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27 ブロスコフ侯爵家の終わり ①
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言い逃れができなくなったレンジロード様は「そんなものは認めない!」と叫ぶと走り去っていく。
集まっていたギャラリーと一緒にレンジロード様を見送っていると、ルイーダ様が呆れた顔で尋ねてくる。
「ブロスコフ侯爵はどちらへ行かれるのでしょうか」
「おそらくですが、自分の家に帰るのだと思います」
「屋敷に戻ってどうするつもりなのでしょうか」
「わかりません。でも、母親に相談するのではないでしょうか」
「……それは意味があるんですか? 相談しても同じような気がしますが」
キョトンとした顔のルイーダ様に苦笑する。
「そうですね。でも、逃げる用意をするのかもしれません」
「逃げても意味がありませんわ」
「ルイーダ様に惨めな姿を見せなくて済むと思います」
「逃げてしまえば、その姿は見れませんものね。逃げた時点で惨めな気もしますが、考え方は人それぞれですものね」
ルイーダ様が頷いたところで、わたしは魔道具を停止させた。
「とにかく騒がしくしてしまったことを謝りに行こう」
シリュウ兄さまに促され、わたしたちはギャラリーに騒がしくしてしまったことを詫びたあと、今日の主役に謝りに行ったのだった。
******
主役の伯爵からは「先に連絡はいただいていましたので、気にしなくて良いですよ」と言ってくれた。といっても、それで終わりというわけにもいかないので、後日、お詫びの品を贈ることで話を終えた。
次の日の朝に、ブロスコフ侯爵邸に遣いを送ったところ、レンジロード様は夜中の内に荷物を持って逃げ出していたことがわかった。
わざと監視は付けなかった。どうせ、彼一人では生きていけないからだ。
シリュウ兄さまは昨日の晩はわたしの家に泊まっている。だから、遣いからの連絡を一緒に聞くことができた。
応接室でシリュウ兄さまに相談する。
「このまま、放っておいて良いのか迷っているんです」
「そうだな。殺人未遂で指名手配をかけてもらうことにしようか」
「手間をかけるだけかなと思うんですよね。今まで貴族社会の中でしか生きていない人が、長く逃げ切るとは思えません」
「自首してくると思う?」
「指名手配されたら、必ずしてくると思います」
「どうしてそう思うの?」
シリュウ兄さまに尋ねられ、わたしはレンジロード様のことをわかっている自分が嫌だと思いながらも素直に話す。
「それだけレンジロード様を見てきたんです。肝心なところは見えていませんでしたが、レンジロード様の心自体は強くありません。ルイーダ様には自首することで警察に協力した男と見せかけようとするのではないでしょうか」
「ルイーダの前で罪を告白したし、もう彼にしてみれば人生は終わりだろうけど、少しでも挽回したいってとこか。挽回できるようには思えないけど」
シリュウ兄さまは少し考えてから口を開く。
「死を選んだりする可能性は?」
「それを逃げだと思う人なので、ルイーダ様に最後まで格好悪いところを見せはしないと思います」
「自首するほうが格好良いと思ってるってこと?」
「そうだと思います」
「彼の考えていることはわからないな。それなら、最初からそうすれば良いのに」
苦笑するシリュウ兄さまに、わたしは頷く。
「わたしにも理解できません。でも、それで良いと思います」
「理解できなくても困らないもんな」
「はい」
そういえば、ピアーナ様はこれからどうするつもりなのかしら。
そう思った時、メイドがやって来て来客を告げられた。相手はピアーナ様で、どうしてもわたしに会いたいと言っているという。
「俺も一緒に行くよ」
「良いんですか?」
「気になるし、リコットを一人にしたくないから」
柔らかく微笑んだシリュウ兄さまを見て、鼓動が速くなるのを感じた。
こんな時に何を意識しているの。シリュウ兄さまとレンジロード様は全然違うけど、こんなに簡単に意識していたら、そんなのだから騙されるのだと言われてしまうわ。
頬を両手で叩いてから、伝えに来てくれたメイドに、ピアーナ様を応接に通すように指示をした。
向こうが突然やって来たのだから、少しくらい待たせても良いと判断し、シリュウ兄さまとこれからのことについて話し合ってから、応接室に向かった。
お父様は波風が立つのを嫌っているし、今回のことはシリュウ兄さまに任せきっている。お父様が生きている間に、シリュウ兄さまに爵位を譲渡する話が出ているという話を聞いている内に応接室にたどり着いたので中に入った。
すると、ソファに座っていたピアーナ様が立ち上がって近寄ってくる。
「リコットさん。お願いよ。これ以上、事を荒立てるのをやめてちょうだい! このままではブロスコフ家は爵位を剥奪されるか没落するわ!」
「わたしにお願いするよりも、まずはレンジロード様を見つけてはどうです? 当主が行方不明なら、ブロスコフ家は存続できないじゃないですか」
突き放されると思っていなかったのか、ピアーナ様はショックを受けた顔でわたしを見つめた。
※
ちょっと宣伝です。
お付き合いいただける方だけ下にスクロールを!
この話も終わりが見えていますので、本日(10月27日)のAM9時30分に「私のことなど、ご放念くださいませ!」というタイトルで新作を投稿開始いたします。
よろしければ読んでやってくださいませ。
集まっていたギャラリーと一緒にレンジロード様を見送っていると、ルイーダ様が呆れた顔で尋ねてくる。
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「おそらくですが、自分の家に帰るのだと思います」
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「わかりません。でも、母親に相談するのではないでしょうか」
「……それは意味があるんですか? 相談しても同じような気がしますが」
キョトンとした顔のルイーダ様に苦笑する。
「そうですね。でも、逃げる用意をするのかもしれません」
「逃げても意味がありませんわ」
「ルイーダ様に惨めな姿を見せなくて済むと思います」
「逃げてしまえば、その姿は見れませんものね。逃げた時点で惨めな気もしますが、考え方は人それぞれですものね」
ルイーダ様が頷いたところで、わたしは魔道具を停止させた。
「とにかく騒がしくしてしまったことを謝りに行こう」
シリュウ兄さまに促され、わたしたちはギャラリーに騒がしくしてしまったことを詫びたあと、今日の主役に謝りに行ったのだった。
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次の日の朝に、ブロスコフ侯爵邸に遣いを送ったところ、レンジロード様は夜中の内に荷物を持って逃げ出していたことがわかった。
わざと監視は付けなかった。どうせ、彼一人では生きていけないからだ。
シリュウ兄さまは昨日の晩はわたしの家に泊まっている。だから、遣いからの連絡を一緒に聞くことができた。
応接室でシリュウ兄さまに相談する。
「このまま、放っておいて良いのか迷っているんです」
「そうだな。殺人未遂で指名手配をかけてもらうことにしようか」
「手間をかけるだけかなと思うんですよね。今まで貴族社会の中でしか生きていない人が、長く逃げ切るとは思えません」
「自首してくると思う?」
「指名手配されたら、必ずしてくると思います」
「どうしてそう思うの?」
シリュウ兄さまに尋ねられ、わたしはレンジロード様のことをわかっている自分が嫌だと思いながらも素直に話す。
「それだけレンジロード様を見てきたんです。肝心なところは見えていませんでしたが、レンジロード様の心自体は強くありません。ルイーダ様には自首することで警察に協力した男と見せかけようとするのではないでしょうか」
「ルイーダの前で罪を告白したし、もう彼にしてみれば人生は終わりだろうけど、少しでも挽回したいってとこか。挽回できるようには思えないけど」
シリュウ兄さまは少し考えてから口を開く。
「死を選んだりする可能性は?」
「それを逃げだと思う人なので、ルイーダ様に最後まで格好悪いところを見せはしないと思います」
「自首するほうが格好良いと思ってるってこと?」
「そうだと思います」
「彼の考えていることはわからないな。それなら、最初からそうすれば良いのに」
苦笑するシリュウ兄さまに、わたしは頷く。
「わたしにも理解できません。でも、それで良いと思います」
「理解できなくても困らないもんな」
「はい」
そういえば、ピアーナ様はこれからどうするつもりなのかしら。
そう思った時、メイドがやって来て来客を告げられた。相手はピアーナ様で、どうしてもわたしに会いたいと言っているという。
「俺も一緒に行くよ」
「良いんですか?」
「気になるし、リコットを一人にしたくないから」
柔らかく微笑んだシリュウ兄さまを見て、鼓動が速くなるのを感じた。
こんな時に何を意識しているの。シリュウ兄さまとレンジロード様は全然違うけど、こんなに簡単に意識していたら、そんなのだから騙されるのだと言われてしまうわ。
頬を両手で叩いてから、伝えに来てくれたメイドに、ピアーナ様を応接に通すように指示をした。
向こうが突然やって来たのだから、少しくらい待たせても良いと判断し、シリュウ兄さまとこれからのことについて話し合ってから、応接室に向かった。
お父様は波風が立つのを嫌っているし、今回のことはシリュウ兄さまに任せきっている。お父様が生きている間に、シリュウ兄さまに爵位を譲渡する話が出ているという話を聞いている内に応接室にたどり着いたので中に入った。
すると、ソファに座っていたピアーナ様が立ち上がって近寄ってくる。
「リコットさん。お願いよ。これ以上、事を荒立てるのをやめてちょうだい! このままではブロスコフ家は爵位を剥奪されるか没落するわ!」
「わたしにお願いするよりも、まずはレンジロード様を見つけてはどうです? 当主が行方不明なら、ブロスコフ家は存続できないじゃないですか」
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