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7 白い結婚の始まり
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私とルラン様が屋敷の中に戻ると、花はほとんど片付けられていた。
廊下のあちらこちらに花瓶が置かれているなと思ったら、全て同じ花が入っていた。
使用人たちが話をしていたけれど、私もしばらくはこの花を見たくないわね。
心の中で罪のない花に謝ってから、ルラン様と一緒にダイニングルームに向かった。
「あ、ルラン! ラナリー、ルランが嫌なことを言わなかった?」
「嫌なことは言われていませんわ。お気遣いいただきありがとうございます」
「それなら良かった。いっしょに食事をしよう」
ダイニングルームの中に入ると、白いテーブルクロスが敷かれた20人くらいは座れそうな長テーブルがあり、その一番奥に陛下がちょこんと座っていた。
椅子の上にクッションなどを敷いてもらっているのか、大人用の椅子に座っているのに、しっかり顔が見えている。
すでに席に着いていた公爵夫人と、その向かい側に座っている公爵閣下が促してくる。
「ラナリーさんは私の隣にどうぞ」
「ルラン、お前はラナリー嬢の向かい側、俺の隣に座れ」
「「承知しました」」
声が揃ってしまったのでルラン様のほうを見ると、私と目が合った瞬間、早足で公爵閣下の隣の席へ向かっていった。
「失礼いたします」
メイドが椅子を引いてくれたので、座る前に公爵夫人に一礼した。
すると、公爵夫人が微笑む。
「ラナリーさん。そんなに他人行儀にならないでちょうだい。これから一緒に住むのだから気楽に過ごしてほしいし、私とも仲良くしてほしいわ」
「では、私のことはラナリーとお呼びくださいませ」
「良いの?」
「もちろんです。私はシファラン様とお呼びしても良いですか?」
「ええ。私のことは結婚後はお義母さまと呼んでほしいわ」
シファラン様は私を歓迎してくれているみたいで良かった。
でも、公爵閣下にしてみれば自分の両親の仇である国の令嬢だから、あまり良い感情はないのではないかしら。
そう思ったけれど、閣下は今のところは私に対して嫌な態度を見せることはなかった。
「ラナリー! ぼくもラナリーと仲良くなりたい! 仲良くしてくれる?」
「もちろんですわ」
「じゃあ今度、城でいっしょに食事をしようよ。いつも一人ぼっちだからさみしいんだ」
「一人ぼっち?」
陛下にではなく、シファラン様のほうに顔を向けると、シファラン様は私を見て苦笑する。
「詳しいことはまた話すわ」
「お願いいたします」
歓迎してもらっているとはいえ、私はまだ他国の人間でありユリアス家の人間ではない。
ルラン様がおっしゃっていた通り、結婚後や、もっと信用を得てからでないと教えてもらえないことはたくさんあるのだと思う。
戦争の原因もそうだけれど、シュテーダム国内から見たロラルグリラを、そしてシュテーダム以外の国から見たロラルグリラをしっかり確認しようと思った。
「にゃん」と鳴き声が聞こえて、足元を見ると、黒い子猫が私を見上げていた。
「マオ様、私と仲良くしてくださるんですか?」
陛下の猫なので呼び捨てにするわけにはいかず、様をつけて言うと、マオ様はぷいっと顔を背けたかと思うと、陛下のところに向かっていく。
「マオはラナリーに興味はあるけれど、まだ、良い人間かどうか疑っているみたいだね」
陛下はそう言って、マオ様を抱き上げる。
「ラナリー、マオに様はつけなくて良いよ。僕がゆるす」
「ありがとうございます、陛下」
「ぼくのことはシュティルでいいよ。ぼくはぜんぜん、陛下っぽくないから」
「そんなこと」
ありませんと言おうとしたけれど、ルラン様が言葉を遮る。
「お話は食事のあとで良いでしょう」
「うん。そうだね。食べている時に話をするのはマナーいはんだってエーラにもよく怒られるんだ」
ルラン様に言われた陛下は落ち込んだような表情になったあと、止めていた食事を再開した。
これは、ロラルグリラ王国の人に急かされなくても、早く結婚したほうが良さそうね。
そう思った私は、その日のうちにルラン様たちに相談して、次の日には婚姻届を出してもらった。
そして、それを両親に連絡すると、お祝いの言葉ではなく「よくやった」という返事がきた。
両親は私がロラルグリラのために嫁いだのだと思っている。
そして、両親から私の結婚を聞いたローク殿下たちも何か言ってくる可能性がある。
絶対に言いなりになってやるもんですか。
そう思っていると、次の日、ローク殿下から手紙が届いた。
そこには『フェルーナでは駄目だったので、お前を送ったのだが、こんなに早く結果を出してくれるとは思わなかった。褒美をやるから、一度帰ってこい』と書かれていた。
だから、私はお決まりの挨拶文のあとに『褒美はいりませんので帰りません』と書いて返事をした。
廊下のあちらこちらに花瓶が置かれているなと思ったら、全て同じ花が入っていた。
使用人たちが話をしていたけれど、私もしばらくはこの花を見たくないわね。
心の中で罪のない花に謝ってから、ルラン様と一緒にダイニングルームに向かった。
「あ、ルラン! ラナリー、ルランが嫌なことを言わなかった?」
「嫌なことは言われていませんわ。お気遣いいただきありがとうございます」
「それなら良かった。いっしょに食事をしよう」
ダイニングルームの中に入ると、白いテーブルクロスが敷かれた20人くらいは座れそうな長テーブルがあり、その一番奥に陛下がちょこんと座っていた。
椅子の上にクッションなどを敷いてもらっているのか、大人用の椅子に座っているのに、しっかり顔が見えている。
すでに席に着いていた公爵夫人と、その向かい側に座っている公爵閣下が促してくる。
「ラナリーさんは私の隣にどうぞ」
「ルラン、お前はラナリー嬢の向かい側、俺の隣に座れ」
「「承知しました」」
声が揃ってしまったのでルラン様のほうを見ると、私と目が合った瞬間、早足で公爵閣下の隣の席へ向かっていった。
「失礼いたします」
メイドが椅子を引いてくれたので、座る前に公爵夫人に一礼した。
すると、公爵夫人が微笑む。
「ラナリーさん。そんなに他人行儀にならないでちょうだい。これから一緒に住むのだから気楽に過ごしてほしいし、私とも仲良くしてほしいわ」
「では、私のことはラナリーとお呼びくださいませ」
「良いの?」
「もちろんです。私はシファラン様とお呼びしても良いですか?」
「ええ。私のことは結婚後はお義母さまと呼んでほしいわ」
シファラン様は私を歓迎してくれているみたいで良かった。
でも、公爵閣下にしてみれば自分の両親の仇である国の令嬢だから、あまり良い感情はないのではないかしら。
そう思ったけれど、閣下は今のところは私に対して嫌な態度を見せることはなかった。
「ラナリー! ぼくもラナリーと仲良くなりたい! 仲良くしてくれる?」
「もちろんですわ」
「じゃあ今度、城でいっしょに食事をしようよ。いつも一人ぼっちだからさみしいんだ」
「一人ぼっち?」
陛下にではなく、シファラン様のほうに顔を向けると、シファラン様は私を見て苦笑する。
「詳しいことはまた話すわ」
「お願いいたします」
歓迎してもらっているとはいえ、私はまだ他国の人間でありユリアス家の人間ではない。
ルラン様がおっしゃっていた通り、結婚後や、もっと信用を得てからでないと教えてもらえないことはたくさんあるのだと思う。
戦争の原因もそうだけれど、シュテーダム国内から見たロラルグリラを、そしてシュテーダム以外の国から見たロラルグリラをしっかり確認しようと思った。
「にゃん」と鳴き声が聞こえて、足元を見ると、黒い子猫が私を見上げていた。
「マオ様、私と仲良くしてくださるんですか?」
陛下の猫なので呼び捨てにするわけにはいかず、様をつけて言うと、マオ様はぷいっと顔を背けたかと思うと、陛下のところに向かっていく。
「マオはラナリーに興味はあるけれど、まだ、良い人間かどうか疑っているみたいだね」
陛下はそう言って、マオ様を抱き上げる。
「ラナリー、マオに様はつけなくて良いよ。僕がゆるす」
「ありがとうございます、陛下」
「ぼくのことはシュティルでいいよ。ぼくはぜんぜん、陛下っぽくないから」
「そんなこと」
ありませんと言おうとしたけれど、ルラン様が言葉を遮る。
「お話は食事のあとで良いでしょう」
「うん。そうだね。食べている時に話をするのはマナーいはんだってエーラにもよく怒られるんだ」
ルラン様に言われた陛下は落ち込んだような表情になったあと、止めていた食事を再開した。
これは、ロラルグリラ王国の人に急かされなくても、早く結婚したほうが良さそうね。
そう思った私は、その日のうちにルラン様たちに相談して、次の日には婚姻届を出してもらった。
そして、それを両親に連絡すると、お祝いの言葉ではなく「よくやった」という返事がきた。
両親は私がロラルグリラのために嫁いだのだと思っている。
そして、両親から私の結婚を聞いたローク殿下たちも何か言ってくる可能性がある。
絶対に言いなりになってやるもんですか。
そう思っていると、次の日、ローク殿下から手紙が届いた。
そこには『フェルーナでは駄目だったので、お前を送ったのだが、こんなに早く結果を出してくれるとは思わなかった。褒美をやるから、一度帰ってこい』と書かれていた。
だから、私はお決まりの挨拶文のあとに『褒美はいりませんので帰りません』と書いて返事をした。
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