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第19話 新たな問題

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 次の日の晩にリビンノ国の国王陛下とお話をさせてもらい、このままキズレイ殿下や、イテイサ様、そして王妃陛下を放置しておけば、そのうち、他の国にも迷惑がかかり、リビノン国にとって悪い状況になりかねないという話をすると、その事についてはすでに考えておられていた様で、王妃陛下とやり直せるかどうかの話し合いをされているという事だった。

 王妃陛下がイテイサ様を選ぶようなら、国王陛下は離婚の道を選ばれるのだそう。

 だって、さすがの国民も国王陛下が王妃陛下の浮気を知っていて、何もしなかったと聞いたら、良い印象を受けないだろうから。

 キズレイ殿下は王太子の権利を失くした後は、爵位を与えられて、王城の敷地内にある家で暮らす事になるらしく、セレン様も結婚が決まれば、その家で暮らすことになり、陛下の外出許可がないと外には出られなくするそうだった。

 これに関しては、お互いに自分の子供達を表に出したくない両家が考えた苦肉の策なんだそう。

 もちろん、当人同士はこんな未来が来る事など知らされていない。

 晩餐会を終えて、迎賓館に戻っている途中で、ふと、昨日のセレン様の様子を思い出し、後ろを歩いているヨツイ夫人に聞いてみる。

「そういえば、ヨツイ夫人、昨日はセレン様をどうやって追い返されたのですか?」

 尋ねられたヨツイ夫人は外灯の下で優しく微笑むと、口元に人差し指を当てる。

「お教えしたいところですが、この話を聞くと、夜に1人で眠れなくなる方が何人もいらっしゃいますから、レイア様にはお伝えできません」
「……そう言われると私も聞きたいような聞きたくないような。どんな話なんでしょう?」
「簡単に言うと怖い話をされるんだ」

 ディルも聞かされた事があるのか、うんざりした様な顔で言う。

「ディルでも怖かったんですか?」
「子供の時に聞かされたから余計にな。まあ、今は、夜中に目を覚ますと警戒する」
「ど、どんな話なんですか!?」
「だから、聞いたら怖くなるって言ってるだろ」
「レイア様が1人で眠らなくても良くなった時に教えてさしあげましょうねぇ」

 ニコニコと穏やかな笑顔でヨツイ夫人が私を見つめる。

 どういう意味かしら?
 普通は大人になったら、1人で眠るものじゃないの?
 それなのに、1人で眠らなくても良くなる時ってくるのかしら?

「………ばあちゃん」
「人がいるところで、ばあちゃんは許しませんと言ったでしょう」

 ディルは意味がわかったみたいで、ヨツイ夫人を半眼で見ながら言うと、ヨツイ夫人が注意した。

 ヨツイ夫人は王妃陛下のお母様のお姉様なんだそう。

 ディルにしてみれば、大おば様、になるのよね。
 ヨツイ夫人は伯爵家に嫁にいっておられ、ディルが孤児院に預けられてからは、ずっと孤児院にボランティアとして通っておられたらしく、ディルにとってのお祖母様はヨツイ夫人なんだそう。
 もちろん、それはヨツイ夫人に可愛がってもらった他の子供達もそう思っているのだとか。

 ヨツイ夫人は覚えいていても困らないからと、ディル達にダンスやテーブルマナーなどを教えていたそうで、ディルが王城に入った時もそこまで苦労はしなかったんだそう。
 一番、手こずっているのは言葉遣いみたい。
 平民達の間で貴族の様な丁寧な話し方をすると、逆にいじめられる可能性があった為、それについてはヨツイ夫人もディルが子供の頃はよっぽど人を傷つける様な言葉以外は止めなかったから、今もこんな感じなんだそう。

 ヨツイ夫人もディルも、まさか、ニール殿下がこんなに早くに亡くなってしまうだなんて思ってもいなかったでしょうしね。

 この日の晩は、明日の朝早くに出発する為、早めに眠りについたのだけれど、セレン様がやって来る事もなく、朝までゆっくり眠る事が出来た。

 次の日、朝早い時間だというのに、国王陛下とリーズン殿下がお見送りに来てくださり、再会する約束をして別れた。
 次に会う時には王太子殿下はリーズン殿下に変わっているのだと思う。

 そして、私達はターリー国へ向かう事になった。
 ターリー国の国王陛下の考えにも寄るけれど、もしかすると、顔合わせだけではなく、そのまま、結婚までターリー国にいないといけないのかもしれない。
 そんな不安を抱えながらの出発だった。

 それから2日後、旅の途中で新聞を見たところ、リズノン国の現王太子がだという理由で弟であるリーズン殿下に変更された事、国王陛下と王妃陛下が離縁される事、そして、キズレイ殿下とセレン様の結婚が決まったと発表があった。

 キズレイ殿下とセレン殿下はこのまま、城の敷地内にある別邸で暮らしていく事になるだろうから、私達が会いに行かない限り、二度と会う事がない様に思われる。

 今頃は、セレン様はディル殿下に会いに行きたいと暴れていそうね…。

 これで心配の種は無くなった、と思っていたのだけれど、実際は違った。

 平民の間ではそんな意識はないらしいけれど、ターリー国の貴族の間では敗戦国であるロトス国は野蛮な国だと考えられており、私に対する態度はものすごく冷たいものだった。

 そして、それは、私にだけではなく、ディルに対してもだった。

 ディルは一部の貴族からは平民として育った品のない男性だと評価されており、仮面を被っているから容姿も悪いものとして蔑まれていた。

 ターリー国に着き、ディルのお父様とお母様である、両陛下にご挨拶を終えた後、国王陛下から、私の人となりを知りたいから、しばらく、この国に滞在する様に命令され、監視役としてなのかもしれないけれど、2人ほど侍女を付けられた。
 私も3人連れてきているけれど、国王陛下のご厚意を無下にする事など出来るはずもなかった。

 そして、用意された私の部屋に新しい侍女達に連れてきてもらったのはいいものの、部屋に入るなり、2人は言った。

「野蛮人の世話なんて本当はしたくはありませんの。侍女は足りていますでしょう? 私達はお部屋で優雅にお茶を飲ませていただきますわ。あなたはこの国では、ただの捕虜。優しくしてあげる必要はなくってよ?」
「そうよ。王太子妃になるっていっても、あの仮面を被った気味の悪い男が相手でしょう? どうせ、国民の反対にあって引きずり降ろされるに決まっているわ」

 私の事を言われるのは別にどうでも良かった。
 ただ、ディルの本当の顔を知っている、私や、私の侍女達は顔を見合わせて失笑した。

 ディルはさすがに国民の前に現れる時には仮面を外すはず。
 仮面の下の容姿が良くないと思っている貴族達は、その時を狙っているのかもしれないけれど、逆に、その時がディルが勝利する瞬間になるのだけれど、まあいいわ。

 多少の嫌がらせがあっても、先の楽しみがあれば乗り越えられそうだわ。

 国王陛下がどういう意図で、この2人を付けたのか気になるから、ディルに聞いてみてもらおうかしら。

「あなた達がお茶をするのは勝手なのだけれど、私はディルに会いたいの。どこにいるかわからないから、私の侍女達と一緒に城内をウロウロしても良いのかしら?」

 目の前にいる自信満々の気の強そうな令嬢2人を見つめて、私はにっこりと微笑んだ。

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