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6 捻じ曲げられた情報
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「何かおかしなことを言いましたでしょうか」
「いや。君もフェルーナ嬢と同じように自分の国に残っていたかったんじゃないのかと思っていたんだ」
「姉がああなってしまったのは両親の影響もあると思います。私は両親に嫌われておりましたし、考え方も違います。ですので、あの家から離れられて良かったと思っています」
「そう言ってもらえるのであれば良いが、ロラルグリラ王国の人間はシュテーダムに来るのを嫌がっていると聞く」
「そのことについてなのですが、家族の中で唯一まともである兄から真実を知るようにとのことでしたので、私としましてはロラルグリラ内では知り得ない情報を教えていただけたらと思っております」
ルラン様は大きなため息を吐いてから聞いてくる。
「君が知っている真実とはどんなものだろうか。たとえば、戦争が起きた理由はどう聞いている?」
「シュテーダム王国が大量破壊兵器を開発し、ロラルグリラ王国に宣戦布告をしたと聞いております」
「それは違う。実際は逆だ」
「逆?」
予想もしていなかった言葉を聞いて声を荒らげる。
「どういうことです? ロラルグリラがシュテーダムに宣戦布告をしたとおっしゃるんですか?」
「違う。ロラルグリラが大量破壊兵器を開発していて、それをシュテーダム王国が告発しようとした。それに気がついたロラルグリラが宣戦布告をし、こちらは戦争をする前から降伏した」
「お待ち下さい。内容が違いすぎます。それになぜ戦わなかったのです?」
「言っただろう。ロラルグリラ王国は大量破壊兵器を開発していると。最初から負けるとわかっているんだ。犠牲者を増やしたくなかった」
そう言われてみれば納得できる。
でも、どうして他国に助けを求めなかったのかしら。
「他国に助けは求めなかったのですか」
「武器は金になる」
「武器を作るための材料で他国は儲けていたのですね」
「そういうことだ。でも、さすがに今回の件はロラルグリラが悪いということは認識していて、彼らが止めたこともあり、これでも犠牲になった人たちは少ないほうなんだ」
「罪滅ぼしみたいなものですか」
大きくため息を吐くと、ルラン様は話を続ける。
「ロラルグリラは王族含む国の上層部が情報統制をしていて、国民には自分たちの国は正義、そして他国は悪だという情報を流している」
「そんなことって」
この国に入ってきた時に思った印象と私が聞いていた話とは違うということに驚いたのは自分だ。
だから、ルラン様の言っていることは嘘ではないと思えてきた。
そして、お兄様の言葉がルラン様の言葉が真実なのだと思う気持ちを後押しする。
でも、自分の目で確かめてみないとわからない。
「そうだと教え込まれてきたのだろうから、信じられなくてもしょうがない」
私の考えを読み取ったかのようにルラン様は言うと、話題を変えてくる。
「君が聞いているかはわからないが、俺と君との結婚はすぐに行わなければならない」
「それは、ロラルグリラからの指示でしょうか」
「そうだ」
ルラン様が難しい顔をして頷いたので尋ねてみる。
「いくら敗戦国とはいえ、シュテーダム王国として独立したのですから、そこまでロラルグリラの言いなりになる必要はないのではないのでしょうか」
「そう思うが、シュティル陛下の意見は聞き入れてもらえない」
「陛下の意見が聞き入れてもらえないということは、この国の今の実権を握っているのは誰なのです?」
シュテーダムの内政については、表沙汰にされていることしかわからない。
答えてもらえるかわからないけれど聞いてみた。
「詳しい話は君が俺の正式な妻になってからにしようと思うんだが、それでもかまわないか」
「もちろんでございます。ルラン様にとってロラルグリラ王国は祖父母の仇になりますから憎い国でしょう。しかも、ロラルグリラの王家が決めた婚約者なのですから、私のことが信用できなくて当たり前ですわ」
「ありがとう。それから、謝らないといけないことがある」
「なんでしょうか」
「俺は女性が苦手なんだ。目を合わせることもできない」
「お嫌いということでしょうか」
私と話せているのだから、生理的に嫌いとかいうわけではなさそうにも思える。
ルラン様は私の襟元を見ながら話をする。
「俺は女性に触れたり、長く目が合ったりすると、すぐに顔や耳が真っ赤になるんだ」
「興奮状態になるということですか?」
「いや、そんなことをしては駄目だとわかっているんだが逃げ出したくなるし、最終的には逃げ出す」
「話すことは大丈夫なんですね」
「立場上、女性と話さないといけないことはあるからな。訓練したんだ」
「家族は大丈夫なのですか?」
「大丈夫なのは母上だけだ」
こんなことを思うのはどうかと思われるかもしれないけれど、浮気はしなさそうで私的には良いわ。
白い結婚上等じゃないの。
「では、私は体外的な妻の役割だけさせていただきます。跡継ぎ問題については改めて考えましょう。」
「そう言ってもらえると助かる」
「結婚後はロラルグリラ王国のためではなく、シュテーダム王国のために生きると誓いますわ。ですから、その時はシュテーダム王国の内情も教えていただけますでしょうか」
「もちろんだ」
ルラン様は口元に笑みを浮かべて、私を一瞬だけ見たあと、すぐに目を逸らした。
「いや。君もフェルーナ嬢と同じように自分の国に残っていたかったんじゃないのかと思っていたんだ」
「姉がああなってしまったのは両親の影響もあると思います。私は両親に嫌われておりましたし、考え方も違います。ですので、あの家から離れられて良かったと思っています」
「そう言ってもらえるのであれば良いが、ロラルグリラ王国の人間はシュテーダムに来るのを嫌がっていると聞く」
「そのことについてなのですが、家族の中で唯一まともである兄から真実を知るようにとのことでしたので、私としましてはロラルグリラ内では知り得ない情報を教えていただけたらと思っております」
ルラン様は大きなため息を吐いてから聞いてくる。
「君が知っている真実とはどんなものだろうか。たとえば、戦争が起きた理由はどう聞いている?」
「シュテーダム王国が大量破壊兵器を開発し、ロラルグリラ王国に宣戦布告をしたと聞いております」
「それは違う。実際は逆だ」
「逆?」
予想もしていなかった言葉を聞いて声を荒らげる。
「どういうことです? ロラルグリラがシュテーダムに宣戦布告をしたとおっしゃるんですか?」
「違う。ロラルグリラが大量破壊兵器を開発していて、それをシュテーダム王国が告発しようとした。それに気がついたロラルグリラが宣戦布告をし、こちらは戦争をする前から降伏した」
「お待ち下さい。内容が違いすぎます。それになぜ戦わなかったのです?」
「言っただろう。ロラルグリラ王国は大量破壊兵器を開発していると。最初から負けるとわかっているんだ。犠牲者を増やしたくなかった」
そう言われてみれば納得できる。
でも、どうして他国に助けを求めなかったのかしら。
「他国に助けは求めなかったのですか」
「武器は金になる」
「武器を作るための材料で他国は儲けていたのですね」
「そういうことだ。でも、さすがに今回の件はロラルグリラが悪いということは認識していて、彼らが止めたこともあり、これでも犠牲になった人たちは少ないほうなんだ」
「罪滅ぼしみたいなものですか」
大きくため息を吐くと、ルラン様は話を続ける。
「ロラルグリラは王族含む国の上層部が情報統制をしていて、国民には自分たちの国は正義、そして他国は悪だという情報を流している」
「そんなことって」
この国に入ってきた時に思った印象と私が聞いていた話とは違うということに驚いたのは自分だ。
だから、ルラン様の言っていることは嘘ではないと思えてきた。
そして、お兄様の言葉がルラン様の言葉が真実なのだと思う気持ちを後押しする。
でも、自分の目で確かめてみないとわからない。
「そうだと教え込まれてきたのだろうから、信じられなくてもしょうがない」
私の考えを読み取ったかのようにルラン様は言うと、話題を変えてくる。
「君が聞いているかはわからないが、俺と君との結婚はすぐに行わなければならない」
「それは、ロラルグリラからの指示でしょうか」
「そうだ」
ルラン様が難しい顔をして頷いたので尋ねてみる。
「いくら敗戦国とはいえ、シュテーダム王国として独立したのですから、そこまでロラルグリラの言いなりになる必要はないのではないのでしょうか」
「そう思うが、シュティル陛下の意見は聞き入れてもらえない」
「陛下の意見が聞き入れてもらえないということは、この国の今の実権を握っているのは誰なのです?」
シュテーダムの内政については、表沙汰にされていることしかわからない。
答えてもらえるかわからないけれど聞いてみた。
「詳しい話は君が俺の正式な妻になってからにしようと思うんだが、それでもかまわないか」
「もちろんでございます。ルラン様にとってロラルグリラ王国は祖父母の仇になりますから憎い国でしょう。しかも、ロラルグリラの王家が決めた婚約者なのですから、私のことが信用できなくて当たり前ですわ」
「ありがとう。それから、謝らないといけないことがある」
「なんでしょうか」
「俺は女性が苦手なんだ。目を合わせることもできない」
「お嫌いということでしょうか」
私と話せているのだから、生理的に嫌いとかいうわけではなさそうにも思える。
ルラン様は私の襟元を見ながら話をする。
「俺は女性に触れたり、長く目が合ったりすると、すぐに顔や耳が真っ赤になるんだ」
「興奮状態になるということですか?」
「いや、そんなことをしては駄目だとわかっているんだが逃げ出したくなるし、最終的には逃げ出す」
「話すことは大丈夫なんですね」
「立場上、女性と話さないといけないことはあるからな。訓練したんだ」
「家族は大丈夫なのですか?」
「大丈夫なのは母上だけだ」
こんなことを思うのはどうかと思われるかもしれないけれど、浮気はしなさそうで私的には良いわ。
白い結婚上等じゃないの。
「では、私は体外的な妻の役割だけさせていただきます。跡継ぎ問題については改めて考えましょう。」
「そう言ってもらえると助かる」
「結婚後はロラルグリラ王国のためではなく、シュテーダム王国のために生きると誓いますわ。ですから、その時はシュテーダム王国の内情も教えていただけますでしょうか」
「もちろんだ」
ルラン様は口元に笑みを浮かべて、私を一瞬だけ見たあと、すぐに目を逸らした。
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