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10 懇願する夫 ②
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ルイーダ様たちが帰ったあと、レンジロード様は車椅子に乗ったわたしをメイドに頼んで自分の執務室まで連れてこさせた。一緒に付いてきてくれたお母様とメイドを無理やり出て行かせ、二人きりになったと同時に、レンジロード様は強い口調で言う。
「どうしてくだらない嫌がらせをするんだ!?」
「嫌がらせではなく、事実をお伝えしたまでです」
「事実だと!? 言うなと言っただろう!」
「相手が誰だかは言っておりません。友人の旦那様と言っています」
「……君は私に嫌われたいのか?」
「離婚していただきたいので、嫌われても良いと思っています。といいますか、元々、嫌われていますよね」
目の前に立ってわたしを見下ろすレンジロード様を睨みつけると、彼は驚いた顔をした。
まだ、彼はわたしが自分のことを好きだと思っているのね。どうしたら、そんな前向きな思考になれるのかしら。
普通の人は好きな人に階段から落とされても『この人のためなら落とされてもいいわ!』って思っちゃうものなの? たとえそうだったとしても、わたしは絶対にそうとは思えない!
「レンジロード様はわたしのことが嫌いなのでしょう? それなら、毎日、一緒に暮らすことが苦痛ではないのですか?」
「君を嫌いだという気持ちよりも、ミスティック伯爵令嬢を好きだという気持ちが上回っているんだ。彼女のためなら、君と話すくらい苦じゃない」
「話すくらい苦じゃないって! 今までは傷ついていただけですが、もう、我慢できません! わたしはあなたと話すことも苦なんです!」
「……なんだって?」
「もう、わたしはあなたのことなんて好きじゃないんです! 別れたくて別れたくて仕方がないんです! 離婚が駄目なら、せめて別居させてください!」
「私のことが好きじゃないだと……?」
レンジロード様はぽかんと口を開けて私を見つめた。
「も、もしかして、やっと本心だとわかってくれたんですか?」
「……君が私を好きではなくなるなんてありえない」
「階段から突き落とされたら嫌いになってもおかしくないでしょう!」
「おかしい! 普通はそれくらいで嫌いになるわけないだろう!」
「そうですか! では、わたしは普通の人間ではないのでしょう! わたしはルイーダ様に一途なレンジロード様が好きでしたが、ここまで酷いことをする人だなんて思っていませんでした! あなたのやったことは犯罪です!」
「君は私を愛していたんだろう? 私のためなら何だってできたはずだ! 私だってそうだ! ミスティック伯爵令嬢のためなら何だってできる!」
この人の考えていることって、結局は自分のためなのよね。何だってできるという気持ちはわかるけれど、普通は自分が犠牲になってもという意味合いであって、他人を犠牲にしてでもというのは、ただの自分勝手な考えじゃないの!
「今までのわたしならあなたのために何だってすると言っていたかもしれません。ですが、あなたのおかげで気づいたんです。結婚式を挙げたくないという理由で、わたしに怪我をさせようとする人を愛し続けることなんてできません。下手をすれば死んでいたんですよ!?」
「私のためなら良いだろう。それに、死なないように分厚いカーペットに変えておいてやっただろう。あれは私の優しさだ!」
もしかして、わたしを階段から突き落としたことは、やっても良かったことだと思っていて、怪我で済んだのは自分のおかげだとか思っているの? ありえないわ! 何なの、この人!?
「優しい人は人を階段から突き落としたりしません! 自分が怪我をするなり、自分のせいにして中止にしたと思います!」
「そんな格好悪いことできるわけがないだろう!」
「人にそんなことをした時点で十分、格好悪いですよ!」
「……いつから、そんな生意気な口を利くようになったんだ。シリュウ様に入れ知恵でもされたのか!?」
「目が覚めただけです」
興奮している気持ちを落ち着けるため、大きく深呼吸してから、レンジロード様に告げる。
「円満離婚してくださらないのであれば、わたしの口からルイーダ様に全てを打ち明けます」
「や、やめてくれ!」
レンジロード様は情けない声を上げると、私の傍らにしゃがみ込んで懇願してくる。
「頼む。私が悪かった。謝るからミスティック伯爵令嬢には本当のことを言わないでくれないか。君を愛する努力をするから!」
「わたしはもうあなたからの愛を求めることはやめたんです! 円満離婚してくださるなら、これ以上のことは言いません!」
もうほとんどのことを知っているんですけど、これ以上はわたしの口からルイーダ様に言うのはやめておきます。
と、ずるいことはわかっているけれど、心の中で付け加えた。
「何が目的なんだ!? ただ、私の気を引こうとしているだけなのか!?」
パニックになったレンジロード様に両手を握りしめられたわたしは「ひぃっ!」と悲鳴をあげてしまった。その声が大きかったからか、外で待ってくれていたお母様の声が聞こえる。
「リコット! どうかしたの!?」
「だ、大丈夫です! あの、レンジロード様、手を放していただけますか!?」
「ミスティック伯爵令嬢に私のことを良い男だと言ってくれるのなら放そう」
レンジロード様はわたしの手を握りしめて、真剣な顔でわたしを見つめた。
思った以上にかかわってはいけない人だった!
「うるさいわね! 静かにしなさい!」
扉の向こうから聞こえてきた声は、お母様の声ではなく、レンジロード様の母であるピアーナ様のものだった。
「どうしてくだらない嫌がらせをするんだ!?」
「嫌がらせではなく、事実をお伝えしたまでです」
「事実だと!? 言うなと言っただろう!」
「相手が誰だかは言っておりません。友人の旦那様と言っています」
「……君は私に嫌われたいのか?」
「離婚していただきたいので、嫌われても良いと思っています。といいますか、元々、嫌われていますよね」
目の前に立ってわたしを見下ろすレンジロード様を睨みつけると、彼は驚いた顔をした。
まだ、彼はわたしが自分のことを好きだと思っているのね。どうしたら、そんな前向きな思考になれるのかしら。
普通の人は好きな人に階段から落とされても『この人のためなら落とされてもいいわ!』って思っちゃうものなの? たとえそうだったとしても、わたしは絶対にそうとは思えない!
「レンジロード様はわたしのことが嫌いなのでしょう? それなら、毎日、一緒に暮らすことが苦痛ではないのですか?」
「君を嫌いだという気持ちよりも、ミスティック伯爵令嬢を好きだという気持ちが上回っているんだ。彼女のためなら、君と話すくらい苦じゃない」
「話すくらい苦じゃないって! 今までは傷ついていただけですが、もう、我慢できません! わたしはあなたと話すことも苦なんです!」
「……なんだって?」
「もう、わたしはあなたのことなんて好きじゃないんです! 別れたくて別れたくて仕方がないんです! 離婚が駄目なら、せめて別居させてください!」
「私のことが好きじゃないだと……?」
レンジロード様はぽかんと口を開けて私を見つめた。
「も、もしかして、やっと本心だとわかってくれたんですか?」
「……君が私を好きではなくなるなんてありえない」
「階段から突き落とされたら嫌いになってもおかしくないでしょう!」
「おかしい! 普通はそれくらいで嫌いになるわけないだろう!」
「そうですか! では、わたしは普通の人間ではないのでしょう! わたしはルイーダ様に一途なレンジロード様が好きでしたが、ここまで酷いことをする人だなんて思っていませんでした! あなたのやったことは犯罪です!」
「君は私を愛していたんだろう? 私のためなら何だってできたはずだ! 私だってそうだ! ミスティック伯爵令嬢のためなら何だってできる!」
この人の考えていることって、結局は自分のためなのよね。何だってできるという気持ちはわかるけれど、普通は自分が犠牲になってもという意味合いであって、他人を犠牲にしてでもというのは、ただの自分勝手な考えじゃないの!
「今までのわたしならあなたのために何だってすると言っていたかもしれません。ですが、あなたのおかげで気づいたんです。結婚式を挙げたくないという理由で、わたしに怪我をさせようとする人を愛し続けることなんてできません。下手をすれば死んでいたんですよ!?」
「私のためなら良いだろう。それに、死なないように分厚いカーペットに変えておいてやっただろう。あれは私の優しさだ!」
もしかして、わたしを階段から突き落としたことは、やっても良かったことだと思っていて、怪我で済んだのは自分のおかげだとか思っているの? ありえないわ! 何なの、この人!?
「優しい人は人を階段から突き落としたりしません! 自分が怪我をするなり、自分のせいにして中止にしたと思います!」
「そんな格好悪いことできるわけがないだろう!」
「人にそんなことをした時点で十分、格好悪いですよ!」
「……いつから、そんな生意気な口を利くようになったんだ。シリュウ様に入れ知恵でもされたのか!?」
「目が覚めただけです」
興奮している気持ちを落ち着けるため、大きく深呼吸してから、レンジロード様に告げる。
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「や、やめてくれ!」
レンジロード様は情けない声を上げると、私の傍らにしゃがみ込んで懇願してくる。
「頼む。私が悪かった。謝るからミスティック伯爵令嬢には本当のことを言わないでくれないか。君を愛する努力をするから!」
「わたしはもうあなたからの愛を求めることはやめたんです! 円満離婚してくださるなら、これ以上のことは言いません!」
もうほとんどのことを知っているんですけど、これ以上はわたしの口からルイーダ様に言うのはやめておきます。
と、ずるいことはわかっているけれど、心の中で付け加えた。
「何が目的なんだ!? ただ、私の気を引こうとしているだけなのか!?」
パニックになったレンジロード様に両手を握りしめられたわたしは「ひぃっ!」と悲鳴をあげてしまった。その声が大きかったからか、外で待ってくれていたお母様の声が聞こえる。
「リコット! どうかしたの!?」
「だ、大丈夫です! あの、レンジロード様、手を放していただけますか!?」
「ミスティック伯爵令嬢に私のことを良い男だと言ってくれるのなら放そう」
レンジロード様はわたしの手を握りしめて、真剣な顔でわたしを見つめた。
思った以上にかかわってはいけない人だった!
「うるさいわね! 静かにしなさい!」
扉の向こうから聞こえてきた声は、お母様の声ではなく、レンジロード様の母であるピアーナ様のものだった。
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