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14 離婚したくない夫 ③
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わたしの荷物をお母様が用意してくれている間に、ピアーナ様は廊下に出て行った。用意し終えた頃、黙っていたレンジロード様が思い出したかのように叫ぶ。
「お待ちください! いくら、トファス公爵でも私の妻を連れて行くことは許されません!」
長身痩躯で、とても綺麗な顔立ちをしているトファス公爵閣下は、シリュウ兄さまとは違い、感情を表に出さない。だから、レンジロード様を感情の読めない顔で見つめたあと、無言でシリュウ兄さまに視線を送る。
レンジロード様の相手をしろと言っているみたいで、シリュウ兄さまがレンジロード様に答える。
「本人が行くって言ってるんだから良いじゃないですか」
「リコットは私の愛する妻なんだ! 妻を奪われる夫の気持ちにもなってくれ!」
シリュウ兄さまが相手だからか、レンジロード様は勢いづいて言った。
「愛してなんかいないんでしょう?」
シリュウ兄さまが半眼で尋ねると「そんなことはない!」レンジロード様はわたしに向かって歩いてきた。わたしが身構えると同時にシリュウ兄さまがレンジロード様の首根っこを掴んで止める。
「どこに行くんですか」
「やめろ! 何をするんだ!」
「リコットに近づかないと約束するなら放しますよ」
「リコットは私の妻なんだぞ! 近づいて何が悪い!?」
「あなたは否定してますけど、リコットはあなたに階段から突き落とされたと言っているんです。彼女の話が本当なら命の危険がありますので放っておけません」
「わかった! 近づかないから放せ!」
シリュウ兄さまが手を離すと、レンジロード様は向き直って叫ぶ。
「失礼だろう!」
「何か遭ってからでは遅いんですよ。奪われた命は戻りません。なら、自分で自分を守るのは当たり前だし、自分一人では無理だというなら他の誰かが手を貸しても良いでしょう」
「まだ、それが身内ならわかる! でも、あんたは違うだろう!」
さすがに公爵令息に『あんた』はないでしょう。
そう思った時、シリュウ兄さまは笑顔でトファス公爵閣下に目を向ける。
「……父上」
「今から数分の間だけ、私と同等の権限をシリュウに与える」
トファス公爵閣下がそう言って、レンジロード様を見つめた。レンジロード様は何が何だかわからないといった様子でトファス公爵閣下を見つめ返したけれど頷くしかなかった。
レンジロード様が頷いた瞬間、シリュウ兄さまはレンジロード様を引き倒して後ろに回ると、床に仰向け状態にさせた。そのまま、何もできずにいるレンジロード様の喉の部分に自分の右足の靴の爪先を押し当てる。
「口で言ってもわからないようだから、手を出させてもらう。俺は嫡男じゃないけれど、公爵令息ではあるんだよ。あまり、舐めた真似をしないでくれるかな」
「も……、申し訳ございません」
レンジロード様は目を潤ませ、情けない声で謝った。
「リコット、行こうか」
シリュウ兄さまはレンジロード様を押さえたまま、わたしには笑顔で話しかけてきた。
「はい!」
返事をしてから、車椅子でレンジロード様に近づくと、レンジロード様は悔しさで顔を真っ赤にしていた。そんな彼に話しかける。
「今までのわたしはあなたにとって都合の良い女でしたね。でも、わたしはそれで良かったんです。あなたが好きだったから」
「……な、なら」
「今は嫌われていても、いつかはあなたに好きになってもらえると思っていたわたしは、あなたに階段から突き落とされた時に死にました。もうわたしは、あなたが知っているわたしではありません」
「そんな……、人がそう簡単に変われるわけがない」
レンジロード様は鼻で笑った。
レンジロード様の言う通りだ。
意識を変えることはできても、わたし自身はまだまだ弱いから、一人ではレンジロード様には勝てない。だから、仕切り直させてもらう。
「……離婚していただけますか」
「嫌だ。私は何も悪くない」
「では、離婚したくなるようにいたしましょう。とにかく、わたしは実家に帰らせていただきます」
笑顔で言ったあと、無様な姿になっているレンジロード様を目に焼き付けるために見つめる。
「何だ。何を見ている」
「レンジロード様はわたしに興味がないので知らないかと思いますが、わたし、絵を描くのが得意なんです」
「……それがどうした」
「今のレンジロード様の絵をルイーダ様にプレゼントしようかと思いまして」
馬鹿にするわけじゃなく、事実として見せるつもりだ。
「や、やめてくれぇぇっ!」
レンジロード様は情けない顔になって叫んだ。
「お待ちください! いくら、トファス公爵でも私の妻を連れて行くことは許されません!」
長身痩躯で、とても綺麗な顔立ちをしているトファス公爵閣下は、シリュウ兄さまとは違い、感情を表に出さない。だから、レンジロード様を感情の読めない顔で見つめたあと、無言でシリュウ兄さまに視線を送る。
レンジロード様の相手をしろと言っているみたいで、シリュウ兄さまがレンジロード様に答える。
「本人が行くって言ってるんだから良いじゃないですか」
「リコットは私の愛する妻なんだ! 妻を奪われる夫の気持ちにもなってくれ!」
シリュウ兄さまが相手だからか、レンジロード様は勢いづいて言った。
「愛してなんかいないんでしょう?」
シリュウ兄さまが半眼で尋ねると「そんなことはない!」レンジロード様はわたしに向かって歩いてきた。わたしが身構えると同時にシリュウ兄さまがレンジロード様の首根っこを掴んで止める。
「どこに行くんですか」
「やめろ! 何をするんだ!」
「リコットに近づかないと約束するなら放しますよ」
「リコットは私の妻なんだぞ! 近づいて何が悪い!?」
「あなたは否定してますけど、リコットはあなたに階段から突き落とされたと言っているんです。彼女の話が本当なら命の危険がありますので放っておけません」
「わかった! 近づかないから放せ!」
シリュウ兄さまが手を離すと、レンジロード様は向き直って叫ぶ。
「失礼だろう!」
「何か遭ってからでは遅いんですよ。奪われた命は戻りません。なら、自分で自分を守るのは当たり前だし、自分一人では無理だというなら他の誰かが手を貸しても良いでしょう」
「まだ、それが身内ならわかる! でも、あんたは違うだろう!」
さすがに公爵令息に『あんた』はないでしょう。
そう思った時、シリュウ兄さまは笑顔でトファス公爵閣下に目を向ける。
「……父上」
「今から数分の間だけ、私と同等の権限をシリュウに与える」
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レンジロード様が頷いた瞬間、シリュウ兄さまはレンジロード様を引き倒して後ろに回ると、床に仰向け状態にさせた。そのまま、何もできずにいるレンジロード様の喉の部分に自分の右足の靴の爪先を押し当てる。
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「も……、申し訳ございません」
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「リコット、行こうか」
シリュウ兄さまはレンジロード様を押さえたまま、わたしには笑顔で話しかけてきた。
「はい!」
返事をしてから、車椅子でレンジロード様に近づくと、レンジロード様は悔しさで顔を真っ赤にしていた。そんな彼に話しかける。
「今までのわたしはあなたにとって都合の良い女でしたね。でも、わたしはそれで良かったんです。あなたが好きだったから」
「……な、なら」
「今は嫌われていても、いつかはあなたに好きになってもらえると思っていたわたしは、あなたに階段から突き落とされた時に死にました。もうわたしは、あなたが知っているわたしではありません」
「そんな……、人がそう簡単に変われるわけがない」
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レンジロード様の言う通りだ。
意識を変えることはできても、わたし自身はまだまだ弱いから、一人ではレンジロード様には勝てない。だから、仕切り直させてもらう。
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「レンジロード様はわたしに興味がないので知らないかと思いますが、わたし、絵を描くのが得意なんです」
「……それがどうした」
「今のレンジロード様の絵をルイーダ様にプレゼントしようかと思いまして」
馬鹿にするわけじゃなく、事実として見せるつもりだ。
「や、やめてくれぇぇっ!」
レンジロード様は情けない顔になって叫んだ。
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