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5 姉の愚行
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簡単な挨拶を交わしたあと、ルラン様からエントランスホールで何をしていたのか聞かれたので、花を片付けようとしていたと答えた。
すると、ルラン様はこめかみを押さえて聞いてくる。
「フェルーナ嬢は君のことを自分よりもわがままな女性だと言っていたが、実際どうなんだ」
「それで執事が驚いていたんですね」
小さく息を吐いてから、ルラン様にだけでなく、陛下や公爵夫妻、使用人たちにも聞こえるように声を張って話す。
「姉はこちらでどんな無礼な振る舞いをしてきたかはわかりませんが、私は姉とは違います。駄目なことは駄目だとはっきり言ってくださって結構です」
「気が強いところだけ似ているということか」
ルラン様はどうしても私と目を合わせたくないのか、視線を斜め下に向けて言った。
「褒めていただきありがとうございます」
「気が強いは誉め言葉になるのか?」
「私にとっては誉め言葉になりますわ」
にこりと笑ってみせると、ルラン様は私を全く見ていないわけでもないようで、私のほうに顔を向けた。
でも、すぐにまた目を逸らしてしまう。
「すまないな、ラナリー。ルランは女性と目を合わせられない病気なんだ」
目を合わせられない病気って何なのかしら。
ヒールを履いているせいで、いつもよりも背が高くなっている私だけれど、陛下は特に背が低いので、私の太ももあたりに顔がある。
顔を上げ、つぶらな瞳で見つめてくる陛下が可愛くて、顔がにやけてしまいそうになる。
しかも、子猫までもが私を凝視している。
ダブルで可愛いなんてどういうことなの?
何とか、平静を装って陛下に尋ねる。
「目を合わせられない病気というのは、どのような症状なのでしょう」
「そのことについてはルランから説明させよう。ラナリー、疲れていなければ、ルランと庭園を散歩しながら話してはどうかな」
「ありがとうございます。ルラン様のご迷惑でなければお願いいたします」
公爵閣下の申し出に答えてから、ルラン様を見つめる。
すると、ルラン様はこちらを一瞥してから言う。
「俺はかまわない。君が疲れていないのなら案内する」
「では、お願いできますでしょうか」
頷いてから、陛下に頭を下げる。
「陛下、失礼させていただきますわね」
「ぼくはライオールたちと一緒にいるから、またあとで一緒に食事をしよう」
「承知いたしました」
陛下が王城から長い時間離れていても良いのかと思った。
ご両親が殺されてからは陛下はユリアス家に預けられていたし、陛下にとっては公爵夫妻は自分の両親みたいなものなのでしょうね。
陛下たちと別れ、ルラン様に案内されて中庭に出た。
横を歩くわけではなく、少し後ろを付いて歩いていると、ルラン様が振り返って話しかけてくる。
「君には申し訳ないことをしたと思っている」
「何のことでしょうか」
「俺の妻になるように命令されたのは、俺がフェルーナ嬢との結婚を拒否したからだ」
「そのことなのですが、どうしていきなり拒否されたのですか? 姉のワガママは今に始まったわけではなかったのでしょう?」
小道の両側に咲き誇る綺麗な花々を観察することも忘れて尋ねた。
すると、ルラン様は眉根を寄せて話し始める。
「フェルーナ嬢は陛下が可愛がっている黒猫のマオ――。さっき、陛下が抱えておられた猫だ。マオを可愛いといって陛下からお借りして買い物に出たんだ」
「買い物に行くのに陛下の猫を連れて行ったんですか?」
「ああ。それだけでも駄目なことだが、彼女はあろうことか食べ物がほしいと近付いてきた子供にマオを渡したんだ」
「はい?」
あまりにも信じられなくて聞き返した。
食べ物がほしいと近付いてきた子に陛下の猫を渡すだなんて話がありえるの?
さすがのお姉様だって、そこまで馬鹿なことはしないはずよ。
驚いている私にルラン様は話してくれる。
「猫を食することは我が国では禁止はされていない」
「ロラルグリラ王国もですわ。ですが、飼い猫を誰かに渡すことは許されておりません。しかも陛下の猫なのでしょう」
「彼女はロラルグリラ王国では困っている人に飼い猫であっても食べれるものなら、渡すのは当たり前だと言っていた」
「申し訳ございません。それは姉の間違いです」
「だろうな。子供たちは驚いてマオを返したが、一緒にいた騎士から話を聞いた陛下はフェルーナ嬢とは二度と顔を合わせたくないとお怒りになった。それについては俺も同じ気持ちだ」
ルラン様はちらりと私を見たあと、視線が合うとすぐに目を逸らして話を続ける。
「子供たちは物乞いとまではいかず、フェルーナ嬢がお茶菓子の店に入り、大量に買い物をしているところを店の外から見たから、お菓子を欲しがっただけなんだ」
「姉は本当に最低ですね」
食べ物があるのに「猫を食べなさい」だなんて常軌を逸しているわ。
お姉様は自分がお菓子を持っていることを子供たちが知らないと思い込んでいたんでしょうけれど、子供たちのほうが賢かったのね。
「俺が婚約を断った理由は納得してもらえただろうか」
「はい。姉から私に婚約者を変更していただき、ありがとうございます」
頭を下げてから、ルラン様を見ると、なぜか不思議そうな顔をしていた。
すると、ルラン様はこめかみを押さえて聞いてくる。
「フェルーナ嬢は君のことを自分よりもわがままな女性だと言っていたが、実際どうなんだ」
「それで執事が驚いていたんですね」
小さく息を吐いてから、ルラン様にだけでなく、陛下や公爵夫妻、使用人たちにも聞こえるように声を張って話す。
「姉はこちらでどんな無礼な振る舞いをしてきたかはわかりませんが、私は姉とは違います。駄目なことは駄目だとはっきり言ってくださって結構です」
「気が強いところだけ似ているということか」
ルラン様はどうしても私と目を合わせたくないのか、視線を斜め下に向けて言った。
「褒めていただきありがとうございます」
「気が強いは誉め言葉になるのか?」
「私にとっては誉め言葉になりますわ」
にこりと笑ってみせると、ルラン様は私を全く見ていないわけでもないようで、私のほうに顔を向けた。
でも、すぐにまた目を逸らしてしまう。
「すまないな、ラナリー。ルランは女性と目を合わせられない病気なんだ」
目を合わせられない病気って何なのかしら。
ヒールを履いているせいで、いつもよりも背が高くなっている私だけれど、陛下は特に背が低いので、私の太ももあたりに顔がある。
顔を上げ、つぶらな瞳で見つめてくる陛下が可愛くて、顔がにやけてしまいそうになる。
しかも、子猫までもが私を凝視している。
ダブルで可愛いなんてどういうことなの?
何とか、平静を装って陛下に尋ねる。
「目を合わせられない病気というのは、どのような症状なのでしょう」
「そのことについてはルランから説明させよう。ラナリー、疲れていなければ、ルランと庭園を散歩しながら話してはどうかな」
「ありがとうございます。ルラン様のご迷惑でなければお願いいたします」
公爵閣下の申し出に答えてから、ルラン様を見つめる。
すると、ルラン様はこちらを一瞥してから言う。
「俺はかまわない。君が疲れていないのなら案内する」
「では、お願いできますでしょうか」
頷いてから、陛下に頭を下げる。
「陛下、失礼させていただきますわね」
「ぼくはライオールたちと一緒にいるから、またあとで一緒に食事をしよう」
「承知いたしました」
陛下が王城から長い時間離れていても良いのかと思った。
ご両親が殺されてからは陛下はユリアス家に預けられていたし、陛下にとっては公爵夫妻は自分の両親みたいなものなのでしょうね。
陛下たちと別れ、ルラン様に案内されて中庭に出た。
横を歩くわけではなく、少し後ろを付いて歩いていると、ルラン様が振り返って話しかけてくる。
「君には申し訳ないことをしたと思っている」
「何のことでしょうか」
「俺の妻になるように命令されたのは、俺がフェルーナ嬢との結婚を拒否したからだ」
「そのことなのですが、どうしていきなり拒否されたのですか? 姉のワガママは今に始まったわけではなかったのでしょう?」
小道の両側に咲き誇る綺麗な花々を観察することも忘れて尋ねた。
すると、ルラン様は眉根を寄せて話し始める。
「フェルーナ嬢は陛下が可愛がっている黒猫のマオ――。さっき、陛下が抱えておられた猫だ。マオを可愛いといって陛下からお借りして買い物に出たんだ」
「買い物に行くのに陛下の猫を連れて行ったんですか?」
「ああ。それだけでも駄目なことだが、彼女はあろうことか食べ物がほしいと近付いてきた子供にマオを渡したんだ」
「はい?」
あまりにも信じられなくて聞き返した。
食べ物がほしいと近付いてきた子に陛下の猫を渡すだなんて話がありえるの?
さすがのお姉様だって、そこまで馬鹿なことはしないはずよ。
驚いている私にルラン様は話してくれる。
「猫を食することは我が国では禁止はされていない」
「ロラルグリラ王国もですわ。ですが、飼い猫を誰かに渡すことは許されておりません。しかも陛下の猫なのでしょう」
「彼女はロラルグリラ王国では困っている人に飼い猫であっても食べれるものなら、渡すのは当たり前だと言っていた」
「申し訳ございません。それは姉の間違いです」
「だろうな。子供たちは驚いてマオを返したが、一緒にいた騎士から話を聞いた陛下はフェルーナ嬢とは二度と顔を合わせたくないとお怒りになった。それについては俺も同じ気持ちだ」
ルラン様はちらりと私を見たあと、視線が合うとすぐに目を逸らして話を続ける。
「子供たちは物乞いとまではいかず、フェルーナ嬢がお茶菓子の店に入り、大量に買い物をしているところを店の外から見たから、お菓子を欲しがっただけなんだ」
「姉は本当に最低ですね」
食べ物があるのに「猫を食べなさい」だなんて常軌を逸しているわ。
お姉様は自分がお菓子を持っていることを子供たちが知らないと思い込んでいたんでしょうけれど、子供たちのほうが賢かったのね。
「俺が婚約を断った理由は納得してもらえただろうか」
「はい。姉から私に婚約者を変更していただき、ありがとうございます」
頭を下げてから、ルラン様を見ると、なぜか不思議そうな顔をしていた。
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