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第4話 同一人物?
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お父様達と急いで会場内に戻ると、流れていた音楽も止まっており、しんと静まり返っていた。
そんな静寂を切り裂くように、ミーヨ様の声が響く。
「皆さん、この度、私の可愛いマシューがセレン様と婚約をしたいと申しています。2人は相思相愛なのです。それなのに、セレン様を他国の王太子殿下に嫁がせようとするだなんて酷いと思いませんか!?」
「……大丈夫なのですか」
ミーヨ様の叫びを聞いて、思わず、ロマウ公爵に尋ねてしまった。
大丈夫なわけはない事はわかっているんだけれど、口から出た言葉がそれだった。
「止めてくる」
ロマウ公爵はそう言って、人混みをかき分けて、声が聞こえる方向に向かっていく。
その間にもミーヨ様の訴えは続く。
「愛し合う2人を引き裂くくらいなら、今、現在、マシューと婚約関係にあるレイア様がディル殿下の元に嫁げば良いと思うのです!」
「やめろ! 今すぐ2人は帰れ!」
ロマウ公爵が叫んだ時、私の背後から声が聞こえた。
「あいつらはいつもあんな感じなのか?」
銀髪の男性と同じ声が聞こえて振り返ったけれど、私に問いかけてきていたのは白い仮面のディル殿下だった。
あんな馬鹿な事を叫んでいるのを聞かれたら、ロトス国の常識が疑われるわ…!
「も、申し訳ございません!」
「お前が謝らなくてもいいと言ってただろ?」
ディル殿下の様子はさっきとは全く違っていた。
さっきと声も口調も違うんだけれど……?
しかも、先程はダークブラウンの髪だったのに、銀髪になっている。
……まさか、嘘でしょう?
でも、それなら顔を隠す必要はなかったんじゃ…。
困惑していると、ディル殿下らしき人が聞いてくる。
「で、どうなんだ?」
「普段はあのような方達ではございません」
「という事はよっぽど俺が嫌だという事かよ」
ディル殿下はそう言うと、マシュー様達を追い出そうとしているロマウ公爵に近づいて行くと声を掛ける。
「止めなくていい。言いたい事を言わせてあげてくれ」
「で、ですが…!」
「いいから。で、ロマウ公爵はこっちで話を聞いてくれ。そこにいたら、言いたい事を言えないだろうからな」
「……?」
ロマウ公爵も先程までのディル殿下と違うことに気が付いたらしく不思議そうな顔をしたけれど、殿下に逆らう訳にはいかないので、お父様の隣に戻ってくると、大きくため息を吐いた。
「レイアとの婚約がなくなった場合は、ミーヨとは離婚する。マシューにあとを継がせる予定だったが、弟のヨシューに任せる」
「婚約破棄してくれたら有り難いが、マシューがしなくても、こちら側からするから離婚決定だな」
「離婚で責任を取った事にはならないよな」
「王女が助けてくれるだろ、たぶん」
お父様とロマウ公爵の会話を聞いて、私は苦笑して2人に言う。
「ディル殿下の元に私が嫁ぐ事になりましたら、ロマウ公爵家には恩赦をお願いします」
「レイアに迷惑をかける訳には…、と、もうかけているか…」
ロマウ公爵がこめかみをおさえた時、セレン様の声が聞こえた。
「レイア! レイアはいる!?」
「はい!」
返事をすると、私とセレン様の間にいた人達が慌てて横に避けた。
「ディル殿下から正直に思っている事を話せと言われたの。だから言わせてもらうわ」
「セレン! いいかげんにしろ!」
陛下が叫んで止めようとなさったけれど、今度は王妃陛下が出てこられる。
「陛下、ディル殿下からは許可をいただいています。セレンの言葉を聞いてあげて下さい」
え…?
セレン様が言おうとしているのは、陛下への言葉じゃないですよね?
もしかして、この親あってこの子有りのパターンなの?
「国王陛下、俺が本音を聞いてみたいと言ったんだ。ただ、俺に対する発言だけなら許したんだが」
ディル殿下が私の方に顔を向ける。
仮面のせいで表情は全くわからない。
だけど、気にしてくれているのだろうと思い、大きく首を縦に振る。
「セレン様が何を仰ろうとしているのか、私も知りたいですわ」
「レイア」
セレン様は勝ち誇った顔をして、ディル殿下を指差して叫ぶ。
「あなたにはこの気持ち悪い仮面の男性がお似合いだと思うわ!」
「セレン!」
「セレン様!」
正直どころかディル殿下に対する無礼な発言に、私と陛下の声が重なった。
セレン様は何を考えているの?
いくら、ディル殿下が素直に発言しても良いと仰ったからって、そんな発言をしてもいいわけがないわ!
「セレン様、発言を撤回して、ディル殿下に謝って下さい! 今すぐに!」
相手が王女だからといって関係なかった。
さっきの発言はあまりにも失礼すぎるわ!
「嫌よ。だって、ディル殿下は言いたい事を言っても、全て許して下さると言ったわ」
「セレン様、あなたの発言で多くの国民が危機にさらされるかもしれないという事を理解されているんですか!?」
「大丈夫よ。王太子殿下が約束を破るわけないもの」
胸の前で腕を組み、偉そうに言うセレン様に向かって、ディル殿下が言う。
「俺の事に関してはいいけど、それ以外の人物に関しては発言の責任は取らせるからな」
そこで言葉を区切り、ディル殿下はマシュー様とセレン様に問いかける。
「で、2人は一緒になりたいのか?」
「もちろんです!」
セレン様がディル殿下に明るい笑顔を向けて、大きな声で返事を返した。
この会場内で明るい表情をしているのは、セレン様とミーヨ様だけで、2人の間にいるマシュー様はオドオドしているだけだった。
この展開、普通なら、陛下が頭を下げるだけで済まないんじゃないかしら…?
それに、セレン様。
あなたが頑なに嫌がっているディル殿下は、先程、一目惚れなさった方と同一人物だと思いますよ…?
そんな静寂を切り裂くように、ミーヨ様の声が響く。
「皆さん、この度、私の可愛いマシューがセレン様と婚約をしたいと申しています。2人は相思相愛なのです。それなのに、セレン様を他国の王太子殿下に嫁がせようとするだなんて酷いと思いませんか!?」
「……大丈夫なのですか」
ミーヨ様の叫びを聞いて、思わず、ロマウ公爵に尋ねてしまった。
大丈夫なわけはない事はわかっているんだけれど、口から出た言葉がそれだった。
「止めてくる」
ロマウ公爵はそう言って、人混みをかき分けて、声が聞こえる方向に向かっていく。
その間にもミーヨ様の訴えは続く。
「愛し合う2人を引き裂くくらいなら、今、現在、マシューと婚約関係にあるレイア様がディル殿下の元に嫁げば良いと思うのです!」
「やめろ! 今すぐ2人は帰れ!」
ロマウ公爵が叫んだ時、私の背後から声が聞こえた。
「あいつらはいつもあんな感じなのか?」
銀髪の男性と同じ声が聞こえて振り返ったけれど、私に問いかけてきていたのは白い仮面のディル殿下だった。
あんな馬鹿な事を叫んでいるのを聞かれたら、ロトス国の常識が疑われるわ…!
「も、申し訳ございません!」
「お前が謝らなくてもいいと言ってただろ?」
ディル殿下の様子はさっきとは全く違っていた。
さっきと声も口調も違うんだけれど……?
しかも、先程はダークブラウンの髪だったのに、銀髪になっている。
……まさか、嘘でしょう?
でも、それなら顔を隠す必要はなかったんじゃ…。
困惑していると、ディル殿下らしき人が聞いてくる。
「で、どうなんだ?」
「普段はあのような方達ではございません」
「という事はよっぽど俺が嫌だという事かよ」
ディル殿下はそう言うと、マシュー様達を追い出そうとしているロマウ公爵に近づいて行くと声を掛ける。
「止めなくていい。言いたい事を言わせてあげてくれ」
「で、ですが…!」
「いいから。で、ロマウ公爵はこっちで話を聞いてくれ。そこにいたら、言いたい事を言えないだろうからな」
「……?」
ロマウ公爵も先程までのディル殿下と違うことに気が付いたらしく不思議そうな顔をしたけれど、殿下に逆らう訳にはいかないので、お父様の隣に戻ってくると、大きくため息を吐いた。
「レイアとの婚約がなくなった場合は、ミーヨとは離婚する。マシューにあとを継がせる予定だったが、弟のヨシューに任せる」
「婚約破棄してくれたら有り難いが、マシューがしなくても、こちら側からするから離婚決定だな」
「離婚で責任を取った事にはならないよな」
「王女が助けてくれるだろ、たぶん」
お父様とロマウ公爵の会話を聞いて、私は苦笑して2人に言う。
「ディル殿下の元に私が嫁ぐ事になりましたら、ロマウ公爵家には恩赦をお願いします」
「レイアに迷惑をかける訳には…、と、もうかけているか…」
ロマウ公爵がこめかみをおさえた時、セレン様の声が聞こえた。
「レイア! レイアはいる!?」
「はい!」
返事をすると、私とセレン様の間にいた人達が慌てて横に避けた。
「ディル殿下から正直に思っている事を話せと言われたの。だから言わせてもらうわ」
「セレン! いいかげんにしろ!」
陛下が叫んで止めようとなさったけれど、今度は王妃陛下が出てこられる。
「陛下、ディル殿下からは許可をいただいています。セレンの言葉を聞いてあげて下さい」
え…?
セレン様が言おうとしているのは、陛下への言葉じゃないですよね?
もしかして、この親あってこの子有りのパターンなの?
「国王陛下、俺が本音を聞いてみたいと言ったんだ。ただ、俺に対する発言だけなら許したんだが」
ディル殿下が私の方に顔を向ける。
仮面のせいで表情は全くわからない。
だけど、気にしてくれているのだろうと思い、大きく首を縦に振る。
「セレン様が何を仰ろうとしているのか、私も知りたいですわ」
「レイア」
セレン様は勝ち誇った顔をして、ディル殿下を指差して叫ぶ。
「あなたにはこの気持ち悪い仮面の男性がお似合いだと思うわ!」
「セレン!」
「セレン様!」
正直どころかディル殿下に対する無礼な発言に、私と陛下の声が重なった。
セレン様は何を考えているの?
いくら、ディル殿下が素直に発言しても良いと仰ったからって、そんな発言をしてもいいわけがないわ!
「セレン様、発言を撤回して、ディル殿下に謝って下さい! 今すぐに!」
相手が王女だからといって関係なかった。
さっきの発言はあまりにも失礼すぎるわ!
「嫌よ。だって、ディル殿下は言いたい事を言っても、全て許して下さると言ったわ」
「セレン様、あなたの発言で多くの国民が危機にさらされるかもしれないという事を理解されているんですか!?」
「大丈夫よ。王太子殿下が約束を破るわけないもの」
胸の前で腕を組み、偉そうに言うセレン様に向かって、ディル殿下が言う。
「俺の事に関してはいいけど、それ以外の人物に関しては発言の責任は取らせるからな」
そこで言葉を区切り、ディル殿下はマシュー様とセレン様に問いかける。
「で、2人は一緒になりたいのか?」
「もちろんです!」
セレン様がディル殿下に明るい笑顔を向けて、大きな声で返事を返した。
この会場内で明るい表情をしているのは、セレン様とミーヨ様だけで、2人の間にいるマシュー様はオドオドしているだけだった。
この展開、普通なら、陛下が頭を下げるだけで済まないんじゃないかしら…?
それに、セレン様。
あなたが頑なに嫌がっているディル殿下は、先程、一目惚れなさった方と同一人物だと思いますよ…?
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