7 / 29
5 嘘でしょ?
しおりを挟む
「そういえば、王太子殿下は、国王陛下の横に座ってニヤニヤしていただけで、口を挟んでこなかったな」
部屋の用意が出来たと言われたので、メイドさんに案内してもらう事にすると、リュークが一緒に付いてきて話しかけてきた。
「そうね。いつもなら、私に対して嫌味を言いそうなものなんだけど、大人しかったわね。まあ、伝言をもらったから、結局は同じ様なものかもしれないけど。」
王太子殿下は、私の事を役立たずや無能というだけではなく、背が高い女は気に入らん、など、手紙以外にも、時折出くわす事があれば、私にどうして欲しいのかわからない発言をまじえながら罵声を浴びせてきては、私の謝罪を聞いて満足するという人だった。
去り際に側近の人から伝言はされたけど、いつもなら、ネチネチと国王陛下と一緒になって、私を責め立ててきそうなものなのに…。
「でも、ただでさえ、不快な場面だったから、黙っていてくれたおかげで余計に嫌な気分にならなくて良かったわ。ニヤニヤしてて気持ち悪かったけど」
「王太子殿下は、ミーファにはやけに風当たりが強いみたいだな」
「王太子殿下、素敵! なんて、一回も言った事がないからじゃないかしら」
「そんな事を言わないと優しくしてもらえないなんておかしいだろ」
「だけど、相手は王太子殿下なのよ。あの人、陛下と性格が似ているところあるし、下手に文句を言ったら、何をいわれるかわからないから面倒よ」
小さく息を吐くと、リュークは申し訳なさそうな顔で言う。
「今まで、力になれなくてごめん。さすがに従兄弟といっても立場が違いすぎて、あまり干渉できなかったんだ。だけど、これからは近くにいれるし、ミーファを守るから」
「何言ってるのよ。 リュークにはいつも助けてもらってるじゃない! 今までもそうだし、今日だって助けてくれたじゃない!」
不思議だけど、助けてほしい時に一番に浮かぶのは彼の顔だし、今日も発言しにくい雰囲気の中、私を引き取ると言ってくれた。
国王陛下が何を言い出すかわからないから、他の人達は怖くて何も言い出せなかった。
もちろん、リュークは親戚という強みもあるのかもしれないけれど、彼だって何を言われるか恐怖があったはずなのに。
リュークの行動は本当に勇気のいる事だったと思う。
「ありがとう、リューク。一緒にいれる様になれて、本当に嬉しい」
「ほ、本当に!? その、俺も、嬉しい!」
パアッと明るい笑みを浮かべて言うリュークに、私が笑顔を返すと、メイドさんが話しかけてくる。
「お邪魔をしてしまい申し訳ございません。こちらが、ミーファ様のお部屋になります」
「ありがとうございます!」
部屋の前で立ち止まってくれたメイドさんにお礼を言うと、彼女は笑顔で部屋の扉を開けてくれた。
部屋の中には、私が持ってきていた荷物が運び込まれていて、元々は客室だったからか、ベッドや書き物机、安楽椅子など、家具としては少なめだけれど、私にとっては十分な部屋だった。
「女性に必要なものだと他に何がいるだろうか」
リュークがメイドさんに聞くので、慌てて止める。
「これで十分よ!」
「ミーファ様! そんな事はございません! 何より化粧台がありません。こちらに関しましては、当主様から新しい物を準備するようにと言われておりますので、届くまで、少々お待ちいただけますでしょうか」
メイドさんは興奮気味に言った後、慌てて頭を下げてくる。
「生意気な口をきいてしまい、申し訳ございません!」
「いいのよ、気にしないで! これからお世話になるんだから、そんなに気を遣わないで?」
「で、ですが!」
「ミーファは彼女にとっては、元聖女ではなく、今でも聖女なんだよ」
「どういう事?」
リュークに聞き返すと、彼が笑いながら、メイドさんの方を見て言う。
「彼女に聞いたらいい。俺はここで一度失礼するよ。女性同士だけの方が話しやすいだろうから」
リュークと別れ、メイドさんと一緒に部屋に入ってから、彼女には申し訳ないけど、私は安楽椅子に座り、彼女には立ってもらったまま、話を聞いた。
「ミーファ様は覚えていらっしゃらないと思いますが、私の父が、ミーファ様に怪我を治してもらった事があるんです」
「そうだったの? でも、それは聖女として当たり前の事だし…」
昼間は結界を張り、夜は泊まっている宿まで来てくれた人のみになるけど、事故などで大きな怪我をしてしまい、後遺症が残ってしまった人などに、無償で回復魔法をかけていた。
引き継ぎの際に、聖女の先輩には、そうする様に教えてもらったから、それが普通だと思っていたので、有難がられてしまうと困ってしまう。
「ここ最近の他の聖女様は、お金を払わないと治してくれなかったんです」
「はあ!?」
どこのどいつよ。
色ボケだけじゃなく、守銭奴にまでなってんの!?
も、もしかして、今の現役の聖女達は、皆、お金を取ってたの?
思い返してみると、見回りにいっていた土地で、回復魔法をかける際にお金を渡してこようとしてきた人がいたから、おかしいなとは思っていた。
その時はおかしいと思いつつも、治してくれたお礼としての善意かと思ってたけど、他の人達がお金をとってたからなのね!?
どうせ、王太子殿下をオトす為のアクセサリーやドレス代に消えたに違いない。
経済をまわしている事は確かだけど、お金のない人には回復魔法をかけてあげないなんて、歴代の聖女ではありえない。
恋をするのはかまわないけど、聖女の評判を落とす様な事ばかりするのはやめてほしい。
声を上げたくなったけど、彼女には関係ないので、まずは謝罪する。
「ごめんなさい。本当は無償なはずなんだけど、間違ってお金をとってしまっていたみたい」
「気になさらないで下さい! 私の父は一度、違う聖女様にそう言われて、お金が払えなくて断念したんです。でも、ミーファ様が来て下さり、駄目元でお願いしてみたら、快く回復魔法をかけていただけたみたいで、父は本当に感謝しています! もちろん、父だけでなく、家族全員です!」
たくさんの人に回復魔法をかけてるから、どの人かなんて、さっぱりわからないけど、喜んでもらえたなら本当に良かった。
「役に立てたのなら、本当に良かった。そう言ってくれて、私も嬉しい」
「申し遅れました、私、カーラと申します! ミーファ様付きのメイドになりますので、なんなりとお申し付け下さい!」
赤色の髪をシニヨンにし、髪と同じ色の瞳を持つの幼い顔立ちで小柄なカーラは満面の笑みを浮かべて、私に向かって言った。
その笑みを受けて、私も笑みを返す。
「こちらこそ、よろしくね」
あまり、スコッチ家に長くお邪魔するのは良くないと思いつつも、自分一人で暮らしていくには、まだまだ時間がかかるだろうし、申し訳ないけど、彼女とは長い付き合いになりそう。
そして、彼女も含め、この屋敷の人と仲良くやれますように。
ここの使用人達が王城にいる聖女達のように、仕事をサボりまくる人達じゃありませんように…!
「ミーファさん!」
カーラと話をしていると、リュークの妹のアンナが腰まである長いストレートの黒髪を揺らして、開けっ放しにされていた扉の向こうからひょっこりと顔を出した。
「どうしたの、アンナ」
「今まではゆっくりお話出来なかったじゃない? 聖女様じゃなくなったんだったら、少しは時間はあるわよね?」
「え…、ええ」
もしかして、新人いじめみたいな事をされるのかと気構えていると、アンナは笑顔で言う。
「明日、お洋服を買いに行くのを付き合ってくれない? ミーファさんと一緒にお出かけしたかったのよ!」
予想外の発言に呆気にとられている私の事など気にせずに、アンナがなぜか手招きしてくるので、近寄っていくと、私よりも背の低い彼女は少しだけ背伸びをして、私の耳元で言う。
「少し、相談したい事があるの」
「え? どんな?」
「明日、詳しく話そうと思うんだけど」
カーラに聞こえないようにするためか、アンナは私を部屋から廊下に引っ張り出すと、小さな声で言う。
「実は私、外見がおば様に生き写しだと言われているの」
「おば様?」
「ええ。亡くなった王妃様にそっくりだって言われてるの。お祖母様とおば様は見た目がそっくりだったらしいから、そのせいかも」
「そ、そうなの!?」
城にあった王妃様の肖像画を思い出す。
そう言われてみれば、似ていると言われれば似ているかもしれない。
肖像画の王妃様は今のアンナより五歳上の二十歳の時のものだし、アンナが大人になれば、もっと似てくるかもしれない。
「そのせいで、面倒な事になっていて」
「面倒な事?」
「ええ…」
アンナは前後左右を見回したあと、明日に話せばいいのに、彼女自身は少しでも早く言ってしまいたかったのか、小さな声で言った。
「ここ最近、おじ様から、二人きりで会いたいって言われてるの。元々、おじ様は私をその、気に入っているというか…」
おじ様…。
おば様は王妃様…。
という事は、おじ様って?
国王陛下!?
「まさか、嘘でしょ?」
「そう言いたくなる気持ちはわかるけど嘘じゃないわ。家族には言わないでくれって言われてるの。ミーファさんはまだ家族じゃないから、言ってもいいわよね?」
ミーファが困ったような顔で私を見上げた。
「嘘でしょだなんて言ってごめんなさい。あまりの事で驚いてしまって…。本当に嘘だと思ったわけじゃないの」
「気にしていないから、謝らないで! ちゃんと今は信じてくれているしいいのよ。陛下から、何度もお誘いを受けている内に、段々、怖くなってきて…。相手は国王陛下だから、友人にも相談できなくて、ミーファさんなら、国王陛下の実態を知っておられるでしょう?」
「そうね、よく知ってるわ」
アンナは誰かに相談したいけど、家族には言うなと言われているし、いくら親戚とはいえ、国王陛下から二人きりで会いたいと言われてるなんて、友人には相談できないわよね。
かといって、すごく面倒くさそうな相談を受けてしまう事になってしまった!
そりゃあ、スコッチ家の役には立ちたいけれど、こんな相談を受けるのは、元聖女には辛いんだけど…。
でも、アンナの悲しそうな表情を見たら、そんな気持ちなど一気に吹き飛んだ。
そうよね。
解決策が見つからなくとも、誰かに話を聞いてもらうだけでも楽になったりするもの。
私がアンナを支えてあげなくちゃ。
部屋の用意が出来たと言われたので、メイドさんに案内してもらう事にすると、リュークが一緒に付いてきて話しかけてきた。
「そうね。いつもなら、私に対して嫌味を言いそうなものなんだけど、大人しかったわね。まあ、伝言をもらったから、結局は同じ様なものかもしれないけど。」
王太子殿下は、私の事を役立たずや無能というだけではなく、背が高い女は気に入らん、など、手紙以外にも、時折出くわす事があれば、私にどうして欲しいのかわからない発言をまじえながら罵声を浴びせてきては、私の謝罪を聞いて満足するという人だった。
去り際に側近の人から伝言はされたけど、いつもなら、ネチネチと国王陛下と一緒になって、私を責め立ててきそうなものなのに…。
「でも、ただでさえ、不快な場面だったから、黙っていてくれたおかげで余計に嫌な気分にならなくて良かったわ。ニヤニヤしてて気持ち悪かったけど」
「王太子殿下は、ミーファにはやけに風当たりが強いみたいだな」
「王太子殿下、素敵! なんて、一回も言った事がないからじゃないかしら」
「そんな事を言わないと優しくしてもらえないなんておかしいだろ」
「だけど、相手は王太子殿下なのよ。あの人、陛下と性格が似ているところあるし、下手に文句を言ったら、何をいわれるかわからないから面倒よ」
小さく息を吐くと、リュークは申し訳なさそうな顔で言う。
「今まで、力になれなくてごめん。さすがに従兄弟といっても立場が違いすぎて、あまり干渉できなかったんだ。だけど、これからは近くにいれるし、ミーファを守るから」
「何言ってるのよ。 リュークにはいつも助けてもらってるじゃない! 今までもそうだし、今日だって助けてくれたじゃない!」
不思議だけど、助けてほしい時に一番に浮かぶのは彼の顔だし、今日も発言しにくい雰囲気の中、私を引き取ると言ってくれた。
国王陛下が何を言い出すかわからないから、他の人達は怖くて何も言い出せなかった。
もちろん、リュークは親戚という強みもあるのかもしれないけれど、彼だって何を言われるか恐怖があったはずなのに。
リュークの行動は本当に勇気のいる事だったと思う。
「ありがとう、リューク。一緒にいれる様になれて、本当に嬉しい」
「ほ、本当に!? その、俺も、嬉しい!」
パアッと明るい笑みを浮かべて言うリュークに、私が笑顔を返すと、メイドさんが話しかけてくる。
「お邪魔をしてしまい申し訳ございません。こちらが、ミーファ様のお部屋になります」
「ありがとうございます!」
部屋の前で立ち止まってくれたメイドさんにお礼を言うと、彼女は笑顔で部屋の扉を開けてくれた。
部屋の中には、私が持ってきていた荷物が運び込まれていて、元々は客室だったからか、ベッドや書き物机、安楽椅子など、家具としては少なめだけれど、私にとっては十分な部屋だった。
「女性に必要なものだと他に何がいるだろうか」
リュークがメイドさんに聞くので、慌てて止める。
「これで十分よ!」
「ミーファ様! そんな事はございません! 何より化粧台がありません。こちらに関しましては、当主様から新しい物を準備するようにと言われておりますので、届くまで、少々お待ちいただけますでしょうか」
メイドさんは興奮気味に言った後、慌てて頭を下げてくる。
「生意気な口をきいてしまい、申し訳ございません!」
「いいのよ、気にしないで! これからお世話になるんだから、そんなに気を遣わないで?」
「で、ですが!」
「ミーファは彼女にとっては、元聖女ではなく、今でも聖女なんだよ」
「どういう事?」
リュークに聞き返すと、彼が笑いながら、メイドさんの方を見て言う。
「彼女に聞いたらいい。俺はここで一度失礼するよ。女性同士だけの方が話しやすいだろうから」
リュークと別れ、メイドさんと一緒に部屋に入ってから、彼女には申し訳ないけど、私は安楽椅子に座り、彼女には立ってもらったまま、話を聞いた。
「ミーファ様は覚えていらっしゃらないと思いますが、私の父が、ミーファ様に怪我を治してもらった事があるんです」
「そうだったの? でも、それは聖女として当たり前の事だし…」
昼間は結界を張り、夜は泊まっている宿まで来てくれた人のみになるけど、事故などで大きな怪我をしてしまい、後遺症が残ってしまった人などに、無償で回復魔法をかけていた。
引き継ぎの際に、聖女の先輩には、そうする様に教えてもらったから、それが普通だと思っていたので、有難がられてしまうと困ってしまう。
「ここ最近の他の聖女様は、お金を払わないと治してくれなかったんです」
「はあ!?」
どこのどいつよ。
色ボケだけじゃなく、守銭奴にまでなってんの!?
も、もしかして、今の現役の聖女達は、皆、お金を取ってたの?
思い返してみると、見回りにいっていた土地で、回復魔法をかける際にお金を渡してこようとしてきた人がいたから、おかしいなとは思っていた。
その時はおかしいと思いつつも、治してくれたお礼としての善意かと思ってたけど、他の人達がお金をとってたからなのね!?
どうせ、王太子殿下をオトす為のアクセサリーやドレス代に消えたに違いない。
経済をまわしている事は確かだけど、お金のない人には回復魔法をかけてあげないなんて、歴代の聖女ではありえない。
恋をするのはかまわないけど、聖女の評判を落とす様な事ばかりするのはやめてほしい。
声を上げたくなったけど、彼女には関係ないので、まずは謝罪する。
「ごめんなさい。本当は無償なはずなんだけど、間違ってお金をとってしまっていたみたい」
「気になさらないで下さい! 私の父は一度、違う聖女様にそう言われて、お金が払えなくて断念したんです。でも、ミーファ様が来て下さり、駄目元でお願いしてみたら、快く回復魔法をかけていただけたみたいで、父は本当に感謝しています! もちろん、父だけでなく、家族全員です!」
たくさんの人に回復魔法をかけてるから、どの人かなんて、さっぱりわからないけど、喜んでもらえたなら本当に良かった。
「役に立てたのなら、本当に良かった。そう言ってくれて、私も嬉しい」
「申し遅れました、私、カーラと申します! ミーファ様付きのメイドになりますので、なんなりとお申し付け下さい!」
赤色の髪をシニヨンにし、髪と同じ色の瞳を持つの幼い顔立ちで小柄なカーラは満面の笑みを浮かべて、私に向かって言った。
その笑みを受けて、私も笑みを返す。
「こちらこそ、よろしくね」
あまり、スコッチ家に長くお邪魔するのは良くないと思いつつも、自分一人で暮らしていくには、まだまだ時間がかかるだろうし、申し訳ないけど、彼女とは長い付き合いになりそう。
そして、彼女も含め、この屋敷の人と仲良くやれますように。
ここの使用人達が王城にいる聖女達のように、仕事をサボりまくる人達じゃありませんように…!
「ミーファさん!」
カーラと話をしていると、リュークの妹のアンナが腰まである長いストレートの黒髪を揺らして、開けっ放しにされていた扉の向こうからひょっこりと顔を出した。
「どうしたの、アンナ」
「今まではゆっくりお話出来なかったじゃない? 聖女様じゃなくなったんだったら、少しは時間はあるわよね?」
「え…、ええ」
もしかして、新人いじめみたいな事をされるのかと気構えていると、アンナは笑顔で言う。
「明日、お洋服を買いに行くのを付き合ってくれない? ミーファさんと一緒にお出かけしたかったのよ!」
予想外の発言に呆気にとられている私の事など気にせずに、アンナがなぜか手招きしてくるので、近寄っていくと、私よりも背の低い彼女は少しだけ背伸びをして、私の耳元で言う。
「少し、相談したい事があるの」
「え? どんな?」
「明日、詳しく話そうと思うんだけど」
カーラに聞こえないようにするためか、アンナは私を部屋から廊下に引っ張り出すと、小さな声で言う。
「実は私、外見がおば様に生き写しだと言われているの」
「おば様?」
「ええ。亡くなった王妃様にそっくりだって言われてるの。お祖母様とおば様は見た目がそっくりだったらしいから、そのせいかも」
「そ、そうなの!?」
城にあった王妃様の肖像画を思い出す。
そう言われてみれば、似ていると言われれば似ているかもしれない。
肖像画の王妃様は今のアンナより五歳上の二十歳の時のものだし、アンナが大人になれば、もっと似てくるかもしれない。
「そのせいで、面倒な事になっていて」
「面倒な事?」
「ええ…」
アンナは前後左右を見回したあと、明日に話せばいいのに、彼女自身は少しでも早く言ってしまいたかったのか、小さな声で言った。
「ここ最近、おじ様から、二人きりで会いたいって言われてるの。元々、おじ様は私をその、気に入っているというか…」
おじ様…。
おば様は王妃様…。
という事は、おじ様って?
国王陛下!?
「まさか、嘘でしょ?」
「そう言いたくなる気持ちはわかるけど嘘じゃないわ。家族には言わないでくれって言われてるの。ミーファさんはまだ家族じゃないから、言ってもいいわよね?」
ミーファが困ったような顔で私を見上げた。
「嘘でしょだなんて言ってごめんなさい。あまりの事で驚いてしまって…。本当に嘘だと思ったわけじゃないの」
「気にしていないから、謝らないで! ちゃんと今は信じてくれているしいいのよ。陛下から、何度もお誘いを受けている内に、段々、怖くなってきて…。相手は国王陛下だから、友人にも相談できなくて、ミーファさんなら、国王陛下の実態を知っておられるでしょう?」
「そうね、よく知ってるわ」
アンナは誰かに相談したいけど、家族には言うなと言われているし、いくら親戚とはいえ、国王陛下から二人きりで会いたいと言われてるなんて、友人には相談できないわよね。
かといって、すごく面倒くさそうな相談を受けてしまう事になってしまった!
そりゃあ、スコッチ家の役には立ちたいけれど、こんな相談を受けるのは、元聖女には辛いんだけど…。
でも、アンナの悲しそうな表情を見たら、そんな気持ちなど一気に吹き飛んだ。
そうよね。
解決策が見つからなくとも、誰かに話を聞いてもらうだけでも楽になったりするもの。
私がアンナを支えてあげなくちゃ。
35
お気に入りに追加
3,808
あなたにおすすめの小説
妹に一度殺された。明日結婚するはずの死に戻り公爵令嬢は、もう二度と死にたくない。
たかたちひろ【令嬢節約ごはん23日発売】
恋愛
婚約者アルフレッドとの結婚を明日に控えた、公爵令嬢のバレッタ。
しかしその夜、無惨にも殺害されてしまう。
それを指示したのは、妹であるエライザであった。
姉が幸せになることを憎んだのだ。
容姿が整っていることから皆や父に気に入られてきた妹と、
顔が醜いことから蔑まされてきた自分。
やっとそのしがらみから逃れられる、そう思った矢先の突然の死だった。
しかし、バレッタは甦る。死に戻りにより、殺される数時間前へと時間を遡ったのだ。
幸せな結婚式を迎えるため、己のこれまでを精算するため、バレッタは妹、協力者である父を捕まえ処罰するべく動き出す。
もう二度と死なない。
そう、心に決めて。
忘れられた幼な妻は泣くことを止めました
帆々
恋愛
アリスは十五歳。王国で高家と呼ばれるう高貴な家の姫だった。しかし、家は貧しく日々の暮らしにも困窮していた。
そんな時、アリスの父に非常に有利な融資をする人物が現れた。その代理人のフーは巧みに父を騙して、莫大な借金を負わせてしまう。
もちろん返済する目処もない。
「アリス姫と我が主人との婚姻で借財を帳消しにしましょう」
フーの言葉に父は頷いた。アリスもそれを責められなかった。家を守るのは父の責務だと信じたから。
嫁いだドリトルン家は悪徳金貸しとして有名で、アリスは邸の厳しいルールに従うことになる。フーは彼女を監視し自由を許さない。そんな中、夫の愛人が邸に迎え入れることを知る。彼女は庭の隅の離れ住まいを強いられているのに。アリスは嘆き悲しむが、フーに強く諌められてうなだれて受け入れた。
「ご実家への援助はご心配なく。ここでの悪くないお暮らしも保証しましょう」
そういう経緯を仲良しのはとこに打ち明けた。晩餐に招かれ、久しぶりに心の落ち着く時間を過ごした。その席にははとこ夫妻の友人のロエルもいて、彼女に彼の掘った珍しい鉱石を見せてくれた。しかし迎えに現れたフーが、和やかな夜をぶち壊してしまう。彼女を庇うはとこを咎め、フーの無礼を責めたロエルにまで痛烈な侮蔑を吐き捨てた。
厳しい婚家のルールに縛られ、アリスは外出もままならない。
それから五年の月日が流れ、ひょんなことからロエルに再会することになった。金髪の端正な紳士の彼は、彼女に問いかけた。
「お幸せですか?」
アリスはそれに答えられずにそのまま別れた。しかし、その言葉が彼の優しかった印象と共に尾を引いて、彼女の中に残っていく_______。
世間知らずの高貴な姫とやや強引な公爵家の子息のじれじれなラブストーリーです。
古風な恋愛物語をお好きな方にお読みいただけますと幸いです。
ハッピーエンドを心がけております。読後感のいい物語を努めます。
※小説家になろう様にも投稿させていただいております。
私は幼い頃に死んだと思われていた侯爵令嬢でした
さこの
恋愛
幼い頃に誘拐されたマリアベル。保護してくれた男の人をお母さんと呼び、父でもあり兄でもあり家族として暮らしていた。
誘拐される以前の記憶は全くないが、ネックレスにマリアベルと名前が記されていた。
数年後にマリアベルの元に侯爵家の遣いがやってきて、自分は貴族の娘だと知る事になる。
お母さんと呼ぶ男の人と離れるのは嫌だが家に戻り家族と会う事になった。
片田舎で暮らしていたマリアベルは貴族の子女として学ぶ事になるが、不思議と読み書きは出来るし食事のマナーも悪くない。
お母さんと呼ばれていた男は何者だったのだろうか……? マリアベルは貴族社会に馴染めるのか……
っと言った感じのストーリーです。
貴方が選んだのは全てを捧げて貴方を愛した私ではありませんでした
ましゅぺちーの
恋愛
王国の名門公爵家の出身であるエレンは幼い頃から婚約者候補である第一王子殿下に全てを捧げて生きてきた。
彼を数々の悪意から守り、彼の敵を排除した。それも全ては愛する彼のため。
しかし、王太子となった彼が最終的には選んだのはエレンではない平民の女だった。
悲しみに暮れたエレンだったが、家族や幼馴染の公爵令息に支えられて元気を取り戻していく。
その一方エレンを捨てた王太子は着々と破滅への道を進んでいた・・・
辺境伯へ嫁ぎます。
アズやっこ
恋愛
私の父、国王陛下から、辺境伯へ嫁げと言われました。
隣国の王子の次は辺境伯ですか… 分かりました。
私は第二王女。所詮国の為の駒でしかないのです。 例え父であっても国王陛下には逆らえません。
辺境伯様… 若くして家督を継がれ、辺境の地を護っています。
本来ならば第一王女のお姉様が嫁ぐはずでした。
辺境伯様も10歳も年下の私を妻として娶らなければいけないなんて可哀想です。
辺境伯様、大丈夫です。私はご迷惑はおかけしません。
それでも、もし、私でも良いのなら…こんな小娘でも良いのなら…貴方を愛しても良いですか?貴方も私を愛してくれますか?
そんな望みを抱いてしまいます。
❈ 作者独自の世界観です。
❈ 設定はゆるいです。
(言葉使いなど、優しい目で読んで頂けると幸いです)
❈ 誤字脱字等教えて頂けると幸いです。
(出来れば望ましいと思う字、文章を教えて頂けると嬉しいです)
【完結】元強面騎士団長様は可愛いものがお好き〜虐げられた元聖女は、お腹と心が満たされて幸せになる〜
水都 ミナト
恋愛
女神の祝福を受けた聖女が尊ばれるサミュリア王国で、癒しの力を失った『元』聖女のミラベル。
『現』聖女である実妹のトロメアをはじめとして、家族から冷遇されて生きてきた。
すっかり痩せ細り、空腹が常となったミラベルは、ある日とうとう国外追放されてしまう。
隣国で力尽き果て倒れた時、助けてくれたのは――フリルとハートがたくさんついたラブリーピンクなエプロンをつけた筋骨隆々の男性!?
そんな元強面騎士団長のアインスロッドは、魔物の呪い蝕まれ余命一年だという。残りの人生を大好きな可愛いものと甘いものに捧げるのだと言うアインスロッドに救われたミラベルは、彼の夢の手伝いをすることとなる。
認めとくれる人、温かい居場所を見つけたミラベルは、お腹も心も幸せに満ちていく。
そんなミラベルが飾り付けをしたお菓子を食べた常連客たちが、こぞってとあることを口にするようになる。
「『アインスロッド洋菓子店』のお菓子を食べるようになってから、すこぶる体調がいい」と。
一方その頃、ミラベルを追いやった実妹のトロメアからは、女神の力が失われつつあった。
◇全15話、5万字弱のお話です
◇他サイトにも掲載予定です
妹に全てを奪われた伯爵令嬢は遠い国で愛を知る
星名柚花
恋愛
魔法が使えない伯爵令嬢セレスティアには美しい双子の妹・イノーラがいる。
国一番の魔力を持つイノーラは我儘な暴君で、セレスティアから婚約者まで奪った。
「もう無理、もう耐えられない!!」
イノーラの結婚式に無理やり参列させられたセレスティアは逃亡を決意。
「セラ」という偽名を使い、遠く離れたロドリー王国で侍女として働き始めた。
そこでセラには唯一無二のとんでもない魔法が使えることが判明する。
猫になる魔法をかけられた女性不信のユリウス。
表情筋が死んでいるユリウスの弟ノエル。
溺愛してくる魔法使いのリュオン。
彼らと共に暮らしながら、幸せに満ちたセラの新しい日々が始まる――
※他サイトにも投稿しています。
辺境伯令嬢の私に、君のためなら死ねると言った魔法騎士様は婚約破棄をしたいそうです
茜カナコ
恋愛
辺境伯令嬢の私に、君のためなら死ねると言った魔法騎士様は婚約破棄をしたいそうです
シェリーは新しい恋をみつけたが……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる