安い宿ではなく、警備のしっかりした、高級な宿に泊まる事に決めた。
 私の実家はここから遠く離れているし、今は兄が子爵としてあとを継いでいて、奥さんもいるから帰りづらい。
 兄夫婦は優しいから、きっと私を快く迎えてくれるだろうけど、それがわかっているからこそ、余計に帰りづらい。
 どうせ、実家しか帰る場所はないけれど、やはり遠慮はする。
 義母、じゃない。
 たしか、イザメルという名前だった。
 イザメル様とは違い、義理の姉は私を可愛がってくれていたから、こんな事になったと知ったら、一緒に悲しみ、怒ってくれると思う。
 私の両親も兄もきっと怒る事だろう。
 何より、両親はこの結婚を反対していた。
 反対する理由を教えてくれなかったから、無理に結婚したのだ。
 それもあって言いづらい。
 でも、いつかわかる事だというのと、ロンバートと別れた事は伝えなければいけないので、まずは手紙を出す事にした。

 私は19歳だし、まだ若い。
 きっと良い人が見つかるわよね?
 前向き前向き!

 自分で自分を慰めて、ネックレスを身につけて書き終えた手紙を出すために部屋を出ると、ちょうど、部屋の前の廊下を歩いていた人物と目が合った。

「ごきげんよう」

 咄嗟に出た言葉がそれだった。

 私の挨拶に足を止めたのは、大した知り合いでもないけれど、お祖父様達の関係で何度か会った事のあるエドワード・カイジス公爵閣下だった。
 
 彼とは何度かパーティーで顔をあわせていたけれど、1番印象に残っているのは、亡くなった祖父母とお別れする時だった。
 棺がしめられ、もう本当に時間会えなくなるのだと泣きじゃくる私と、それと同じくらい、いや、それよりも泣いていたのが彼の両親だった。
 二人は祖父母の棺から中々離れなかった。
 知る人は少ないけれど、彼らは魔法が使え、祖父母の弟子だった。
 けれど公爵夫妻という立場上、表向きにはしていなかったのだ。
 そして、そんな二人が祖父母と共に戦争に招集された際、カイジス公爵夫妻が自分達が魔法使いだと公言しないように、力を使えない様に祖父母が魔法をかけた。
 魔法使いは希少だけれど、一部には忌み嫌われる存在でもあった。
 だから、自分達の様に使い捨てにされてはいけないと考えたのだろう。
 ただの公爵夫妻なら爵位が守ってくれるから。

 ただ、祖父母は1つ忘れていた。
 彼らの息子に魔法をかける事を。

「エアリス・ノラベルか?」
「……そうです。お会いできて光栄です。カイジス公爵閣下」

 ノラベルは私の旧姓。
 だから、今は間違っていない。

 カーテシーをしてから、彼を見上げる。

 黒のサーコートを着た、私より頭一つちょっと高い背丈に、すらりとした体型。
 私と同じ黄色系の肌に黒色の髪。
 後ろ髪だけ長く、それを細いリボンでひとまとめにしていて、鼻は高く目はぱっちりとした美青年なのだけれど、眉間にシワが深く刻まれている。
 貴族界では無愛想で有名な彼だが、今もまさにそんな感じだ。
 
 たしか彼って私より、2つくらい上だったはず。
 まだ、21歳にもなったかならないくらいなのに、この威圧感って…。

「こんな所で何をしている」

 一緒に歩いていた側近らしき、赤毛の若い男性を先に行かせ、閣下が尋ねてくる。
 口数が少ない事でも有名な彼に、まさか声を掛けられるとは思ってもみなかったので、口をぽかんとあけると、閣下は目を細めて繰り返す。

「こんな所で何をしているんだと聞いてる」
「宿泊しております」
「………」

 そんなの当たり前だろ、という冷たい視線を向けられたので、ヤケクソになって言う。

「話が長くなりますが、聞いて下さいます?」
「かまわない」
「ですよね、って、聞いて下さるんですか?」

 あらら?
 かまわないとは?

「話を聞く。行くぞ」
「どちらへ?」
「食事に付き合え」

 命令されて、かちんとはきたものの、公爵閣下の命令、というか誘いもであるし、考えてみたら、今は昼過ぎなので、私もお腹が減ってきた。

「少しお待ちいただけますか」

 手紙を送ったらすぐに部屋に戻るつもりだったけれど、食事に行くのであれば、と思い、財布などをショルダーバッグに入れて、部屋の前で待っていてくれた公爵閣下と合流した。
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