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13 それぞれの目的

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「私に陛下のお世話係が務まるでしょうか」
「君なら適任だと思うが。陛下は君に懐いているし」

 そう言って、ルラン様が頷いてくれた。
 マオには懐かれていないけれど、エーラ様に任せているくらいなら、私がお世話係になったほうがシュティル様にとっても良いことかもしれない。

 でも、私にシュティル様のお世話ができるかしら。
 子育て経験なんてないのに。

 って、世話係ってどんなことをするのかしら。
 考えてみたら、母親代わりなら、お義母さまがすでに務めてくれているのよね。

「お茶を淹れるなどの仕事はメイドに任せれば良い。君にしてほしいのは礼儀や、ご自分のお立場がどんなものであるかを教えること、そして、陛下に自信を持ってもらうことだ」
「自信……」

 お義父さまの言いたいことはわかった。

 今のシュティル様は自分が死ねば良かったのだと思っている。
 そんなことはないということを、私が実感できるようにしていけば良いのね。
 難しいことではあるけれど、シュティル様を裏切る気持ちは欠片もない。
 それなら、エーラ様よりも私のほうが適任だわ。

 ふと、気になったことを思い出して、この機会に聞いてみる。

「そういえば、シュティル様はお祖母様と上手くいっておられないのでしょうか」
「……そうね」

 お義母さまが食事の手を止めて、項垂れるように下を向いた。

「この機会に話しておこう。現陛下のお母上のマーラ様がイーノ王国の王女だったことは知っているかな」

 お義父さまに問われて頷く。

「はい。第2王女殿下だったとお聞きしています」
「マーラ様の母であるマゼッタ様は、あの時、ロラルグリラに娘だけは助けるようにと話をしていた」
「お待ち下さい。戦争を止めようとはしなかったのですか」
「マゼッタ様はマーラ様がシュテーダムに嫁ぐことを反対していらしたんだ」
「先代の国王陛下を亡き者にして、マーラ様を取り戻そうとしたんですか」

 お義父さまは肯定も否定もせずに話を続ける。

「ロラルグリラはシュティル様を殺しても良いのなら、その条件を飲むと言ったらしい。そして、マゼッタ様はシュティル様を殺しても良いからマーラ様を助けてくれと言ったんだ」

 孫よりも娘が大事。
 そんなものなのかしら。
 どちらも大事ではないのね。

「しかし、マーラ様はシュティル様を生かしてくれと頼み、前国王陛下であるシュート様と共に国のために死ぬとおっしゃったそうだ」
「王妃陛下の立場で、母親の気持ちになればそうなるのでしょうね」
「マゼッタ様はシュティル様がいなければ、マーラ様は死なずに済んだと思っていらっしゃるのよ」

 お義母さまは顔を上げてそう言ったあとは、悲しげに目を伏せた。

「ですが、それはシュティル様がいたからこそできた交渉事でもあったのでは?」

 お義父さまとルラン様に尋ねると、ルラン様が答えてくれる。

「これは他国には話していないし、トッテム公爵家とユリアス公爵家が話し合って考えついたことなんだが」

 言葉を区切ってルラン様は私を見つめた。
 目が合っていても逸らさないのだから、よほど重要なことで、口外するなという意味合いだとわかって頷く。

「もちろん、他の人に話したりはしません」
「これは事実と確定しているわけじゃない。それだけは覚えておいてくれ」

 ルラン様は前置きしてから話を続ける。

「イーノ王国、正確にはマゼッタ様はシュテーダムを滅ぼしたかった。だから、ロラルグリラに手を貸したのではないかと言われている」
「まさか、マーラ様を取り戻すためですか?」
「その可能性が高い。お二人は恋愛結婚だった。お父上が認めてくださったので、ご結婚されたが、母であるマゼッタ様は納得していなかったようだ」

 この話が真実なら、自分の手で最愛の娘を殺したようなものじゃないの。
 だから、責任転嫁しようとしているのね。
 事実を受け止めたら、自分が辛くなるから。

「ロラルグリラの王家とマゼッタ様の密約の可能性が高いですわね。そして、約束が守られなかったので、イーノ王国は他国の侵入を阻むことをやめて、ロラルグリラとシュテーダムの問題に介入させたのですね」
「一番最初に行われたのが、両陛下の処刑だったからな」
 
 お義父さまがその時のことを思い出したのか、眉尻を下げて言った。

 となると、ロラルグリラとイーノは冷戦状態に近いのかもしれない。
 現在、イーノ王国の陛下は代替わりしているから、真実を知らない可能性もあるけれど……。

 今の状況的にはロラルグリラが孤立しているのも確かだわ。

 だからこそ、ロラルグリラはシュテーダムを自分のものにしたいのね。
 金鉱がほしいのは確かだけれど、他国と何かあった時に人の盾にするつもりかもしれない。

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