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第25話 王妃陛下の悲鳴

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 どうして、王妃陛下がディルに会いに来るの?
 ディルの事が苦手だったんじゃ…?
 それに、王妃陛下の方が立場が上なのだから、ディルを呼び寄せるのが普通だと思うのだけど…。 
  
 そんな疑問が浮かんだけれど、ここでその話をしている暇はない。

「ディル、私は部屋に戻ります」
「ああ。そうだな。話が終わったら、レイアの部屋に行くから、話の続きをしよう」
「別に気にしなくてもよろしいですのに…」
「俺が気にするんだよ」

 ディルが真剣な顔で言うので、これ以上は何も言わずに首を縦に振る。

「では、部屋でお待ちしております。お忙しければ、無理はしないでくださいね」

 一礼して執務室から出ると、王妃陛下と当たり前だけれど出くわしたので、カーテシーをして、挨拶の言葉を述べると、背の高いスレンダー体型の王妃陛下は、ヒールを履いていらっしゃるからか、より背が高くなっていて、私を見下ろすようにしながら扇で口元を隠して言う。

「ちょうど良いわ。あなたも良かったら聞いていってくださいな。あなたにも関わる事ですからね?」
「……私にも関わる事……ですか?」
「ええ、そうよ。とっても関わることです」

 ストレートの金色の長い髪を揺らして、元々細い目をもっと細くして微笑まれた王妃陛下は、とても狡猾そうに見えた。

「承知しました」

 そう言って一礼してから、すぐに執務室の中に戻ると、仮面をつけたディルが驚いた声を上げる。

「どうしたんだ?」
「王妃陛下が私にも関わってくる話があると言うんです」
「レイアに関わってくる話…?」
「一緒に聞いた方が良いですよね」

 ディルに尋ねると、彼は首を縦に振る。

「そうだな。王妃陛下の命令でもあるし」
「承知しました」

 私が頷くと、ディルは扉を開け、王妃陛下を応接のソファーに座るようにすすめ、私とディルはその向かい側のソファーに並んで座った。

 王妃陛下のメイドが王妃陛下の分のお茶をいれて去っていった後、王妃陛下は青色の瞳を私達に向けて口を開く。

「ドボン公爵家の方から連絡が来ているの」
「ドボン公爵家から…?」

 まさか、私へのクレームかしら?

 そう思って聞き返すと、王妃陛下は答える。

「ええ。長男のシンラさんが、レイアさん、あなたの事をとても気に入ったそうよ」
「私はお会いした事がないはずですが…?」

 この国の貴族で会った事があると言えば、ディルの周りにいる人だけ。

 だから、ドボン公爵家の長男に会っているとは思えない。

「会ってはいないの。彼があなたを遠巻きで見ただけらしいの」
「……何を仰りたいのかだけ教えてもらえませんか?」

 ディルが強い口調で尋ねると、王妃陛下は扇をパチンという音を立てて閉じると答える。

「シンラさんはレイアさんを自分の妻にしたいと望んでいるのよ。ねえ、とても良いお話だと思わない?」
「思いません。大体、今回の婚約は国同士で決めた事です」
「あら、えらくムキになるのね? セイラ王女とそんなにも結婚したくないの? それとも…、あなたも、レイアさんの事を気に入っているの…?」

 王妃陛下が嫌な笑みを浮かべて、ディルを見た。

 すごく気分が悪い。
 こんな人に気を遣う必要はあるの?
 ディルに仮面を今すぐに取ってほしいと言いたくなったけれど、何とかこらえた。

「気に入っている気に入ってないの問題ではありません」
「では、ディル、あなたはセレン王女と結婚なさい?」
「彼女は他に婚約者がいるでしょう。それに俺は…」

 ディルが私をちらりと見てから口を噤んだ。

 別に私に遠慮しなくても良いのに…。
 普通にセレン様よりもマシだからと言ってくれたらいいだけよ…。

「まだ、セレン王女達はご結婚なさっていないし、結婚していても別れてもらえればそれで良いの。私が段取りしてあげるわ」
「結構です。俺はレイアとの結婚を望んでいます」
「わ、私もです。私もディルと」
「レイアさん、あなたは結婚相手を選べる立場ではないはずよ?」

 蔑むような目で私を見る王妃陛下は、冷たい声音で続ける。

「あなたは捕虜なの。本来なら、今のように自由には動けないはずなのよ? それを許してあげているのに…」
「……申し訳ございません」
「声が小さい! それに謝っている態度ではないわ!」

 バシンと扇の先をソファーに叩きつけて王妃陛下は叫んだ。

「申し訳ございませんでした」

 立ち上がって謝ると、王妃陛下は言う。

「床に額をつけて謝りなさい」

 明らかに王妃陛下は私を嫌っている。
 私がディルを選ぼうとしたから…?
 でも、その気持ちは嘘じゃない。
 
 だから、広い所へ出ようとした時だった。

「ひっ! ひああああぁぁっ!! あああ!」

 王妃陛下が悲鳴を上げ、顔を覆って泣き始めた。
 気か付くと、ディルが仮面を取って、王妃陛下を睨みつけていた。

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