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19 祝賀会当日④

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 お姉様にはシュティル様のスピーチが終わってから話をすると言い聞かせて大人しくさせた。

 私にしてみれば、お姉様の戯言よりもシュティル様のスピーチのほうが大事だった。

 今日の日のために、シュティル様は難しい言葉を一生懸命になって覚えて、何とか噛まずに言えるように練習してきたのだ。

 組んだ指を顎に当てて見守っていると、静かなホール内にシュティル様の声が響く。

「本日は、みな、いそがしい中、わたしのために集まってくれてありがとう」

 遠い場所にいるので、シュティル様の顔ははっきりとは見えない。
 でも、声が震えているのがわかったので、かなり緊張しておられることはわかった。

「あんな小さな子供が、こんな大勢の前でスピーチをしないといけないの?」

 お姉様が小声で話しかけてきたけれど無視する。
 
「ねえ、聞いてるの? ねえってば!」

 周りに人がいないから、私たちが話をすることを咎める人もいないけれど、来賓席やシュティル様には見えているかもしれない。
 だから、絶対に私はお姉様のほうを見ずにシュティル様だけを見つめていた。

 無事にスピーチを終えると、貴賓席に向かって頭を下げたシュティル様はやり遂げた、と言わんばかりに大股で舞台幕のほうに歩いていき姿が見えなくなった。
 
 ホッと胸を撫でおろしたところで、お姉様が文句を言ってくる。

「ねえ、もう話ができるでしょう」
「ええ。というか、お姉様、陛下がお話している時に話しかけるなんてありえないことですよ」
「私の国ではしないわよ。そんなことをしたら首をはねられちゃうかもしれないわ」
「それはやりすぎかと思いますが、それくらいのことをしたという自覚を持ってください」
「わかったわ。それよりもどうかしら」
「どうかしらの意味がわかりません。先程のお願いはお断りしたはずです」

 お姉様を置いて、こちらを気にしてくれているルラン様の所へいこうとした時、前方から、両親が歩いてくるのが見えた。
 おめでたい席だというのに仏頂面をしているから、私からの手紙の返事が気に入らなかったように思える。

「別れる話は済んだのか?」

 久しぶりに会う娘を気遣う言葉もなく、お父様は尋ねてきた。

「いいえ。離婚する気はありませんから」
「何を言っているの!」

 私の言葉を聞いて、お母様は驚いた顔をしたけれど、すぐに笑顔に変わる。

「まだ、スパイ活動を続けると言うのね」

 周りに聞こえないように小声ではあるけれど、明るい声で言ってきたので、お母様は何やら勘違いしているみたいだった。

「違います」

 否定したところで、ルラン様がこちらに近付いてきているのがわかった。
 すると、それに気がついた両親は慌てて、この場を去ろうとする。

「何かわかれば連絡しなさい。後ほど、ローク殿下からも連絡があるだろう」

 そう言って、お父様はお母様と嫌がるお姉様を連れて去っていった。
 ルラン様は私の前に立つと、呆れた顔をして話しかけてくる。

「挨拶しようと思ったが逃げていったな」
「申し訳ございません」
「いや、謝る必要はない。それに代理で挨拶はしてもらったよ」
「久しぶりだな、ラナリー」

 そう言って、ルラン様の背後から現れたのはお兄様だった。
 
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