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6 夫の大好きな人 ①
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手は動かすことができたので、次の日からベッドの上で招待客への詫び状を書いていくことにした。レンジロード様は自分にとって何か都合の悪いことを私がするのではないかと警戒して、何度も部屋にやって来ては、良い夫のふりをしようとしていた。
「リコット、無理に動かなくて良いんだぞ。今は安静にしているのが一番だ」
「無理はしていませんから、お気遣いはいりませんわ。レンジロード様はお仕事がお忙しいかと思いますので、わたしのことは気にせず、自分の仕事にお戻りください」
「そういうわけにはいかない」
そう言って、レンジロード様は、机の上に置かれている詫び状の一つを手に取る。
「一枚一枚、書いていくのは大変だろう。メイドに書かせたらどうだ?」
「いいえ。理由がどうであれ、結婚式が中止になり、時間を無駄にさせてしまったことは確かですから、自分の文字で伝えたいのです」
さすがに詫び状には、中止になった理由はこうなんです。
なんてことは書いていない。
レンジロード様がチェックしないわけがないし、そんな言い訳じみたことが書かれていたら詫び状にはならないと思ったからだ。
「あの、レンジロード様、リコットとのこれからのことなのですが」
お母様には昨日のうちに話をしているので、離婚についての話をしようとしてくれたのだと思う。でも、レンジロード様はお母様に話をさせようとはしなかった。
「ご心配なく。リコットが望むなら、改めて結婚式をしましょう」
「お心遣いいただきありがとうございます。ですが、娘は望んでいないようですので、結婚式は挙げなくて良いかと思います」
「……そうですか。残念です。気にしなくて良いのに」
「気にしなくて良いというのはどういうことでしょうか」
お母様が怪訝そうに尋ねると、レンジロード様は笑顔で答える。
「リコットは自分のせいで結婚式が中止になったことを悔やんでいるんですよ。ですから、改めて結婚式をすることを遠慮しているんだと思います。私は気にしなくて良いと思うんですがね」
「リコットは足を踏み外してなんていません!」
いつもは温厚なお母様が厳しい口調で言い返してくれたけれど、レンジロード様は苦笑して首を横に振る。
「娘をかばいたいという気持ちはわかります。ですが、リコットが足を踏み外したことは真実なんです」
「む、娘が嘘をついているとおっしゃるんですか!?」
「お母様、もう良いんです。レンジロード様は平気で嘘をつける人です。そんな人に感情論や常識を訴えても無駄です。レンジロード様は自分と……のことしか考えていませんから」
「おいおい、リコット。私に常識がないような言い方をしないでくれよ」
「ないでしょう。あるのなら、あんな馬鹿なことはしません」
睨みつけると、レンジロード様は驚いた顔をして後退った。でも、すぐにいつもの強気な態度を取り戻し、お母様に話しかける。
「……リコットは何か誤解しているようです。二人で話をさせていただけませんか」
「私が聞いてはいけない話なのでしょうか」
「ええ。逆にあなたが聞かなければいけない理由はあるのですか?」
「お、親が、む、娘の心配をして何がいけないのです?」
レンジロード様の圧に押されて、お母様が震える声で問い返した時、メイドがやって来て、レンジロード様に来客を告げた。
「今日は来客の予定などないぞ。約束のない相手の応対をするより、私はリコットの側にいなければならない。帰ってもらえ」
「誰が来られているの?」
レンジロード様が来客の名前を聞く気がなさそうなので、私が確認すると、メイドは笑顔で答える。
「トファス公爵家のシリュウ様、ユック侯爵家のジリン様、そして、ミスティック伯爵家のルイーダ様です」
「な、なんだって!?」
ミスティック伯爵令嬢が来ているとわかった瞬間、レンジロード様は大きな声を上げて、ピンと背筋を伸ばした。
「リコット、無理に動かなくて良いんだぞ。今は安静にしているのが一番だ」
「無理はしていませんから、お気遣いはいりませんわ。レンジロード様はお仕事がお忙しいかと思いますので、わたしのことは気にせず、自分の仕事にお戻りください」
「そういうわけにはいかない」
そう言って、レンジロード様は、机の上に置かれている詫び状の一つを手に取る。
「一枚一枚、書いていくのは大変だろう。メイドに書かせたらどうだ?」
「いいえ。理由がどうであれ、結婚式が中止になり、時間を無駄にさせてしまったことは確かですから、自分の文字で伝えたいのです」
さすがに詫び状には、中止になった理由はこうなんです。
なんてことは書いていない。
レンジロード様がチェックしないわけがないし、そんな言い訳じみたことが書かれていたら詫び状にはならないと思ったからだ。
「あの、レンジロード様、リコットとのこれからのことなのですが」
お母様には昨日のうちに話をしているので、離婚についての話をしようとしてくれたのだと思う。でも、レンジロード様はお母様に話をさせようとはしなかった。
「ご心配なく。リコットが望むなら、改めて結婚式をしましょう」
「お心遣いいただきありがとうございます。ですが、娘は望んでいないようですので、結婚式は挙げなくて良いかと思います」
「……そうですか。残念です。気にしなくて良いのに」
「気にしなくて良いというのはどういうことでしょうか」
お母様が怪訝そうに尋ねると、レンジロード様は笑顔で答える。
「リコットは自分のせいで結婚式が中止になったことを悔やんでいるんですよ。ですから、改めて結婚式をすることを遠慮しているんだと思います。私は気にしなくて良いと思うんですがね」
「リコットは足を踏み外してなんていません!」
いつもは温厚なお母様が厳しい口調で言い返してくれたけれど、レンジロード様は苦笑して首を横に振る。
「娘をかばいたいという気持ちはわかります。ですが、リコットが足を踏み外したことは真実なんです」
「む、娘が嘘をついているとおっしゃるんですか!?」
「お母様、もう良いんです。レンジロード様は平気で嘘をつける人です。そんな人に感情論や常識を訴えても無駄です。レンジロード様は自分と……のことしか考えていませんから」
「おいおい、リコット。私に常識がないような言い方をしないでくれよ」
「ないでしょう。あるのなら、あんな馬鹿なことはしません」
睨みつけると、レンジロード様は驚いた顔をして後退った。でも、すぐにいつもの強気な態度を取り戻し、お母様に話しかける。
「……リコットは何か誤解しているようです。二人で話をさせていただけませんか」
「私が聞いてはいけない話なのでしょうか」
「ええ。逆にあなたが聞かなければいけない理由はあるのですか?」
「お、親が、む、娘の心配をして何がいけないのです?」
レンジロード様の圧に押されて、お母様が震える声で問い返した時、メイドがやって来て、レンジロード様に来客を告げた。
「今日は来客の予定などないぞ。約束のない相手の応対をするより、私はリコットの側にいなければならない。帰ってもらえ」
「誰が来られているの?」
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「トファス公爵家のシリュウ様、ユック侯爵家のジリン様、そして、ミスティック伯爵家のルイーダ様です」
「な、なんだって!?」
ミスティック伯爵令嬢が来ているとわかった瞬間、レンジロード様は大きな声を上げて、ピンと背筋を伸ばした。
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