上 下
15 / 49

15  第三王女の止められない恋心 ③ ※途中で視点変更あり

しおりを挟む
 シエッタ殿下の希望が通り、彼女はお兄様の隣の席になったらしい。

 さすがに授業中に何かしてくることはなかったけど、休み時間になると猛アピールだったそうだ。

 他のクラスメイトは王家の人に会えるなんてありえないことだし、ちやほやするだけでなく、素っ気ないお兄様の態度に苦言を呈する人もいたのだという。

「別に友達でも何でもない奴に、何を言われても気にしないようにするけどな。というか、逆に自分が決めたやり方でやろうって思う」
「お兄様らしいわね」
「褒めてるのか?」
「もちろん、褒めてます」
「そうか」

 お兄様と距離を置くようにしたら、目に見えるくらいに落ち込んでしまったので、今まで通りに戻した。
 考えてみたら、私もお兄様にそんなことをされたらショックだもの。

「でも、お兄様、これから十日間、その調子で大丈夫そうですか?」
「俺は大丈夫だ。それよりも心配なのは、シエッタ殿下がミリルに近づこうとするんじゃないかってことだ」
「シスコンだということは、皆に知られていますものね」
「わ……、悪い」 

 お兄様が焦った顔になったので、微笑んで首を横に振る。

「大事にしてもらえているのは嬉しいので、気にしないでください。それよりも、私がミーリルだということを知られないようにしなければなりません」

 私の髪色と瞳は珍しいけど、絶対にないわけではないし、同じ色の髪と瞳を持った、元両親役の人もいる。だから、出生についてどうこうは言えないはずだわ。

 私は何があっても絶対に母国には戻らない。

 私は王家に幸運をもたらす存在だった可能性が高い。だけど、家族は私をいらないものと判断した。
 お父様が森に私を置いていった時に、私の力が幸運をもたらす力ではなく、災厄をもたらす力に変わっていれば良いのに……。

 そうすれば、シエッタ殿下がお兄様に近づいても、私が側にいればお兄様を守ってあげられるかもしれない。
 私の力は王家にしか関係ないのだから、お兄様には迷惑をかけなくて済む。
 
「ミリル、一人で何とかしようとするなよ」

 お兄様は私の頭を優しく撫でたあと、眉尻を下げる。

「というか、変な奴に目をつけられてごめん」
「お兄様が謝ることではありません」

 自慢のお兄様が女性に好かれるのは、私にとっては当たり前のことだもの。

 きっと、シエッタ殿下はお兄様を振り向かせるために、私を潰しにかかるでしょう。

 私ものんびりしていられない。薬草学の勉強をもっと頑張らなくちゃ!



◇◆◇◆◇◆
(シエッタ視点)


 会えない間も積もっていった、リディアス様への思い。
 どうして、こんなにも彼のことを思ってしまうのかはわからない。彼の顔に一目惚れして、アピールしても相手にされないから、余計に夢中になってしまった。
 今まで出会ってきた男性はわたしに媚びてばかりだったからかしら。とても素敵に感じてしまう。
 媚びてばかりの男というと、ノンクードとかいう男性もそうね。

 わたしを好きだということが丸わかりで、わたしのために奔走する姿は滑稽でもある。

 でも、あの男性はちっとも役に立たない。次男とはいえ公爵令息なんだから、自分の家の権力をもっと使うべきだわ。 
 婚約破棄されるだなんて、信じられない。リディアス様がもっと、妹にかまうようになったらどうするのよ!

 リディアス様は極度のシスコンということで有名だし、妹とは血が繋がっていない。万が一、その妹とリディアス様が上手くなんていったら……!

「お姉様、何をそんなに難しい顔をしているんですか」

 宿屋の広い一室にベッドを六つ並べてもらい、みんなで横になっていた時、弟のロブが話しかけてきた。

「婚約者にしたいと思う人は妹に夢中なのよ。だから、どうしたら良いのかわからなくて」
「……そうなんですか」

 ロブは少し考えたあとに尋ねてくる。

「その妹というのはどんな人なんですか?」
「わからないわ。まだ、会ったことがないの」
「もし、どうしてもリディアスとかいう人が妹を優先するのなら言ってくださいよ。僕がその妹を婚約者にでもしてやります。その間にお姉様がリディアスを落としてください」
「……それは良い案かもしれないわね」

 ロブは王太子だもの。普通の貴族の女性なら、喜んで婚約者になるはずだわ。
 ロブと彼女が上手くいけば、リディアス様はショックを受けるはず。そんな彼を慰めていれば、私にいつしか恋に落ちてもおかしくない。

「ありがとう、ロブ。お父様たちに話をしてみましょう」
「妹の名前はなんと言うんすか?」
「ミリルという名前よ」
「ミリル?」

 聞き返してきたロブに微笑む。

「ミーリルじゃないかと言いたいの? 気持ちは分かるわ。だけど、ミーリルがミリルなんていくら何でも安直すぎない?」
「そう思わせることが目的かもしれませんよ」
「……そうかしら。でも、ミーリルみたいな女をリファルド様が好きになるとは思えないわ」
「そうか。そう言われればそうですね。お姉様が選んだ男性の好きな人なら、余程、素敵な人なのでしょう。ミーリルみたいな女は選ばれませんよね」
「そうよ。わたしがミーリルに負けるなんてありえない」
 
 頷いたあと、わたしは早速、お父様にミリルとロブの婚約を提案してみることにした。


しおりを挟む
ツギクルバナー
感想 72

あなたにおすすめの小説

王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません

きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」 「正直なところ、不安を感じている」 久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー 激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。 アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。 第2幕、連載開始しました! お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。 以下、1章のあらすじです。 アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。 表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。 常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。 それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。 サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。 しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。 盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。 アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?

愛人をつくればと夫に言われたので。

まめまめ
恋愛
 "氷の宝石”と呼ばれる美しい侯爵家嫡男シルヴェスターに嫁いだメルヴィーナは3年間夫と寝室が別なことに悩んでいる。  初夜で彼女の背中の傷跡に触れた夫は、それ以降別室で寝ているのだ。  仮面夫婦として過ごす中、ついには夫の愛人が選んだ宝石を誕生日プレゼントに渡される始末。  傷つきながらも何とか気丈に振る舞う彼女に、シルヴェスターはとどめの一言を突き刺す。 「君も愛人をつくればいい。」  …ええ!もう分かりました!私だって愛人の一人や二人!  あなたのことなんてちっとも愛しておりません!  横暴で冷たい夫と結婚して以降散々な目に遭うメルヴィーナは素敵な愛人をゲットできるのか!?それとも…?なすれ違い恋愛小説です。 ※感想欄では読者様がせっかく気を遣ってネタバレ抑えてくれているのに、作者がネタバレ返信しているので閲覧注意でお願いします…

大嫌いな幼馴染の皇太子殿下と婚姻させられたので、白い結婚をお願いいたしました

柴野
恋愛
「これは白い結婚ということにいたしましょう」  結婚初夜、そうお願いしたジェシカに、夫となる人は眉を顰めて答えた。 「……ああ、お前の好きにしろ」  婚約者だった隣国の王弟に別れを切り出され嫁ぎ先を失った公爵令嬢ジェシカ・スタンナードは、幼馴染でありながら、たいへん仲の悪かった皇太子ヒューパートと王命で婚姻させられた。  ヒューパート皇太子には陰ながら想っていた令嬢がいたのに、彼女は第二王子の婚約者になってしまったので長年婚約者を作っていなかったという噂がある。それだというのに王命で大嫌いなジェシカを娶ることになったのだ。  いくら政略結婚とはいえ、ヒューパートに抱かれるのは嫌だ。子供ができないという理由があれば離縁できると考えたジェシカは白い結婚を望み、ヒューパートもそれを受け入れた。  そのはず、だったのだが……?  離縁を望みながらも徐々に絆されていく公爵令嬢と、実は彼女のことが大好きで仕方ないツンデレ皇太子によるじれじれラブストーリー。 ※こちらの作品は小説家になろうにも重複投稿しています。

【掌編集】今までお世話になりました旦那様もお元気で〜妻の残していった離婚受理証明書を握りしめイケメン公爵は涙と鼻水を垂らす

まほりろ
恋愛
新婚初夜に「君を愛してないし、これからも愛するつもりはない」と言ってしまった公爵。  彼は今まで、天才、美男子、完璧な貴公子、ポーカーフェイスが似合う氷の公爵などと言われもてはやされてきた。  しかし新婚初夜に暴言を吐いた女性が、初恋の人で、命の恩人で、伝説の聖女で、妖精の愛し子であったことを知り意気消沈している。  彼の手には元妻が置いていった「離婚受理証明書」が握られていた……。  他掌編七作品収録。 ※無断転載を禁止します。 ※朗読動画の無断配信も禁止します 「Copyright(C)2023-まほりろ/若松咲良」  某小説サイトに投稿した掌編八作品をこちらに転載しました。 【収録作品】 ①「今までお世話になりました旦那様もお元気で〜ポーカーフェイスの似合う天才貴公子と称された公爵は、妻の残していった離婚受理証明書を握りしめ涙と鼻水を垂らす」 ②「何をされてもやり返せない臆病な公爵令嬢は、王太子に竜の生贄にされ壊れる。能ある鷹と天才美少女は爪を隠す」 ③「運命的な出会いからの即日プロポーズ。婚約破棄された天才錬金術師は新しい恋に生きる!」 ④「4月1日10時30分喫茶店ルナ、婚約者は遅れてやってきた〜新聞は星座占いを見る為だけにある訳ではない」 ⑤「『お姉様はズルい!』が口癖の双子の弟が現世の婚約者! 前世では弟を立てる事を親に強要され馬鹿の振りをしていましたが、現世では奴とは他人なので天才として実力を充分に発揮したいと思います!」 ⑥「婚約破棄をしたいと彼は言った。契約書とおふだにご用心」 ⑦「伯爵家に半世紀仕えた老メイドは伯爵親子の罠にハマり無一文で追放される。老メイドを助けたのはポーカーフェイスの美女でした」 ⑧「お客様の中に褒め褒めの感想を書ける方はいらっしゃいませんか? 天才美文感想書きVS普通の少女がえんぴつで書いた感想!」

初夜に大暴言を吐かれた伯爵夫人は、微笑みと共に我が道を行く ―旦那様、今更擦り寄られても困ります―

望月 或
恋愛
「お前の噂を聞いたぞ。毎夜町に出て男を求め、毎回違う男と朝までふしだらな行為に明け暮れているそうだな? その上糸目を付けず服や装飾品を買い漁り、多大な借金を背負っているとか……。そんな醜悪な女が俺の妻だとは非常に不愉快極まりない! 今後俺に話し掛けるな! 俺に一切関与するな! 同じ空気を吸ってるだけでとんでもなく不快だ……!!」 【王命】で決められた婚姻をし、ハイド・ランジニカ伯爵とオリービア・フレイグラント子爵令嬢の初夜は、彼のその暴言で始まった。 そして、それに返したオリービアの一言は、 「あらあら、まぁ」 の六文字だった。  屋敷に住まわせている、ハイドの愛人と噂されるユーカリや、その取巻きの使用人達の嫌がらせも何のその、オリービアは微笑みを絶やさず自分の道を突き進んでいく。 ユーカリだけを信じ心酔していたハイドだったが、オリービアが屋敷に来てから徐々に変化が表れ始めて…… ※作者独自の世界観満載です。違和感を感じたら、「あぁ、こういう世界なんだな」と思って頂けたら有難いです……。

いつだって二番目。こんな自分とさよならします!

椿蛍
恋愛
小説『二番目の姫』の中に転生した私。 ヒロインは第二王女として生まれ、いつも脇役の二番目にされてしまう運命にある。 ヒロインは婚約者から嫌われ、両親からは差別され、周囲も冷たい。 嫉妬したヒロインは暴走し、ラストは『お姉様……。私を救ってくれてありがとう』ガクッ……で終わるお話だ。  そんなヒロインはちょっとね……って、私が転生したのは二番目の姫!? 小説どおり、私はいつも『二番目』扱い。 いつも第一王女の姉が優先される日々。 そして、待ち受ける死。 ――この運命、私は変えられるの? ※表紙イラストは作成者様からお借りしてます。

妾の子だからといって、公爵家の令嬢を侮辱してただで済むと思っていたんですか?

木山楽斗
恋愛
公爵家の妾の子であるクラリアは、とある舞踏会にて二人の令嬢に詰められていた。 彼女達は、公爵家の汚点ともいえるクラリアのことを蔑み馬鹿にしていたのである。 公爵家の一員を侮辱するなど、本来であれば許されることではない。 しかし彼女達は、妾の子のことでムキになることはないと高を括っていた。 だが公爵家は彼女達に対して厳正なる抗議をしてきた。 二人が公爵家を侮辱したとして、糾弾したのである。 彼女達は何もわかっていなかったのだ。例え妾の子であろうとも、公爵家の一員であるクラリアを侮辱してただで済む訳がないということを。 ※HOTランキング1位、小説、恋愛24hポイントランキング1位(2024/10/04) 皆さまの応援のおかげです。誠にありがとうございます。

幼馴染が夫を奪った後に時間が戻ったので、婚約を破棄します

天宮有
恋愛
バハムス王子の婚約者になった私ルーミエは、様々な問題を魔法で解決していた。 結婚式で起きた問題を解決した際に、私は全ての魔力を失ってしまう。 中断していた結婚式が再開すると「魔力のない者とは関わりたくない」とバハムスが言い出す。 そしてバハムスは、幼馴染のメリタを妻にしていた。 これはメリタの計画で、私からバハムスを奪うことに成功する。 私は城から追い出されると、今まで力になってくれた魔法使いのジトアがやって来る。 ずっと好きだったと告白されて、私のために時間を戻す魔法を編み出したようだ。 ジトアの魔法により時間を戻すことに成功して、私がバハムスの妻になってない時だった。 幼馴染と婚約者の本心を知ったから、私は婚約を破棄します。

処理中です...