縁あって国王陛下のお世話係になりました

風見ゆうみ

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31 伝えておかなければいけないこと

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 エンバーミングのおかげで、数日経ってもシュティル様のお祖父様のお顔は綺麗なままだった。

 シュティル様は棺の中で目を閉じているお祖父様を見て、涙をこらえて祈りを捧げていた。
 葬儀後はイーノ王国で一泊して、明日には帰る予定だけれど、私とルラン様は帰る前にやらなければいけないことがあった。

 それは、マゼッタ様との話し合いだ。

 トッテム公爵家は中立の立場ではあるものの、悪を許す公爵家ではなかった。
 というのも、戦後、ロラルグリラの息がかかっているのではないかと怪しまれたノヌル公爵家をロラルグリラが政務担当に指名した時、他国から反対が出た。
 けれど、ロラルグリラも譲らなかった。
 どうしてもノヌル公爵家を政務につかせたかったロラルグリラは、公平性をアピールするために、筆頭公爵家のユリアス家にシュティル様を任せたのではないかというのが他国の予想だった。
 本当に公平性を訴えるのであれば、それをジャッジするためにトッテム公爵家が選ばれたらしいのだけれど、トッテム公爵家を選んだのはロラルグリラではなく、ロラルグリラと冷戦状態にあった国、トラブレル王国だった。

 トラブレル王国の国民の多くは知っている話らしいけれど、現在のロラルグリラの国王陛下がお若い頃に、トラブレル王国の第一王女殿下をかどわかそうとしたらしい。
 正確にいえば、誰かに誘拐させようとしたのだけれど失敗に終わり、捕まった男はロラルグリラの国王陛下から指示されたと訴えた。
 でも、ロラルグリラの陛下はそれを認めず、確たる証拠もなかったため、その男が処刑されただけで終わった。

 けれど、トラブレル王国の王家含む上層部は疑わしき国として、ロラルグリラとの国交をその日から断絶していた。

 ロラルグリラを疑い続けていたトラブレル王国は、このままではシュテーダムが危ないと判断し、国交を再開する代わりにトッテム公爵家を指名した。

 トッテム公爵家とトラブレル王国の国王陛下がお知り合いだったこともあり選ばれたのだそうだ。

 そのトッテム公爵家が、マゼッタ様にこの事実を伝えるようにと要請してきたので、私とルラン様はマゼッタ様にお時間をとってもらった。

 通された応接室でしばらく待っていると、気怠げな表情のマゼッタ様が入ってきた。
 お悔やみの言葉と大変な時期に話し合いのお願いをしてしまったことをお詫びすると、マゼッタ様は扇で口元を隠して急かしてくる。

「悪いと思うのなら用件を早く言いなさい」
「では、早速本題に入らせていただきます」

 ルラン様は少し間を空けてから話を続ける。

「終戦後すぐの話ですが、シュティル様だけでなく、マーラ様も助かる道があったのに、その話を却下した人間がいることがわかりました」
「……なんですって?」

 マゼッタ様は呆然とした表情になり、持っていた扇を床に落とした。
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