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第12話 恋に落ちた?
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キズレイ殿下の言っている意味がわからなくて困惑していると、キズレイ殿下が笑顔で言う。
「どうして2人が仮面を被っているのかわからないんですよ。そんなに顔に自信がないんですか? うーん、それは辛いですね。お気の毒に。僕の様に美しく生まれる事が出来なかったのはしょうがないにしても、顔が良くないと、それは、もう…、辛いでしょうね…」
「何言ってんだ、こいつ」
「ディル、相手は王太子殿下ですよ!」
黒の燕尾服を着ているディルの袖を引張って注意すると、ディルは呆れた様に言う。
「これが王太子?」
「こいつもこれも駄目です!」
ディルがそう言いたくなる気持ちはわかるけれど、無礼な態度に当たる為、慌てて嗜めると、ディルは胸の前で腕を組んで、キズレイ殿下に言う。
「なんで仮面を被ってるかって、今日は仮面舞踏会なんだろ? だからだよ。周りも仮面とか被ってるんだから、俺達に聞かなくてもわかるだろ」
「皆、顔が悪いから、仮面をしているんでしょう。顔が良ければ仮面はいりません」
「……そんな訳ないだろ」
「……ディル」
彼の袖をもう一度引っ張ると、私よりも背の高い彼は顔を斜め下に向けて苦い顔をした。
なんでこいつに対して我慢しないといけないんだ?
という顔だった。
ディルの気持ちは私だってわかる。
けれど、何でもかんでも言い返していいわけではない。
それに敬語じゃなくなっているから余計にいけない。
ここ何日か一緒にいてわかったのは、ディルは正義感が強すぎるという事。
今回も自分の事は良いにしても、私や他の人を貶した事が気に入らないみたい。
敬意を払える人には敬語を使う事が出来ても、そうじゃない人間に対しては敬語がなくなってしまうのが悪い癖。
ヨツイ夫人はディルの事を精神のコントロールが、まだまだ出来ていないと仰っていた。
今回だって、自分の事ではないけれど誰かの為にくだらない事で怒ってしまっている。
性格を変える事はできるかもしれないけれど、信念的なものを変えるのは、中々、難しいんでしょうね。
私は自分が苛立っている時は駄目だけれど、人が先に怒ったり、取り乱したりすると冷静になるタイプなので、ディルとの相性は今のところ良いと感じている。
今のように、ディルが不機嫌になれば、私はすっと冷静になれるから、2人でいる時はちょうどいい。
会議の場には王太子妃や王妃は呼ばれないから、その時が少し心配だけれど、ディルも馬鹿ではないし、少しずつ感情のコントロールが出来ていけると信じている。
「どうしろって言うんだよ」
「ちゃんと敬語を使って下さい。先程も言いましたが、相手は王太子殿下です。敬語が使えないなら、少し黙っていて下さい」
「……わかったよ」
ディルは不満そうにしつつも頷いた後、口を閉じてくれたので、今度は私がキズレイ殿下に話しかける。
「お顔を隠していらっしゃいませんので、ご挨拶いたします。キズレイ殿下にお会いできて光栄ですわ」
「でしょう? 僕よりも美しい人間はこの世にはいませんから!」
「ですが、キズレイ殿下。今回のパーティーで顔を隠していらっしゃらないのは、マナー違反になるのでは?」
「ん? どうして? 僕は仮面で顔を隠すほど醜くないんだが」
「差し出がましい事を申し上げますが、このパーティーは仮面舞踏会ですから顔を隠すのがマナーです」
私の言葉を聞いたキズレイ殿下はキョトンとした顔をして、私を見つめてきたので、再度、お伝えする。
「キズレイ殿下、もう一度、申し上げます。このパーティーは仮面舞踏会です」
「んんん? 僕が美しい?」
「そんな事、一言も言っていません」
ディルが黙っていられなかったのか、口を開いたけれど、ちゃんと敬語は使ってくれた。
顔はものすごく不機嫌そうだけれど。
「ま、まさか、僕の美しさがわからないとか!? あ、でも、そ、そうですよね…。美人は3日で飽きるとか、異国の言葉で聞いた気がしますよ。ああ、可哀想な僕…」
額に手を当てて、後へよろめくキズレイ殿下を見て思う。
これは駄目だわ。
話が通じない。
セレン様と会いたがっているらしいけれど、彼女と会話が成り立つのかしら…。
「レイア、行くぞ」
「あ、はい」
ディルはキズレイ殿下の相手をしたくないらしく、移動しようと促してきたので、彼の方を見て頷いてから、キズレイ殿下にカーテシーをする。
「キズレイ殿下、お話できて光栄でした。本日はこちらで失礼させていただきます」
「いいんですよ。醜いなりにも良さがあります。パーティーを楽しんで下さい」
「……そうですわね…」
呆れている事が表情に出ないように必死に笑顔を作ってから頭を下げ、ディルの方に体を向けると、ディルもキズレイ殿下に一礼してから歩き出した。
「何かつまんでから、ここを出るか」
「そうですね。仮面があると食べにくいですけど」
「パーティーの主催者が外してるんなら、外してもいいんじゃないか。俺はそういう訳にはいかないけど」
「下から口に持っていく様にしたらいいですかね」
「取ってくるから、あっちで待っててくれ。すぐ行くから」
「ありがとうございます!」
ディルに指差されたのは会場の端にある、休憩用のスペースだった。
ソファーが空いていたので、そこに座って、大きく息を吐く。
仕切りなどはないけれど、休憩用のスペースという事もあり、近くに座っている人達も仮面や被り物などを外して、素顔で食事を取っていたので、私も少しの間だけ仮面を取る事にした。
解放感で幸せな気持ちになったその時、視線を感じたので、そちらに顔を向けると、キズレイ殿下と目があった。
なぜか、彼は口をあんぐりと開けて、私を凝視している。
な、何なの?
怖くなって慌てて立ち上がり、ディルがいると思われる食事が置かれているスペースに向かおうとすると、キズレイ殿下が近寄ってきて叫んだ。
「なんて、僕好みの人なんだ! あ、あなたがセレン王女ですよね!?」
「人違いです!」
私とセレン様は従姉妹だけど、似てると言われた事なんてないのだけれど!?
「どうして2人が仮面を被っているのかわからないんですよ。そんなに顔に自信がないんですか? うーん、それは辛いですね。お気の毒に。僕の様に美しく生まれる事が出来なかったのはしょうがないにしても、顔が良くないと、それは、もう…、辛いでしょうね…」
「何言ってんだ、こいつ」
「ディル、相手は王太子殿下ですよ!」
黒の燕尾服を着ているディルの袖を引張って注意すると、ディルは呆れた様に言う。
「これが王太子?」
「こいつもこれも駄目です!」
ディルがそう言いたくなる気持ちはわかるけれど、無礼な態度に当たる為、慌てて嗜めると、ディルは胸の前で腕を組んで、キズレイ殿下に言う。
「なんで仮面を被ってるかって、今日は仮面舞踏会なんだろ? だからだよ。周りも仮面とか被ってるんだから、俺達に聞かなくてもわかるだろ」
「皆、顔が悪いから、仮面をしているんでしょう。顔が良ければ仮面はいりません」
「……そんな訳ないだろ」
「……ディル」
彼の袖をもう一度引っ張ると、私よりも背の高い彼は顔を斜め下に向けて苦い顔をした。
なんでこいつに対して我慢しないといけないんだ?
という顔だった。
ディルの気持ちは私だってわかる。
けれど、何でもかんでも言い返していいわけではない。
それに敬語じゃなくなっているから余計にいけない。
ここ何日か一緒にいてわかったのは、ディルは正義感が強すぎるという事。
今回も自分の事は良いにしても、私や他の人を貶した事が気に入らないみたい。
敬意を払える人には敬語を使う事が出来ても、そうじゃない人間に対しては敬語がなくなってしまうのが悪い癖。
ヨツイ夫人はディルの事を精神のコントロールが、まだまだ出来ていないと仰っていた。
今回だって、自分の事ではないけれど誰かの為にくだらない事で怒ってしまっている。
性格を変える事はできるかもしれないけれど、信念的なものを変えるのは、中々、難しいんでしょうね。
私は自分が苛立っている時は駄目だけれど、人が先に怒ったり、取り乱したりすると冷静になるタイプなので、ディルとの相性は今のところ良いと感じている。
今のように、ディルが不機嫌になれば、私はすっと冷静になれるから、2人でいる時はちょうどいい。
会議の場には王太子妃や王妃は呼ばれないから、その時が少し心配だけれど、ディルも馬鹿ではないし、少しずつ感情のコントロールが出来ていけると信じている。
「どうしろって言うんだよ」
「ちゃんと敬語を使って下さい。先程も言いましたが、相手は王太子殿下です。敬語が使えないなら、少し黙っていて下さい」
「……わかったよ」
ディルは不満そうにしつつも頷いた後、口を閉じてくれたので、今度は私がキズレイ殿下に話しかける。
「お顔を隠していらっしゃいませんので、ご挨拶いたします。キズレイ殿下にお会いできて光栄ですわ」
「でしょう? 僕よりも美しい人間はこの世にはいませんから!」
「ですが、キズレイ殿下。今回のパーティーで顔を隠していらっしゃらないのは、マナー違反になるのでは?」
「ん? どうして? 僕は仮面で顔を隠すほど醜くないんだが」
「差し出がましい事を申し上げますが、このパーティーは仮面舞踏会ですから顔を隠すのがマナーです」
私の言葉を聞いたキズレイ殿下はキョトンとした顔をして、私を見つめてきたので、再度、お伝えする。
「キズレイ殿下、もう一度、申し上げます。このパーティーは仮面舞踏会です」
「んんん? 僕が美しい?」
「そんな事、一言も言っていません」
ディルが黙っていられなかったのか、口を開いたけれど、ちゃんと敬語は使ってくれた。
顔はものすごく不機嫌そうだけれど。
「ま、まさか、僕の美しさがわからないとか!? あ、でも、そ、そうですよね…。美人は3日で飽きるとか、異国の言葉で聞いた気がしますよ。ああ、可哀想な僕…」
額に手を当てて、後へよろめくキズレイ殿下を見て思う。
これは駄目だわ。
話が通じない。
セレン様と会いたがっているらしいけれど、彼女と会話が成り立つのかしら…。
「レイア、行くぞ」
「あ、はい」
ディルはキズレイ殿下の相手をしたくないらしく、移動しようと促してきたので、彼の方を見て頷いてから、キズレイ殿下にカーテシーをする。
「キズレイ殿下、お話できて光栄でした。本日はこちらで失礼させていただきます」
「いいんですよ。醜いなりにも良さがあります。パーティーを楽しんで下さい」
「……そうですわね…」
呆れている事が表情に出ないように必死に笑顔を作ってから頭を下げ、ディルの方に体を向けると、ディルもキズレイ殿下に一礼してから歩き出した。
「何かつまんでから、ここを出るか」
「そうですね。仮面があると食べにくいですけど」
「パーティーの主催者が外してるんなら、外してもいいんじゃないか。俺はそういう訳にはいかないけど」
「下から口に持っていく様にしたらいいですかね」
「取ってくるから、あっちで待っててくれ。すぐ行くから」
「ありがとうございます!」
ディルに指差されたのは会場の端にある、休憩用のスペースだった。
ソファーが空いていたので、そこに座って、大きく息を吐く。
仕切りなどはないけれど、休憩用のスペースという事もあり、近くに座っている人達も仮面や被り物などを外して、素顔で食事を取っていたので、私も少しの間だけ仮面を取る事にした。
解放感で幸せな気持ちになったその時、視線を感じたので、そちらに顔を向けると、キズレイ殿下と目があった。
なぜか、彼は口をあんぐりと開けて、私を凝視している。
な、何なの?
怖くなって慌てて立ち上がり、ディルがいると思われる食事が置かれているスペースに向かおうとすると、キズレイ殿下が近寄ってきて叫んだ。
「なんて、僕好みの人なんだ! あ、あなたがセレン王女ですよね!?」
「人違いです!」
私とセレン様は従姉妹だけど、似てると言われた事なんてないのだけれど!?
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