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15 嬉しくない告白 ①
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レンジロード様が「離婚について前向きに考えるからやめてくれ」と泣きついてきたので、実家に帰ってから五日ほど待った。でも、結局は何も連絡してこなかったので、六日目にすでに描いていたレンジロード様の絵をルイーダ様に見せることにした。
ミスティック伯爵邸へ行くには、わたしの実家からだと馬車で半日以上かかる。足がまだ治っていないこともあり、早馬で手紙と共に絵を渡しに行ってもらうと、すぐに返事が来て、三日後にルイーダ様が訪ねてきてくれることになった。
当日の朝、ルイーダ様をわたしの部屋に案内して、ブロスコフ侯爵邸から出ることができた経緯を話すことになった。
「お送りしたイラストのあとは、ルイーダ様に絵を見られたくないと訴えてきたんです。ルイーダ様に情けない姿を見られたくないので離婚すると言ってくると思ったんですけど、五日間待ったんですけど、何も連絡がなくて……。どうして離婚すると言ってこなかったのが不思議です」
「リコット様の魅力に気がついたということでしょうか」
「それはないと思います」
ルイーダ様とわたしは見た目は全然違うし、性格だって似ているところを見つけるほうが難しい。そんなわたしを、レンジロード様が好きになるわけがない。それなのに希望を持ち続けていた昔の自分を思い出すと、自分で自分を殴りたくなる。
わたしが難しい顔をしていたからか、ルイーダ様は話題を変える。
「リコット様は絵が本当にお上手なのですね! いただいた絵を見て、ブロスコフ侯爵に抱いた感想は、パーティーで会うことがありましたら、ご本人に直接お伝えしますわ」
「ありがとうございます。変な絵を見せてしまって申し訳ございません」
「とんでもないことですわ。リコット様は絵がお上手だと知ることができましたもの。ジリン様の肖像画を描いていただきたいくらいですわ」
「ジリン様が良いとおっしゃるのであれば描かせていただきます」
自分で描いてみて、人に見せられても困るだろうなと思う絵だったから、ルイーダ様にそう言ってもらえてホッとした。
あとは、ルイーダ様がどんな感想を本人に伝えるのか気になるけど、それは本人に言ったあとにでも教えてもらいましょう。
ルイーダ様は紅茶を一口飲んで喉を潤してから頷く。
「ジリン様にはお話しておきますわ。それから、離婚はできなくても実家に戻ってこれただけでも良かったですわね」
「シリュウ様やトファス公爵閣下が動いてくださらなければ、わたしはまだブロスコフ侯爵にいたと思います。本当にお二人には感謝しています」
「シリュウ様はリコット様のことをずっと気にしておられましたから、思った以上のクズだとわかって、かなり怒ったのでしょうね」
「クズ」
ルイーダ様の口から、そんな言葉を聞くとは思っていなくて、つい言葉を漏らしてしまった。
「失礼いたしました。ジリン様が最低な人を見た時にいつもクズ野郎とおっしゃるんです。そのため、わたしも最低な人のことをクズと呼んでいるんですの。あ、あの、親しい人の前でしか言っておりませんので、他の方には内緒にしてくださいませ」
「承知いたしました。ルイーダ様がそんな言葉を口にするだなんて思わなくて驚いてしまいましたが、悪い印象ではありません!」
「でも、好きな人の口癖を真似ることは変ですわよね」
「いいえ。好きな人の言葉だからこそ、しっかり聞いているので記憶に残るのではないでしょうか」
わたしの言葉にルイーダ様は嬉しそうに微笑む。
「そう言っていただけると嬉しいですわ」
「レンジロード様が好きだった時は、レンジロード様に好きになってほしくて、ルイーダ様のようになりたいと真似をしていたんです。でも、今は純粋にルイーダ様のような人になりたいと思っています」
「そんな風に言っていただけるなんて光栄ですわ。ですが、リコット様にはリコット様の良いところがありますので、それを忘れないでくださいね」
わたしなりの良いところ。
あったらいいな。
……ではなくて、見つけられないのなら、自分で自分を恥じることのないような人間になればいいのよね!
自分に言い聞かせてから、それを気づかせてくれたルイーダ様にお礼を言う。
「ルイーダ様、本当にありがとうございます」
「お礼を言われることではありませんわ。ところで、離婚の話は進みそうですか?」
「今のところは保留のようです。でも、このままでは何も動きはありませんし、少し考えていることがあるんです」
「どのようなことでしょう」
不思議そうな顔をするルイーダ様に笑顔で答える。
「わたしを突き落としたことを自白させるにはどうすれば良いかはまだ考え中なんですが、嫌われているから言うことを聞いてもらえないのであれば、好きな人の言うことは聞くのかと思いまして……」
「そうですわね! では、わたくしは何をいたしましょう。話をしに行けば良いですか?」
「わざわざ、直接会ったりすることはしなくてかまわないんです。ただ、ルイーダ様の口から、レンジロード様への率直な感想を流してほしいのです」
世間の噂を気にしなくても、ルイーダ様が言っているとなれば別だ。レンジロード様は絶対に反応する。
「わかりましたわ。ブロスコフ侯爵への率直な感想をお話します。離婚しないなんて最低ですわ! と話しますわね!」
「ご迷惑をおかけして申し訳ございません」
頭を下げると、ルイーダ様は慌てた様子で首を横に振る。
「いいえ。リコット様のお役に立てるなら、とても嬉しいですわ」
「いつか必ず、わたしもルイーダ様のお役に立てるようになりますので!」
力強く言うと、ルイーダ様は嬉しそうに微笑んでくれた。
そして日にちが経ち、ルイーダ様の話が社交界に回り始め、わたしの体の傷も癒え始めてきた頃、私からの連絡を無視し続けていたレンジロード様から連絡があった。
ミスティック伯爵邸へ行くには、わたしの実家からだと馬車で半日以上かかる。足がまだ治っていないこともあり、早馬で手紙と共に絵を渡しに行ってもらうと、すぐに返事が来て、三日後にルイーダ様が訪ねてきてくれることになった。
当日の朝、ルイーダ様をわたしの部屋に案内して、ブロスコフ侯爵邸から出ることができた経緯を話すことになった。
「お送りしたイラストのあとは、ルイーダ様に絵を見られたくないと訴えてきたんです。ルイーダ様に情けない姿を見られたくないので離婚すると言ってくると思ったんですけど、五日間待ったんですけど、何も連絡がなくて……。どうして離婚すると言ってこなかったのが不思議です」
「リコット様の魅力に気がついたということでしょうか」
「それはないと思います」
ルイーダ様とわたしは見た目は全然違うし、性格だって似ているところを見つけるほうが難しい。そんなわたしを、レンジロード様が好きになるわけがない。それなのに希望を持ち続けていた昔の自分を思い出すと、自分で自分を殴りたくなる。
わたしが難しい顔をしていたからか、ルイーダ様は話題を変える。
「リコット様は絵が本当にお上手なのですね! いただいた絵を見て、ブロスコフ侯爵に抱いた感想は、パーティーで会うことがありましたら、ご本人に直接お伝えしますわ」
「ありがとうございます。変な絵を見せてしまって申し訳ございません」
「とんでもないことですわ。リコット様は絵がお上手だと知ることができましたもの。ジリン様の肖像画を描いていただきたいくらいですわ」
「ジリン様が良いとおっしゃるのであれば描かせていただきます」
自分で描いてみて、人に見せられても困るだろうなと思う絵だったから、ルイーダ様にそう言ってもらえてホッとした。
あとは、ルイーダ様がどんな感想を本人に伝えるのか気になるけど、それは本人に言ったあとにでも教えてもらいましょう。
ルイーダ様は紅茶を一口飲んで喉を潤してから頷く。
「ジリン様にはお話しておきますわ。それから、離婚はできなくても実家に戻ってこれただけでも良かったですわね」
「シリュウ様やトファス公爵閣下が動いてくださらなければ、わたしはまだブロスコフ侯爵にいたと思います。本当にお二人には感謝しています」
「シリュウ様はリコット様のことをずっと気にしておられましたから、思った以上のクズだとわかって、かなり怒ったのでしょうね」
「クズ」
ルイーダ様の口から、そんな言葉を聞くとは思っていなくて、つい言葉を漏らしてしまった。
「失礼いたしました。ジリン様が最低な人を見た時にいつもクズ野郎とおっしゃるんです。そのため、わたしも最低な人のことをクズと呼んでいるんですの。あ、あの、親しい人の前でしか言っておりませんので、他の方には内緒にしてくださいませ」
「承知いたしました。ルイーダ様がそんな言葉を口にするだなんて思わなくて驚いてしまいましたが、悪い印象ではありません!」
「でも、好きな人の口癖を真似ることは変ですわよね」
「いいえ。好きな人の言葉だからこそ、しっかり聞いているので記憶に残るのではないでしょうか」
わたしの言葉にルイーダ様は嬉しそうに微笑む。
「そう言っていただけると嬉しいですわ」
「レンジロード様が好きだった時は、レンジロード様に好きになってほしくて、ルイーダ様のようになりたいと真似をしていたんです。でも、今は純粋にルイーダ様のような人になりたいと思っています」
「そんな風に言っていただけるなんて光栄ですわ。ですが、リコット様にはリコット様の良いところがありますので、それを忘れないでくださいね」
わたしなりの良いところ。
あったらいいな。
……ではなくて、見つけられないのなら、自分で自分を恥じることのないような人間になればいいのよね!
自分に言い聞かせてから、それを気づかせてくれたルイーダ様にお礼を言う。
「ルイーダ様、本当にありがとうございます」
「お礼を言われることではありませんわ。ところで、離婚の話は進みそうですか?」
「今のところは保留のようです。でも、このままでは何も動きはありませんし、少し考えていることがあるんです」
「どのようなことでしょう」
不思議そうな顔をするルイーダ様に笑顔で答える。
「わたしを突き落としたことを自白させるにはどうすれば良いかはまだ考え中なんですが、嫌われているから言うことを聞いてもらえないのであれば、好きな人の言うことは聞くのかと思いまして……」
「そうですわね! では、わたくしは何をいたしましょう。話をしに行けば良いですか?」
「わざわざ、直接会ったりすることはしなくてかまわないんです。ただ、ルイーダ様の口から、レンジロード様への率直な感想を流してほしいのです」
世間の噂を気にしなくても、ルイーダ様が言っているとなれば別だ。レンジロード様は絶対に反応する。
「わかりましたわ。ブロスコフ侯爵への率直な感想をお話します。離婚しないなんて最低ですわ! と話しますわね!」
「ご迷惑をおかけして申し訳ございません」
頭を下げると、ルイーダ様は慌てた様子で首を横に振る。
「いいえ。リコット様のお役に立てるなら、とても嬉しいですわ」
「いつか必ず、わたしもルイーダ様のお役に立てるようになりますので!」
力強く言うと、ルイーダ様は嬉しそうに微笑んでくれた。
そして日にちが経ち、ルイーダ様の話が社交界に回り始め、わたしの体の傷も癒え始めてきた頃、私からの連絡を無視し続けていたレンジロード様から連絡があった。
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