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24 身にしみた?

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 城の中は静まり返っていて、私達の歩く足音だけが響く。
 時折、魔物の鳴き声なのか、甲高い、キーッという音が、何度か聞こえてくる。

 私とリューク、そして他の騎士達は迷わず、モーリス殿下の部屋に向かっていた。
 魔物が侵入した際に、モーリス殿下と国王陛下には、聖女の近くにいてもらわなければいけなかった為、宰相が四人に話があるといったところ、モーリス殿下が自分の部屋で聞くと言ったらしく、国王陛下まで自分の部屋に呼び付けた様だった。

 国王陛下は自分が退位させられるとわかってからは、全くやる気のない態度だったらしいけど、ある時期から、なぜか心を入れ替えたから、国のために頑張るだとか言い出したらしい。
 ただ、その時期は、私を悪者にしようという計画が決まった時期と一致するのではないかと考えられている。

 どうしてここまで性格がねじ曲がってしまったのか。
 国王陛下がもっと自分以外の事を考えられる人なら、ここまでしなくても良かったのに。

 魔物は人の匂いや声に反応する。
 匂いに関してはどうする事も出来ないけれど、それぞれの人の周りに結界を張っているから多少はふせげる。
 音に関しては急いでいるから足音を忍ばせる訳にはいかないけれど、魔物が近くにいなければ気付かれない程度の音だ。
 大きな声を出さなければ、魔物を刺激する事もない。

 けれど、それをわかっていない人達がいた。

「おい! 誰かいないのか!」

 上の階から叫び声が聞こえてきた。
 国王陛下の声だった。
 その後すぐに、モーリス殿下の声が聞こえてくる。

「おい! 俺は部屋に戻るから、キュララかトリン、どちらでも良いから様子を見て来い!」
「ちょっと、キュララ、あなたが行きなさいよ」
「嫌よ! 行くならあなたが行けばいいじゃない!」

 キュララとトリンが押し付け合う声が聞こえた。

 その時だった。
 キーッという鳴き声と共に、聖女達の悲鳴が上がった。

「誰か! 誰かいないの!? 城内に魔物が侵入してるわよ!」
「モーリス! 部屋にもどれ! おい、聖女達、そこで足止めをしろ!」
「わ、わかりました! おい、お前達、後は頼んだぞ!」
「そんなの無理です!」
「お前らが襲われている内に、俺達は逃げる!」

 パニックになっている聖女達と、恐ろしい事を言うモーリス殿下。

 どうして、誰も結界の事を思い出さないのよ。

 私達が階段を駆け上がり、キュララ達の元へ辿り付いた時には、彼女達の叫び声を聞いて、3匹の人間くらいの大きさの鳥の様な魔物が、キュララ達を取り囲んでいた所だった。

「キュララ! トリン! 結界を張りなさい!」

 声を上げると、二人だけではなく、魔物達もこちらに振り返った。
 私を見てキュララが叫ぶ。

「無理よ! 怖くて出来ない! ミーファ、何とかしてちょうだい!」

 キュララとトリンは腰を抜かしてしまっているし、丈の長いタイトなドレスを着ていて、立ち上がってもドレスのせいで、素早く走って逃げれるようには思えなかった。

「おい! 聖女なんかどうでもいい! 俺達を助けるんだ!」

 姿が見えなかったモーリス殿下は、先程、聞こえていた言葉通り、聖女達を置いて、自分の部屋に逃げ込んでいたらしく、部屋の扉を開けて叫んだ。
 すると、こちらに注意を向けていた魔物達が一斉にそちらに振り返った。

「ひいっ!! こっちに来るなぁ!!」

 モーリス殿下の叫び声を聞いて、魔物が興奮し始め、彼に向かっていく。

「た、助けてくれっ! 金ならいくらでもやるから!」
「…ったく、大人しくしてくれていればいいものを」

 リュークが呟いたかと思うと、いつの間にか手に弓と矢を持っていて、モーリス殿下に襲いかかろうとする一匹の胴体に矢を命中させた。

 痛みでなのか、それとも攻撃された怒りなのか、魔物は耳を思わずおさえてしまうくらいの絶叫を上げると、殿下の方にではなく、リュークに向かって走ってくる。
 見た目はダチョウの様な魔物なので、胴体は大きいけれど、頭は小さい。
 魔物を倒す時は頭を攻撃して倒す事が一番だと言われているけれど、頭が小さいだけに当てにくそう。
 助かったモーリス殿下は、顔を引っ込めて、また扉を閉じた。

「ミーファを頼む」

 リュークが腰の剣を抜き、騎士の一人に告げたと思うと「失礼します」と言って、騎士の一人が私の前に立ち、リュークの姿を見えなくしてしまった。

「リューク!!」
「あ、やば!」

 魔物の断末魔だったのだろうか、さっきの絶叫よりも大きな鳴き声の後、リュークが焦る声が聞こえた。
 だから、慌てて、リュークの姿を確認しようとすると、足元に魔物の頭らしきものが転がってきた。

「ひっ!!」

 思わず、騎士の背中にしがみついてしまった。

「ごめん、ミーファ」

 リュークが私の所へやって来て、申し訳無さそうな顔をする。
 
 彼は私に魔物を殺すところを見せたくなかったんだろうけれど、全く意味がなかった。

「リュ、リュークが謝る事はないけど、危ないじゃない! 相手は魔物なのよ!」
「ミーファ、魔物を殺すのは今日が初めてじゃないんだ。ミーファが追放されるまでは、大人になって、父上と代替わりするまでは、少しでもミーファの近くにいたかったから、王家の騎士になろうと決めてたんだ。だから、昔から修行も兼ねて、結界の外へ出てたんだよ」
「き、気持ちは嬉しいけど危なすぎるわよ! もう、そんな事は二度と止めてよね!?」

 私の事を思ってくれていた事は嬉しいけれど、この状況で知りたくなかった。
 
「ちょっと、ミーファ! 早く他の魔物も殺す様に言ってよ!」

 トリンが叫んできた。
 呑気にリュークと話をしている状況ではないとわかってはいるけれど、トリンに言われたからか、カチンときてしまった。

「あなた達でどうにかしなさいよ! あなた達はこういう状況を作り上げようとしてたんでしょう!?」
「怖い思いをするのは自分達じゃないから良かったのよ! 大体、どうして、そんな事がわかったの!? 誰かがあなたに話したの!?」
「詳しい説明は後でするわ。いえ、やっぱり、魔物があなた達を襲ってからにしようかしら。回復魔法を使えるんだから、死にはしないわよね?」

 意地の悪い発言をすると、キュララ達の表情が恐怖のものに変わった。
 残りの二匹の魔物は仲間がやられてしまったせいか、私達の方に来るのは止めて、弱そうな人間を襲おうか、それとも逃げるかを考えているのか、私達とキュララ達の方を交互に見て、足の動きが止まっていた。

「お願い、ミーファ止めて! どうして、あなたにそんな事をする権利があるのよ!?」
「それはこっちのセリフよ。なんの罪もない人達を巻き込もうとしたくせに」
「国民はたくさんいるのよ! 何人か死んでも大きな問題じゃないわ!」

 キュララが泣き叫んだからか、魔物が二匹とも興奮して、キュララ達に襲いかかった。

「いやああああっ!!」

 キュララとトリンが叫んで目を閉じた。
 それと同時に私は二人に結界を張り、リューク達に声を掛ける。

「魔物達を外に出したいの。窓を開けてくれない!?」
「わかった」

 リュークが頷くと、他の騎士達も廊下の窓を開ける為に分散していく。
 魔物はキュララ達を襲えない事をおかしく思いつつも、必死に嘴で結界をつついている。

 私は自分の周りの結界を少しずつ広げていきながら魔物に近付く。
 見た目が気持ち悪い魔物でなくて良かった。
 見た目が虫の魔物だったら、気持ち悪くて、こんな事は出来そうになかった。

「…ミーファ、助けてくれたのね?」

 近付いていく私を見て、キュララが涙と鼻水でぐちゃぐちゃの顔で言った。

「あなたを助けるつもりはないわ。魔物を助けようと思ったの」
「何を言ってるの? どうして魔物を助けるのよ!?」

 トリンに聞かれた時、リュークから声がかかる。

「窓を開けたぞ」
「ありがとう」

 礼を言ってから、私は結界を少しずつ広めていく。
 キュララとトリスに張った結界も広めていき、私の向かい側にも魔物をはさむような形で結界を張り、少しずつ、窓の方に誘導し、追い詰めていく。
 魔物達は前にも横にも何もないのに自分達の体が押されていくので、困惑した様子で窓の方に近寄っていく。
 そして、窓から外へ飛び出した。
 それと同時に結界を一気に大きくしていく。
 窓から身を乗り出し、空を見上げる。

 広がっていく結界におされ、結界の向こうへ魔物達が押し出されていくのを確認したあと、私は大きく息を吐いた。

「大丈夫か、ミーファ」
「ええ」

 駆け寄ってきてくれたリュークに頷くと、彼は心配そうな顔をしたけれど、何も言わずに頷いてから、呆然としているキュララ達の方に視線をやった。
 すると、静かにモーリス殿下の部屋の扉が開き、殿下と陛下が恐る恐るといった様子で部屋から出てきた。

「終わったのか? 一体何だったんだ! どうして魔物がこんな所に!」
「王城の結界を張ったのはトリンかキュララのはずです。失敗してしまったんじゃないですか」

 国王陛下の叫びに答えると、陛下はキュララ達に向かって叫ぶ。

「何だと!? この役立たずめ!」
「私達ではありません! きっと、ミーファが私達をはめようとして!」
「うるさい! 言い訳はきかんぞ! 魔物を城の中に入れた事が他国に知られたら、どうなると思ってるんだ!? お前らは、もう聖女ではない!」
「そんな! あんまりです、陛下!」
「助けて下さい、モーリス殿下!」

 トリンとキュララが二人に向かって叫ぶ。
 けれど、陛下達は悪びれた様子もなく、彼女達に言う。

「ミーファの件ではお前達も加担していたよな? その反省で、他の聖女は頑張っているようだが、お前達にはその反省の色も見えない。様子を見ておいてやったのに! 自分が楽になる方法ばかり考えよって!」

 陛下の言葉の後わモーリス殿下は旗色が悪いと感じたのか、私に媚びを売ろうとしてくる。

「ミーファ、今まで俺のためによく頑張ってくれた。お前の頑張りを気付けなくて申し訳なかった。その礼になるかはわからないが、この二人を王都から追放する様に父上にお願いしよう。そして、ミーファ、お前が聖女として」
「お断りします。陛下にもお伝えしましたが、私は聖女にもどりたくありませんから。それに、聖女がこれ以上いなくなっては困りますから、二人を追放なんて望みません。逆に、働いてもらわないと」

 きっぱりとお断りしてから、キュララとトリンに近付いて言う。

「あなた達がやろうとしていた事は、こういう事よ。身にしみた?」
「もちろん、もちろんよ、ミーファ! 私達がどうかしてたわ! でもね、この計画はモーリス殿下も国王陛下も知っていたのよ? だから、悪いのは私達だけじゃない」
「そうよ! 犠牲者が出るかもしれないからって止めたのよ!?」

 嘘か本当かはわからないけれど、トリスがそう言った時、陛下が叫んだ。

「何を言っている! 元々はお前たちが言い出した計画だったろうが!」
「駄目だと思っているなら、陛下が止めるべきではなかったんでしょうか!」

 自分の保身で頭がいっぱいなのか、トリンが国王陛下に言い返した。
 こっちが詳しく話してくれとお願いしなくても、キュララ達はその後も、自分達の悪事を叫び散らし、責任の所在を押し付け合ったのだった。
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