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8 祝賀会の誘い
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ルラン様とは日が経つにつれて、目は合わせられないながらも打ち解けてはいった。
眠る部屋は別々だけれど、朝はいつも一緒に食べてくれるし、仕事からは定時に帰ってきてくれて夕食も一緒にとる。
昼食は義理の両親、もしくはお義母さまと二人で食べるし、使用人も優しくて、ユリアス邸ではかなり甘やかされていた。
私は特にお義母さまといることが多かった。
なぜかというと、公爵夫人になるための心構え、仕事を教えてもらうだけでなく、体術も教えてもらっていたからだ。
「私が人質になったせいで、ライオールやユランに迷惑をかけたくないの。だから、自分にできる範囲のことはしておきたかったのよ」
お義母さまは体術を学んだ理由について、そう教えてくれた。
小柄なお義母さまは力が弱く、剣は重すぎて上手く扱えない。
そのため体術で身を守ることに決めたらしい。
私も覚えていて損はないので、教えてもらうことになった。
可愛らしい容姿のお義母様から「ラナリーは足が長いから、蹴り技は距離を取る牽制にもなるし良いわね」なんて言われると複雑な気分になる。
お義母さまはお姉様が好みそうなフリフリのドレス
が似合いそうな可愛らしい外見だ。
それなのに言っていることは武闘派タイプだし、ドレスもシンプルなものが多い。
今だって、私と同じパンツ姿だ。
女性は騎士以外はこういう格好を嫌がる人は多いのだけれど、全く気にしている様子はない。
ユリアス公爵邸の敷地内にある鍛錬場で、お義母さまや休憩中の騎士たちに稽古をつけてもらっていると、ユラン様がやって来た。
夢中で練習をしていたせいか、空を見上げると、綺麗なオレンジ色になっていた。
どっと疲れが押し寄せてきて、座り込みたい気分になる。
何とかこらえて、ルラン様に声をかける。
「おかえりなさいませ、ルラン様」
「ただいま、ラナリー」
旦那さまと呼ぶと、お義父さまと混乱する可能性があるため、私はルラン様と呼ばせてもらっている。
そして、ルラン様は私をラナリーと呼ぶ。
「もう、鍛錬は終わりそうか?」
「ごめんなさいね、ルラン。あなたの妻をお返しするわ」
ルラン様に笑顔で言ったあと、お義母さまは私に目を向ける。
「今日は終わりにしましょう」
「ありがとうございました」
体力的には限界に近かったので、本当に助かった。
夢中になると、時を忘れるタイプなのも良し悪しね。
「大丈夫か?」
「何がでしょう」
「かなり疲れ切った顔をしている」
「……そ、それはそうかもしれません」
歩くので精一杯なことと、嘘をつく必要もないので頷く。
「済まない。抱きかかえてやれれば良いんだが」
「結構です。放り投げられそうな気がしますわ」
「いや、たぶん、そこまではしないと思うんだが」
「以前に女性を抱きかかえたことはお有りですか」
「……ないな」
「試してみたい気持ちもありますが、不安な気持ちしかないですわね」
話しながら屋敷に向かっていると、ルラン様が話題を変えてくる。
「約三十日後に陛下の誕生日を祝う会が行われる。陛下は君にもぜひ来てほしいと」
「光栄ですわ」
「ローク殿下と君の姉も来ることになっている」
「最悪ですわね。辿り着けないように道を寸断したい気分ですけれど、他の方にご迷惑がかかりますし無理ですわよね」
「そうだな。何を言い出すかわからないし、国民も被害を受けてしまう」
お祝いの手紙に返事をしたあとも、両親やローク殿下からは頻繁に手紙が届いていた。
私の今の状況を伝えるようにと書かれてあるので『幸せです』と書いて返事している。
でも、彼らにとって、ほしい返事はそんなものではない。
検閲される可能性を恐れて、毎回、手紙は使いの者が持ってきて、私に手渡ししてくる。
そして、すぐに返事を書くように求められ、返事の手紙を渡すと帰っていく。
ユリアス公爵邸の人たちはそれを知っているけれど、手紙の内容については一切触れてこない。
他の人に見せるなと言われてはいないので、私の専属侍女には手紙を確認してもらい、報告しなければならないと思われる内容の場合は、お義父さまに報告してもらっている。
そのこともあってか、使用人たちは私にとても良くしてくれる。
「ルラン様」
「どうした」
「祝賀会に出席するのは光栄なことですが、ダンスなどは踊らなくても良いんでしょうか」
「陛下に相談する」
ルラン様は眉根を寄せて答えた。
ルラン様の職業は陛下の側近だ。
だから、ほぼ毎日陛下に会っている。
ルラン様が女性が苦手だということを、ローク殿下たちは知らない。
幸いなことに、お姉様はルラン様に会いに来ても、少し話をしただけで、買い物に出かけていたらしい。
しかも、お金はユリアス公爵邸持ちでだ。
……そういえば、9歳の美女は国で頑張っているのかしら。
眠る部屋は別々だけれど、朝はいつも一緒に食べてくれるし、仕事からは定時に帰ってきてくれて夕食も一緒にとる。
昼食は義理の両親、もしくはお義母さまと二人で食べるし、使用人も優しくて、ユリアス邸ではかなり甘やかされていた。
私は特にお義母さまといることが多かった。
なぜかというと、公爵夫人になるための心構え、仕事を教えてもらうだけでなく、体術も教えてもらっていたからだ。
「私が人質になったせいで、ライオールやユランに迷惑をかけたくないの。だから、自分にできる範囲のことはしておきたかったのよ」
お義母さまは体術を学んだ理由について、そう教えてくれた。
小柄なお義母さまは力が弱く、剣は重すぎて上手く扱えない。
そのため体術で身を守ることに決めたらしい。
私も覚えていて損はないので、教えてもらうことになった。
可愛らしい容姿のお義母様から「ラナリーは足が長いから、蹴り技は距離を取る牽制にもなるし良いわね」なんて言われると複雑な気分になる。
お義母さまはお姉様が好みそうなフリフリのドレス
が似合いそうな可愛らしい外見だ。
それなのに言っていることは武闘派タイプだし、ドレスもシンプルなものが多い。
今だって、私と同じパンツ姿だ。
女性は騎士以外はこういう格好を嫌がる人は多いのだけれど、全く気にしている様子はない。
ユリアス公爵邸の敷地内にある鍛錬場で、お義母さまや休憩中の騎士たちに稽古をつけてもらっていると、ユラン様がやって来た。
夢中で練習をしていたせいか、空を見上げると、綺麗なオレンジ色になっていた。
どっと疲れが押し寄せてきて、座り込みたい気分になる。
何とかこらえて、ルラン様に声をかける。
「おかえりなさいませ、ルラン様」
「ただいま、ラナリー」
旦那さまと呼ぶと、お義父さまと混乱する可能性があるため、私はルラン様と呼ばせてもらっている。
そして、ルラン様は私をラナリーと呼ぶ。
「もう、鍛錬は終わりそうか?」
「ごめんなさいね、ルラン。あなたの妻をお返しするわ」
ルラン様に笑顔で言ったあと、お義母さまは私に目を向ける。
「今日は終わりにしましょう」
「ありがとうございました」
体力的には限界に近かったので、本当に助かった。
夢中になると、時を忘れるタイプなのも良し悪しね。
「大丈夫か?」
「何がでしょう」
「かなり疲れ切った顔をしている」
「……そ、それはそうかもしれません」
歩くので精一杯なことと、嘘をつく必要もないので頷く。
「済まない。抱きかかえてやれれば良いんだが」
「結構です。放り投げられそうな気がしますわ」
「いや、たぶん、そこまではしないと思うんだが」
「以前に女性を抱きかかえたことはお有りですか」
「……ないな」
「試してみたい気持ちもありますが、不安な気持ちしかないですわね」
話しながら屋敷に向かっていると、ルラン様が話題を変えてくる。
「約三十日後に陛下の誕生日を祝う会が行われる。陛下は君にもぜひ来てほしいと」
「光栄ですわ」
「ローク殿下と君の姉も来ることになっている」
「最悪ですわね。辿り着けないように道を寸断したい気分ですけれど、他の方にご迷惑がかかりますし無理ですわよね」
「そうだな。何を言い出すかわからないし、国民も被害を受けてしまう」
お祝いの手紙に返事をしたあとも、両親やローク殿下からは頻繁に手紙が届いていた。
私の今の状況を伝えるようにと書かれてあるので『幸せです』と書いて返事している。
でも、彼らにとって、ほしい返事はそんなものではない。
検閲される可能性を恐れて、毎回、手紙は使いの者が持ってきて、私に手渡ししてくる。
そして、すぐに返事を書くように求められ、返事の手紙を渡すと帰っていく。
ユリアス公爵邸の人たちはそれを知っているけれど、手紙の内容については一切触れてこない。
他の人に見せるなと言われてはいないので、私の専属侍女には手紙を確認してもらい、報告しなければならないと思われる内容の場合は、お義父さまに報告してもらっている。
そのこともあってか、使用人たちは私にとても良くしてくれる。
「ルラン様」
「どうした」
「祝賀会に出席するのは光栄なことですが、ダンスなどは踊らなくても良いんでしょうか」
「陛下に相談する」
ルラン様は眉根を寄せて答えた。
ルラン様の職業は陛下の側近だ。
だから、ほぼ毎日陛下に会っている。
ルラン様が女性が苦手だということを、ローク殿下たちは知らない。
幸いなことに、お姉様はルラン様に会いに来ても、少し話をしただけで、買い物に出かけていたらしい。
しかも、お金はユリアス公爵邸持ちでだ。
……そういえば、9歳の美女は国で頑張っているのかしら。
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