愛を求めることはやめましたので、ご安心いただけますと幸いです!

風見ゆうみ

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26  元夫の終わり ③

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 シリュウ兄さまが近くにいたウェイターに声をかけ、タオルと水の入った大きなボウルを持ってくるように頼んだ。

 レンジロード様は何度も顔を洗い、タオルで水を拭き取ると、辺りを見回し、呆然とした表情になった。レンジロード様が顔を洗っている間に、多くの人たちが彼を取り囲んでいたからだ。

「どうして、こんなに人がいるんだ!?」
「レンジロード様があれだけ騒ぐものですから、他の人が気づかないわけがないでしょう」
「騒ぐようなことをしたのはどこのどいつだ!」

 わたしが悪いと言ってくるので、大きく息を吐いてから尋ねる。

「話がしたいと言い出したのはどちら様でしたでしょうか」
「そ、それはそうかもしれないが、あんなことをするだなんて思わないだろう!」
「何をされるかわからないのはこちらも同じではないですか。ですから、何かあったときのためにと色々と用意させてもらっていたんです!」
「用意するにもほどがあるだろう!」

 レンジロード様は言い返してきたものの、くだらない言い合いになっていることに気づいたのか、周りに訴えかける。

「聞いてくれ! 私は元妻と話がしたいだけだったのに、リコットとシリュウ様は私に嘘の証言をさせるために脅してきたんだ!」

 往生際が悪いというのは、こういう人のことを言うのかもしれない。今までの会話を全部聞いていない人が、このセリフを聞いて信じると思っているのかしら。

「レンジロード様、何を言っても無駄ですからもう嘘をつくのはやめてください」

 大きなため息を吐いて言うと、レンジロード様はまだ、開きにくそうな目でわたしを睨みつける。

「それはこちらのセリフだ。もう許せない。君を名誉毀損で訴えてやる」
「良いですよ! 出るとこ出ましょう!」

 わたしは笑顔で頷き、シリュウ兄さまからシルバートレイを受け取ると、レンジロード様に話しかける。

「レンジロード様、実はこのシルバートレイは二重底になっていまして、そこに音声が録音できる魔道具を忍ばしていました」
「ま、魔道具だと!?」

 わたしたちの国では魔法を使える人はいない。でも、世界には少数だが、魔法を使える人がいる。シリュウ兄さまは知り合いを頼り、音声を録音して再生できる魔道具を作ってくれた。
 それはシルバートレイの二重底の狭い隙間にも入る薄さで、強い衝撃に反応する。だから、私がレンジロード様を叩いたと同時に録音が開始された。シリュウ兄さまがレンジロード様を縁で叩いたのは録音を止めないためだ。

 ……そのほうが痛いからという可能性もあるけど。

「どんなに否定しても、わたしたちに脅されたと嘘をついても無駄ですよ。今までの話は録音してありますから」

 にこりと微笑んでみせると、外灯に照らされたレンジロード様の顔は絶望に満ちたものになった。
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