38 / 49
38 ミリルの覚悟と足搔く王家 ③
しおりを挟む
エイブランが教えてくれた紙にはまず、シエッタ殿下が私に接触しようとすると書かれていた。そして、そこに書かれていた通りにシエッタ殿下から私宛に手紙が届いた。検閲があっても良いようにか、私がミーリルかどうかの確認ではなく、私とお兄様に会いたいので時間を作ってほしいと書かれていた。
フラル王国の王城に行くには数日はかかる。私もお兄様も学園に通っているので、普段の休みでは行く時間がないとお断りの手紙を送ったところ、それならば自分がそちらに向かうと返事があった。
『以前も伝えましたが警備の面などでの問題が出てくるので、それも承諾しかねます』と返事をすると、フラル王国とハピパル王国の国境付近にある森林公園で会えないかと連絡がきた。
シエッタ殿下が指定した森林公園は大きな池と池を囲むように大きな道があり、軽食を楽しめる店が並んでいる。
その名の通り森林がある場所だが、整備された道から外れ、フラル王国に向かって道なき道を進んでいけば、国境を隔てる塀に行き当たる。
それは、私が保護された森にたどり着くということだ。
この場所を指定してきたのはわざとなのか。それとも国境付近で会いやすい場所だと思ったからなのかはわからない。
夕食後。部屋に戻ろうとした私に、お兄様が話しかけてきた。
「ミリル、俺だけ行ってきてもいいぞ。断り続けてもしつこく言ってくるだけだろうから、俺が話をつけてくる」
「いいえ。私も行くわ。もういい加減に終わらせたいの」
私はお兄様を見上げて話を続ける。
「今までなんだかんだ言って、元家族に見つかるんじゃないかって怯え続けた。でも、そんなことはもう終わりにする。そうすることによって、今の王家を破滅に導ける気がするから。それに、伝えたいこともあるのよ」
「伝えたいこと?」
「ええ。家族総出で来るとは思えないし、シエッタ殿下に伝えてもらうことにするわ。それから、シエッタ殿下の話を聞くには、ある条件を満たしてからということを承諾してもらうわ。もし、それを拒否したらシエッタ殿下の話を聞かずに言いたいことだけ言って帰るというのはどう?」
「向こうはどうしてもミリルに会いたいだろうから、変な条件がついてても会おうとするだろうけど」
お兄様は頷くと、条件について聞いてきた。その後はお兄様とシエッタ殿下と会うことになった時のことを想定した簡単な打ち合わせをして部屋に戻った。
会うと決めたけれど、これで良いのかわからない。不運が重なって、連れ去られたりしたらどうしよう。そんな不安が胸をよぎる。
すると、視界の隅で何かが光った気がして振り返った。ジュエリーボックスの中で鎮座しているシイちゃんが、キラキラと光っている。
シイちゃんの力なら、私が何もしなくてもフラル王国の王家を破滅に導ける。でも、そうしないのは、シイちゃんが自分任せにし過ぎることは良くないと思っているからだと思う。
「あんな人たちに弱気になるなんて駄目よ! やってやるわ! 昔、嫌なことをされた分のお返しだってしてやるんだから!」
そう宣言すると、シイちゃんはジュエリーボックスの中で頷くように何度も飛び跳ねた。
******
そして十日後、シエッタ殿下と会う日がやってきた。その日までにお父様たちと話し合い、連れ去られるなんて馬鹿なことにならないように、しっかりと打ち合わせをした。
油断しているわけではないけれど、シイちゃんとお兄様が近くにいてくれるから、絶対にそうなることはないと確信もしている。
今日はとても良い天気で、空には雲一つない青空が広がっている。ピクニック日和だというのに、公園内は一般人立ち入り禁止になっていて、そのかわり、数えきれない程の兵士であふれていた。
「ど、どうしてこんなに兵士がいっぱいいるの!?」
広場にあるベンチに座ってお兄様と一緒に待っていると、シエッタ殿下の叫ぶ声が聞こえてきた。目を向けると、お兄様に会えると思ったからか、まるでパーティーに来たときのように派手なドレスで、私たちのところにやってくる。
「待たせて悪かったわね」
シエッタ殿下は愛想笑いを浮かべたあと、私に向かって手を伸ばし、周りにいる兵士に聞こえないように小声で言う。
「まさか、生きているなんて思わなかった。会いたかったわ、ミーリル」
私を抱きしめるつもりだとわかった瞬間、ひらりと身をかわして、ベンチの上に置いていた透明なガラスのコップを手に取った。その中には、ゴプッゴプッと音を立てている液体が入っている。それを見たシエッタ殿下は後ろに下がって叫ぶ。
「な、何よそれ、気持ち悪い!」
「再会の記念ということで、シエッタ殿下のために作った美容に良い飲み物です。お兄様に会えなくて夜も眠れないと手紙に書いておられましたので、肌が荒れているかと思って作りました。薬草を使っていますので、ちゃんと薬師から承認を得ています」
「美容に良いようにはまったく見えないんだけど!?」
シエッタ殿下が答えると同時にコップの中で液体が跳ね『はよ、のめやぁ。のまんならかえるぞぉ』という幻聴が聞こえて来た。
早く飲め、飲まないなら帰るって言ってるんだけど、何かガラの悪いものを作ってしまった気がするわ。
その時、後ろで様子を見守っていたノンクード様がシエッタ殿下の前に立ち、私の手からコップを奪い取ったかと思うと、中身を地面に捨てて叫ぶ。
「こんな危ないものを飲ませるわけにはいかない!」
ノンクード様の口からこんな言葉が出るとは驚きだわ。警戒心というものがあったのね。まあ、私も飲まなくても良いとは思っていたけど、捨てたのはまずかったわね。
私はこれ見よがしにため息を吐いてから、シエッタ殿下に話しかける。
「今回、シエッタ殿下からの話を聞くには、条件を一つのんでほしいと手紙に書いていましたわよね」
「そ、そうだけど、何をしろって言うの!?」
お兄様の前なのに演技をする余裕がなくなったシエッタ殿下は、ヒステリックに叫んだ。
「今の飲み物を飲んでくれれば話を聞くという条件でした。捨てたということは話をする必要はないということですわね」
微笑んで言うと、ノンクード様はシエッタ殿下を見て真っ青な顔になり、シエッタ殿下は凶悪な顔になってノンクード様を睨みつけた。
フラル王国の王城に行くには数日はかかる。私もお兄様も学園に通っているので、普段の休みでは行く時間がないとお断りの手紙を送ったところ、それならば自分がそちらに向かうと返事があった。
『以前も伝えましたが警備の面などでの問題が出てくるので、それも承諾しかねます』と返事をすると、フラル王国とハピパル王国の国境付近にある森林公園で会えないかと連絡がきた。
シエッタ殿下が指定した森林公園は大きな池と池を囲むように大きな道があり、軽食を楽しめる店が並んでいる。
その名の通り森林がある場所だが、整備された道から外れ、フラル王国に向かって道なき道を進んでいけば、国境を隔てる塀に行き当たる。
それは、私が保護された森にたどり着くということだ。
この場所を指定してきたのはわざとなのか。それとも国境付近で会いやすい場所だと思ったからなのかはわからない。
夕食後。部屋に戻ろうとした私に、お兄様が話しかけてきた。
「ミリル、俺だけ行ってきてもいいぞ。断り続けてもしつこく言ってくるだけだろうから、俺が話をつけてくる」
「いいえ。私も行くわ。もういい加減に終わらせたいの」
私はお兄様を見上げて話を続ける。
「今までなんだかんだ言って、元家族に見つかるんじゃないかって怯え続けた。でも、そんなことはもう終わりにする。そうすることによって、今の王家を破滅に導ける気がするから。それに、伝えたいこともあるのよ」
「伝えたいこと?」
「ええ。家族総出で来るとは思えないし、シエッタ殿下に伝えてもらうことにするわ。それから、シエッタ殿下の話を聞くには、ある条件を満たしてからということを承諾してもらうわ。もし、それを拒否したらシエッタ殿下の話を聞かずに言いたいことだけ言って帰るというのはどう?」
「向こうはどうしてもミリルに会いたいだろうから、変な条件がついてても会おうとするだろうけど」
お兄様は頷くと、条件について聞いてきた。その後はお兄様とシエッタ殿下と会うことになった時のことを想定した簡単な打ち合わせをして部屋に戻った。
会うと決めたけれど、これで良いのかわからない。不運が重なって、連れ去られたりしたらどうしよう。そんな不安が胸をよぎる。
すると、視界の隅で何かが光った気がして振り返った。ジュエリーボックスの中で鎮座しているシイちゃんが、キラキラと光っている。
シイちゃんの力なら、私が何もしなくてもフラル王国の王家を破滅に導ける。でも、そうしないのは、シイちゃんが自分任せにし過ぎることは良くないと思っているからだと思う。
「あんな人たちに弱気になるなんて駄目よ! やってやるわ! 昔、嫌なことをされた分のお返しだってしてやるんだから!」
そう宣言すると、シイちゃんはジュエリーボックスの中で頷くように何度も飛び跳ねた。
******
そして十日後、シエッタ殿下と会う日がやってきた。その日までにお父様たちと話し合い、連れ去られるなんて馬鹿なことにならないように、しっかりと打ち合わせをした。
油断しているわけではないけれど、シイちゃんとお兄様が近くにいてくれるから、絶対にそうなることはないと確信もしている。
今日はとても良い天気で、空には雲一つない青空が広がっている。ピクニック日和だというのに、公園内は一般人立ち入り禁止になっていて、そのかわり、数えきれない程の兵士であふれていた。
「ど、どうしてこんなに兵士がいっぱいいるの!?」
広場にあるベンチに座ってお兄様と一緒に待っていると、シエッタ殿下の叫ぶ声が聞こえてきた。目を向けると、お兄様に会えると思ったからか、まるでパーティーに来たときのように派手なドレスで、私たちのところにやってくる。
「待たせて悪かったわね」
シエッタ殿下は愛想笑いを浮かべたあと、私に向かって手を伸ばし、周りにいる兵士に聞こえないように小声で言う。
「まさか、生きているなんて思わなかった。会いたかったわ、ミーリル」
私を抱きしめるつもりだとわかった瞬間、ひらりと身をかわして、ベンチの上に置いていた透明なガラスのコップを手に取った。その中には、ゴプッゴプッと音を立てている液体が入っている。それを見たシエッタ殿下は後ろに下がって叫ぶ。
「な、何よそれ、気持ち悪い!」
「再会の記念ということで、シエッタ殿下のために作った美容に良い飲み物です。お兄様に会えなくて夜も眠れないと手紙に書いておられましたので、肌が荒れているかと思って作りました。薬草を使っていますので、ちゃんと薬師から承認を得ています」
「美容に良いようにはまったく見えないんだけど!?」
シエッタ殿下が答えると同時にコップの中で液体が跳ね『はよ、のめやぁ。のまんならかえるぞぉ』という幻聴が聞こえて来た。
早く飲め、飲まないなら帰るって言ってるんだけど、何かガラの悪いものを作ってしまった気がするわ。
その時、後ろで様子を見守っていたノンクード様がシエッタ殿下の前に立ち、私の手からコップを奪い取ったかと思うと、中身を地面に捨てて叫ぶ。
「こんな危ないものを飲ませるわけにはいかない!」
ノンクード様の口からこんな言葉が出るとは驚きだわ。警戒心というものがあったのね。まあ、私も飲まなくても良いとは思っていたけど、捨てたのはまずかったわね。
私はこれ見よがしにため息を吐いてから、シエッタ殿下に話しかける。
「今回、シエッタ殿下からの話を聞くには、条件を一つのんでほしいと手紙に書いていましたわよね」
「そ、そうだけど、何をしろって言うの!?」
お兄様の前なのに演技をする余裕がなくなったシエッタ殿下は、ヒステリックに叫んだ。
「今の飲み物を飲んでくれれば話を聞くという条件でした。捨てたということは話をする必要はないということですわね」
微笑んで言うと、ノンクード様はシエッタ殿下を見て真っ青な顔になり、シエッタ殿下は凶悪な顔になってノンクード様を睨みつけた。
1,280
お気に入りに追加
3,460
あなたにおすすめの小説
王妃さまは断罪劇に異議を唱える
土岐ゆうば(金湯叶)
恋愛
パーティー会場の中心で王太子クロードが婚約者のセリーヌに婚約破棄を突きつける。彼の側には愛らしい娘のアンナがいた。
そんな茶番劇のような場面を見て、王妃クラウディアは待ったをかける。
彼女が反対するのは、セリーヌとの婚約破棄ではなく、アンナとの再婚約だったーー。
王族の結婚とは。
王妃と国王の思いや、国王の愛妾や婚外子など。
王宮をとりまく複雑な関係が繰り広げられる。
ある者にとってはゲームの世界、ある者にとっては現実のお話。
なんで私だけ我慢しなくちゃならないわけ?
ワールド
恋愛
私、フォン・クラインハートは、由緒正しき家柄に生まれ、常に家族の期待に応えるべく振る舞ってまいりましたわ。恋愛、趣味、さらには私の将来に至るまで、すべては家名と伝統のため。しかし、これ以上、我慢するのは終わりにしようと決意いたしましたわ。
だってなんで私だけ我慢しなくちゃいけないと思ったんですもの。
これからは好き勝手やらせてもらいますわ。
私と結婚したくないと言った貴方のために頑張りました! ~帝国一の頭脳を誇る姫君でも男心はわからない~
すだもみぢ
恋愛
リャルド王国の王女であるステラは、絶世の美女の姉妹に挟まれた中では残念な容姿の王女様と有名だった。
幼い頃に婚約した公爵家の息子であるスピネルにも「自分と婚約になったのは、その容姿だと貰い手がいないからだ」と初対面で言われてしまう。
「私なんかと結婚したくないのに、しなくちゃいけないなんて、この人は可哀想すぎる……!」
そう自分の婚約者を哀れんで、彼のためになんとかして婚約解消してあげようと決意をする。
苦労の末にその要件を整え、満を持して彼に婚約解消を申し込んだというのに、……なぜか婚約者は不満そうで……?
勘違いとすれ違いの恋模様のお話です。
ざまぁものではありません。
婚約破棄タグ入れてましたが、間違いです!!
申し訳ありません<(_ _)>
政略より愛を選んだ結婚。~後悔は十年後にやってきた。~
つくも茄子
恋愛
幼い頃からの婚約者であった侯爵令嬢との婚約を解消して、学生時代からの恋人と結婚した王太子殿下。
政略よりも愛を選んだ生活は思っていたのとは違っていた。「お幸せに」と微笑んだ元婚約者。結婚によって去っていた側近達。愛する妻の妃教育がままならない中での出産。世継ぎの王子の誕生を望んだものの産まれたのは王女だった。妻に瓜二つの娘は可愛い。無邪気な娘は欲望のままに動く。断罪の時、全てが明らかになった。王太子の思い描いていた未来は元から無かったものだった。後悔は続く。どこから間違っていたのか。
他サイトにも公開中。
婚約者と義妹に裏切られたので、ざまぁして逃げてみた
せいめ
恋愛
伯爵令嬢のフローラは、夜会で婚約者のレイモンドと義妹のリリアンが抱き合う姿を見てしまった。
大好きだったレイモンドの裏切りを知りショックを受けるフローラ。
三ヶ月後には結婚式なのに、このままあの方と結婚していいの?
深く傷付いたフローラは散々悩んだ挙句、その場に偶然居合わせた公爵令息や親友の力を借り、ざまぁして逃げ出すことにしたのであった。
ご都合主義です。
誤字脱字、申し訳ありません。
えっ「可愛いだけの無能な妹」って私のことですか?~自業自得で追放されたお姉様が戻ってきました。この人ぜんぜん反省してないんですけど~
村咲
恋愛
ずっと、国のために尽くしてきた。聖女として、王太子の婚約者として、ただ一人でこの国にはびこる瘴気を浄化してきた。
だけど国の人々も婚約者も、私ではなく妹を選んだ。瘴気を浄化する力もない、可愛いだけの無能な妹を。
私がいなくなればこの国は瘴気に覆いつくされ、荒れ果てた不毛の地となるとも知らず。
……と思い込む、国外追放されたお姉様が戻ってきた。
しかも、なにを血迷ったか隣国の皇子なんてものまで引き連れて。
えっ、私が王太子殿下や国の人たちを誘惑した? 嘘でお姉様の悪評を立てた?
いやいや、悪評が立ったのも追放されたのも、全部あなたの自業自得ですからね?
【完結】妹に全部奪われたので、公爵令息は私がもらってもいいですよね。
曽根原ツタ
恋愛
ルサレテには完璧な妹ペトロニラがいた。彼女は勉強ができて刺繍も上手。美しくて、優しい、皆からの人気者だった。
ある日、ルサレテが公爵令息と話しただけで彼女の嫉妬を買い、階段から突き落とされる。咄嗟にペトロニラの腕を掴んだため、ふたり一緒に転落した。
その後ペトロニラは、階段から突き落とそうとしたのはルサレテだと嘘をつき、婚約者と家族を奪い、意地悪な姉に仕立てた。
ルサレテは、妹に全てを奪われたが、妹が慕う公爵令息を味方にすることを決意して……?
【完結済み】妹の婚約者に、恋をした
鈴蘭
恋愛
妹を溺愛する母親と、仕事ばかりしている父親。
刺繍やレース編みが好きなマーガレットは、両親にプレゼントしようとするが、何時も妹に横取りされてしまう。
可愛がって貰えず、愛情に飢えていたマーガレットは、気遣ってくれた妹の婚約者に恋をしてしまった。
無事完結しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる