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12 適任者
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乗り込んだ馬車が動き出すと、ルラン様はエーラ様の話をしてくれた。
「彼女は祖母に懐いていたらしく、大好きな祖母が死んだのはシュティル様のせいだと思いこんでいている」
「どうしてそんな風に思うんです? 処刑したのはロラルグリラ王国の人間です」
「彼女はその時の王家が不甲斐なかったから殺されたと思っているんだ」
「そんな……」
逆恨みみたいなものね。
シュティル様のご両親は多くの国民の命を守ったどけなのに。
条件をつけようと思っても、そうしている間にロラルグリラは侵攻を始めて、多くの人を殺したでしょう。
ここ最近のロラルグリラは軍備を拡大していた。
前回の戦争で思う通りにいかなかったから、どうにかして、シュテーダムに攻め込むつもりでいるのね。
そして、他国がそのことに気がついて、ロラルグリラを牽制しているから、今の状態にあるんだわ。
何か理由をつけて攻め込むつもりで、ローク殿下や両親は私をスパイとして送り込んだつもりなのでしょう。
「どうして、トッテム公爵家はそんな人を陛下のお世話係に認めたんでしょう」
「彼女がそんな恨みを持っているだなんて、その時は知らなかったと言っている。それについては俺たちもそうだ」
「知ったのであればすぐに変更すべきです」
「わかっている。さっきも言ったが、トッテム公爵家の判断待ちだ。それにノヌル公爵家は代わりもいないのにどうするのかと言ってきている」
ルラン様はそこまで言ったあと、珍しく私を凝視した。
「ルラン様、目があってますけど大丈夫ですか?」
「だ、大丈夫だ」
大丈夫じゃないらしく、目を逸らされた。
「ところで、どうして簡単な判断にこんなに時間がかかっているのです? 代わりの問題だけですか?」
「陛下が認めないからだ」
「……どういうことでしょう」
「陛下は自分が恨まれてもしょうがないと思っている。だから、ノヌル公爵令嬢を責めない。トッテム公爵家が陛下に聞き取りをしても、彼女はよくやっているとしか言わないんだ」
まだ幼いのに、そんなことまで考えてしまわれるのね。
「陛下がその様子では、トッテム公爵家も判断が下しにくいのですね」
「あと、君やノヌル公爵家が言うように代わりがいないという理由もある」
「ノヌル公爵家には長男がいらっしゃいましたわよね。たしか、その方は宰相であるお父上の側近だと聞いておりますが」
「そうだがどうした」
「国の実権は現在、ノヌル公爵家にあるということですわね。そうなりますと、やはりエーラ様を陛下のお世話係にしているのは良くありません」
「一応、目は光らせてはいる」
気になる言い方だったので尋ねてみる。
「何か怪しいことでもありましたか?」
「ノヌル公爵家は戦争を好んでいる」
「エーラ様も含め、受けて立たなかったシュテーダムの王家が許せないからですか」
「そうだ。戦う前から降伏したことが納得いかないみたいだな」
自分の家族が殺されたのだから、そう思いたくなる気持ちはわからなくはない。
だけど、自分の家族を守るために大勢の人が亡くなっても良いというのもおかしい。
大体、前国王陛下は自分の命を差し出す代わりに他の者は助けてやってくれとお願いして、ロラルグリラはそれを聞き入れていた。
でも、なんだかんだと理由をつけて、両陛下を処刑後に他の貴族も処刑していったと聞いた。
そこで、他国が介入したというわけだ。
私の知識は色々と間違っていた。
お兄様にそのことを伝えたい。
陛下の祝賀会には会えるはず。
その時に連絡手段の確保をしなくちゃいけないわ。
とりあえず、今、私にできることはルラン様の妻としてルラン様を支え、ユリアス公爵家やシュティル様を守ることだわ。
*****
その日の夕食時、向かいに座るルラン様がお義父さまに話しかけた。
「陛下の世話係を少しでも早く解任すべきです」
「エーラ嬢か。トッテム公爵家もそれについて賛成のようだが後任が決まらない。あとは陛下の希望もある。ノヌル公爵家が納得できるような人物でないといけないしな」
「陛下のことを大事に思い、地位もあり、多少の体術もできる女性がいますけどね」
ルラン様の話を聞いたお義母さまが、少しの沈黙のあと私を見てきた。
すると、お義父様が呟く。
「そうか。その手があったか」
「どうかされましたか?」
問いかけると、お義父様は私に目を向けて話しかけてくる。
「ラナリー、君が陛下のお世話係になってくれないか」
「……はい?」
「エーラ嬢が相手では、まだ幼い陛下の心が心配なんだ。もう少し、陛下が大きくなるまでは叱るべき時は叱り、褒めるべきところは褒める相手が必要だ。しかも愛情を持ってだ」
「公爵家の仕事はまだ私がするつもりだから、少しの間だけでもどうかしら」
お義母様が申し訳無さそうな顔をして言った。
「彼女は祖母に懐いていたらしく、大好きな祖母が死んだのはシュティル様のせいだと思いこんでいている」
「どうしてそんな風に思うんです? 処刑したのはロラルグリラ王国の人間です」
「彼女はその時の王家が不甲斐なかったから殺されたと思っているんだ」
「そんな……」
逆恨みみたいなものね。
シュティル様のご両親は多くの国民の命を守ったどけなのに。
条件をつけようと思っても、そうしている間にロラルグリラは侵攻を始めて、多くの人を殺したでしょう。
ここ最近のロラルグリラは軍備を拡大していた。
前回の戦争で思う通りにいかなかったから、どうにかして、シュテーダムに攻め込むつもりでいるのね。
そして、他国がそのことに気がついて、ロラルグリラを牽制しているから、今の状態にあるんだわ。
何か理由をつけて攻め込むつもりで、ローク殿下や両親は私をスパイとして送り込んだつもりなのでしょう。
「どうして、トッテム公爵家はそんな人を陛下のお世話係に認めたんでしょう」
「彼女がそんな恨みを持っているだなんて、その時は知らなかったと言っている。それについては俺たちもそうだ」
「知ったのであればすぐに変更すべきです」
「わかっている。さっきも言ったが、トッテム公爵家の判断待ちだ。それにノヌル公爵家は代わりもいないのにどうするのかと言ってきている」
ルラン様はそこまで言ったあと、珍しく私を凝視した。
「ルラン様、目があってますけど大丈夫ですか?」
「だ、大丈夫だ」
大丈夫じゃないらしく、目を逸らされた。
「ところで、どうして簡単な判断にこんなに時間がかかっているのです? 代わりの問題だけですか?」
「陛下が認めないからだ」
「……どういうことでしょう」
「陛下は自分が恨まれてもしょうがないと思っている。だから、ノヌル公爵令嬢を責めない。トッテム公爵家が陛下に聞き取りをしても、彼女はよくやっているとしか言わないんだ」
まだ幼いのに、そんなことまで考えてしまわれるのね。
「陛下がその様子では、トッテム公爵家も判断が下しにくいのですね」
「あと、君やノヌル公爵家が言うように代わりがいないという理由もある」
「ノヌル公爵家には長男がいらっしゃいましたわよね。たしか、その方は宰相であるお父上の側近だと聞いておりますが」
「そうだがどうした」
「国の実権は現在、ノヌル公爵家にあるということですわね。そうなりますと、やはりエーラ様を陛下のお世話係にしているのは良くありません」
「一応、目は光らせてはいる」
気になる言い方だったので尋ねてみる。
「何か怪しいことでもありましたか?」
「ノヌル公爵家は戦争を好んでいる」
「エーラ様も含め、受けて立たなかったシュテーダムの王家が許せないからですか」
「そうだ。戦う前から降伏したことが納得いかないみたいだな」
自分の家族が殺されたのだから、そう思いたくなる気持ちはわからなくはない。
だけど、自分の家族を守るために大勢の人が亡くなっても良いというのもおかしい。
大体、前国王陛下は自分の命を差し出す代わりに他の者は助けてやってくれとお願いして、ロラルグリラはそれを聞き入れていた。
でも、なんだかんだと理由をつけて、両陛下を処刑後に他の貴族も処刑していったと聞いた。
そこで、他国が介入したというわけだ。
私の知識は色々と間違っていた。
お兄様にそのことを伝えたい。
陛下の祝賀会には会えるはず。
その時に連絡手段の確保をしなくちゃいけないわ。
とりあえず、今、私にできることはルラン様の妻としてルラン様を支え、ユリアス公爵家やシュティル様を守ることだわ。
*****
その日の夕食時、向かいに座るルラン様がお義父さまに話しかけた。
「陛下の世話係を少しでも早く解任すべきです」
「エーラ嬢か。トッテム公爵家もそれについて賛成のようだが後任が決まらない。あとは陛下の希望もある。ノヌル公爵家が納得できるような人物でないといけないしな」
「陛下のことを大事に思い、地位もあり、多少の体術もできる女性がいますけどね」
ルラン様の話を聞いたお義母さまが、少しの沈黙のあと私を見てきた。
すると、お義父様が呟く。
「そうか。その手があったか」
「どうかされましたか?」
問いかけると、お義父様は私に目を向けて話しかけてくる。
「ラナリー、君が陛下のお世話係になってくれないか」
「……はい?」
「エーラ嬢が相手では、まだ幼い陛下の心が心配なんだ。もう少し、陛下が大きくなるまでは叱るべき時は叱り、褒めるべきところは褒める相手が必要だ。しかも愛情を持ってだ」
「公爵家の仕事はまだ私がするつもりだから、少しの間だけでもどうかしら」
お義母様が申し訳無さそうな顔をして言った。
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