愛を求めることはやめましたので、ご安心いただけますと幸いです!

風見ゆうみ

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18  素敵なプレゼント

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 わたしの怪我も治って歩けるようになったこともあり、ルイーダ様と繁華街にあるティールームで話をすることになった。

 ちょうど、ジリン様とデートの約束の日だったらしく「別の日にしましょう」と遠慮したけれど、ジリン様がわたしの様子を気にしてくださっていることと、シリュウ兄さまも呼ぶからということで、デートにお邪魔させてもらうことになった。

 四人がけの丸テーブルが二つ置かれたテラス席は予約制のため、わたしたちしかおらず、他人に話を聞かれる心配はない。

「離婚おめでとう。これ、お祝い」

 店員がテーブルを離れるのを待ってから、はす向かいに座るジリン様が綺麗にラッピングされた手のひらサイズの小箱を、わたしに差し出した。

 離婚のお祝いなんて聞いたことがないんだけど、離婚はわたしの中では目出度いことではある。

「ありがとうございます。お気遣いいただいてしまい、申し訳ございません」 
「気にしないで。中身は痴漢撃退用のスプレーだよ。あ、例の人にも使っても良いと思うなぁ」
「助かります! もし、パーティー会場で出会って近づいてきたら、これで撃退します!」

 近々、レンジロード様と共通の知人の誕生日パーティーがあるので、その時に、レンジロード様と顔を合わせなければならない。小さい小瓶だそうなので、持ち歩きしやすいのは助かる。

「パーティーにはお一人で行かれるんですか?」
「パートナーがいないので、父に一緒に行ってもらおうかと考えています」
 
 ルイーダ様に答えると、ジリン様がシリュウ兄さまを見る。

「僕たちが出席するパーティーかもしれないけど、念のために、シリュウが一緒に行ったら?」
「俺と一緒に行って変な噂を立てられたら、リコットが困るだろ」
「シリュウ兄さまとの噂なら、わたしはかまいませんが、シリュウ兄さまの婚約者の方には申し訳ないと思いますので、わたしのことはお気遣いなく」
「それがさぁ、婚約が解消になるらしいんだよねぇ」
「はい?」

 ジリン様に聞き返すと、苦笑して答える。

「シリュウがエルローゼ伯爵家を継ぐという話を聞いた婚約者が伯爵の嫁になんかなりたくないって言ったんだってさぁ」
「そ、そんな……」

 シリュウ兄さまの婚約者は侯爵令嬢だから、夫が伯爵なら格が下がると思ったのかもしれない。

「婚約前にその話はしていたんだけど、いざとなったらやっぱり嫌なんだってさ」

 自嘲するシリュウ兄さまに訴える。

「高位貴族の令嬢ですから格が下がるのは嫌なのかもしれませんが、シリュウ兄さまと結婚できるだけでも光栄なはずです!」
「慰めてくれてありがとな。でももう、解消は決まってるんだ。話を聞いた父上が激怒して、お望みなら婚約を解消してやるってことで話を進めてる」
「ご令嬢はシリュウ兄さまに直接、そのお話をされたんですか?」

 わたしが尋ねると、シリュウ兄さまは首を横に振る。

「お茶会での話だってさ。だから、俺は聞いてない」
「では、その話はどこから?」

 尋ねると、ルイーダ様が手を挙げる。

「わたくしがそのお茶会に出席しておりましたの。身分はシリュウ様のほうがはるかに上ですけれど、シリュウ様はわたくしを友人として扱ってくださっています。わたくしも同じ気持ちですから、友人が悪く言われて黙ってはいられませんわね」

 普段は大人しい性格だと聞いていたけれど、ルイーダ様は自分の大切な人が悪く言われると、つい口を出してしまうのだそうだ。

「わたくしがシリュウ様に話をすると言った途端、顔を真っ青にしておられましたわ」
「そうだったのですね」
  
 シリュウ兄さまを逃すなんてもったいないわ。大体、伯爵家の何が悪いのよ! うちは弱小ですけど、シリュウ兄さまが継いでくれたら、きっと強くなるわ!

「そうだ。俺からも離婚祝いがある」

 そう言って、シリュウ兄さま少し離れた場所に立っていたメイドから、大きな四角い箱を受け取ると、わたしに差し出してきた。

「シリュウ兄さまにはすでに色々としていただいているのに……」
「わたくしとお揃いですのよ!」

 もらっても良いのか躊躇していると、中身を知っているのか、ルイーダ様が笑顔で言った。

「これ。今、世界中で人気の商品らしいよ。開けてみて」
「わかりました。あの、ありがとうございます!」

 お礼を言い忘れていたので、慌てて言ったあと、プレゼントの箱をテーブルの上に乗せて、包装紙をはがした。箱を開けてみると、中に入っていたのはメイドが食べ物などを運ぶために使っている、胸に抱えられるくらいの大きさのシルバー色の丸いトレイだった。


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