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32 ノヌル公爵の目的①(視点変更あり)

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 私たちから話を聞いたマゼッタ様は、しばらく悩んだ様子を見せたあと、私たちの言うことなど信じないと言って部屋から出ていってしまった。

「俺の言い方はまずかっただろうか」

 マゼッタ様が出て行った扉を見つめて、ルラン様が小さな声で言った。

「私も同じようなことを言っていたと思いますから、気になさらなくても良いと思います。マゼッタ様にしてみれば、理解はできても信じたくない気持ちのほうが強いのではないかと思います」
「でも」

 自分を責めるルラン様の背中を撫でながら言う。

「あんな話を聞いたら誰でも取り乱したり疑ったりすると思います。ルラン様のせいではありません」

 ルラン様が話したことは、マゼッタ様にとっては信じがたい話だったと思う。
 けれど、真相を自分の手でつかもうとされるのではないかと思い、この話をしてみた。

 今、この国には他国からの王族がたくさん集まっている。

 私たちが言った話が嘘か本当かは確かめられるはずだ。
 マゼッタ様を信じるわけではないけれど、マゼッタ様のマーラ様への愛が本当なら、最悪の事態は防げるはずだと思った。


◆◇◆◇◆◇


「ルラナはどこに行ったの?」

 イーノ城内にあるシュティルのために用意された部屋のベッドに座り、ラフな格好に着替えたシュティルはメイドに尋ねた。

「すぐに帰ってこられると思いますので、今はわたくしで我慢してくださいませ」
「ごめんね。べつにヨーナがいやとかじゃないんだよ」
「ふふ。シュティル様はお優しいですね」
「そんなことないよ」

 シュティルがはにかんで応えた時だった。

 扉がノックされたため、部屋の中にいた数人のメイドたちの表情が笑顔から厳しいものに変わった。

 部屋の前には騎士もいるため、城内で何かが起こるわけはないと思う気持ちはある。
 だが、ルランとラナリーから気を抜くなと言われていたため、メイドたちはこのことだろうかと警戒した。

「どちら様でしょうか」

 ヨーナというメイドが警戒しながら、扉の向こうに声をかけた。
 シュティルの足元で大人しくしていたマオもいつの間にか扉の前に移動して、毛を逆立てている。

「ノヌルでございます。約束はしておりませんが、陛下にお会いしたいのです」

 ラナリーから自分たちがいない間に、誰かが訪ねてきても決して部屋の中に入れないようにと指示されていたヨーナたちは目で合図を送りあった。

 ヨーナが扉に近づきながら話す。

「ノヌル公爵閣下、申し訳ございませんが、シュティル様はお疲れになって今は眠っておられます。時間を空けてから、もう一度お越し願えますでしょうか」
「今すぐに話したいんだ。俺と話をしているのは誰だ? メイドのくせに俺に口答えするのか!?」

 女性の声のため、ラナリーだという可能性もあるはずなのだが、ノヌル公爵がメイドと決めつけてきたため、ヨーナはノヌル公爵が、ラナリーたちがいない時を見計らって来たことを確信した。

「口答えではございません。事実をお伝えしてお願い申し上げたまででございます」
「会わせろと言っているんだ!」

 シュティルが本当に寝ていても大声を出せば起きるとでも思ったのか、わざとノヌル公爵は怒鳴り声を上げた。

 シュティルがびくりと体を震わせたけれど、他のメイドたちが彼の両耳を手で塞いで落ち着かせる。

「閣下、このことはルラン様にご報告させていただきます」

 廊下に立っている騎士が告げると、ノヌル公爵が叫ぶ。

「報告したければすれば良い! 彼は公爵令息であって公爵ではない! 俺のほうが偉いんだ!」

 そう言いながらも揉めることは良くないと思ったのか、ノヌル公爵は諦めて去っていく。
 それと同時にマオは威嚇するのをやめて、シュティルのところへ駆け寄っていった。

「マオ、守ってくれてありがとう」

 シュティルが抱き上げて頬を寄せると、マオも頭を彼の頬にこすりつけた。
 メイドたちも安心したように大きな息を吐いた。

「ノヌルこうしゃくは、ぼくに何をはなすつもりだったんだろう」

 シュティルに尋ねられたヨーナたちは、素直に見当がつかないと答えた。

 ただ、彼女たちが再確認できたのはノヌル公爵をシュティルに近づけてはならないということだった。
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