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11 懇願する夫 ③
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「レンジロード! 一体、何があったっていうの?」
ピアーナ様はレンジロード様が返事をする前に、艶のある黒いストレートの髪とワイン色のロングドレスの裾をなびかせながら執務室に入ってきた。
ピアーナ様はスタイルが良いし、鼻筋の通った美人なのだが、いつも機嫌が悪そうな顔をしていて、近寄りがたいオーラを醸し出している。見た目の通りと言っていいのかはわからないが、性格も気の強い人でレンジロード様と同じく、自分が一番かわいい人だ。
特に害のないわたしには興味もなく、今までは特に何かうるさく言われるようなことはなかった。
「結婚式ができなかったからって、リコットさんをいじめているんじゃないでしょうね? そんなに結婚式を挙げたかったんなら、怪我が治ったらすれば良いじゃないの」
自分以外に大して興味のない人だから、レンジロード様のことだって興味がない。レンジロード様がミスティック伯爵令嬢のことを好きだなんてことも本人に教えてもらわない限りは知らないでしょう。
この言い方だと、結婚式が中止になった本当の理由を知らないみたいね。
「結婚式の話で揉めているわけではないんですよ」
レンジロード様はため息を吐くと、わたしの手を放して立ち上がった。そして、ピアーナ様に出ていくように促す。
「母上、夫婦で話をしているのです。出て行ってもらえませんか」
「あら、喧嘩は良くないから止めに入っただけよ。喧嘩しないなら出ていくわ」
「ピアーナ様、わたしが出ていきますのでお気遣いなく。レンジロード様、返事は明日の午前中にお願いいたします。良い返事をお待ちしていますね」
「ま、待ってくれ!」
扉が開け放たれたままだったので、お母様は中に入ってくると、レンジロード様の言葉は聞こえないふりをして、わたしを廊下に出してくれた。
「ありがとうございます、お母様」
「悲鳴が聞こえたから驚いたわ。一体、何があったの?」
わたしの自室に向かいながら尋ねてくるお母様に、わたしは先程の出来事を全部話すことにした。
******
次の日の朝、お母様と部屋で食事をしていると、レンジロード様が訪ねてきた。昨日はあまり眠れていないのか、とても疲れ切ったような顔をしている。
なぜか一人ではなく、レンジロード様の側近や、この家の執事を一緒に連れてきていた。レンジロード様は部屋に入ってきたかと思うと、扉を開け放ったままの状態で、その場に崩れ落ちた。
何事なの!?
困惑していると、レンジロード様は両手で顔を覆って叫ぶ。
「離婚したくないんだ! 頼む! 考え直してくれ! 私は君のことを愛しているんだ!」
「……何を言っているんですか」
愛しているという言葉を聞いた時、全身に悪寒が走った。足を動かすことができないから無理だけど、元気だったら何としてでも部屋から追い出していたと思う。
「ふざけないでください!」
「頼む、リコット! 私を捨てないでくれ! 君が足を踏み外したことをショックに思って嘘つく気持ちもわかる! だが、私は嘘をつけないんだ!」
「あなたは今、嘘をついているではないですか!」
「リコット……、もう良いんだ。きっと君は僕の手が軽く当たったと感じたんだろう。それで突き落としたなんて嘘を」
「嘘なんてついていません! あなたがわたしを階段から突き落としたんです!」
言い返したところで、わたしはレンジロード様の目的にやっと気がついた。
本当にわたしは馬鹿だわ!
「扉を閉めてください!」
「許してくれるなら閉めよう!」
閉める気がないレンジロード様の代わりに、お母様が慌てて部屋の扉を閉めてくれた。
といっても、時すでに遅しだった。
連れてきていた側近たちは、わたしを冷たい目で見ていたし、レンジロード様の声を聞いて、メイドたちも廊下に集まっていた。
わたしを悪役に仕立て上げるつもりなのね。でも、思い通りになんてなってやるものですか!
まだ、わたしが何もできないと思っているなんて、馬鹿にするにも程があるわ!
「レンジロード様、何度も言わせていただきますが、わたしは嘘をついてなんていません。あなたは、自分の周りを味方につけて、わたしを悪者に仕立て上げようとしていますが、あなたはそんなことができる立場ではないということを、すっかり忘れておられるようですね」
一度言葉を区切り、たっぷりと間を置いてから口を開く。
「あなたが謝ろうが何をしようが、ルイーダ様に全てお話させていただきます」
怒りで声が震えそうになるのを何とか抑えて言うと、レンジロード様は顔を引き攣らせた。
ピアーナ様はレンジロード様が返事をする前に、艶のある黒いストレートの髪とワイン色のロングドレスの裾をなびかせながら執務室に入ってきた。
ピアーナ様はスタイルが良いし、鼻筋の通った美人なのだが、いつも機嫌が悪そうな顔をしていて、近寄りがたいオーラを醸し出している。見た目の通りと言っていいのかはわからないが、性格も気の強い人でレンジロード様と同じく、自分が一番かわいい人だ。
特に害のないわたしには興味もなく、今までは特に何かうるさく言われるようなことはなかった。
「結婚式ができなかったからって、リコットさんをいじめているんじゃないでしょうね? そんなに結婚式を挙げたかったんなら、怪我が治ったらすれば良いじゃないの」
自分以外に大して興味のない人だから、レンジロード様のことだって興味がない。レンジロード様がミスティック伯爵令嬢のことを好きだなんてことも本人に教えてもらわない限りは知らないでしょう。
この言い方だと、結婚式が中止になった本当の理由を知らないみたいね。
「結婚式の話で揉めているわけではないんですよ」
レンジロード様はため息を吐くと、わたしの手を放して立ち上がった。そして、ピアーナ様に出ていくように促す。
「母上、夫婦で話をしているのです。出て行ってもらえませんか」
「あら、喧嘩は良くないから止めに入っただけよ。喧嘩しないなら出ていくわ」
「ピアーナ様、わたしが出ていきますのでお気遣いなく。レンジロード様、返事は明日の午前中にお願いいたします。良い返事をお待ちしていますね」
「ま、待ってくれ!」
扉が開け放たれたままだったので、お母様は中に入ってくると、レンジロード様の言葉は聞こえないふりをして、わたしを廊下に出してくれた。
「ありがとうございます、お母様」
「悲鳴が聞こえたから驚いたわ。一体、何があったの?」
わたしの自室に向かいながら尋ねてくるお母様に、わたしは先程の出来事を全部話すことにした。
******
次の日の朝、お母様と部屋で食事をしていると、レンジロード様が訪ねてきた。昨日はあまり眠れていないのか、とても疲れ切ったような顔をしている。
なぜか一人ではなく、レンジロード様の側近や、この家の執事を一緒に連れてきていた。レンジロード様は部屋に入ってきたかと思うと、扉を開け放ったままの状態で、その場に崩れ落ちた。
何事なの!?
困惑していると、レンジロード様は両手で顔を覆って叫ぶ。
「離婚したくないんだ! 頼む! 考え直してくれ! 私は君のことを愛しているんだ!」
「……何を言っているんですか」
愛しているという言葉を聞いた時、全身に悪寒が走った。足を動かすことができないから無理だけど、元気だったら何としてでも部屋から追い出していたと思う。
「ふざけないでください!」
「頼む、リコット! 私を捨てないでくれ! 君が足を踏み外したことをショックに思って嘘つく気持ちもわかる! だが、私は嘘をつけないんだ!」
「あなたは今、嘘をついているではないですか!」
「リコット……、もう良いんだ。きっと君は僕の手が軽く当たったと感じたんだろう。それで突き落としたなんて嘘を」
「嘘なんてついていません! あなたがわたしを階段から突き落としたんです!」
言い返したところで、わたしはレンジロード様の目的にやっと気がついた。
本当にわたしは馬鹿だわ!
「扉を閉めてください!」
「許してくれるなら閉めよう!」
閉める気がないレンジロード様の代わりに、お母様が慌てて部屋の扉を閉めてくれた。
といっても、時すでに遅しだった。
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わたしを悪役に仕立て上げるつもりなのね。でも、思い通りになんてなってやるものですか!
まだ、わたしが何もできないと思っているなんて、馬鹿にするにも程があるわ!
「レンジロード様、何度も言わせていただきますが、わたしは嘘をついてなんていません。あなたは、自分の周りを味方につけて、わたしを悪者に仕立て上げようとしていますが、あなたはそんなことができる立場ではないということを、すっかり忘れておられるようですね」
一度言葉を区切り、たっぷりと間を置いてから口を開く。
「あなたが謝ろうが何をしようが、ルイーダ様に全てお話させていただきます」
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