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38  ミリルの覚悟と足搔く王家 ③

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 エイブランが教えてくれた紙にはまず、シエッタ殿下が私に接触しようとすると書かれていた。そして、そこに書かれていた通りにシエッタ殿下から私宛に手紙が届いた。検閲があっても良いようにか、私がミーリルかどうかの確認ではなく、私とお兄様に会いたいので時間を作ってほしいと書かれていた。

 フラル王国の王城に行くには数日はかかる。私もお兄様も学園に通っているので、普段の休みでは行く時間がないとお断りの手紙を送ったところ、それならば自分がそちらに向かうと返事があった。

『以前も伝えましたが警備の面などでの問題が出てくるので、それも承諾しかねます』と返事をすると、フラル王国とハピパル王国の国境付近にある森林公園で会えないかと連絡がきた。

 シエッタ殿下が指定した森林公園は大きな池と池を囲むように大きな道があり、軽食を楽しめる店が並んでいる。
 その名の通り森林がある場所だが、整備された道から外れ、フラル王国に向かって道なき道を進んでいけば、国境を隔てる塀に行き当たる。

 それは、私が保護された森にたどり着くということだ。

 この場所を指定してきたのはわざとなのか。それとも国境付近で会いやすい場所だと思ったからなのかはわからない。
 
 夕食後。部屋に戻ろうとした私に、お兄様が話しかけてきた。

「ミリル、俺だけ行ってきてもいいぞ。断り続けてもしつこく言ってくるだけだろうから、俺が話をつけてくる」
「いいえ。私も行くわ。もういい加減に終わらせたいの」

 私はお兄様を見上げて話を続ける。

「今までなんだかんだ言って、元家族に見つかるんじゃないかって怯え続けた。でも、そんなことはもう終わりにする。そうすることによって、今の王家を破滅に導ける気がするから。それに、伝えたいこともあるのよ」
「伝えたいこと?」
「ええ。家族総出で来るとは思えないし、シエッタ殿下に伝えてもらうことにするわ。それから、シエッタ殿下の話を聞くには、ある条件を満たしてからということを承諾してもらうわ。もし、それを拒否したらシエッタ殿下の話を聞かずに言いたいことだけ言って帰るというのはどう?」
「向こうはどうしてもミリルに会いたいだろうから、変な条件がついてても会おうとするだろうけど」

 お兄様は頷くと、条件について聞いてきた。その後はお兄様とシエッタ殿下と会うことになった時のことを想定した簡単な打ち合わせをして部屋に戻った。

 会うと決めたけれど、これで良いのかわからない。不運が重なって、連れ去られたりしたらどうしよう。そんな不安が胸をよぎる。

 すると、視界の隅で何かが光った気がして振り返った。ジュエリーボックスの中で鎮座しているシイちゃんが、キラキラと光っている。

 シイちゃんの力なら、私が何もしなくてもフラル王国の王家を破滅に導ける。でも、そうしないのは、シイちゃんが自分任せにし過ぎることは良くないと思っているからだと思う。

「あんな人たちに弱気になるなんて駄目よ! やってやるわ! 昔、嫌なことをされた分のお返しだってしてやるんだから!」

 そう宣言すると、シイちゃんはジュエリーボックスの中で頷くように何度も飛び跳ねた。

 
******

 そして十日後、シエッタ殿下と会う日がやってきた。その日までにお父様たちと話し合い、連れ去られるなんて馬鹿なことにならないように、しっかりと打ち合わせをした。
 油断しているわけではないけれど、シイちゃんとお兄様が近くにいてくれるから、絶対にそうなることはないと確信もしている。

 今日はとても良い天気で、空には雲一つない青空が広がっている。ピクニック日和だというのに、公園内は一般人立ち入り禁止になっていて、そのかわり、数えきれない程の兵士であふれていた。
 
「ど、どうしてこんなに兵士がいっぱいいるの!?」

 広場にあるベンチに座ってお兄様と一緒に待っていると、シエッタ殿下の叫ぶ声が聞こえてきた。目を向けると、お兄様に会えると思ったからか、まるでパーティーに来たときのように派手なドレスで、私たちのところにやってくる。

「待たせて悪かったわね」

 シエッタ殿下は愛想笑いを浮かべたあと、私に向かって手を伸ばし、周りにいる兵士に聞こえないように小声で言う。
 
「まさか、生きているなんて思わなかった。会いたかったわ、ミーリル」

 私を抱きしめるつもりだとわかった瞬間、ひらりと身をかわして、ベンチの上に置いていた透明なガラスのコップを手に取った。その中には、ゴプッゴプッと音を立てている液体が入っている。それを見たシエッタ殿下は後ろに下がって叫ぶ。

「な、何よそれ、気持ち悪い!」
「再会の記念ということで、シエッタ殿下のために作った美容に良い飲み物です。お兄様に会えなくて夜も眠れないと手紙に書いておられましたので、肌が荒れているかと思って作りました。薬草を使っていますので、ちゃんと薬師から承認を得ています」
「美容に良いようにはまったく見えないんだけど!?」

 シエッタ殿下が答えると同時にコップの中で液体が跳ね『はよ、のめやぁ。のまんならかえるぞぉ』という幻聴が聞こえて来た。

 早く飲め、飲まないなら帰るって言ってるんだけど、何かガラの悪いものを作ってしまった気がするわ。

 その時、後ろで様子を見守っていたノンクード様がシエッタ殿下の前に立ち、私の手からコップを奪い取ったかと思うと、中身を地面に捨てて叫ぶ。

「こんな危ないものを飲ませるわけにはいかない!」

 ノンクード様の口からこんな言葉が出るとは驚きだわ。警戒心というものがあったのね。まあ、私も飲まなくても良いとは思っていたけど、捨てたのはまずかったわね。
 
 私はこれ見よがしにため息を吐いてから、シエッタ殿下に話しかける。

「今回、シエッタ殿下からの話を聞くには、条件を一つのんでほしいと手紙に書いていましたわよね」
「そ、そうだけど、何をしろって言うの!?」

 お兄様の前なのに演技をする余裕がなくなったシエッタ殿下は、ヒステリックに叫んだ。

「今の飲み物を飲んでくれれば話を聞くという条件でした。捨てたということは話をする必要はないということですわね」

 微笑んで言うと、ノンクード様はシエッタ殿下を見て真っ青な顔になり、シエッタ殿下は凶悪な顔になってノンクード様を睨みつけた。
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