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10 二十人分以上食べるかも
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アンナと話をした数日後、私は結界を張ってほしいとお願いしてきたギークス公爵家に、リュークと共にやって来ていた。
この地で結界を張る間は、ギークス公爵家にお世話になる事になっていて、リュークの分の部屋も用意してくれた。
暗くなってからでは結界は張れない為、朝早くから行かせてほしいとお願いすると、快く承諾してくれたので、スコッチ邸で早めの朝食を食べてから、お伺いした。
けれど、屋敷で迎えて下さったギークス公爵から、せっかくなので、朝食を一緒に食べようと誘われ、一緒に朝食をとりながら話をする事になった。
元々は、朝食はいただかずに、荷物だけ置かせてもらって、すぐに結界を張りに行く予定だったけれど、挨拶をした時に、私のお腹が鳴ってしまい、私が大食いな事を知っている公爵が気を遣って下さったのか、一人で食べるのも寂しいから付き合ってくれと言って下さったのだ。
何とも申し訳ないし、恥ずかしい。
魔法を使う前から、どうしてここまでお腹が減るんだろう…。
ちなみに、ギークス公爵の奥様は先程、お目覚めになったところらしい。
だから、今、朝食の席に着いているのは、私とリュークとギークス公爵のみになる。
「泊まってもらう部屋は別々に用意してあるんだが、それでかまわないよね? 二人は婚約者同士と聞いたが、まだ、さすがに同じ部屋にするわけにはいかないだろう?」
紺色のサラサラの髪の毛を後ろに一つにまとめた、顔立ちはは爽やかで素敵なおじ様といった感じのギークス公爵は、少しだけ意地の悪い笑みを浮かべて、私とリュークに向かって言った。
この方はプライベートではよく笑う方なので、今回も私達をからかうつもりなんだと思われる。
「もちろんです!」
だけど、リュークは公爵が、ちょっとからかうつもりで言ったという事に気付いていないのか、大真面目に答える。
「俺はミーファを大事にするって決めてるんで」
「ちょ、ちょっとリューク! からかわれてるんだってば!」
「え!? あ…」
隣に座るリュークの腕を片手でつかみ、指を指す訳にはいかないので、もう片方の手でギークス公爵の方を示すと、リュークも気が付いたのか焦った顔をした。
すると、そんな私達を見て、ギークス公爵は小さく吹き出したかと思うと笑い始めた。
「若いっていいなぁ。僕も君達の様な若い頃に戻りたいもんだ」
「ギークス公爵閣下は今だって素敵じゃないですか。人をからかう所がなければ、若くなくても、十分、素敵な紳士だと思いますが?」
リュークが少し拗ねた様な顔で言うと、ギークス公爵は笑い終えた後、真面目な顔で彼に答える。
「そう言ってもらえると嬉しいね。スコッチ卿、君もあと何年か後にはお父上の跡を継ぐんだろう? 成人になってからでも遅くないかもしれないが、素直すぎるのは良くない。僕は君達に悪意はないけど、そうでもない奴らは必ず出てくるからね」
「よろしければ短い間ですが、ここにいる間、勉強させていただけると助かります」
「僕から学べる事があるかどうかはわからないけど、よろしくね」
まだ笑い足りないのか、ギークス公爵は思い出し笑いをしてから言うと、今度は私に向かって言う。
「ミーファには悪いけど、結界を張ってもらった後は、領民に回復魔法をかけてあげてもらってもいいかな。その分のお代は僕が持つから」
「あの、ギークス公爵閣下、その件なんですが、回復魔法をかけるのにお金はいりませんから」
「え? だけど、領民からはお金が必要だから聖女様に回復魔法をかけてもらえなかったって話が上がってきてるんだけど」
ギークス公爵が不思議そうな顔をして聞いてくるので、事情を話したところ、顔を歪めて言う。
「やっぱりそうだよな。今までの聖女は無償だったから、おかしいとは思っていたんだ。だけど、国王陛下や王太子殿下の様子を見ていると、そういう制度に変わったのか、と思ってしまっていたんだが…」
ギークス公爵の言葉を聞いて、私とリュークは無言で顔を見合わせる。
やはり、普通の人は国王陛下や王太子殿下がおかしいとは思っているのね。
もし、何かあった時には、ギークス公爵も味方になってくれるかもしれない。
覚えておかなくちゃ。
出来れば、そうなる前に国王陛下と王太子殿下が自分のやっている事が良くない事だと自覚してくれたら良いんだけど…。
「そうなると困ったな…」
ギークス公爵が難しい顔になったので尋ねてみる。
「どうかされましたか?」
「実は明日、妻がお茶会を開く事になっていてね」
「わあ、素敵ですね」
「美味しいお茶菓子をたくさん用意するから、ミーファにも来てほしいって言っていたんだけど」
「有り難いです!」
楽しみがあると思うと、余計に頑張れる。
結界を張る時間が少なくなってしまうけど、今日、その分頑張ればいい。
美味しいお茶菓子。
どんなものだろう。
私一人で食べ尽くしてしまわない様に気を付けないと。
「ただ、そのお茶会に聖女様が一人来るんだよ。本当は招待していなかったんだけど、どうしても来たいと言ってね。ミーファには申し訳ないけど、聖女様の言う事は、僕らも逆らえないんだ」
「えぇ…。あ、すみません。今の言葉は公爵閣下や奥様に対してのものではないですので、お許し下さい」
ギークス公爵の前だと言うのに、低い声を出し、嫌そうな顔をしてしまった。
ギークス公爵は私の態度に気を悪くした様子はなく、逆に笑いをこらえる様にしてから口を開く。
「さっきの話を聞いたら、君が嫌がる気持ちもわかるよ。元々、僕だって、その話を聞かなくても、あの時、ミーファに罪を着せたという彼女達を信用していないから。だから、申し訳ないけど、今回は君はお茶会には欠席するという事で良いかな。もちろん、お茶菓子は君の分も用意する様にするけど、うーん、そうだな、どれくらい用意したらいいだろう?」
「たくさんあると嬉しいです!」
「君のたくさんは普通の人のたくさんとは違うじゃないか」
公爵も私の大食いっぷりを知っているので、呆れた顔で言われてしまった。
「ミーファが食べるとしたら、お菓子を食べるとしたら、夜食を食べた後でしょうから、女性が食べる量の二十人分くらいあれば足りると思います」
「…二十人分」
リュークの言葉を聞いて、公爵は笑いを隠そうとしているのか、俯いて呟いた。
ひどい。
一応、私だって乙女なのに!!
リュークとギークス公爵を軽く睨むと、公爵は笑い、リュークからは真剣に謝られた。
二度目の朝食を済ませた後、リュークと一緒に公爵から頼まれた地へ向かった。
公爵家からそう遠くないので、馬車で行くことにしたんだけど、馬車の中で私が不機嫌そうにしているからか、向かいに座っているリュークが苦笑しながら話しかけてくる。
「ミーファ、怒ってる?」
「怒ってはない」
「怒ってはないって、機嫌が良くないって事か?」
「そうね」
リュークは何も悪くない。
朝食の席では、正直に私の話をしただけ。
わかってはいるんだけど、リュークにまで大食いを馬鹿にされた気がして、ちょっと嫌だった。
もちろん、馬鹿にしたんじゃない事だってわかってる。
恥ずかしいというかなんというか、複雑な乙女心というやつだ。
かといって、それをリュークに言葉にして素直に伝えるのも難しい。
「ごめん。いっぱい食べるミーファが俺は好きだから、普通に言ってしまった。そんなに嫌なら、これからは気を付けるよ」
「リュークは何も悪くないわ」
いっぱい食べる私が好き、と言われると、食べるにも限度があるだろうとはわかっていながらも、嬉しくなってしまった。
ちょろい。
私は本当にちょろい。
もちろん、リューク限定だけど。
「…もしかしたら、二十人分以上食べるかも」
「うん。そんなミーファを見てるだけで幸せになるから、たくさん食べたらいい」
「もし結婚したら、食費だけで破産しちゃうかもよ」
「そうだな。でも、たくさん食べるのは魔法が使えている間だけだろ? なら、あと十五年くらいは家の仕事以外の仕事もして、ミーファの食事代を稼ぐよ」
リュークが私の食生活に理解してくれているのはわかっていたけど、こんな風にまで言ってもらえるとは思ってなくて、本当に嬉しかった。
「ありがとう、リューク。頑張って食べて、力が使える間はたくさんの人を救うようにする。そうしたら、私の夫であるリュークの株だって上がるわよね?」
「そんな事気にしなくていいよ。ミーファが楽しく生きてくれればそれでいい」
リュークは笑って、そう言ってくれた。
目的地に着き、頼まれていた箇所はすぐに終わった為、そこから、人の多く住む地域に近付いていきながら結界を張り終えた頃には、夕方になっていた。
でも、二日間かけてやろうと思っていたところが一日の作業で終わったので、気付かない内に作業スピードが速くなったみたいだった。
もしかすると、私の魔力量がまた増えたのかもしれない。
公爵家に帰る前に、小腹が減ったので、近くの店で軽い夕食を食べて帰ろうという事にしたのだが、これがいけなかった。
リュークと一緒に、入りやすそうな店を探していた時だった。
「ミーファ!?」
名を呼ばれて振り返ると、そこには、キュララが笑顔で私に向かって手を振っている姿が見えた。
けれど、人の通りが多いため、すぐに彼女の姿は人の姿で見えなくなった。
「ごめん、リューク、やっぱり食事をするのは止めて、ギークス公爵邸に帰りましょう」
「そうだな」
慌てて、今まで歩いていた通りの反対側に渡り、馬車を待たせている場所へと向かう。
「待って、ミーファ! 私達からの手紙、読んでくれていないの!? ねえ、ミーファったら! あなたからの返事が来ないから、私が代表して来たのよ! スコッチ辺境伯の家に行っても、門前払いされちゃうの!」
遠くから聞こえるキュララの声を聞いて、やはり私宛に手紙を送ってきていたのかという事と、当主様達は私には何も言わなかったけれど、屋敷まで押しかけてきていた事を知って、スコッチ邸の人達に申し訳ない気分になった。
この地で結界を張る間は、ギークス公爵家にお世話になる事になっていて、リュークの分の部屋も用意してくれた。
暗くなってからでは結界は張れない為、朝早くから行かせてほしいとお願いすると、快く承諾してくれたので、スコッチ邸で早めの朝食を食べてから、お伺いした。
けれど、屋敷で迎えて下さったギークス公爵から、せっかくなので、朝食を一緒に食べようと誘われ、一緒に朝食をとりながら話をする事になった。
元々は、朝食はいただかずに、荷物だけ置かせてもらって、すぐに結界を張りに行く予定だったけれど、挨拶をした時に、私のお腹が鳴ってしまい、私が大食いな事を知っている公爵が気を遣って下さったのか、一人で食べるのも寂しいから付き合ってくれと言って下さったのだ。
何とも申し訳ないし、恥ずかしい。
魔法を使う前から、どうしてここまでお腹が減るんだろう…。
ちなみに、ギークス公爵の奥様は先程、お目覚めになったところらしい。
だから、今、朝食の席に着いているのは、私とリュークとギークス公爵のみになる。
「泊まってもらう部屋は別々に用意してあるんだが、それでかまわないよね? 二人は婚約者同士と聞いたが、まだ、さすがに同じ部屋にするわけにはいかないだろう?」
紺色のサラサラの髪の毛を後ろに一つにまとめた、顔立ちはは爽やかで素敵なおじ様といった感じのギークス公爵は、少しだけ意地の悪い笑みを浮かべて、私とリュークに向かって言った。
この方はプライベートではよく笑う方なので、今回も私達をからかうつもりなんだと思われる。
「もちろんです!」
だけど、リュークは公爵が、ちょっとからかうつもりで言ったという事に気付いていないのか、大真面目に答える。
「俺はミーファを大事にするって決めてるんで」
「ちょ、ちょっとリューク! からかわれてるんだってば!」
「え!? あ…」
隣に座るリュークの腕を片手でつかみ、指を指す訳にはいかないので、もう片方の手でギークス公爵の方を示すと、リュークも気が付いたのか焦った顔をした。
すると、そんな私達を見て、ギークス公爵は小さく吹き出したかと思うと笑い始めた。
「若いっていいなぁ。僕も君達の様な若い頃に戻りたいもんだ」
「ギークス公爵閣下は今だって素敵じゃないですか。人をからかう所がなければ、若くなくても、十分、素敵な紳士だと思いますが?」
リュークが少し拗ねた様な顔で言うと、ギークス公爵は笑い終えた後、真面目な顔で彼に答える。
「そう言ってもらえると嬉しいね。スコッチ卿、君もあと何年か後にはお父上の跡を継ぐんだろう? 成人になってからでも遅くないかもしれないが、素直すぎるのは良くない。僕は君達に悪意はないけど、そうでもない奴らは必ず出てくるからね」
「よろしければ短い間ですが、ここにいる間、勉強させていただけると助かります」
「僕から学べる事があるかどうかはわからないけど、よろしくね」
まだ笑い足りないのか、ギークス公爵は思い出し笑いをしてから言うと、今度は私に向かって言う。
「ミーファには悪いけど、結界を張ってもらった後は、領民に回復魔法をかけてあげてもらってもいいかな。その分のお代は僕が持つから」
「あの、ギークス公爵閣下、その件なんですが、回復魔法をかけるのにお金はいりませんから」
「え? だけど、領民からはお金が必要だから聖女様に回復魔法をかけてもらえなかったって話が上がってきてるんだけど」
ギークス公爵が不思議そうな顔をして聞いてくるので、事情を話したところ、顔を歪めて言う。
「やっぱりそうだよな。今までの聖女は無償だったから、おかしいとは思っていたんだ。だけど、国王陛下や王太子殿下の様子を見ていると、そういう制度に変わったのか、と思ってしまっていたんだが…」
ギークス公爵の言葉を聞いて、私とリュークは無言で顔を見合わせる。
やはり、普通の人は国王陛下や王太子殿下がおかしいとは思っているのね。
もし、何かあった時には、ギークス公爵も味方になってくれるかもしれない。
覚えておかなくちゃ。
出来れば、そうなる前に国王陛下と王太子殿下が自分のやっている事が良くない事だと自覚してくれたら良いんだけど…。
「そうなると困ったな…」
ギークス公爵が難しい顔になったので尋ねてみる。
「どうかされましたか?」
「実は明日、妻がお茶会を開く事になっていてね」
「わあ、素敵ですね」
「美味しいお茶菓子をたくさん用意するから、ミーファにも来てほしいって言っていたんだけど」
「有り難いです!」
楽しみがあると思うと、余計に頑張れる。
結界を張る時間が少なくなってしまうけど、今日、その分頑張ればいい。
美味しいお茶菓子。
どんなものだろう。
私一人で食べ尽くしてしまわない様に気を付けないと。
「ただ、そのお茶会に聖女様が一人来るんだよ。本当は招待していなかったんだけど、どうしても来たいと言ってね。ミーファには申し訳ないけど、聖女様の言う事は、僕らも逆らえないんだ」
「えぇ…。あ、すみません。今の言葉は公爵閣下や奥様に対してのものではないですので、お許し下さい」
ギークス公爵の前だと言うのに、低い声を出し、嫌そうな顔をしてしまった。
ギークス公爵は私の態度に気を悪くした様子はなく、逆に笑いをこらえる様にしてから口を開く。
「さっきの話を聞いたら、君が嫌がる気持ちもわかるよ。元々、僕だって、その話を聞かなくても、あの時、ミーファに罪を着せたという彼女達を信用していないから。だから、申し訳ないけど、今回は君はお茶会には欠席するという事で良いかな。もちろん、お茶菓子は君の分も用意する様にするけど、うーん、そうだな、どれくらい用意したらいいだろう?」
「たくさんあると嬉しいです!」
「君のたくさんは普通の人のたくさんとは違うじゃないか」
公爵も私の大食いっぷりを知っているので、呆れた顔で言われてしまった。
「ミーファが食べるとしたら、お菓子を食べるとしたら、夜食を食べた後でしょうから、女性が食べる量の二十人分くらいあれば足りると思います」
「…二十人分」
リュークの言葉を聞いて、公爵は笑いを隠そうとしているのか、俯いて呟いた。
ひどい。
一応、私だって乙女なのに!!
リュークとギークス公爵を軽く睨むと、公爵は笑い、リュークからは真剣に謝られた。
二度目の朝食を済ませた後、リュークと一緒に公爵から頼まれた地へ向かった。
公爵家からそう遠くないので、馬車で行くことにしたんだけど、馬車の中で私が不機嫌そうにしているからか、向かいに座っているリュークが苦笑しながら話しかけてくる。
「ミーファ、怒ってる?」
「怒ってはない」
「怒ってはないって、機嫌が良くないって事か?」
「そうね」
リュークは何も悪くない。
朝食の席では、正直に私の話をしただけ。
わかってはいるんだけど、リュークにまで大食いを馬鹿にされた気がして、ちょっと嫌だった。
もちろん、馬鹿にしたんじゃない事だってわかってる。
恥ずかしいというかなんというか、複雑な乙女心というやつだ。
かといって、それをリュークに言葉にして素直に伝えるのも難しい。
「ごめん。いっぱい食べるミーファが俺は好きだから、普通に言ってしまった。そんなに嫌なら、これからは気を付けるよ」
「リュークは何も悪くないわ」
いっぱい食べる私が好き、と言われると、食べるにも限度があるだろうとはわかっていながらも、嬉しくなってしまった。
ちょろい。
私は本当にちょろい。
もちろん、リューク限定だけど。
「…もしかしたら、二十人分以上食べるかも」
「うん。そんなミーファを見てるだけで幸せになるから、たくさん食べたらいい」
「もし結婚したら、食費だけで破産しちゃうかもよ」
「そうだな。でも、たくさん食べるのは魔法が使えている間だけだろ? なら、あと十五年くらいは家の仕事以外の仕事もして、ミーファの食事代を稼ぐよ」
リュークが私の食生活に理解してくれているのはわかっていたけど、こんな風にまで言ってもらえるとは思ってなくて、本当に嬉しかった。
「ありがとう、リューク。頑張って食べて、力が使える間はたくさんの人を救うようにする。そうしたら、私の夫であるリュークの株だって上がるわよね?」
「そんな事気にしなくていいよ。ミーファが楽しく生きてくれればそれでいい」
リュークは笑って、そう言ってくれた。
目的地に着き、頼まれていた箇所はすぐに終わった為、そこから、人の多く住む地域に近付いていきながら結界を張り終えた頃には、夕方になっていた。
でも、二日間かけてやろうと思っていたところが一日の作業で終わったので、気付かない内に作業スピードが速くなったみたいだった。
もしかすると、私の魔力量がまた増えたのかもしれない。
公爵家に帰る前に、小腹が減ったので、近くの店で軽い夕食を食べて帰ろうという事にしたのだが、これがいけなかった。
リュークと一緒に、入りやすそうな店を探していた時だった。
「ミーファ!?」
名を呼ばれて振り返ると、そこには、キュララが笑顔で私に向かって手を振っている姿が見えた。
けれど、人の通りが多いため、すぐに彼女の姿は人の姿で見えなくなった。
「ごめん、リューク、やっぱり食事をするのは止めて、ギークス公爵邸に帰りましょう」
「そうだな」
慌てて、今まで歩いていた通りの反対側に渡り、馬車を待たせている場所へと向かう。
「待って、ミーファ! 私達からの手紙、読んでくれていないの!? ねえ、ミーファったら! あなたからの返事が来ないから、私が代表して来たのよ! スコッチ辺境伯の家に行っても、門前払いされちゃうの!」
遠くから聞こえるキュララの声を聞いて、やはり私宛に手紙を送ってきていたのかという事と、当主様達は私には何も言わなかったけれど、屋敷まで押しかけてきていた事を知って、スコッチ邸の人達に申し訳ない気分になった。
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