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番外編
少しでも一緒にいたい人
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「ギル様、ここの答えはわかりますか?」
無事に新しい学年に進級したギルバートとアリカだったが、クラスが一緒になる事はない。
なぜなら、学科が違うからだ。
だから、少しでも一緒に一緒にいる為に、ギルバートは休みの日にアリカを勉強会という名目で誘い、会う口実を作っている。
普通にデートに誘えば良いのだが、自分はまだ学生の身であり、家のお金を使って遊ぶわけにはいかないと考えていた。
(2人で出かけたりしたら、アリカが欲しがるものを買ってしまいそうな気がする…。もちろん、彼女は買って欲しいだなんて言わないと思うが、顔を見たらわかるしな。それをするなら、卒業後に…)
「ギル様、聞こえてます?」
「………」
「ギル様っ!」
向かいに座るアリカに強い口調で声を掛けられ、ギルバートは我に返った。
「――っ!? どうかしたのか?」
目の前には心配そうに自分を見つめているアリカの顔があり、ギルバートは平静を装って聞き返したのだが、どうかしたのか聞きたいのは彼女も同じだった。
「それはこっちの台詞です。体調が悪いようでしたら、今日はお暇しますが…?」
「すまない。考え事をしていた…。体調の方は大丈夫だから気にしないでくれ」
「本当ですか?」
アリカは心配そうな表情のまま、ギルバートを見つめる。
今日は正直いえば、体調が良くないのは確かだった。
けれど、アリカの顔を見たら、体のだるさなど吹っ飛んでしまっているので、彼にとっては大丈夫だった。
今までは、至近距離で彼女の顔を見ても、そこまで動揺することのなかったギルバートだが、最近は違う。
だから、視線をそらして答える。
「本当に大丈夫だから。……で、何か聞きたいところでもあるのか?」
「あ、はい! この部分なんですけど…」
ギルバートの動揺など、アリカは気にする様子もなく、机の上に置いてある教科書の一部分を指差す。
「……がわからなくて…、……ですけど、どういう事なんでしょう?」
一生懸命、説明しようとしているアリカの表情がコロコロ変わるのが可愛くて見入ってしまっていると、また、彼女の質問を聞き逃してしまった。
「悪い。もう一度」
「……今日はギル様の体調が良くないみたいですから帰ります!」
「えっ!?」
怒らせてしまったのかと思い、ギルバートは慌てて、アリカに向かって手を伸ばす。
「気分を悪くさせたなら悪かった。その、他の事というか、違う事を考えてしまっていて…」
「体調が悪いわけではないんですか? 無理していらっしゃるんじゃないかと思って…」
アリカはどうやら怒ったわけではなく、ギルバートが体調が悪いのに無理をして自分と会っているのではないかと思ったようだった。
「いやその…」
ギルバートは自分の顔が熱くなるのを感じて、アリカから視線をそらす。
「ギル様、顔が赤いです。やっぱり、体調が悪いんじゃないですか? 熱があるのかも?」
アリカは「失礼します」と言ってから机に身を乗り出し、ギルバートの額に手を当てて叫ぶ。
「ギル様、すごく熱いです!」
「いや、これは大丈夫だから…」
「駄目ですよ! 頬がすごく熱いです! 耳まで赤くなってます!」
アリカはギルバートの額から手を離すと、彼が止める間もなく、部屋の扉を開けて叫ぶ。
「すみません! ルード様を呼んでいただけますか? ギル様が体調が悪いのに無理してお勉強なさるんです。止めてもらいたくて」
ちょうど通りがかったメイドが慌てて、ルードを呼びに走っていく。
アリカはギルバートの所まで戻ってくると、眉根を寄せて言う。
「これからは無理して会おうとしないで下さいね?」
「いや、でも、せっかく会える機会なのに…」
ギルバートが素直に気持ちを口にすると、アリカは頬を赤らめてはにかんだ。
そして、すぐにギルバートを見て微笑む。
「お望みでしたら、看病しに来ます」
「……じゃあ、お願い…、いや、病気をうつしてはいけないし」
「今、無理してらっしゃるんなら一緒じゃないですか?」
「……」
尤もな事を言われてしまい、ギルバートは観念して言う。
「じゃあ、その、迷惑にならない程度に、お願いできるだろうか」
「はい!」
普通なら看病はメイドがするものなのだが、アリカは幼い頃に母を病気で亡くしている。
子供の頃に、少しでも母と一緒にいたくて看病していた経験があり、ギルバートの看病をする事も苦にならない様だった。
「ギル様が眠るまで一緒にいますね」
「…眠れないと思う」
「ベッドに入って、目をつぶれば眠れます。だって、ギル様、あまり寝ておられないでしょう? 目にくまが出来てます」
アリカが苦笑して、自分の目元を指差す。
アリカに会う時間を作る為に、家での仕事を夜中まで置きて捌いていた。
そのせいで、睡眠時間が少なくなっていた為、ギルバートが寝不足なのは確かだった。
そうしている内にルードがやって来て、ギルバートに熱がある事がわかると、アリカを家に帰らせようとしたが、アリカはそれを断り、ギルバートが着替えたりしている間に、メイドと一緒に看病する用意を整えてくれた。
「ギルバート様が眠ったら帰ります」
「眠らない」
そう言ったギルバートだったが、横になってアリカと話している内に、薬のせいもあるのか、自然とまぶたが閉じていく。
彼が眠ったら、帰るつもりでいたアリカだったが、眠ってしまったギルバートが彼女の手をつかんだままだった為、ルードが様子を見に来るまで、アリカは帰れずにいたのだった。
無事に新しい学年に進級したギルバートとアリカだったが、クラスが一緒になる事はない。
なぜなら、学科が違うからだ。
だから、少しでも一緒に一緒にいる為に、ギルバートは休みの日にアリカを勉強会という名目で誘い、会う口実を作っている。
普通にデートに誘えば良いのだが、自分はまだ学生の身であり、家のお金を使って遊ぶわけにはいかないと考えていた。
(2人で出かけたりしたら、アリカが欲しがるものを買ってしまいそうな気がする…。もちろん、彼女は買って欲しいだなんて言わないと思うが、顔を見たらわかるしな。それをするなら、卒業後に…)
「ギル様、聞こえてます?」
「………」
「ギル様っ!」
向かいに座るアリカに強い口調で声を掛けられ、ギルバートは我に返った。
「――っ!? どうかしたのか?」
目の前には心配そうに自分を見つめているアリカの顔があり、ギルバートは平静を装って聞き返したのだが、どうかしたのか聞きたいのは彼女も同じだった。
「それはこっちの台詞です。体調が悪いようでしたら、今日はお暇しますが…?」
「すまない。考え事をしていた…。体調の方は大丈夫だから気にしないでくれ」
「本当ですか?」
アリカは心配そうな表情のまま、ギルバートを見つめる。
今日は正直いえば、体調が良くないのは確かだった。
けれど、アリカの顔を見たら、体のだるさなど吹っ飛んでしまっているので、彼にとっては大丈夫だった。
今までは、至近距離で彼女の顔を見ても、そこまで動揺することのなかったギルバートだが、最近は違う。
だから、視線をそらして答える。
「本当に大丈夫だから。……で、何か聞きたいところでもあるのか?」
「あ、はい! この部分なんですけど…」
ギルバートの動揺など、アリカは気にする様子もなく、机の上に置いてある教科書の一部分を指差す。
「……がわからなくて…、……ですけど、どういう事なんでしょう?」
一生懸命、説明しようとしているアリカの表情がコロコロ変わるのが可愛くて見入ってしまっていると、また、彼女の質問を聞き逃してしまった。
「悪い。もう一度」
「……今日はギル様の体調が良くないみたいですから帰ります!」
「えっ!?」
怒らせてしまったのかと思い、ギルバートは慌てて、アリカに向かって手を伸ばす。
「気分を悪くさせたなら悪かった。その、他の事というか、違う事を考えてしまっていて…」
「体調が悪いわけではないんですか? 無理していらっしゃるんじゃないかと思って…」
アリカはどうやら怒ったわけではなく、ギルバートが体調が悪いのに無理をして自分と会っているのではないかと思ったようだった。
「いやその…」
ギルバートは自分の顔が熱くなるのを感じて、アリカから視線をそらす。
「ギル様、顔が赤いです。やっぱり、体調が悪いんじゃないですか? 熱があるのかも?」
アリカは「失礼します」と言ってから机に身を乗り出し、ギルバートの額に手を当てて叫ぶ。
「ギル様、すごく熱いです!」
「いや、これは大丈夫だから…」
「駄目ですよ! 頬がすごく熱いです! 耳まで赤くなってます!」
アリカはギルバートの額から手を離すと、彼が止める間もなく、部屋の扉を開けて叫ぶ。
「すみません! ルード様を呼んでいただけますか? ギル様が体調が悪いのに無理してお勉強なさるんです。止めてもらいたくて」
ちょうど通りがかったメイドが慌てて、ルードを呼びに走っていく。
アリカはギルバートの所まで戻ってくると、眉根を寄せて言う。
「これからは無理して会おうとしないで下さいね?」
「いや、でも、せっかく会える機会なのに…」
ギルバートが素直に気持ちを口にすると、アリカは頬を赤らめてはにかんだ。
そして、すぐにギルバートを見て微笑む。
「お望みでしたら、看病しに来ます」
「……じゃあ、お願い…、いや、病気をうつしてはいけないし」
「今、無理してらっしゃるんなら一緒じゃないですか?」
「……」
尤もな事を言われてしまい、ギルバートは観念して言う。
「じゃあ、その、迷惑にならない程度に、お願いできるだろうか」
「はい!」
普通なら看病はメイドがするものなのだが、アリカは幼い頃に母を病気で亡くしている。
子供の頃に、少しでも母と一緒にいたくて看病していた経験があり、ギルバートの看病をする事も苦にならない様だった。
「ギル様が眠るまで一緒にいますね」
「…眠れないと思う」
「ベッドに入って、目をつぶれば眠れます。だって、ギル様、あまり寝ておられないでしょう? 目にくまが出来てます」
アリカが苦笑して、自分の目元を指差す。
アリカに会う時間を作る為に、家での仕事を夜中まで置きて捌いていた。
そのせいで、睡眠時間が少なくなっていた為、ギルバートが寝不足なのは確かだった。
そうしている内にルードがやって来て、ギルバートに熱がある事がわかると、アリカを家に帰らせようとしたが、アリカはそれを断り、ギルバートが着替えたりしている間に、メイドと一緒に看病する用意を整えてくれた。
「ギルバート様が眠ったら帰ります」
「眠らない」
そう言ったギルバートだったが、横になってアリカと話している内に、薬のせいもあるのか、自然とまぶたが閉じていく。
彼が眠ったら、帰るつもりでいたアリカだったが、眠ってしまったギルバートが彼女の手をつかんだままだった為、ルードが様子を見に来るまで、アリカは帰れずにいたのだった。
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