縁あって国王陛下のお世話係になりました

風見ゆうみ

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30 野生の勘

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 イーノ王国へ向かう馬車の中で、シュティル様は窓の外を見てはしゃいでは、すぐに遊びに出かけるわけではないことを思い出して座り直すということを繰り返していた。

 城から出たことがないシュティル様にしてみれば、外の景色はとても新鮮なものだろうということは理解できる。
 ただ、こちらとしては何かあったら大変なのでハラハラしてしまう。

 あまり、窓に顔を近づけないようにするため、私はシュティル様に話しかける。

「マオが馬車に乗ることを嫌がらなくて良かったですね」
「うん。置いていったほうがマオのためかなとも思ったんだけれど、マオはぼくを守ろうとしてくれているから、いっしょにいないとだめなんだろうね」

 馬車の座席の上に置かれたふかふかのクッションの上で丸くなって眠っているマオを見ながら、シュティル様は微笑んだ。

 馬車はけっこう揺れが酷いのにマオは気にせずに眠っているから、少しだけ羨ましい。
 元々、マオは置いていくつもりだった。
 だけど、マオは何かを感じて取っているのか、どうしても馬車に乗りたがり、暴れまわって大変だった。
 メイドを引っ掻いたりするような子ではないのに爪を出して、引っ掻いてまで抵抗した。
 
 連れて行くか行かないかで判断が分かれるかとは思ったけれど、その場にいた全員がマオを連れて行くことを選んだため、マオを馬車に乗せてあげた。
 そうすると満足したのか大人しくなった。

「ねえ、ラナリー」
「どうかされましたか」
「おじいさまのそうぎに行かないほうがみんなのためだったのかな」
「どうしてそう思われるのですか」
「みんな、さいしょは反対していたから」
「そうですね。皆、シュティル様のことを考えて反対しておりましたが、シュティル様の望まれたことが間違っているとも今回については思てまえせん。それに、シュティル様のご希望がなくても、マゼッタ様から出席するようにと要請があったかと思われます」

 シュテーダム王国の地理的なものを考えると、ロラルグリラが敵とわかっている以上、イーノ王国を敵に回すことはしたくない。
 シュテーダム王国の平和を望む人は、下手にイーノ王国と揉めるきっかけを作りたくないのは確かだ。

「おじいさまには会ったこともないんだ。だけどね、手紙ではやり取りしていたんだよ」
「そうだったのですね」
「うん。だから、もう少し大きくなって、自由に動けるようになったら、おじいさまに会いに行くねってお手紙を書いてたんだ。それなのに」
「おじいさまはシュティル様のことをわかってくださっていると思います。今だって、お空で見守ってくれていらっしゃいますよ」
「うん」

 そう言って、シュティル様は潤んだ目で馬車の窓から見える、青い空を見つめて頷いた。

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