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36 ミリルの覚悟と足掻く王家 ①
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キララが転校したことが公になったのは十日後のことだった。ホームルームの時間に先生が悲しげな顔で、私たちにキララの転校を告げると、クラス内はざわつきはしたけれど、詳しい話を聞こうとするクラスメイトはいなかった。
休み時間に友人の一人が誰も近くにいないことを確認してから、私の席までやって来て小声で話しかけてきた。
「こんなことを言ってはなんだけど、キララが転校して良かったわね」
「そうね」
「普通に登校してこられても、どう反応したらいいか私たちも困っていたと思うから、少しだけホッとしちゃったわ。こんなこと言っちゃ駄目かしら」
「いいえ。私も同じ気持ちよ」
転校を望んだのは私だとは言えなかった。でも、友人はきっと気づいている。私が罪悪感にさいなまれないように、こう言ってくれたのだと思うことにした。
その日の帰りの馬車の中で、私はお兄様にキララの話をした。
「彼女のことだから自分が私にしたことを忘れて、また手紙を送ってくるかしら」
「二度と関わらないと誓約書を書かせたんだから、それはないだろ。もし送ってきたとしたら本当の馬鹿だし、彼女の両親が困るだけだ」
誓約書と同時にそれを守らなかった時のペナルティも決めているから、さすがにキララの両親が止めるわよね。あの人たちだって無限にお金を持っているわけじゃないもの。
「転校先で幸せになれるといいけど、きっと無理でしょうね」
「エノウ伯爵夫妻はキララ嬢を学園の寮に入れるみたいだ。許可がないと外に出れないから、彼女は好き勝手に動くことはできない。ノンクード様と離れることができるんだから、人生をやり直すことは可能かもな」
今回の件で、ソーマ様はキララと婚約を解消しているし、キララの評判は社交界では良いものではない。きっと、次の婚約者は見つからないでしょう。エノウ伯爵家にはキララしか子供がいないから、跡継ぎは親戚に頼むかもしれないけれど、キララを養うつもりはないとのことだった。
「……ノンクード様がシエッタ殿下を諦めて、キララに乗り換える可能性はあるかしら」
「そうだな……」
お兄様は少し考えたあと、眉根を寄せて答える。
「ノンクード様にとってジーノス様がシエッタ殿下以上の存在なら、ジーノス様に楽をさせるためにキララ嬢に乗り換える可能性はある。キララ嬢と結婚すれば伯爵にはなれるからな」
「……そういえば、フラル王国の王家はどうしているの?」
「今はジーノス様と接触しようとしているみたいだ」
「ジーノス様と?」
「ああ。ジーノス様を見張っていたというのもあるけど、フラル王国の王家に愛想を尽かした人間が密告してきた」
「……密告? 誰が連絡してきたの?」
信用できる人なのかしら。
そう思って尋ねると、お兄様は苦笑する。
「信用できる人物とは言いづらいけど金で動く人間のようだから、そう簡単に裏切りはしないと思う」
「余計に気になるじゃない。誰なの?」
「側近のエイブランって奴。こっちも裏付けはしてるけど、今のところ嘘は言っていないみたいだ」
「密告してくるなんて、彼の目的は何なの?」
「自分の立場を守りたいらしい」
エイブランという人は、友人だった国王陛下があまりにも無能なので愛想をつかしてしまっているらしい。
現在、彼が他の側近や宰相たちと一緒になって国をまわしているらしいから、彼は今の王家がなくなっても別にかまわないと思っている。でも、自分の築き上げてきた地位はなくしたくないらしい。
「エイブランって人の様子だと、フラル王国内でクーデターでも起こりそうなのかしら」
「その可能性が高い。そのことは王家も気がついているらしくて、必死にミーリル殿下を見つけ出そうとしている。そこにジーノス様からの連絡があったから、自分たちはまだ神に見放されていないと思っただろうな」
「私を何とかして、フラル王国に戻そうとするでしょうね」
さすがにフラル王国の王家も、ハピパル王国の国王陛下やジャルヌ辺境伯家が私がミーリルだとわかっていて、知らないふりをしていることには気づいているでしょう。
私にコンタクトを取ろうとするでしょうけど、それはお父様たちが阻止してくれるはず。
私に会えないとわかった時、彼らが取りそうな動きといったら――
「私を誘拐しようとか、馬鹿なことを考えそうね」
「それは父さんたちも考えてる。エイブランからの報告や、密偵に王城を見張らせて怪しい動きがないか確認してる」
「お父様たちに迷惑をかけてしまって、本当に申し訳ないわ」
「おい」
向かい合って座っていたお兄様は身を乗り出して、私の頭を撫でる。
「俺たちは家族だって言ってるだろ。申し訳ないだなんて思わなくていい」
「……うん。ありがとう」
気持ちは本当に嬉しい。
家族だから甘えても良い部分もあるのだろうけれど、だからって甘え続けていいとも思わない。
シイちゃんが私の手元にあるのは、力を貸すから私の手で王家を潰せということでしょう。
もう逃げない。
受けて立ってやろうじゃないの。
休み時間に友人の一人が誰も近くにいないことを確認してから、私の席までやって来て小声で話しかけてきた。
「こんなことを言ってはなんだけど、キララが転校して良かったわね」
「そうね」
「普通に登校してこられても、どう反応したらいいか私たちも困っていたと思うから、少しだけホッとしちゃったわ。こんなこと言っちゃ駄目かしら」
「いいえ。私も同じ気持ちよ」
転校を望んだのは私だとは言えなかった。でも、友人はきっと気づいている。私が罪悪感にさいなまれないように、こう言ってくれたのだと思うことにした。
その日の帰りの馬車の中で、私はお兄様にキララの話をした。
「彼女のことだから自分が私にしたことを忘れて、また手紙を送ってくるかしら」
「二度と関わらないと誓約書を書かせたんだから、それはないだろ。もし送ってきたとしたら本当の馬鹿だし、彼女の両親が困るだけだ」
誓約書と同時にそれを守らなかった時のペナルティも決めているから、さすがにキララの両親が止めるわよね。あの人たちだって無限にお金を持っているわけじゃないもの。
「転校先で幸せになれるといいけど、きっと無理でしょうね」
「エノウ伯爵夫妻はキララ嬢を学園の寮に入れるみたいだ。許可がないと外に出れないから、彼女は好き勝手に動くことはできない。ノンクード様と離れることができるんだから、人生をやり直すことは可能かもな」
今回の件で、ソーマ様はキララと婚約を解消しているし、キララの評判は社交界では良いものではない。きっと、次の婚約者は見つからないでしょう。エノウ伯爵家にはキララしか子供がいないから、跡継ぎは親戚に頼むかもしれないけれど、キララを養うつもりはないとのことだった。
「……ノンクード様がシエッタ殿下を諦めて、キララに乗り換える可能性はあるかしら」
「そうだな……」
お兄様は少し考えたあと、眉根を寄せて答える。
「ノンクード様にとってジーノス様がシエッタ殿下以上の存在なら、ジーノス様に楽をさせるためにキララ嬢に乗り換える可能性はある。キララ嬢と結婚すれば伯爵にはなれるからな」
「……そういえば、フラル王国の王家はどうしているの?」
「今はジーノス様と接触しようとしているみたいだ」
「ジーノス様と?」
「ああ。ジーノス様を見張っていたというのもあるけど、フラル王国の王家に愛想を尽かした人間が密告してきた」
「……密告? 誰が連絡してきたの?」
信用できる人なのかしら。
そう思って尋ねると、お兄様は苦笑する。
「信用できる人物とは言いづらいけど金で動く人間のようだから、そう簡単に裏切りはしないと思う」
「余計に気になるじゃない。誰なの?」
「側近のエイブランって奴。こっちも裏付けはしてるけど、今のところ嘘は言っていないみたいだ」
「密告してくるなんて、彼の目的は何なの?」
「自分の立場を守りたいらしい」
エイブランという人は、友人だった国王陛下があまりにも無能なので愛想をつかしてしまっているらしい。
現在、彼が他の側近や宰相たちと一緒になって国をまわしているらしいから、彼は今の王家がなくなっても別にかまわないと思っている。でも、自分の築き上げてきた地位はなくしたくないらしい。
「エイブランって人の様子だと、フラル王国内でクーデターでも起こりそうなのかしら」
「その可能性が高い。そのことは王家も気がついているらしくて、必死にミーリル殿下を見つけ出そうとしている。そこにジーノス様からの連絡があったから、自分たちはまだ神に見放されていないと思っただろうな」
「私を何とかして、フラル王国に戻そうとするでしょうね」
さすがにフラル王国の王家も、ハピパル王国の国王陛下やジャルヌ辺境伯家が私がミーリルだとわかっていて、知らないふりをしていることには気づいているでしょう。
私にコンタクトを取ろうとするでしょうけど、それはお父様たちが阻止してくれるはず。
私に会えないとわかった時、彼らが取りそうな動きといったら――
「私を誘拐しようとか、馬鹿なことを考えそうね」
「それは父さんたちも考えてる。エイブランからの報告や、密偵に王城を見張らせて怪しい動きがないか確認してる」
「お父様たちに迷惑をかけてしまって、本当に申し訳ないわ」
「おい」
向かい合って座っていたお兄様は身を乗り出して、私の頭を撫でる。
「俺たちは家族だって言ってるだろ。申し訳ないだなんて思わなくていい」
「……うん。ありがとう」
気持ちは本当に嬉しい。
家族だから甘えても良い部分もあるのだろうけれど、だからって甘え続けていいとも思わない。
シイちゃんが私の手元にあるのは、力を貸すから私の手で王家を潰せということでしょう。
もう逃げない。
受けて立ってやろうじゃないの。
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