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19 元夫の執念 ①
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シリュウ兄さまがプレゼントしてくれたのは、『ティアトレイ』という商品名のシルバートレイだった。
貴族の女性に暴漢対策グッズとして人気があり、魔法が使える国では魔法が付与されていたりするらしい。私たちの住んでいる国には魔法は存在しないので、普通のシルバートレイかと思ったら、シリュウ兄さまがお金を出して、カスタマイズしてくれていた。
普通のティアトレイの使い方は殴られそうになったら、ティアトレイで防御するというものだ。平らな部分には鉄板が入っていて、殴ってきた相手にもダメージが与えられる。
わたしがもらったものは、少し変わっていて平らな部分は二重底になっている。そこに工夫がされているのだけど、これは実践してみないと、どうなるのか、はっきりとはわからない。
今度のパーティーにはジリン様からもらった痴漢撃退用のスプレーとシルバートレイを持参して、レンジロード様の襲来に備えようと思った。
*******
ルイーダ様たちと話をした五日後には、シリュウ兄さまが婚約を解消したという話が社交界に広まった。
婚約者だった令嬢、ファレット侯爵令嬢は誤解だと訴えた。でも、ルイーダ様が嘘をつくはずがないし、他の令嬢もその話を聞いたと証言したため、彼女の意見は受け入れられなかった。
本当にもったいないことをしたわよね。
シリュウ兄さまがフリーになったことを知った令嬢たちが、我こそはと婚約者に立候補した。でも、ほとんどの令嬢にはすでに婚約者がいたため、わざわざ、婚約破棄をしてまで立候補したことがわかり、その人たちは候補から外れることになった。
シリュウ兄さまが誰を選ぶのか、世間がその話題で持ちきりになっている間も、レンジロード様からの迷惑行為は続いていた。しかも、手紙やプレゼントだけではなく、本人が訪ねてくるようになった。
警察に相談しても、侯爵に意見できるはずがないので、ここは例の暴漢対策グッズを使おうかと考え始めた頃、シリュウ兄さまが訪ねてきた。
たまたま、レンジロード様と出くわしたシリュウ兄さまは、本人にこう言ったそうだ。
『他国ではブロスコフ侯爵のような人のことをストーカーって言うらしいですよ』
レンジロード様は意味がわからなかったようだけど、シリュウ兄さまが苦手なことに変わりはないので、尻尾を巻いて逃げ帰ったそうだ。
シリュウ兄さまから、その話を聞いたあとに尋ねる。
「レンジロード様がわたしにこだわる理由がわかりません。こんなに頑張れるなら、どうしてルイーダ様にもアピールしなかったんでしょうか」
「絶対にそうだとは言えないけど、彼の中ではリコットが相手なら勝算があると思っているんじゃないかな」
「……わたしだったらまた、レンジロード様を好きになると思われているってことですか」
「たぶん」
今までのわたしが何を言われてもレンジロード様を諦めなかったから、そう思わせてしまったのかもしれない。でも、何かがきっかけで愛が冷めることはあり得ることだわ!
「早く相手を探さないといけないということですね」
今はまだ、恋愛なんてしたいとは思わないし、再婚相手を考える余裕もない。でも、そうも言っていられないわ。
「再婚してくれそうな相手を探そうと思います。きっと、中々、見つからないでしょうけど……」
ルイーダ様のように性格が良くて美人なら、すぐに相手が見つかるでしょうけど、わたしは平凡な見た目だし、一度結婚しているから、再婚者か、かなり年上の方しかいないでしょうね。
シリュウ兄さまが苦笑して手を挙げる。
「そのことで話があるんだけど、俺を再婚相手にするのはどうかな」
「……はい!?」
「エルローゼ家を継ぐ俺がリコットと結婚すれば、血筋も途切れないしさ。元々、リコットのお父上はそうしたかったみたいだよ。だけど、ブロスコフ侯爵家からの婚約の申し込みとリコットが強く望んだからやめたみたいだ」
「そうだったんですね……」
子供の頃の話とはいえ、本当にわたしは馬鹿だったのね。でも、お父様もそれならそうと言ってくれれば良いのに!
「……とまあ、今日は別の話をしに来たから、話を変えるよ」
「は、はい!」
「誕生日パーティーに出席する話をしていたけど、俺がパートナーとして行っても良いかな?」
「そうしていただけると、わたしは嬉しいです!」
有り難い申し出なので即答すると、シリュウ兄さまは優しく微笑んでくれた。
最近の話はまだどうなるかわからない。でも、レンジロード様との縁を今度こそ断ち切ってやるわ!
◆◇◆◇◆◇
(レンジロード視点)
※イライラする可能性があるので、読み飛ばしてもらっても支障ありません。
「いつになったら、リコットさんは戻って来るの!?」
リコットとの離婚が決まってから、母上はいつもこうやって文句を言う。
私だってわかっている。このままでは、世間の笑いものだ。そんなことは私のプライドが許さない。
それにしても、愛していると言っているのに、リコットはわたしと会おうともしない。どうしてだ。彼女が私を愛さなくなるわけがないのに。
「ちょっと、レンジロード、聞いているの!?」
「近々に共通の知人の誕生日パーティーがあるんです。世話になっているので、リコットは出席するでしょう」
「なら、その時に連れ帰ってきなさい!」
「わかりました。今度こそ、私の操り人形にするつもりです」
リコットは純粋だった。だから、支配するのは簡単だった。私なしでは生きられないようにした。私のためなら死ねる人形にしたはずだった。
それなのに、彼女は私の元から離れた。
胸にぽっかり穴があいたような気分になったということは、彼女に情が湧いていたのかもしれない。
リコット、この私が君を欲しているんだから、大人しく帰ってくるんだ。
貴族の女性に暴漢対策グッズとして人気があり、魔法が使える国では魔法が付与されていたりするらしい。私たちの住んでいる国には魔法は存在しないので、普通のシルバートレイかと思ったら、シリュウ兄さまがお金を出して、カスタマイズしてくれていた。
普通のティアトレイの使い方は殴られそうになったら、ティアトレイで防御するというものだ。平らな部分には鉄板が入っていて、殴ってきた相手にもダメージが与えられる。
わたしがもらったものは、少し変わっていて平らな部分は二重底になっている。そこに工夫がされているのだけど、これは実践してみないと、どうなるのか、はっきりとはわからない。
今度のパーティーにはジリン様からもらった痴漢撃退用のスプレーとシルバートレイを持参して、レンジロード様の襲来に備えようと思った。
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ルイーダ様たちと話をした五日後には、シリュウ兄さまが婚約を解消したという話が社交界に広まった。
婚約者だった令嬢、ファレット侯爵令嬢は誤解だと訴えた。でも、ルイーダ様が嘘をつくはずがないし、他の令嬢もその話を聞いたと証言したため、彼女の意見は受け入れられなかった。
本当にもったいないことをしたわよね。
シリュウ兄さまがフリーになったことを知った令嬢たちが、我こそはと婚約者に立候補した。でも、ほとんどの令嬢にはすでに婚約者がいたため、わざわざ、婚約破棄をしてまで立候補したことがわかり、その人たちは候補から外れることになった。
シリュウ兄さまが誰を選ぶのか、世間がその話題で持ちきりになっている間も、レンジロード様からの迷惑行為は続いていた。しかも、手紙やプレゼントだけではなく、本人が訪ねてくるようになった。
警察に相談しても、侯爵に意見できるはずがないので、ここは例の暴漢対策グッズを使おうかと考え始めた頃、シリュウ兄さまが訪ねてきた。
たまたま、レンジロード様と出くわしたシリュウ兄さまは、本人にこう言ったそうだ。
『他国ではブロスコフ侯爵のような人のことをストーカーって言うらしいですよ』
レンジロード様は意味がわからなかったようだけど、シリュウ兄さまが苦手なことに変わりはないので、尻尾を巻いて逃げ帰ったそうだ。
シリュウ兄さまから、その話を聞いたあとに尋ねる。
「レンジロード様がわたしにこだわる理由がわかりません。こんなに頑張れるなら、どうしてルイーダ様にもアピールしなかったんでしょうか」
「絶対にそうだとは言えないけど、彼の中ではリコットが相手なら勝算があると思っているんじゃないかな」
「……わたしだったらまた、レンジロード様を好きになると思われているってことですか」
「たぶん」
今までのわたしが何を言われてもレンジロード様を諦めなかったから、そう思わせてしまったのかもしれない。でも、何かがきっかけで愛が冷めることはあり得ることだわ!
「早く相手を探さないといけないということですね」
今はまだ、恋愛なんてしたいとは思わないし、再婚相手を考える余裕もない。でも、そうも言っていられないわ。
「再婚してくれそうな相手を探そうと思います。きっと、中々、見つからないでしょうけど……」
ルイーダ様のように性格が良くて美人なら、すぐに相手が見つかるでしょうけど、わたしは平凡な見た目だし、一度結婚しているから、再婚者か、かなり年上の方しかいないでしょうね。
シリュウ兄さまが苦笑して手を挙げる。
「そのことで話があるんだけど、俺を再婚相手にするのはどうかな」
「……はい!?」
「エルローゼ家を継ぐ俺がリコットと結婚すれば、血筋も途切れないしさ。元々、リコットのお父上はそうしたかったみたいだよ。だけど、ブロスコフ侯爵家からの婚約の申し込みとリコットが強く望んだからやめたみたいだ」
「そうだったんですね……」
子供の頃の話とはいえ、本当にわたしは馬鹿だったのね。でも、お父様もそれならそうと言ってくれれば良いのに!
「……とまあ、今日は別の話をしに来たから、話を変えるよ」
「は、はい!」
「誕生日パーティーに出席する話をしていたけど、俺がパートナーとして行っても良いかな?」
「そうしていただけると、わたしは嬉しいです!」
有り難い申し出なので即答すると、シリュウ兄さまは優しく微笑んでくれた。
最近の話はまだどうなるかわからない。でも、レンジロード様との縁を今度こそ断ち切ってやるわ!
◆◇◆◇◆◇
(レンジロード視点)
※イライラする可能性があるので、読み飛ばしてもらっても支障ありません。
「いつになったら、リコットさんは戻って来るの!?」
リコットとの離婚が決まってから、母上はいつもこうやって文句を言う。
私だってわかっている。このままでは、世間の笑いものだ。そんなことは私のプライドが許さない。
それにしても、愛していると言っているのに、リコットはわたしと会おうともしない。どうしてだ。彼女が私を愛さなくなるわけがないのに。
「ちょっと、レンジロード、聞いているの!?」
「近々に共通の知人の誕生日パーティーがあるんです。世話になっているので、リコットは出席するでしょう」
「なら、その時に連れ帰ってきなさい!」
「わかりました。今度こそ、私の操り人形にするつもりです」
リコットは純粋だった。だから、支配するのは簡単だった。私なしでは生きられないようにした。私のためなら死ねる人形にしたはずだった。
それなのに、彼女は私の元から離れた。
胸にぽっかり穴があいたような気分になったということは、彼女に情が湧いていたのかもしれない。
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