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28 ブロスコフ侯爵家の終わり ②
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呆然としていたピアーナ様は、しばらくして我に返ると甲高い声で非難する。
「どうして、そんな冷たいことが言えるの! あなたには人の心がないの!?」
「多少はあると思います。ですから、先程お伝えした話をしたんです」
「違うのよ。求めているのはそんな答えじゃないの。あなたが黙っていてくれればそれで良いだけなのよ! ピアーナ様が可哀想だから、今回は表沙汰にしませんと言ってくれれば良いの!」
ピアーナ様はレンジロード様を助けたいというよりかは、ブロスコフ侯爵家を守りたいみたい。
それは、亡き夫のためなのか、それとも自分が贅沢をするためなのかしら。きっと、贅沢ができなくなるのが嫌なんでしょうね。しかも、平民になってしまうんだもの。
「レンジロード様のしたことを世間に公表しないでほしいと言いたいのですか?」
「そうよ! お願いだから、私たちのことは、もう放っておいてほしいの!」
「わたしを放っておかなかったのはレンジロード様です。文句を言うなら、レンジロード様にどうぞ」
レンジロード様のわたしへの殺人未遂の話は白日の下にさらすつもりではあった。だけど、大勢の人の前で自白したのはレンジロード様で、あのような展開にもっていったのもレンジロード様だ。
大体、悪いことをしたのはレンジロード様なんだもの。わたしが文句を言われる筋合いはないわ。
ピアーナ様は手を合わせて訴える。
「だから、これ以上、おおごとにしないでほしいと言っているの。それくらいできるでしょう?」
「嫌です。といいますか、大勢の証人もいますし、レンジロード様が逃げた時点でもう手遅れだと思います」
「わかっているわよ! だけど、あなたが何もしなければ、時が経てば何もなかったことになるの! そうすれば私は自由な生活が送れるのよ!」
「お願いしているようには思えないな。それに、ブロフコス侯爵がいなくなったら領の管理は誰がするんだよ」
シリュウ兄さまが呆れた顔で言うと、ピアーナ様は焦った顔になって、わたしに謝罪する。
「失礼な言い方をしてしまったことは謝るわ。ごめんなさいね。だけど」
どうせ自分勝手なことを言うのでしょう。そう思ったわたしは、ピアーナ様の話を遮る。
「お帰りください」
「……え?」
「あなたと話すことなんてありません。レンジロード様のことは警察に話をしに行きます。罪は償うべきだと思いますから」
「お願いだからやめてぇ!」
縋り付いてこようとしたピアーナ様とわたしの間にシリュウ兄さまが入り込むと、ピアーナ様は動きを止め、涙目でシリュウ兄さまを見上げた。
「お願いです。こんな年齢で平民になんてなれません!」
「ブロフコス侯爵はもう大人です。あなたが彼のリコットへの殺意を認識していて放置していたことについては罪にはならないでしょう。平民として穏やかに暮らしていけば良いでしょう」
「嫌です! 私は認識なんてしていなかった! だから、被害者なんですよ!」
「何の被害者なんです?」
シリュウ兄さまの後ろから顔を出して尋ねると、ピアーナ様は訴える。
「息子があそこまで馬鹿だとは思っていなかったの。侯爵の爵位を継いだんだから、やってはいけないことと良いことくらいの区別はつくと思ったのよ!」
「で、自分は悪くないから、レンジロード様の罪を公にしないでくださいってことですよね」
「そうよ。犯罪者の家族がどんな目にあうか、あなただって聞いたことがあるでしょう」
犯罪者の家族が第三者から嫌がらせをされるという話は聞いたことがある。それについては、第三者が悪い。だけど、犯罪者の家族を守るために犯罪に目を瞑れというのも違う。
「わかりました。あなたが危険な目に遭わないように手を打ちましょう」
「違うの! 何度も言うけれど、レンジロードのしたことを忘れてほしいと言っているのよ!」
先ほどから同じことばかり言われている気がする。もう、本当に帰ってもらいましょう。
わたしは扉を開けて、廊下に立っている兵士に声をかける。
「お客様がお帰りなの。馬車までお連れして。それから御者には何を言われても屋敷に帰るようにと伝えてちょうだい」
「承知いたしました」
若い兵士二人が部屋の中に入ってきて、ピアーナ様の腕を掴むと、彼女を引きずるようにして歩き始める。
「嫌よ! 私はまだ帰らないわよ!」
ピアーナ様は手足をばたつかせ、喚き散らしたけれど、無理やり、兵士に連れていかれた。
彼女が屋敷に戻っても、またわたしの家に来れないように手配してから、わたしはシルバートレイを持って警察署に向かうことにした。
「どうして、そんな冷たいことが言えるの! あなたには人の心がないの!?」
「多少はあると思います。ですから、先程お伝えした話をしたんです」
「違うのよ。求めているのはそんな答えじゃないの。あなたが黙っていてくれればそれで良いだけなのよ! ピアーナ様が可哀想だから、今回は表沙汰にしませんと言ってくれれば良いの!」
ピアーナ様はレンジロード様を助けたいというよりかは、ブロスコフ侯爵家を守りたいみたい。
それは、亡き夫のためなのか、それとも自分が贅沢をするためなのかしら。きっと、贅沢ができなくなるのが嫌なんでしょうね。しかも、平民になってしまうんだもの。
「レンジロード様のしたことを世間に公表しないでほしいと言いたいのですか?」
「そうよ! お願いだから、私たちのことは、もう放っておいてほしいの!」
「わたしを放っておかなかったのはレンジロード様です。文句を言うなら、レンジロード様にどうぞ」
レンジロード様のわたしへの殺人未遂の話は白日の下にさらすつもりではあった。だけど、大勢の人の前で自白したのはレンジロード様で、あのような展開にもっていったのもレンジロード様だ。
大体、悪いことをしたのはレンジロード様なんだもの。わたしが文句を言われる筋合いはないわ。
ピアーナ様は手を合わせて訴える。
「だから、これ以上、おおごとにしないでほしいと言っているの。それくらいできるでしょう?」
「嫌です。といいますか、大勢の証人もいますし、レンジロード様が逃げた時点でもう手遅れだと思います」
「わかっているわよ! だけど、あなたが何もしなければ、時が経てば何もなかったことになるの! そうすれば私は自由な生活が送れるのよ!」
「お願いしているようには思えないな。それに、ブロフコス侯爵がいなくなったら領の管理は誰がするんだよ」
シリュウ兄さまが呆れた顔で言うと、ピアーナ様は焦った顔になって、わたしに謝罪する。
「失礼な言い方をしてしまったことは謝るわ。ごめんなさいね。だけど」
どうせ自分勝手なことを言うのでしょう。そう思ったわたしは、ピアーナ様の話を遮る。
「お帰りください」
「……え?」
「あなたと話すことなんてありません。レンジロード様のことは警察に話をしに行きます。罪は償うべきだと思いますから」
「お願いだからやめてぇ!」
縋り付いてこようとしたピアーナ様とわたしの間にシリュウ兄さまが入り込むと、ピアーナ様は動きを止め、涙目でシリュウ兄さまを見上げた。
「お願いです。こんな年齢で平民になんてなれません!」
「ブロフコス侯爵はもう大人です。あなたが彼のリコットへの殺意を認識していて放置していたことについては罪にはならないでしょう。平民として穏やかに暮らしていけば良いでしょう」
「嫌です! 私は認識なんてしていなかった! だから、被害者なんですよ!」
「何の被害者なんです?」
シリュウ兄さまの後ろから顔を出して尋ねると、ピアーナ様は訴える。
「息子があそこまで馬鹿だとは思っていなかったの。侯爵の爵位を継いだんだから、やってはいけないことと良いことくらいの区別はつくと思ったのよ!」
「で、自分は悪くないから、レンジロード様の罪を公にしないでくださいってことですよね」
「そうよ。犯罪者の家族がどんな目にあうか、あなただって聞いたことがあるでしょう」
犯罪者の家族が第三者から嫌がらせをされるという話は聞いたことがある。それについては、第三者が悪い。だけど、犯罪者の家族を守るために犯罪に目を瞑れというのも違う。
「わかりました。あなたが危険な目に遭わないように手を打ちましょう」
「違うの! 何度も言うけれど、レンジロードのしたことを忘れてほしいと言っているのよ!」
先ほどから同じことばかり言われている気がする。もう、本当に帰ってもらいましょう。
わたしは扉を開けて、廊下に立っている兵士に声をかける。
「お客様がお帰りなの。馬車までお連れして。それから御者には何を言われても屋敷に帰るようにと伝えてちょうだい」
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「嫌よ! 私はまだ帰らないわよ!」
ピアーナ様は手足をばたつかせ、喚き散らしたけれど、無理やり、兵士に連れていかれた。
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