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4 夫の苦手な人 ①
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両足を痛めているから、ベッドから一人で下りることもできず、現段階では面会謝絶ということにされ、両親にさえも会わせてもらえなかった。
絶対に心配しているだろうから、二人に会って命に別状はないと伝えたい。
メイドを通してそう訴えたけれど、レンジロード様からは今はゆっくり休むようにと却下されてしまった。
いつになったら会わせてくれるのか、そう思った時、不機嫌そうな顔をしたレンジロード様が部屋に入ってきた。
部屋の中にいたメイドを外に出すと、レンジロード様は私に顔を近づける。
「今から、トファス公爵令息のシリュウ様が来られる」
「……シリュウ様は部屋に入れて良いんですか?」
「ミスティック伯爵令嬢にお願いされたんだ! いいか。余計なことを言わないようにな。大人しくしていることができたら、手くらい握ってやる」
「いりません」
はっきりとお断りすると、レンジロード様は舌打ちをしたあと、部屋を出ていった。
目を覚ましてから、1時間しか経っていない。それなのに、ここまで嫌な気分にさせられるって、レンジロード様はある意味、すごい人ね。
レンジロード様が出て行ってから数分後、シリュウ兄さまが部屋に入ってきた。正装姿のシリュウ兄さまは、わたしの顔を見て安堵の表情を浮かべる。
「良かった。本当にびっくりしたよ」
「ご心配おかけして申し訳ございません。それよりも聞いてください、シリュウ兄さま! 本当に酷い話なんです!」
「……一体、何があったんだよ」
幼馴染であり、ノイルン王国の中では五大公爵家の一つ、トファス公爵家の次男であるシリュウ兄さまは切れ長の目を細めた。
長身痩躯で眉目秀麗。漆黒のサラサラの髪に赤色の瞳を持つシリュウ兄さまは、わたしの遠い親戚であり、彼が20歳になると、わたしの実家、エルローゼ伯爵家の養子になることが決まっている人だ。
エルローゼ家にはわたししか子どもが生まれなかった。
ノイルン王国は女性が爵位を継ぐことは認められていないため、エルローゼ家の名を残すには、養子を取るしかない。
トファス公爵とわたしのお父様がいとこで仲が良かったために養子の話が決定し、わたしとシリュウ兄さまは、お父様の死後に兄妹になることが決定した。
世間に発表していないのは、理由があるらしいけれど、それについてはわたしは何も知らない。
今現在、わたしの部屋で二人きりになっていたら、誤解される可能性もあるけれど、さすがのレンジロード様も公爵家に喧嘩を売るつもりはないでしょう。
しかも、ミスティック伯爵令嬢からのお願いらしいしね。
まずは、シリュウ兄さまにそう高くない位置から落とされたことと、頭を強く打たなかったため、全身打撲で済んだことを伝えた。
そして、大事なことをシリュウ兄さまに伝える。
「わたしはレンジロード様に階段から突き落とされたんです! それなのに、本人はわたしが足を踏み外して落ちたって言うんです!」
興奮してまくし立てると、全身に痛みが走り、わたしは顔を歪ませた。
「ゆっくり話せばいいよ。俺の今日の予定はなくなったから、時間は十分にある」
「結婚式がなくなりましたもんね」
「結婚式はやり直せるけど、リコットに何かあったらやり直しはきかない。とりあえず、命に別状がなくて良かったよ」
「ご心配をおかけして申し訳ございません」
しゅんと肩を落とすと、シリュウ様はこぶができている所を避けて、頭を優しく撫でてくれる。
「ブロスコフ侯爵は君が階段から落ちたと言ってたけど、実際は違うんだろ? なら、リコットが謝る必要はないじゃないか。というか、階段を踏み外してても、わざとじゃないなら謝らなくていい」
「……使用人たちはみんな、レンジロード様の話を信じているんです。こんなことになったのも、わたしが馬鹿だったからなのでしょうか」
「リコットが馬鹿になっていたのは確かだ。だけど、ちゃんと目が覚めたんだろう?」
「階段から突き落とされて、やっとわかりました」
ため息を吐くと、シリュウ兄さまは苦笑する。
「実は今まで言えなかったんだけど、ブロフコス侯爵は同年代の貴族の男性には評判が悪いんだ。屋敷の使用人が信じてくれなくても、他の人たちが聞けば、リコットの話を信じてくれる人は多くいると思う」
「そういえば、シリュウ兄さまがレンジロード様のことを悪く言うと、わたしは怒っていましたものね。それから、シリュウ兄さまのことを避けてしまっていました。本当にごめんなさい」
「気にしなくていいよ」
シリュウ兄さまは優しく微笑んで、すぐ近くに置かれている椅子に座った。再度、反省したあと、疑問に思ったことを聞いてみる。
「ミスティック伯爵令嬢のお願いだと聞きましたが、シリュウ兄さまはミスティック伯爵令嬢とどのようなご関係なのです?」
「ルイーダは友人だよ」
「……ルイーダ?」
「ああ。ミスティック伯爵令嬢のことだよ。ルイーダは俺の学生時代からの友達だ。元々、彼女の婚約者のジリンと仲が良かったから知り合った」
「そ、そうだったんですか!?」
「うん。その話をしようと思ったら、リコットはミスティック伯爵令嬢の話は聞きたくないと言って逃げてたよね」
ミスティック伯爵令嬢のことを調べていた時期はあったけれど、シリュウ兄さまと話をしたことはなかったわ。
「も、申し訳ございません。で、では、シリュウ兄さま、わたしがレンジロード様かに階段から突き落とされたという話を、ミスティック伯爵令嬢に」
話をしている最中だったけれど、ノックのあとに扉が開かれたので、驚いて止めた。
「もう、話はいいだろう。リコットの体によくないから、お引き取り願いたい」
聞き耳を立てていたのか、それとも、時間でも計っていたのか、レンジロード様は部屋に入ってきてシリュウ兄さまを睨みつけた。
絶対に心配しているだろうから、二人に会って命に別状はないと伝えたい。
メイドを通してそう訴えたけれど、レンジロード様からは今はゆっくり休むようにと却下されてしまった。
いつになったら会わせてくれるのか、そう思った時、不機嫌そうな顔をしたレンジロード様が部屋に入ってきた。
部屋の中にいたメイドを外に出すと、レンジロード様は私に顔を近づける。
「今から、トファス公爵令息のシリュウ様が来られる」
「……シリュウ様は部屋に入れて良いんですか?」
「ミスティック伯爵令嬢にお願いされたんだ! いいか。余計なことを言わないようにな。大人しくしていることができたら、手くらい握ってやる」
「いりません」
はっきりとお断りすると、レンジロード様は舌打ちをしたあと、部屋を出ていった。
目を覚ましてから、1時間しか経っていない。それなのに、ここまで嫌な気分にさせられるって、レンジロード様はある意味、すごい人ね。
レンジロード様が出て行ってから数分後、シリュウ兄さまが部屋に入ってきた。正装姿のシリュウ兄さまは、わたしの顔を見て安堵の表情を浮かべる。
「良かった。本当にびっくりしたよ」
「ご心配おかけして申し訳ございません。それよりも聞いてください、シリュウ兄さま! 本当に酷い話なんです!」
「……一体、何があったんだよ」
幼馴染であり、ノイルン王国の中では五大公爵家の一つ、トファス公爵家の次男であるシリュウ兄さまは切れ長の目を細めた。
長身痩躯で眉目秀麗。漆黒のサラサラの髪に赤色の瞳を持つシリュウ兄さまは、わたしの遠い親戚であり、彼が20歳になると、わたしの実家、エルローゼ伯爵家の養子になることが決まっている人だ。
エルローゼ家にはわたししか子どもが生まれなかった。
ノイルン王国は女性が爵位を継ぐことは認められていないため、エルローゼ家の名を残すには、養子を取るしかない。
トファス公爵とわたしのお父様がいとこで仲が良かったために養子の話が決定し、わたしとシリュウ兄さまは、お父様の死後に兄妹になることが決定した。
世間に発表していないのは、理由があるらしいけれど、それについてはわたしは何も知らない。
今現在、わたしの部屋で二人きりになっていたら、誤解される可能性もあるけれど、さすがのレンジロード様も公爵家に喧嘩を売るつもりはないでしょう。
しかも、ミスティック伯爵令嬢からのお願いらしいしね。
まずは、シリュウ兄さまにそう高くない位置から落とされたことと、頭を強く打たなかったため、全身打撲で済んだことを伝えた。
そして、大事なことをシリュウ兄さまに伝える。
「わたしはレンジロード様に階段から突き落とされたんです! それなのに、本人はわたしが足を踏み外して落ちたって言うんです!」
興奮してまくし立てると、全身に痛みが走り、わたしは顔を歪ませた。
「ゆっくり話せばいいよ。俺の今日の予定はなくなったから、時間は十分にある」
「結婚式がなくなりましたもんね」
「結婚式はやり直せるけど、リコットに何かあったらやり直しはきかない。とりあえず、命に別状がなくて良かったよ」
「ご心配をおかけして申し訳ございません」
しゅんと肩を落とすと、シリュウ様はこぶができている所を避けて、頭を優しく撫でてくれる。
「ブロスコフ侯爵は君が階段から落ちたと言ってたけど、実際は違うんだろ? なら、リコットが謝る必要はないじゃないか。というか、階段を踏み外してても、わざとじゃないなら謝らなくていい」
「……使用人たちはみんな、レンジロード様の話を信じているんです。こんなことになったのも、わたしが馬鹿だったからなのでしょうか」
「リコットが馬鹿になっていたのは確かだ。だけど、ちゃんと目が覚めたんだろう?」
「階段から突き落とされて、やっとわかりました」
ため息を吐くと、シリュウ兄さまは苦笑する。
「実は今まで言えなかったんだけど、ブロフコス侯爵は同年代の貴族の男性には評判が悪いんだ。屋敷の使用人が信じてくれなくても、他の人たちが聞けば、リコットの話を信じてくれる人は多くいると思う」
「そういえば、シリュウ兄さまがレンジロード様のことを悪く言うと、わたしは怒っていましたものね。それから、シリュウ兄さまのことを避けてしまっていました。本当にごめんなさい」
「気にしなくていいよ」
シリュウ兄さまは優しく微笑んで、すぐ近くに置かれている椅子に座った。再度、反省したあと、疑問に思ったことを聞いてみる。
「ミスティック伯爵令嬢のお願いだと聞きましたが、シリュウ兄さまはミスティック伯爵令嬢とどのようなご関係なのです?」
「ルイーダは友人だよ」
「……ルイーダ?」
「ああ。ミスティック伯爵令嬢のことだよ。ルイーダは俺の学生時代からの友達だ。元々、彼女の婚約者のジリンと仲が良かったから知り合った」
「そ、そうだったんですか!?」
「うん。その話をしようと思ったら、リコットはミスティック伯爵令嬢の話は聞きたくないと言って逃げてたよね」
ミスティック伯爵令嬢のことを調べていた時期はあったけれど、シリュウ兄さまと話をしたことはなかったわ。
「も、申し訳ございません。で、では、シリュウ兄さま、わたしがレンジロード様かに階段から突き落とされたという話を、ミスティック伯爵令嬢に」
話をしている最中だったけれど、ノックのあとに扉が開かれたので、驚いて止めた。
「もう、話はいいだろう。リコットの体によくないから、お引き取り願いたい」
聞き耳を立てていたのか、それとも、時間でも計っていたのか、レンジロード様は部屋に入ってきてシリュウ兄さまを睨みつけた。
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