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5 夫の苦手な人 ②
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シリュウ兄さまはレンジロード様を冷たい目で一瞥したあと、わたしに笑顔を向ける。
「リコットは俺に帰ってほしい?」
「いいえ。シリュウ兄さまともっと、お話がしたいです」
「だ、そうだよ」
「……シリュウ兄さま?」
レンジロード様は不思議そうな顔をして、わたしを見つめた。
レンジロード様はわたしとシリュウ兄さまの関係性を知らない。わたしのことなんて興味がなかったから、家族や対人関係のことなど、何も調べていないんだと思う。
ミスティック伯爵令嬢のことも、詳しくは調べていないみたいだけど、それをすると、気持ち悪がられる可能性があるから、わざとでしょうね。
「レンジロード様は知らなかったのですね」
「だから、聞いているんだ」
「俺とリコットは遠い親戚なんだ。まあ、父同士が仲が良いから繋がっているっていうのが一番の理由なんだけどね」
わたしの代わりにシリュウ兄さまが答えると、レンジロード様はわたしを睨みつけてくる。
「どうして言わなかったんだ」
「聞かれませんでしたし、言う必要はありますか? 大体、わたしの話なんてほとんど聞いてくれなかったじゃないですか」
「そんなことはない。まさか、知っていてわざと話さなかったのか? 陰で、私のことを馬鹿にしていたのか?」
「……何の話ですか?」
「しらばっくれるな。シリュウ様と例の人は仲が良いんだ」
レンジロード様は『例の人』のところを小声で言ったけれど、そんなことをしても意味がなかった。
「例の人ってルイーダのことを言ってるのかな?」
「違います!」
シリュウ兄さまの問いかけに対し、レンジロード様は焦った顔で答えたあと、無言でまた、わたしを睨んでくる。
わたしが告げ口をしたと思っているみたいだけど、わたしからは何も言っていないわ。
「レンジロード様はミスティック伯爵令嬢とシリュウ兄さまがお友達であると知っておられたのですか?」
「いや、知らなかった。でも、……そうか。そういうことか」
レンジロード様は何かを思いついて納得したみたいだけど、わたしにはさっぱりわからない。無言で説明を求めるわたしに、レンジロード様はため息を吐く。
「詳しい話はあとでする。それよりもシリュウ様、今日は大人しく帰ってもらえないだろうか。結婚式が中止になったことについては、後日、お詫びの書状と品を送らせてもらう」
「はいはい、わかったよ。帰ればいいんでしょ。でもさ、早く帰れとうるさすぎないか? 家族にも会わせていないみたいだけど、何でかな。やましいことでもあるの?」
「失礼な奴だな」
レンジロード様は不快感をあらわにして続ける。
「君は私が侯爵だということを忘れているようだな。それに君は公爵令息なんだから、君自身が偉いわけじゃないんだぞ」
「ああ、そういうことですか。じゃあ、父から連絡させましょう。父は公爵ですからね」
シリュウ兄さまが敬語の部分だけ強調して微笑むと、レンジロード様は馬鹿にされたと思ったのか、悔しそうな顔になった。
そんなレンジロード様に、シリュウ兄さまは話を続ける。
「それから、俺が帰るのは良いんですが、せめてリコットの両親はしばらく滞在させるべきです。あなたが良い夫ならばそうするべきだと思いますよ」
「……わかった」
レンジロード様は渋々といった様子で頷いた。それを確認すると、シリュウ兄さまはわたしに近づいてくると、優しい笑みを浮かべる。
「リコット、俺は今日のところは帰るよ」
シリュウ兄さまはそこで言葉を止めて身をかがめると、わたしの耳元で囁く。
「次に来る時はあの人たちを連れてくるよ」
あの人たちというのは、きっと、ミスティック伯爵令嬢と彼女の婚約者のジリン様のことだと思う。
ミスティック伯爵令嬢がお見舞いに来たとなれば、レンジロード様が断れるはずがない。
「……わかりました。お待ちしています」
今すぐにでも実家に帰りたいのは山々だけど、レンジロード様は認めてくれないことはわかっている。それに、お父様もレンジロード様の権力には勝てないから、無理やり、わたしを実家に連れて帰ることは無理でしょう。
だから、シリュウ兄さまは、両親をこの屋敷に滞在させるようにしてくれたのだ。
わたしの両親が部屋に来るまで待ってくれたキリュウ兄さまが部屋から出ていくと、レンジロード様は、戸惑った様子の両親に話しかける。
「滞在できる時間があるのなら、好きなだけ滞在していってください」
遠回しに早く帰れと言っていることがわかった。それは、お父様も同じように感じたようだった。
「では、お言葉に甘えて、リコットの怪我が良くなるまで、妻だけでも、こちらに滞在させてもらおうと思います」
わざとお父様は嫌味に気づかないふりをしたから、レンジロード様の口元が一瞬だけ、引きつったのが見えた。
「リコットは俺に帰ってほしい?」
「いいえ。シリュウ兄さまともっと、お話がしたいです」
「だ、そうだよ」
「……シリュウ兄さま?」
レンジロード様は不思議そうな顔をして、わたしを見つめた。
レンジロード様はわたしとシリュウ兄さまの関係性を知らない。わたしのことなんて興味がなかったから、家族や対人関係のことなど、何も調べていないんだと思う。
ミスティック伯爵令嬢のことも、詳しくは調べていないみたいだけど、それをすると、気持ち悪がられる可能性があるから、わざとでしょうね。
「レンジロード様は知らなかったのですね」
「だから、聞いているんだ」
「俺とリコットは遠い親戚なんだ。まあ、父同士が仲が良いから繋がっているっていうのが一番の理由なんだけどね」
わたしの代わりにシリュウ兄さまが答えると、レンジロード様はわたしを睨みつけてくる。
「どうして言わなかったんだ」
「聞かれませんでしたし、言う必要はありますか? 大体、わたしの話なんてほとんど聞いてくれなかったじゃないですか」
「そんなことはない。まさか、知っていてわざと話さなかったのか? 陰で、私のことを馬鹿にしていたのか?」
「……何の話ですか?」
「しらばっくれるな。シリュウ様と例の人は仲が良いんだ」
レンジロード様は『例の人』のところを小声で言ったけれど、そんなことをしても意味がなかった。
「例の人ってルイーダのことを言ってるのかな?」
「違います!」
シリュウ兄さまの問いかけに対し、レンジロード様は焦った顔で答えたあと、無言でまた、わたしを睨んでくる。
わたしが告げ口をしたと思っているみたいだけど、わたしからは何も言っていないわ。
「レンジロード様はミスティック伯爵令嬢とシリュウ兄さまがお友達であると知っておられたのですか?」
「いや、知らなかった。でも、……そうか。そういうことか」
レンジロード様は何かを思いついて納得したみたいだけど、わたしにはさっぱりわからない。無言で説明を求めるわたしに、レンジロード様はため息を吐く。
「詳しい話はあとでする。それよりもシリュウ様、今日は大人しく帰ってもらえないだろうか。結婚式が中止になったことについては、後日、お詫びの書状と品を送らせてもらう」
「はいはい、わかったよ。帰ればいいんでしょ。でもさ、早く帰れとうるさすぎないか? 家族にも会わせていないみたいだけど、何でかな。やましいことでもあるの?」
「失礼な奴だな」
レンジロード様は不快感をあらわにして続ける。
「君は私が侯爵だということを忘れているようだな。それに君は公爵令息なんだから、君自身が偉いわけじゃないんだぞ」
「ああ、そういうことですか。じゃあ、父から連絡させましょう。父は公爵ですからね」
シリュウ兄さまが敬語の部分だけ強調して微笑むと、レンジロード様は馬鹿にされたと思ったのか、悔しそうな顔になった。
そんなレンジロード様に、シリュウ兄さまは話を続ける。
「それから、俺が帰るのは良いんですが、せめてリコットの両親はしばらく滞在させるべきです。あなたが良い夫ならばそうするべきだと思いますよ」
「……わかった」
レンジロード様は渋々といった様子で頷いた。それを確認すると、シリュウ兄さまはわたしに近づいてくると、優しい笑みを浮かべる。
「リコット、俺は今日のところは帰るよ」
シリュウ兄さまはそこで言葉を止めて身をかがめると、わたしの耳元で囁く。
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あの人たちというのは、きっと、ミスティック伯爵令嬢と彼女の婚約者のジリン様のことだと思う。
ミスティック伯爵令嬢がお見舞いに来たとなれば、レンジロード様が断れるはずがない。
「……わかりました。お待ちしています」
今すぐにでも実家に帰りたいのは山々だけど、レンジロード様は認めてくれないことはわかっている。それに、お父様もレンジロード様の権力には勝てないから、無理やり、わたしを実家に連れて帰ることは無理でしょう。
だから、シリュウ兄さまは、両親をこの屋敷に滞在させるようにしてくれたのだ。
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「では、お言葉に甘えて、リコットの怪我が良くなるまで、妻だけでも、こちらに滞在させてもらおうと思います」
わざとお父様は嫌味に気づかないふりをしたから、レンジロード様の口元が一瞬だけ、引きつったのが見えた。
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