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2  行こうとしないの?

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 食事を終えた後は、やわらかな陽射しも心地よいので、そのままベンチでまったりしていると、私の右隣に誰かが腰をおろしたので、慌てて、だらりとしていた体を起こした。
 それと同時に、私の前を通った誰かが、積み上げられたバスケットを抱え、左隣に腰をおろした。

 私を挟む様にして座ったのは、この国の第二王子と第三王子だった。

「久しぶりだな、ミーファ」
「ミーファさん、いつもご苦労様です。相変わらず、すごくたくさん食べられたんですね。たくさん食べる女性は素敵です」

 第三王子が空になったバスケットを、自分の横の空いているスペースに置いてから微笑む。

 第二王子のリーフ殿下は私と同じ年、第三王子のカイン殿下は私より二つ下の十五歳。

 王太子殿下にべったりな他の聖女達に呆れていて、王太子殿下にだけでなく、王族への嫁入りに全く興味を示さない私と話す方が気が楽らしくて、昔から他の聖女とはあまり関わらず、私とだけ仲良くしてくれている、私にとってはまともな王族だ。

 二人共、金色の髪にブルーの瞳がとても綺麗で、整った顔立ちをしている。
 王太子殿下は気が強そうといった感じの見た目だけど、こちらの二人は、物腰穏やかといった感じで可愛らしい顔立ちと言える。

「お久しぶりです、第二王子殿下、第三王子殿下」

 聖女は王族と同じ扱いだから、本当は二人に畏まらなくてもいいのだけれど、やはり気を遣うので、二人に向かって頭を軽く下げる。

「久しぶりだね。ミーファは何かと忙しそうだから、このまま会えないかと思っていたんだ。だから、今日会えて本当に良かった。ミーファに伝えないといけない事があるんだよ」
「私も、兄上と同じ理由で、ミーファさんに会いたかったんです」

 私に会いたかったと言っているわりには、リーフ殿下とカイン殿下は、端正な顔を歪めている。
 
 何か悪い知らせかしら?

 二人を交互に見てから、話を促す。

「どうかされましたか?」
「僕達は少しの間、城を離れなくてはいけなくなった」
「どういう事です?」

 何があったのかとリーフ殿下に聞いてみると、他国の学園に交換留学生として行かなければならなくなってしまったと教えてくれた。

 リーフ殿下とカイン殿下は、王太子殿下に良く思われていない私を庇ってくれる人達だった。
 だから、味方がいなくなると思うと少しだけ心細いし、何よりしばらく二人に会えなくなる事も寂しかった。

 なぜ、二人が交換留学に行かなければならなくなったかというと、以前、私が王太子殿下に「俺より背が高いなんて許せん」と、言いがかりをつけられた時に、二人が助けてくれたのだけど、王太子殿下はそれが気に食わなかったらしい。

 二人に「兄に逆らう弟など許さない。他国へ行って礼儀を勉強しなおして来い」と命令し、王太子殿下は彼の側近に頼み、二人を交換留学生として城から離れさせる様にしたみたいだった。

 私のせいで申し訳ない。
 別に礼儀なら、今、通っておられる学園でも学べるはずなのに、わざわざ留学させるのは私への嫌がらせでもあるんだろう。

「あの、私も付き添えたら良いのですが…」

 他国へ渡らないといけない為、道中は魔物に襲われるかもしれない危険性が多々ある。
 だから、聖女が付き添うべきなのだろうと思って手を挙げると、リーフ殿下が首を横に振る。

「兄上がそれを許可しないよ。それに、他国の聖女が迎えに来てくれるらしいんだ。だから大丈夫だよ」

 リーフ殿下は微笑んだ後、すぐに厳しい表情になって言う。
 
「身内の恥を口にしてしまうけれど、父上も兄上も国民の事を大事に考えていない。もちろん、国民の前では、そんな事を決して口に出したりしないけどね。そして、兄上は自分になびかない君が面白くないと思っているのは知ってるだろう?」
「…はい」
「私達がいなくなると、ミーファさんの味方に付く王族がいなくなってしまいます。母上が健在なら、力になってくれたかもしれませんが…」

 王妃様はカイン殿下が三歳の時に病で亡くなったと聞いている。
 国王陛下はひどく悲しまれたそうで、数年後、側室は迎えたものの、新たな王妃は迎えられていない。
 そして、王妃様が亡くなってしまってからは、国王陛下は、国民の事を考えない王になってしまったんだそうだ。

 理由を聞いたところによると、王妃様の病は、とある薬草があれば助かったらしいのだけど、その薬草は結界の外にしかなく、魔族や魔物を恐れた国民達が薬草を採りにいってくれなかったらしい。
 賞金稼ぎなどに頼めば良かったのかもしれないけれど、お金をケチったせいで、リスクと、もらえる金額が合わないという事で、誰も行ってくれなかったらしくて、国王陛下はその事を逆恨みしているのだそう。

 自分の妻が苦しんでいるのに、国民は誰も助けてくれなかった。

 国王陛下は側近に、そう漏らしていたらしい。

 なんとも言えない気分になる。
 そんなに大切な人を助けたかったんなら、お金はあるんだから、出し惜しみなんてしなければ良かったのに…。

 国王陛下が使える予算は莫大なのだから、賞金稼ぎを雇えたはずなのに、出し惜しみしてしまったのは、自分の国の国民なのだから、自分の為に働け、と思っていたかららしい。

 ちなみに、この国の聖女は傷は癒せても病気は癒せない人が多い。
 たまに病気も癒せる聖女が出現するらしいけれど、百年に一度くらいにしか現れないらしい。

 王妃様が亡くなった十二年前には、病気を治せる聖女はおらず、国王陛下は聖女の事さえも、あまり良く思っていないみたい。

 王妃様は元辺境伯令嬢で、国王陛下とは恋愛結婚であり、聖女ではなかった。
 聖女であったなら、国王陛下の聖女への風当たりもマシだったんだろうか…。

 王妃様は優しい人だったらしいし、今の国王陛下や王太子殿下の姿を見たら、どう思われるんだろう。
 国王陛下は、王妃様の事を思い出して、そんな事を考えたりする事もないのかしら?

「あの、私の事は気になさらないで下さい。私がご迷惑をおかけしたようなものですから…。本当に申し訳ございません。お二人共、どうか身体に気を付けて下さいね」
「ミーファもな。あまり働いてばかりだと、体調を崩してしまうからね。あと、君が謝る必要はないからね。兄上に言いがかりをつけられている君を助けた事、僕達は正しい事をしたと思っているし、後悔もしていないよ」
「そうですよ。それに、兄上がミーファさんを目の敵にする理由がわかりません。他の聖女は、ほとんど城にいてばかりで、結界を張りに行っていないじゃないですか。ミーファさんの身体の方が心配です」

 殿下達が心配げな表情で見てくるので、苦笑して答える。

「そうですね。ここ最近は、私が彼女達の代わりに行っている事が多いです。今日は半年ぶりくらいの休みなんですよ」
「僕も兄上に、他の聖女に行かせるように伝えているんだが、兄上の側近に確認したら、チヤホヤされる事に慣れてしまっていて、一日でも顔を見かけない聖女がいたら冷たい態度を取るらしい。だから、他の聖女は僕達が頼んでも行ってくれない。兄上に嫌われたくないからだ。どうして、聖女が自分のところに来ない事を嫌がるのか、我が兄ながら、何を考えているのかわからないよ」

 リーフ殿下が肩を落とした。
 
 殿下、それ、わからないのが普通だと思います…。

 それにしても、知ってはいたけど最悪な王太子殿下ね。
 結界が破られたら、大変な事になるかもしれないのに…。
 国民が犠牲になってもいいのかしら?

「兄上は王都が無事なら、それで良いと思っておられます。そんな訳ない事くらい、少し考えればわかるはずなのに…」
 
 カイン殿下も大きなため息を吐いた。
 第二王子と第三王子は普通に育ってるのに、長男の王太子がダメダメとは…。
 世の中、うまくいかないものね。

 それとも駄目な父と兄が彼らにとっては、反面教師になったのかもしれない。

「ミーファ、君には苦労ばかりかけてごめん。また、お礼になるかはわからないけど、落ち着いたら、他国の名産を送るよ」
「私も、食べ物を送りますね。それから、ミーファさんの旅でのお話もまた、聞かせて下さい!」
「こちらこそ、交換留学での話を聞かせて下さい!」
「あ、そうだ。リュークが君に会いたがっていたよ」

 リーフ殿下に言われて聞き返す。

「リーフ殿下はリュークに会ったんですか?」
「先日、知り合いのパーティーに出席してね。リュークも来てたんだ。君が元気か、男性の影はないか、とか、色々と聞かれたよ」

 リュークのお父様と亡き王妃様が兄妹だったため、同じ年のリーフ殿下とリュークは小さい頃から交流があるので、仲は良いと聞いている。

 かといって、どうして、リュークは私の事を聞いたりしたんだろう?
 心配してくれてるのかな?

 小一時間程、話をした後、私達は名残惜しい気持ちはありながらも、笑顔で別れた。





 そして、リーフ殿下達が旅立った次の日、私がキュララの代わりに旅に出ようとしていた矢先、恐れていた出来事が起こった事をキュララから聞かされる事になる。

「大変よ、ミーファ! 今すぐ北の辺境伯の領土まで行ってちょうだい!」
「一体、何なの」

 私が元々、キュララに頼まれて行こうとしていた場所は、国内でいえば最南の地で、南の辺境伯の領土だった。
 だから、方向が逆方向なので断ろうとしたけれど、次の言葉を聞いて、そうも言っていられなくなった。

「魔物が入り込んだのよ!」

 詳しく聞いてみると、私ではない聖女の一人が張った結界の力が弱かった、もしくは大きな穴があったのか、破られてしまった今では原因はもうわからないけど、魔物が人の多く住む地域に入ってしまったという。

「ボーッとしてないで、早く行って!」

 キュララが半泣きになって叫ぶ。

 いや、わかる。
 わかるんだけど。
 こんな事を言っている場合じゃないって事も。
 だけど、言わせて?

「もしかして、キュララって聖女じゃなくなった? こんな緊急事態なのに、どうしてあなたは行こうとしないの?」

 私は真剣に彼女に問いかけた。
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