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38 ほどけていくもの②
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ローク殿下は口元を引きつらせながら言う。
「トラブレルの王女の年齢を知っているのか? 今は7歳なんだぞ! ということは当時は3歳の時だ! それなのに、なんのために攫おうとするんだ!」
「色々と理由はありますわよ。ですが、なぜ、3歳の王女殿下を選んだかについては、一つ説明がつくものがあります」
ローク殿下は人が苦しむ姿を見るのが好きだとしても、基本は誰でも良い。
ただ一つだけ執着していると、お兄様から教えてもらったのはこのことだった。
「ローク殿下、あなたは幼い女の子が好きなのでしょう」
「……っ」
こんなことを言われるとは思っていなかったのか、ローク殿下は唇を噛みしめる。
「お兄様はあなたが昔から、小さな女の子を見つめていることに気が付いていたようです。そのことをトッテム公爵家に伝えて調べますと、あなたが裏で子供を誘拐させようとしているという報告が上がってきました。今まで気づかれていなかっただけで、回数を重ねているのではないのでしょうか」
「そ、そんなことはない!」
「では、ローク殿下は関与していないとおっしゃるのですね?」
「当たり前だ!」
ローク殿下が頷くと、シュティル様が言う。
「では、今すぐにロラルグリラのじょうないをしらべるけんりをください」
「どうして、そんなことをしないといけないんだ!」
「むじつをしょうめいするには、てっとりばやくて良いと思うのですが」
「うるさい! 部外者が文句を言うな!」
ローク殿下はそう叫ぶと、私とシュティル様のほうに向かってこようとした。
「ラナリー、あぶない!」
マオを抱きかかえたまま、私の前に立とうとしてくれるシュティル様のお気持ちは嬉しかった。
私たちのために動こうとしてくれているルラン様を手で制し、わたしはシュティル様の前に出る。
「許さないぞ、ラナリー!」
「ええ、結構ですよ」
伸ばされたローク殿下の腕を掴むと、横に避けて、彼の勢いを止めてから手を離した。
そして、ローク殿下の足をヒールで踏みつける。
痛みで声にならない声を上げるローク殿下に微笑んで話しかける。
「あなたはシュティル様を襲おうとしましたね」
「……ち、違う!」
いくらローク殿下でも、シュティル様に乱暴しようとしていたことがわかれば、シュテーダム王国はローク殿下を許すわけにはいかない。
だからか、ローク殿下は焦った顔をしたけれど、ノヌル公爵の口元に笑みが浮かんだ。
戦争をしたいノヌル公爵にしてみれば、シュテーダムがロラルグリラを攻めるきっかけを作ってくれたことが嬉しいのでしょう。
本当に許せないわ。
でも、そんなことはさせない。
「ローク殿下、助けてほしいですか」
私が口を開く前にマゼッタ様が静かに尋ねると、ローク殿下は希望の光が灯ったと言わんばかりに笑顔で頷く。
「助けてください。シュティル様を襲う気なんて本当になかった」
「そうですか。わかりました。あなたを助ける努力はしましょう」
「あ、ありがとう!」
「ですが、今は自由にさせることはできません。部屋を用意いたしますので、そちらでお待ちいただけますか。私が話をつけますので」
「頼みますよ!」
マゼッタ様が真相を知ったことを知らないローク殿下は、騎士に連れられて安堵した表情で別室に移動していった。
ローク殿下が連れて行かれてから、ノヌル公爵がマゼッタ様に懇願する。
「お願いです。ローク殿下に寛大な御心をお願いいたします!」
「もちろんよ」
マゼッタ様は頷いたあと、私たちを見て話す。
「彼は世界共通の敵よ。生かしておいても意味がないわ。多くの人の前での処刑が望ましいと私は思うわ」
マゼッタ様の目には涙が浮かんでいた。
まだ若かったローク殿下の言葉を信じたマゼッタ様も良くはない。
でも、彼女にとって自分を裏切ったのはローク殿下で許せないのでしょう。
自分がされたように、安心させたあとに絶望を味あわせる。
それがマゼッタ様なりの復讐なのかもしれない。
「そんな! 話が違う!」
今の言葉を聞いて、叫んだのはノヌル公爵だった。
「トラブレルの王女の年齢を知っているのか? 今は7歳なんだぞ! ということは当時は3歳の時だ! それなのに、なんのために攫おうとするんだ!」
「色々と理由はありますわよ。ですが、なぜ、3歳の王女殿下を選んだかについては、一つ説明がつくものがあります」
ローク殿下は人が苦しむ姿を見るのが好きだとしても、基本は誰でも良い。
ただ一つだけ執着していると、お兄様から教えてもらったのはこのことだった。
「ローク殿下、あなたは幼い女の子が好きなのでしょう」
「……っ」
こんなことを言われるとは思っていなかったのか、ローク殿下は唇を噛みしめる。
「お兄様はあなたが昔から、小さな女の子を見つめていることに気が付いていたようです。そのことをトッテム公爵家に伝えて調べますと、あなたが裏で子供を誘拐させようとしているという報告が上がってきました。今まで気づかれていなかっただけで、回数を重ねているのではないのでしょうか」
「そ、そんなことはない!」
「では、ローク殿下は関与していないとおっしゃるのですね?」
「当たり前だ!」
ローク殿下が頷くと、シュティル様が言う。
「では、今すぐにロラルグリラのじょうないをしらべるけんりをください」
「どうして、そんなことをしないといけないんだ!」
「むじつをしょうめいするには、てっとりばやくて良いと思うのですが」
「うるさい! 部外者が文句を言うな!」
ローク殿下はそう叫ぶと、私とシュティル様のほうに向かってこようとした。
「ラナリー、あぶない!」
マオを抱きかかえたまま、私の前に立とうとしてくれるシュティル様のお気持ちは嬉しかった。
私たちのために動こうとしてくれているルラン様を手で制し、わたしはシュティル様の前に出る。
「許さないぞ、ラナリー!」
「ええ、結構ですよ」
伸ばされたローク殿下の腕を掴むと、横に避けて、彼の勢いを止めてから手を離した。
そして、ローク殿下の足をヒールで踏みつける。
痛みで声にならない声を上げるローク殿下に微笑んで話しかける。
「あなたはシュティル様を襲おうとしましたね」
「……ち、違う!」
いくらローク殿下でも、シュティル様に乱暴しようとしていたことがわかれば、シュテーダム王国はローク殿下を許すわけにはいかない。
だからか、ローク殿下は焦った顔をしたけれど、ノヌル公爵の口元に笑みが浮かんだ。
戦争をしたいノヌル公爵にしてみれば、シュテーダムがロラルグリラを攻めるきっかけを作ってくれたことが嬉しいのでしょう。
本当に許せないわ。
でも、そんなことはさせない。
「ローク殿下、助けてほしいですか」
私が口を開く前にマゼッタ様が静かに尋ねると、ローク殿下は希望の光が灯ったと言わんばかりに笑顔で頷く。
「助けてください。シュティル様を襲う気なんて本当になかった」
「そうですか。わかりました。あなたを助ける努力はしましょう」
「あ、ありがとう!」
「ですが、今は自由にさせることはできません。部屋を用意いたしますので、そちらでお待ちいただけますか。私が話をつけますので」
「頼みますよ!」
マゼッタ様が真相を知ったことを知らないローク殿下は、騎士に連れられて安堵した表情で別室に移動していった。
ローク殿下が連れて行かれてから、ノヌル公爵がマゼッタ様に懇願する。
「お願いです。ローク殿下に寛大な御心をお願いいたします!」
「もちろんよ」
マゼッタ様は頷いたあと、私たちを見て話す。
「彼は世界共通の敵よ。生かしておいても意味がないわ。多くの人の前での処刑が望ましいと私は思うわ」
マゼッタ様の目には涙が浮かんでいた。
まだ若かったローク殿下の言葉を信じたマゼッタ様も良くはない。
でも、彼女にとって自分を裏切ったのはローク殿下で許せないのでしょう。
自分がされたように、安心させたあとに絶望を味あわせる。
それがマゼッタ様なりの復讐なのかもしれない。
「そんな! 話が違う!」
今の言葉を聞いて、叫んだのはノヌル公爵だった。
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