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11  ベルベッタの願い ①

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 精霊は普段はそれぞれのお気に入りの場所で過ごしている。でも、今はベルベッタ様やグロールたちのことを交代で見張ってくれているらしい。
 それにしても、やはり、ベルベッタ様の考えていることはわからない。
 テッジ殿下たちに内緒にして外見だけ取り繕っても、客から苦情が出始めたら、どうするつもりなのだろうか。
 ……そんなことをわたしが気にすることでもないかと思った日の夕食時、陛下が精霊から聞いた話をしてくれた。

 ここ10年以上、一人で食事をしていたと話したからか、ここ最近は両陛下とラファと一緒に夕食を共にしている。朝食と昼食は時間が合う時に一緒に食べることになっているのは、わたしにも一人で食べたい時があるだろうと配慮してくれているようだった。

「ベルベッタ嬢が内密に手紙を遣いに預けたようだから、精霊が調べたら、リーン宛だったそうだ」
「……ということは、近いうちに手紙が届くということでしょうか」
「そういうことになるな。早馬で向かっているらしいから、2日後くらいには訪ねてくるかもしれない」
「ベルベッタ様からの手紙なんて読みたくないのですが……」
「手紙が届いたら、普通は危険物が入っていないかの確認と手紙の内容も確認するんだが、読まないほうがいいだろうか」
「……手紙を持ってきた人間が、わたしに直接渡したいと言うようでしたら、危険物が入っていないかの確認だけお願いできますでしょうか」

 陛下の問いかけに答えると、ラファが不思議そうな顔をする。

「手紙は読んであげるつもりなのか?」
「書いてあることは大体わかっていますが、他のことが書いてあっても困りますので、一応、読もうかと思っています」
「たぶん、力が使えなくなったから助けてっていう内容だろうね」

 ラファの言葉に両陛下も心配そうな顔でわたしを見つめて頷いた。


*****

 そして、2日後の朝、陛下の予想通り、ベルベッタ様からの遣いがやって来て、わたしに面会を求めてきた。目の前で読んでもらい、返事をもらって来いと言われているらしい。

 両陛下とラファに相談すると、ラファも一緒に話を聞くという条件で許可が下りた。

「忙しいのに、付き合わせてごめんなさい」
「謝る必要はないよ。それにリーンに気持ち悪がられた新作を出そうと思ってるんだ」

 満面の笑みを浮かべるラファを見て、何ともいえない気持ちになる。
 食べることが好きだと言ってから、ラファは仕事の合間にスイーツ作りに勤しむようになってしまった。
 味は美味しい。パティシエが作っているのかと思うくらいに美味しいのだが、外見が酷い。

「……あの、血みどろケーキですか」
「血みどろじゃない。赤いベリーのチーズケーキだよ!」

 そう言って、ラファはメイドが押しているサービングカートの上に乗った、血みどろケーキならぬ赤いベリーのチーズケーキを見つめる。

 白いクリームチーズの上に赤いベリーソースで何かの顔と吹き出しが描かれている。失敗でもしたのか、両目と思われる部分から血の涙のように、鼻からは鼻血のように、口と思われる部分の両端から同じように血……ではなく、赤いベリーソースが流れている。
 吹き出しには『リーン、食べてね』と書かれていて、まるでボコボコにされた人が、そう言わされているようで怖い。
 
 ラファと一緒に客を通していた部屋に入ると、遣いの若い男性はソファから立ち上がって一礼した。

「お時間をいただき、ありがとうございます」
「わたしに用事があるとのことですけど」
「……はい。これを預かってまいりました」

 若い男性が差し出した手紙をメイドが受け取り、封を切ってくれた。ラファと一緒に内容を確認する。
 手紙には『力が使えなくなったんです。このままでは、婚約破棄されてしまいます。クリエル王国が嫌になったと言って帰ってきてくれませんか?』と書かれていた。








 
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