12 / 26
11 ベルベッタの願い ①
しおりを挟む
精霊は普段はそれぞれのお気に入りの場所で過ごしている。でも、今はベルベッタ様やグロールたちのことを交代で見張ってくれているらしい。
それにしても、やはり、ベルベッタ様の考えていることはわからない。
テッジ殿下たちに内緒にして外見だけ取り繕っても、客から苦情が出始めたら、どうするつもりなのだろうか。
……そんなことをわたしが気にすることでもないかと思った日の夕食時、陛下が精霊から聞いた話をしてくれた。
ここ10年以上、一人で食事をしていたと話したからか、ここ最近は両陛下とラファと一緒に夕食を共にしている。朝食と昼食は時間が合う時に一緒に食べることになっているのは、わたしにも一人で食べたい時があるだろうと配慮してくれているようだった。
「ベルベッタ嬢が内密に手紙を遣いに預けたようだから、精霊が調べたら、リーン宛だったそうだ」
「……ということは、近いうちに手紙が届くということでしょうか」
「そういうことになるな。早馬で向かっているらしいから、2日後くらいには訪ねてくるかもしれない」
「ベルベッタ様からの手紙なんて読みたくないのですが……」
「手紙が届いたら、普通は危険物が入っていないかの確認と手紙の内容も確認するんだが、読まないほうがいいだろうか」
「……手紙を持ってきた人間が、わたしに直接渡したいと言うようでしたら、危険物が入っていないかの確認だけお願いできますでしょうか」
陛下の問いかけに答えると、ラファが不思議そうな顔をする。
「手紙は読んであげるつもりなのか?」
「書いてあることは大体わかっていますが、他のことが書いてあっても困りますので、一応、読もうかと思っています」
「たぶん、力が使えなくなったから助けてっていう内容だろうね」
ラファの言葉に両陛下も心配そうな顔でわたしを見つめて頷いた。
*****
そして、2日後の朝、陛下の予想通り、ベルベッタ様からの遣いがやって来て、わたしに面会を求めてきた。目の前で読んでもらい、返事をもらって来いと言われているらしい。
両陛下とラファに相談すると、ラファも一緒に話を聞くという条件で許可が下りた。
「忙しいのに、付き合わせてごめんなさい」
「謝る必要はないよ。それにリーンに気持ち悪がられた新作を出そうと思ってるんだ」
満面の笑みを浮かべるラファを見て、何ともいえない気持ちになる。
食べることが好きだと言ってから、ラファは仕事の合間にスイーツ作りに勤しむようになってしまった。
味は美味しい。パティシエが作っているのかと思うくらいに美味しいのだが、外見が酷い。
「……あの、血みどろケーキですか」
「血みどろじゃない。赤いベリーのチーズケーキだよ!」
そう言って、ラファはメイドが押しているサービングカートの上に乗った、血みどろケーキならぬ赤いベリーのチーズケーキを見つめる。
白いクリームチーズの上に赤いベリーソースで何かの顔と吹き出しが描かれている。失敗でもしたのか、両目と思われる部分から血の涙のように、鼻からは鼻血のように、口と思われる部分の両端から同じように血……ではなく、赤いベリーソースが流れている。
吹き出しには『リーン、食べてね』と書かれていて、まるでボコボコにされた人が、そう言わされているようで怖い。
ラファと一緒に客を通していた部屋に入ると、遣いの若い男性はソファから立ち上がって一礼した。
「お時間をいただき、ありがとうございます」
「わたしに用事があるとのことですけど」
「……はい。これを預かってまいりました」
若い男性が差し出した手紙をメイドが受け取り、封を切ってくれた。ラファと一緒に内容を確認する。
手紙には『力が使えなくなったんです。このままでは、婚約破棄されてしまいます。クリエル王国が嫌になったと言って帰ってきてくれませんか?』と書かれていた。
それにしても、やはり、ベルベッタ様の考えていることはわからない。
テッジ殿下たちに内緒にして外見だけ取り繕っても、客から苦情が出始めたら、どうするつもりなのだろうか。
……そんなことをわたしが気にすることでもないかと思った日の夕食時、陛下が精霊から聞いた話をしてくれた。
ここ10年以上、一人で食事をしていたと話したからか、ここ最近は両陛下とラファと一緒に夕食を共にしている。朝食と昼食は時間が合う時に一緒に食べることになっているのは、わたしにも一人で食べたい時があるだろうと配慮してくれているようだった。
「ベルベッタ嬢が内密に手紙を遣いに預けたようだから、精霊が調べたら、リーン宛だったそうだ」
「……ということは、近いうちに手紙が届くということでしょうか」
「そういうことになるな。早馬で向かっているらしいから、2日後くらいには訪ねてくるかもしれない」
「ベルベッタ様からの手紙なんて読みたくないのですが……」
「手紙が届いたら、普通は危険物が入っていないかの確認と手紙の内容も確認するんだが、読まないほうがいいだろうか」
「……手紙を持ってきた人間が、わたしに直接渡したいと言うようでしたら、危険物が入っていないかの確認だけお願いできますでしょうか」
陛下の問いかけに答えると、ラファが不思議そうな顔をする。
「手紙は読んであげるつもりなのか?」
「書いてあることは大体わかっていますが、他のことが書いてあっても困りますので、一応、読もうかと思っています」
「たぶん、力が使えなくなったから助けてっていう内容だろうね」
ラファの言葉に両陛下も心配そうな顔でわたしを見つめて頷いた。
*****
そして、2日後の朝、陛下の予想通り、ベルベッタ様からの遣いがやって来て、わたしに面会を求めてきた。目の前で読んでもらい、返事をもらって来いと言われているらしい。
両陛下とラファに相談すると、ラファも一緒に話を聞くという条件で許可が下りた。
「忙しいのに、付き合わせてごめんなさい」
「謝る必要はないよ。それにリーンに気持ち悪がられた新作を出そうと思ってるんだ」
満面の笑みを浮かべるラファを見て、何ともいえない気持ちになる。
食べることが好きだと言ってから、ラファは仕事の合間にスイーツ作りに勤しむようになってしまった。
味は美味しい。パティシエが作っているのかと思うくらいに美味しいのだが、外見が酷い。
「……あの、血みどろケーキですか」
「血みどろじゃない。赤いベリーのチーズケーキだよ!」
そう言って、ラファはメイドが押しているサービングカートの上に乗った、血みどろケーキならぬ赤いベリーのチーズケーキを見つめる。
白いクリームチーズの上に赤いベリーソースで何かの顔と吹き出しが描かれている。失敗でもしたのか、両目と思われる部分から血の涙のように、鼻からは鼻血のように、口と思われる部分の両端から同じように血……ではなく、赤いベリーソースが流れている。
吹き出しには『リーン、食べてね』と書かれていて、まるでボコボコにされた人が、そう言わされているようで怖い。
ラファと一緒に客を通していた部屋に入ると、遣いの若い男性はソファから立ち上がって一礼した。
「お時間をいただき、ありがとうございます」
「わたしに用事があるとのことですけど」
「……はい。これを預かってまいりました」
若い男性が差し出した手紙をメイドが受け取り、封を切ってくれた。ラファと一緒に内容を確認する。
手紙には『力が使えなくなったんです。このままでは、婚約破棄されてしまいます。クリエル王国が嫌になったと言って帰ってきてくれませんか?』と書かれていた。
1,268
お気に入りに追加
2,115
あなたにおすすめの小説
侯爵夫人のハズですが、完全に無視されています
猫枕
恋愛
伯爵令嬢のシンディーは学園を卒業と同時にキャッシュ侯爵家に嫁がされた。
しかし婚姻から4年、旦那様に会ったのは一度きり、大きなお屋敷の端っこにある離れに住むように言われ、勝手な外出も禁じられている。
本宅にはシンディーの偽物が奥様と呼ばれて暮らしているらしい。
盛大な結婚式が行われたというがシンディーは出席していないし、今年3才になる息子がいるというが、もちろん産んだ覚えもない。
妹と婚約者が結婚したけど、縁を切ったから知りません
編端みどり
恋愛
妹は何でもわたくしの物を欲しがりますわ。両親、使用人、ドレス、アクセサリー、部屋、食事まで。
最後に取ったのは婚約者でした。
ありがとう妹。初めて貴方に取られてうれしいと思ったわ。
誰でもイイけど、お前は無いわw
猫枕
恋愛
ラウラ25歳。真面目に勉強や仕事に取り組んでいたら、いつの間にか嫁き遅れになっていた。
同い年の幼馴染みランディーとは昔から犬猿の仲なのだが、ランディーの母に拝み倒されて見合いをすることに。
見合いの場でランディーは予想通りの失礼な発言を連発した挙げ句、
「結婚相手に夢なんて持ってないけど、いくら誰でも良いったってオマエは無いわww」
と言われてしまう。
お姉さまが家を出て行き、婚約者を譲られました
さこの
恋愛
姉は優しく美しい。姉の名前はアリシア私の名前はフェリシア
姉の婚約者は第三王子
お茶会をすると一緒に来てと言われる
アリシアは何かとフェリシアと第三王子を二人にしたがる
ある日姉が父に言った。
アリシアでもフェリシアでも婚約者がクリスタル伯爵家の娘ならどちらでも良いですよね?
バカな事を言うなと怒る父、次の日に姉が家を、出た
好きな人と友人が付き合い始め、しかも嫌われたのですが
月(ユエ)/久瀬まりか
恋愛
ナターシャは以前から恋の相談をしていた友人が、自分の想い人ディーンと秘かに付き合うようになっていてショックを受ける。しかし諦めて二人の恋を応援しようと決める。だがディーンから「二度と僕達に話しかけないでくれ」とまで言われ、嫌われていたことにまたまたショック。どうしてこんなに嫌われてしまったのか?卒業パーティーのパートナーも決まっていないし、どうしたらいいの?
【完結】婚約破棄される前に私は毒を呷って死にます!当然でしょう?私は王太子妃になるはずだったんですから。どの道、只ではすみません。
つくも茄子
恋愛
フリッツ王太子の婚約者が毒を呷った。
彼女は筆頭公爵家のアレクサンドラ・ウジェーヌ・ヘッセン。
なぜ、彼女は毒を自ら飲み干したのか?
それは婚約者のフリッツ王太子からの婚約破棄が原因であった。
恋人の男爵令嬢を正妃にするためにアレクサンドラを罠に嵌めようとしたのだ。
その中の一人は、アレクサンドラの実弟もいた。
更に宰相の息子と近衛騎士団長の嫡男も、王太子と男爵令嬢の味方であった。
婚約者として王家の全てを知るアレクサンドラは、このまま婚約破棄が成立されればどうなるのかを知っていた。そして自分がどういう立場なのかも痛いほど理解していたのだ。
生死の境から生還したアレクサンドラが目を覚ました時には、全てが様変わりしていた。国の将来のため、必要な処置であった。
婚約破棄を宣言した王太子達のその後は、彼らが思い描いていたバラ色の人生ではなかった。
後悔、悲しみ、憎悪、果てしない負の連鎖の果てに、彼らが手にしたものとは。
「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルバ」にも投稿しています。
【完結】仕方がないので結婚しましょう
七瀬菜々
恋愛
『アメリア・サザーランド侯爵令嬢!今この瞬間を持って貴様との婚約は破棄させてもらう!』
アメリアは静かな部屋で、自分の名を呼び、そう高らかに宣言する。
そんな婚約者を怪訝な顔で見るのは、この国の王太子エドワード。
アメリアは過去、幾度のなくエドワードに、自身との婚約破棄の提案をしてきた。
そして、その度に正論で打ちのめされてきた。
本日は巷で話題の恋愛小説を参考に、新しい婚約破棄の案をプレゼンするらしい。
果たしてアメリアは、今日こそ無事に婚約を破棄できるのか!?
*高低差がかなりあるお話です
*小説家になろうでも掲載しています
番(つがい)はいりません
にいるず
恋愛
私の世界には、番(つがい)という厄介なものがあります。私は番というものが大嫌いです。なぜなら私フェロメナ・パーソンズは、番が理由で婚約解消されたからです。私の母も私が幼い頃、番に父をとられ私たちは捨てられました。でもものすごく番を嫌っている私には、特殊な番の体質があったようです。もうかんべんしてください。静かに生きていきたいのですから。そう思っていたのに外見はキラキラの王子様、でも中身は口を開けば毒舌を吐くどうしようもない正真正銘の王太子様が私の周りをうろつき始めました。
本編、王太子視点、元婚約者視点と続きます。約3万字程度です。よろしくお願いします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる