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2 原因の王子
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滝壺付近に近づき、水しぶきを浴びながら木のバケツで滝の水を汲みあげる。汲みあげたあとは、バケツを入れ替えて、また水を汲むの繰り返しだ。過去のことを思い出しながら、水を汲んでいた、わたしの目の前の水面に、突然、大きな波紋が広がった。
昔から、不自然な波紋が広がる時は、何者かが近づいてきている合図なので、わたしは後ろを振り返る。
「リーン。こんなところにいたのか」
声をかけてきたのは、白の軍服に身を包んだ水色の腰まである長い髪に同じ色の瞳を持つ長身痩躯の青年、テッジ・ランダル様だった。彼がお姉さまが亡くなるきっかけを作った男で、エゲナ王国の第二王子であり、好奇心で人を簡単に傷つけることのできる冷たい心の持ち主だった。
この国では、次の王になるためには生まれてきた順番ではなく、実績を残したものが選ばれる。第一王子はお姉さまが婚約者だからという、実績とはいえないような理由で王太子だった。でも、お姉さまは死に、今、不思議な水を作ることができるのはわたしだけになった。お姉さまが亡くなって1年も経たない頃、テッジ殿下は、わたしを婚約者にした。
ずっと前から好きだったと言うが、絶対にそんなわけがない。
わたしの力はわたしだけが扱えるものではない。でも、この王国内でダークパープルの髪と瞳を持つ人物は、今のところわたししかいないのだ。この国にとってわたしは金の卵だ。わたしを妻にすれば、現在の国王はテッジ殿下を王太子に選ぶでしょう。
だから、彼はわたしを殺さない。そして、他の王族や畜生も、若返りの水を飲めなくなるのが怖いので、わたしを殺せない。
わたしが死ぬことが、彼らへの復讐になるんでしょう。でも、畜生たちのために死にたくない。わたしは両親の分もお姉さまの分も生きて幸せになると決めたのだ。
「リーン、こちらを向け」
苦笑するテッジ殿下を見つめ、憎しみの感情を顔には出さずに返事をする。
「何かご用でしょうか」
「相変わらず死んだ魚のような目つきをしているな。それにその髪型もまるで、未亡人のようだな。俺の婚約者ならもっと美しくいろ。それから、誰かに見られることがないからって、そんな薄汚い服で歩き回るな。俺だってたまには顔を見に来るんだ」
「お断りします。ですので、殿下も別にわたしの様子を見にこなくても結構ですよ」
今、わたしが着ている服は、ダークブラウンのエプロンドレスだ。綺麗なドレスを着たって、水を汲んでいるうちに濡れるだけだ。それなら、汚れても良くて動きやすい服のほうが良い。それに、髪型だって普通にシニヨンにしているだけだ。シニヨンをしているだけで未亡人なら、世の中のメイドは未亡人だらけになる。
何かと文句を言いたいだけなのでしょう。彼の言葉など気にしないようにして、バケツを近くの荷車に持っていこうとすると、テッジ殿下は後ろに控えさせていた男に声をかける。
「おい、グロール、水を持ってやれ」
「承知いたしました。大事な水ですから、一滴も無駄にはできません」
背の高いひょろりとした体型の男は、腰の剣に手を当てながら近づいてきた。
この十年以上、容姿が変わらない騎士隊長のグロールは温和そうに見える笑みを浮かべて、わたしに近づきながら手を伸ばす。わたしがそれを拒否すると、グロールはわたしの手首を掴んで顔を近づける。
「私に逆らうのはやめなさい。あなたのお父様やお母様、そして、お姉様のようになりたくないでしょう?」
「あんたこそ、わたしがいなくなれば困るくせに」
「まったく、生意気に育ったものですね」
わたしを見下ろし、嘲笑するグロールは、わたしの両親を殺し、お姉さまをいたぶった、わたしにとって、この世で一番最悪な男、いや、畜生だった。
昔から、不自然な波紋が広がる時は、何者かが近づいてきている合図なので、わたしは後ろを振り返る。
「リーン。こんなところにいたのか」
声をかけてきたのは、白の軍服に身を包んだ水色の腰まである長い髪に同じ色の瞳を持つ長身痩躯の青年、テッジ・ランダル様だった。彼がお姉さまが亡くなるきっかけを作った男で、エゲナ王国の第二王子であり、好奇心で人を簡単に傷つけることのできる冷たい心の持ち主だった。
この国では、次の王になるためには生まれてきた順番ではなく、実績を残したものが選ばれる。第一王子はお姉さまが婚約者だからという、実績とはいえないような理由で王太子だった。でも、お姉さまは死に、今、不思議な水を作ることができるのはわたしだけになった。お姉さまが亡くなって1年も経たない頃、テッジ殿下は、わたしを婚約者にした。
ずっと前から好きだったと言うが、絶対にそんなわけがない。
わたしの力はわたしだけが扱えるものではない。でも、この王国内でダークパープルの髪と瞳を持つ人物は、今のところわたししかいないのだ。この国にとってわたしは金の卵だ。わたしを妻にすれば、現在の国王はテッジ殿下を王太子に選ぶでしょう。
だから、彼はわたしを殺さない。そして、他の王族や畜生も、若返りの水を飲めなくなるのが怖いので、わたしを殺せない。
わたしが死ぬことが、彼らへの復讐になるんでしょう。でも、畜生たちのために死にたくない。わたしは両親の分もお姉さまの分も生きて幸せになると決めたのだ。
「リーン、こちらを向け」
苦笑するテッジ殿下を見つめ、憎しみの感情を顔には出さずに返事をする。
「何かご用でしょうか」
「相変わらず死んだ魚のような目つきをしているな。それにその髪型もまるで、未亡人のようだな。俺の婚約者ならもっと美しくいろ。それから、誰かに見られることがないからって、そんな薄汚い服で歩き回るな。俺だってたまには顔を見に来るんだ」
「お断りします。ですので、殿下も別にわたしの様子を見にこなくても結構ですよ」
今、わたしが着ている服は、ダークブラウンのエプロンドレスだ。綺麗なドレスを着たって、水を汲んでいるうちに濡れるだけだ。それなら、汚れても良くて動きやすい服のほうが良い。それに、髪型だって普通にシニヨンにしているだけだ。シニヨンをしているだけで未亡人なら、世の中のメイドは未亡人だらけになる。
何かと文句を言いたいだけなのでしょう。彼の言葉など気にしないようにして、バケツを近くの荷車に持っていこうとすると、テッジ殿下は後ろに控えさせていた男に声をかける。
「おい、グロール、水を持ってやれ」
「承知いたしました。大事な水ですから、一滴も無駄にはできません」
背の高いひょろりとした体型の男は、腰の剣に手を当てながら近づいてきた。
この十年以上、容姿が変わらない騎士隊長のグロールは温和そうに見える笑みを浮かべて、わたしに近づきながら手を伸ばす。わたしがそれを拒否すると、グロールはわたしの手首を掴んで顔を近づける。
「私に逆らうのはやめなさい。あなたのお父様やお母様、そして、お姉様のようになりたくないでしょう?」
「あんたこそ、わたしがいなくなれば困るくせに」
「まったく、生意気に育ったものですね」
わたしを見下ろし、嘲笑するグロールは、わたしの両親を殺し、お姉さまをいたぶった、わたしにとって、この世で一番最悪な男、いや、畜生だった。
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