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25 元夫の終わり ②
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「わ、私は何も言ってない。そ、それよりも、人を、人を呼んでくれないか。目を……、目を洗いたいんだ!」
「人を呼ばなくても俺が手を貸してもいいですよ。でも、その前に、正直に話をしてほしいんですが」
シリュウ兄さまが言うと、レンジロード様は涙を流しながら叫ぶ。
「何も言っていないと言っているだろう!」
「いいえ。殺しておけば良かったとおっしゃいました。ですよね、ルイーダ様」
「ええ。わたくしにはそう聞こえました」
わたしの問いかけにルイーダ様は頷くと、レンジロード様を促す。
「正直にお話ししてくださいませ。聞いているのはわたくしたちだけですわ」
ルイーダ様にこんなことを言われて、レンジロード様が逆らえるはずはなかった。
「……あ、その……、それは……、その……、殺意が全くなかったわけでもなく、かといって、あったというわけでもなく……」
「レンジロード様、はっきりと話してください!」
「うるさい、リコット! 偉そうに言うんじゃない!」
息苦しさはおさまったようだけど、まだ、目の痛みはあるらしく、レンジロード様は顔を上げない。
わたしが言っても無駄なので、ルイーダ様にもっと言ってもらおうかと考えていると、ジリン様が口を開いた。
「ブロスコフ侯爵、あなたはルイーダが好きなんですよねぇ」
「えっ……あ、そ、それは……っ」
「隠さなくてもわかってますから良いですよ。どうせ叶わない恋ですが、彼女が好きならウダウダ言わずに真実を話すべきなんじゃないですかねぇ」
「……ううっ」
恋敵に余裕の発言をされて、レンジロード様は悔しそうな声を出した。
本当に無様よね。
そう思ったあとに、もう一押ししてもらうためにルイーダ様を見る。ルイーダ様はわたしを見つめ返して無言で頷くと、レンジロード様に視線を移す。
「わたくしは嘘をつく人が嫌いです。もう一度言います。正直にお話しください」
「……っ」
少しの沈黙のあと、レンジロード様は小さな声で話し始める。
「リコットのことを疎ましく思っていたのは確かだ。でも、いつかは私も結婚しなければならない。だから、私の操り人形になりそうなリコットを婚約者にした」
わたしたちが何も反応せずにいると、レンジロード様は話を再開する。
「リコットは純粋だから、素直に私の言うことを聞いた。嫌な言葉を吐いても私なしではいられないように育て上げたんだ」
聞いていて、気分の良いものではなかった。今まで気づいていなかったけれど、わたしは意図して、レンジロード様に依存するように誘導されていたらしい。
「だから、結婚式の当日も、階段から突き落としても何も言わないと思っていたのに……! それなのにどうしていきなり、私に反抗するようになったんだ!?」
レンジロード様は薄目を開けて、わたしの姿を確認したあと、痛むのか、すぐに目を閉じた。
「殺されそうになったんですよ。多くの人は目を覚ますと思います」
「殺されそうになっても、私を愛している人形を作り上げたつもりだったのに!」
「ふざけたことを言うな。リコットはお前の人形なんかじゃない」
シリュウ兄さまが言うと、レンジロード様は言い返す。
「お前が現れなければ、こんなことにならなかったのに!」
「俺がリコットに個人的に会うようなきっかけを作ったのはあなただろ。結婚式が中止にならなければ、俺はリコットの所に行って話をすることもなかった」
「……そ、それは……」
レンジロード様は口ごもったあと、話題を変える。
「……ミスティック伯爵令嬢、もう良いだろうか。目が痛いんだ」
「まだですわ。殺しておけば……のことについての説明を聞いておりません」
「……それは」
「レンジロード様、ルイーダ様の前ですよ。嘘をついたりしませんよね?」
「……っ、それがどうした!?」
わたしが冷たい声で促すと、レンジロード様は声を荒らげて続ける。
「私の目的のためなら、リコットが犠牲になっても良い! そのための人形なんだからな!」
「わたしを階段から突き落としたことを認めるんですね?」
「ああ。認めよう! だけど、他の奴らの前では証言しないからな!」
ここで認めるだけで、公の場では認めないと言いたいらしい。
でも、もう遅い。
「レンジロード様、あなたは目が見えなくて気づいていないようですが、周りにはたくさんの人がいるんですよ」
「……なんだって?」
レンジロード様はゆっくりと顔を上げ、消え入るような声で聞き返した。
「人を呼ばなくても俺が手を貸してもいいですよ。でも、その前に、正直に話をしてほしいんですが」
シリュウ兄さまが言うと、レンジロード様は涙を流しながら叫ぶ。
「何も言っていないと言っているだろう!」
「いいえ。殺しておけば良かったとおっしゃいました。ですよね、ルイーダ様」
「ええ。わたくしにはそう聞こえました」
わたしの問いかけにルイーダ様は頷くと、レンジロード様を促す。
「正直にお話ししてくださいませ。聞いているのはわたくしたちだけですわ」
ルイーダ様にこんなことを言われて、レンジロード様が逆らえるはずはなかった。
「……あ、その……、それは……、その……、殺意が全くなかったわけでもなく、かといって、あったというわけでもなく……」
「レンジロード様、はっきりと話してください!」
「うるさい、リコット! 偉そうに言うんじゃない!」
息苦しさはおさまったようだけど、まだ、目の痛みはあるらしく、レンジロード様は顔を上げない。
わたしが言っても無駄なので、ルイーダ様にもっと言ってもらおうかと考えていると、ジリン様が口を開いた。
「ブロスコフ侯爵、あなたはルイーダが好きなんですよねぇ」
「えっ……あ、そ、それは……っ」
「隠さなくてもわかってますから良いですよ。どうせ叶わない恋ですが、彼女が好きならウダウダ言わずに真実を話すべきなんじゃないですかねぇ」
「……ううっ」
恋敵に余裕の発言をされて、レンジロード様は悔しそうな声を出した。
本当に無様よね。
そう思ったあとに、もう一押ししてもらうためにルイーダ様を見る。ルイーダ様はわたしを見つめ返して無言で頷くと、レンジロード様に視線を移す。
「わたくしは嘘をつく人が嫌いです。もう一度言います。正直にお話しください」
「……っ」
少しの沈黙のあと、レンジロード様は小さな声で話し始める。
「リコットのことを疎ましく思っていたのは確かだ。でも、いつかは私も結婚しなければならない。だから、私の操り人形になりそうなリコットを婚約者にした」
わたしたちが何も反応せずにいると、レンジロード様は話を再開する。
「リコットは純粋だから、素直に私の言うことを聞いた。嫌な言葉を吐いても私なしではいられないように育て上げたんだ」
聞いていて、気分の良いものではなかった。今まで気づいていなかったけれど、わたしは意図して、レンジロード様に依存するように誘導されていたらしい。
「だから、結婚式の当日も、階段から突き落としても何も言わないと思っていたのに……! それなのにどうしていきなり、私に反抗するようになったんだ!?」
レンジロード様は薄目を開けて、わたしの姿を確認したあと、痛むのか、すぐに目を閉じた。
「殺されそうになったんですよ。多くの人は目を覚ますと思います」
「殺されそうになっても、私を愛している人形を作り上げたつもりだったのに!」
「ふざけたことを言うな。リコットはお前の人形なんかじゃない」
シリュウ兄さまが言うと、レンジロード様は言い返す。
「お前が現れなければ、こんなことにならなかったのに!」
「俺がリコットに個人的に会うようなきっかけを作ったのはあなただろ。結婚式が中止にならなければ、俺はリコットの所に行って話をすることもなかった」
「……そ、それは……」
レンジロード様は口ごもったあと、話題を変える。
「……ミスティック伯爵令嬢、もう良いだろうか。目が痛いんだ」
「まだですわ。殺しておけば……のことについての説明を聞いておりません」
「……それは」
「レンジロード様、ルイーダ様の前ですよ。嘘をついたりしませんよね?」
「……っ、それがどうした!?」
わたしが冷たい声で促すと、レンジロード様は声を荒らげて続ける。
「私の目的のためなら、リコットが犠牲になっても良い! そのための人形なんだからな!」
「わたしを階段から突き落としたことを認めるんですね?」
「ああ。認めよう! だけど、他の奴らの前では証言しないからな!」
ここで認めるだけで、公の場では認めないと言いたいらしい。
でも、もう遅い。
「レンジロード様、あなたは目が見えなくて気づいていないようですが、周りにはたくさんの人がいるんですよ」
「……なんだって?」
レンジロード様はゆっくりと顔を上げ、消え入るような声で聞き返した。
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