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2  家族の見送り

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「何かあったら連絡をしてくれ」

 ローク殿下から婚約破棄をされた5日後の出発の日、お兄様が朝早くに私の部屋までやって来ると、部屋の中まで入ってきて、挨拶をしたあとに言った。

「どうかされたのですか」
 
 久しぶりに見たお兄様は、透き通るような白い肌、金髪の短髪に赤色の瞳を持つ、人を近寄らせない雰囲気を持つ美青年だ。
 この年になっても婚約者はいない。
 冷たそうに見えるけれど、整った顔立ちのお兄様の妻の座を狙っている女性は多いと聞いている。
 お兄様は細い目をより細くして、私の質問に答える。

「この家もそうだが、この国もまともじゃない。他国に行き、この国の真実を知ったら、僕の言っている意味がわかるはずだ」
「お兄様、先程おっしゃいました何かあったらという言葉は、どのような場合のことを言うのでしょう」
「そのままだよ。ラナリー。お前が嫁に行くことになって良かった。元気でやるんだぞ」

 お兄様は両親と違って、お姉様が私に嫌なことをしていたら、お姉様を叱って止めてくれていた。
 だから、お姉様もお兄様の前ではヒステリーを起こさなかったので、そのことについては、とても助かっていた。

「お兄様もお元気で。真実が分かり次第、お兄様にご連絡いたしますわ」

 部屋を出ていこうとするお兄様に言うと、お兄様は後ろ手を振って、足早に去っていった。

 現在、公爵家の仕事はお兄様が全てやっている。 
 お父様はお飾りの公爵であり、顔も良いお兄様には頭が上がらない。
 そんなお兄様が私の味方なのかと思うと、ここを出るというのに心強く感じてしまった。


*****


「侍女やメイドはシュテーダムに行くことを嫌がっている。だから、ラナリー、シュテーダムに行くのはお前一人だ。騎士もお前を送り届けるくらいはしてくれるそうだから安心しろ」
「公爵家の娘が使用人を連れて行かないだなんて、どう思われると思っているのですか。それに私の嫁入り道具はどうなるのです?」
「向こうで買えば良いだろう。シュテーダムの通貨に換金して好きなものを買え。あの国に碌なものはないだろうけどな」 

 お父様は吐き捨てるように言うと、馬車に乗ろうとしている私に何度も念押ししてくる。

「お前がシュテーダムに嫁ぐのは、我がロラルグリラ王国、そして陛下のためだ。それを忘れるな。必ず、あの男の信頼を得るんだ」
 
 あの男というのは、ユラン様のことね。
 ローク殿下も言葉は違えど、同じ意味合いのことを言っていた。
  
 ルラン様と上手くやらなければいけないようだけれど、そうすることによって、ロラルグリラ王国に何のメリットがあるというのかしら。

 そのメリットが何か分かれば、絶対にそれだけは阻止してあげるのに。

 今度はお姉様が話しかけてくる。

「ラナリー、頑張ってね。ルラン様はかなり気難しい御方よ。あなたの手に負えるとは思えないけれど、向こうが私を拒否しているのだからしょうがないわ」
「……ローク殿下がお姉様を選んだから、婚約者が変更になったわけではないのですか?」
「ローク殿下が私を選んでくださったのは確かよ。でも、ルラン様のほうが私を拒否してきたの」
「ルラン様が文句を言える立場ではないはずですが、よっぽどのことをしたんですね」

 ルラン様の希望で婚約者が変更になるのは意味がないのではない。
 そう思ったから言ってみた。

 お姉様は眉根を寄せて手を振る。

「うるさいわね。もう決まったことなのだから、文句を言わずに行きなさい。元気でねラナリー。私はローク殿下と幸せになるわ」
「お姉様もお元気で。奉仕活動を頑張ってください」
「ええ。ありがとう」

 私を見送る人たちは、別れを惜しむどころか満面の笑みを浮かべていた。

 絶対に幸せになってやるわ。
 たとえ、ルラン様に愛されなかったとしても、幸せになる道は必ずあるはずだから。

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