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16 祝賀会当日①

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 祝賀会が3日後に迫った、よく晴れた日の朝に両親からの手紙が私の元に届いた。
 そこには、お姉さまとローク殿下の婚約破棄について書かれていた。

 そして、ローク殿下は私を連れ戻し、私と結婚すると言っているのだそうだ。
 光栄なことだから、離婚して実家に戻ってくるようにとも書かれていた。

「何を寝ぼけたことを言っているのかしら」
 
 手紙をぐしゃぐしゃにして捨てようとしてやめた。

 ルラン様たちに見せてから破り捨てることにしたのだ。

「君の両親は君が自分たちのことを恨んでいると思ったことはないのかな」

 朝食の時に手紙を見せてみると、読み終えたルラン様が言った。

「ないと思いますわ。いつだって自分が正しいと思っている人たちですから」
「婚約破棄とのことだが、フェルーナ嬢はショックを受けているんじゃないか?」
「受けていたとしても知ったことではありません。お姉様が選んだ道ですから」
「それもそうだな。今まで君は嫌な思いをしてきたんだ。心配してやる気持ちにはならないよな」
「ええ。何を言ってこくるかはわかりませんが、返り討ちにしようと思います」

 今までは家から追い出されることを恐れて言えなかったところもある。
 でも、今は、私には居場所がある。
 お姉様のご機嫌をとる必要もないわ。

「あまり暴れすぎるなよ。あくまでも主役は陛下だ」
「わかっていますわ」

 ルラン様から手紙を返してもらった私は、苦笑して頷き、自分の手で手紙を破った。



*****

 世話係になってからは、シュティル様が眠ったあとは城の敷地内にある部屋で眠り、朝もそこから出勤していた。

 でも、エーラ様から何か言われたのか、ある日、シュティル様は勤務中の私とルラン様にこう言った。

「しんこん生活をじゃましてごめんね。ラナリーも夜はかえっていいから、ルランもラナリーもぼくのことをきらわないで」

 しゅんとしているシュティル様を見て、私とルラン様は慌てて「嫌うことなんてありません」と伝えた。

 シュティル様は誰かに嫌われることをなぜか納得しているようであり、とても恐れている。
 身近な人間に嫌われることが一番怖いようだった。

 大きな目をウルウルさせているシュティル様を見て、可愛すぎて嫌えるわけがないわ。

 もっと堂々としてほしいところではあるけれど、今は可愛いから許す。

 なんて、甘いことを考えてしまったものだ。

 シュティル様の優しさを受けて、次の日が休みの場合はユリアス邸に帰らせてもらうことにした。

 そして、世話係としては休みの日の祝賀会当日の朝、正装してルラン様と登城した。

 今日のシュティル様の世話は長年、城で働いているメイドたちにお願いしている。

 信用できる人たちでもあるし、シュティル様は主役なので着飾ってもらう必要もあったからだ。

 紺色の燕尾服のルラン様と紺色のプリンセスラインのドレスを着た私は、招待客として腕を組んで会場に入った。

 ルラン様は私には慣れてきたらしく、服越しであれば触られても逃げなくなった。
 というか、そうなるように特訓した。

 まだ、メイドに触られたりすると逃げようとするけれど、私相手だと踏ん張れるようになれたのは偉いと褒めてあげたい。

 ローク殿下や家族に話しかけられたくないので端のほうに移動していると、ウエイターがやって来て、陛下がお呼びですと教えてくれた。

 慌てて会場を出て、すぐ裏にある控室に行くと、白髪をシニヨンにした、ピンと背筋を伸ばした上品そうな老婆がシュティル様を叱っていた。

「本当に無駄遣いだわ。どうして反対しなかったのです?」
「みんながぼくのために、お祝いをしようとしてくれているから、その気持ちに水をさしたくなかったんです」
「まったく、生まれてこなくても良かった子供のために、ここまで派手な祝賀会する必要はあったのかしら」

 大きな声でマゼッタ様は言った。
 周りのメイドたちは俯いて、マゼッタ様への怒りをこらえているようだった。

 私とルラン様は眉根を寄せて顔を見合わせたあと、マゼッタ様に話しかける。

「今日の祝賀会は国民の多くが支持しています」
「国王陛下の誕生日です。派手にしてはいけないという理由がわかりませんわ」 

 シュティル様とマゼッタ様は自分たちの話に夢中で私たちに気づいていなかったのか、驚いた顔をした。
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